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158 力になりたい
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貴族学院では、無事に一年目を終えて進級したこどもたちの夏休みが始まろうとしていた。
クラス替えはなかったので、級友との仲は一層と深まって。
「ドレイファス様、夏休みはお茶会なさらないのですか?」
ラスライト伯爵家の次男エメリーズは去年のドレイファス主催の茶会に行かなかったのだが、休み明けにみんなからとても楽しくて、お料理もお土産も素晴らしくて感激したと聞かされ、海より深く後悔した。
それ以来、折につけ次の茶会はまだやらないのかと何度も訊ねているのだ。
フォンブランデイル公爵家では、実は子供茶会はあのあとも一度開催されたのだが、傘下の貴族だけを呼んだのでエメリーズには声がかからなかった。
仲は良いのだが、ドレイファスとしては誘ったときには来ず、あとになって羨ましくなって、早く次をやれと急かされるというのはどうも納得できない。やるのはいろいろと手間もかかるのに、実に簡単に早くやれと言われると面白くなくなり、茶会なんてやらん!とへそを曲げた。
「エメリーズもしつこいね」
シエルドはそういうのは嫌いなタイプである。
「もしかしたら、エメリーズはこのクラス・・・もしかしたら学院にいられなくなくなるかもしれないよ」
ボルドアが小さく囁く。
「え?なんで?」
ボルドアの父クロードゥル・ヤンニルは王城騎士団の騎士で、平時は市中見回りをしており情報が早い。
たぶん父から何か聞かされているのだろう。
「あとでね」
ロントン先生が来たので少年たちはチラッと視線を交わし、自席に戻った。
授業が終わり、帰宅の馬車に皆で戻ると、いつものようにそれぞれの迎えが揃うまで公爵家の馬車に乗り込み、シエルドが話を蒸し返した。
「ラスライト伯爵家は何かあったの?」
眉を顰めたボルドアは、ゆっくりと口を開いた。
「エメリーズの兄上が手配されてるんだ」
「ええ?なぜ?」
「どこかの伯爵家をだまして、逃げてるらしいよ。でもエメリーズを見ていると、すっごい普通だし知らないみたいだよね?」
「でもそれエメリーズがやったんじゃないよね?関係ないんじゃない?」
ドレイファスが首を傾げる。
「うーん、まあ、エメリーズに関係ないとしてもさ、ラスライト伯爵家としては大変なことで、エメリーズもそういう家の子って言われちゃうんだよ」
「そんなの、こどものエメリーズが騙したわけじゃないんだからおかしいよ!」
怒り始める。
「でも、そういうものなんだよドル」
ボルドアは面倒くさそうに言うが、トレモルにはわかる。
ドレイファスは普段はおっとりのんびりの食いしん坊だが、正義感がものすごく強い。事あれば少しも躊躇わず、立場の弱い者の味方をするのだ。
「じゃあエメリーズはクラス替えることになるかもしれないね」
冷静にシエルドが言う。
「なんで?どうして?エメリーズだけクラスかわらなきゃいけない理由なんかないよ」
口を尖らせてシエルドに噛みつかんばかりのドレイファスを、ボルドアが宥めながら
「ドルはそういうこと気にしたことないと思うけど、貴族学院のABクラスって人数少ないから月謝がすごーく高いんだよ。僕だって、騎士爵のこどものくせにぶんふそうおうって言われてるんだ。まあそれは本当だけどね。ドリアン様が月謝出してくれてドルと同じクラスにいられるんだから」
初めて知る事実に、ドレイファスは驚いて口が開いてしまっている。
「エメリーズの家が、もし兄上のやったことの責任を一緒に問われたら、騙しとったお金の弁償とかでAクラスに通うのが難しくなるかも、それどころか学院に来られなくなることだって」
「兄上がやったことで、エメリーズに関係なくても?」
「少なくともラスライト伯爵家には何らかの影響がある」
「エメリーズを助けることはできないの?」
トレモルが興奮したドレイファスの背中に手を当てて、落ち着かせながら言い聞かせる。
「ぼくたちはただのこどもだから、できないことのほうが多いんだよ、ドル。でもさ、カルディがぼくを許してくれたみたいに、僕らはエメリーズを家のことで差別しないで、今までどおりにともだちでいることはできるよ。僕はカルディやドルにそうしてもらえてすごくうれしかった」
ゆっくりと頷き、ドレイファスやカルルドに笑いかけるトレモルは、みんな同じ年なのに少し大人びて見える。
ドレイファスも頷き、まっすぐ顔をあげた。
「そっか・・・わかった。じゃあ同じクラスでも違うクラスでもエメリーズはただのともだちだ」
「いいね」
「エメリーズの兄上のこと、早く片付くといいけど」
いつも明るい光を放つ碧い眼は、今はしょんぼりと俯いている。
諭すようシエルドが声をかけた。
「同情しすぎるのもよくないからね、ドル」
「どうじょう?シエルどうじょうってなに?」
「えっ?うそ!・・・知らないの?じゃあ同情しようもないね。ドル、もうちょっと勉強したほうがいいんじゃない?」
シエルドに鼻で笑われて、ぷうっと頬を膨らますが、トレモルはそういうドレイファスが自分を救ってくれたのだと、やさしい目で見守った。
そしてカルルドも。カルルドの許しがなければ、そもそもここにはいられなかっただろう。
「カルディありがとう」
トレモルは急にカルルドに伝えたくなった。
「うん?なに?急にどうしたのトリィってば!変なの」
カルルドは穏やかに笑う。
兄の不祥事に巻き込まれていくエメリーズ・ラスライトを思いながら、仲間に支えられていることを感じ、あたたかいものが少年たちの胸を満たしていった。
その夜、ドレイファスは食事のあとに父ドリアンを呼び止めた。
「お父さま、僕知りたいことがあるのです」
「では一緒に茶でも飲もう」
最近こども部屋での食事を卒業したノエミは、マーリアルに連れられてとうに寝室に戻っている。
ドリアンはふたりで執務室のソファで寛ぐことにした。
執事マドゥーンがドリアンには熱いレッドティーを、ドレイファスにはオレルの果実水を用意して扉の前に控えると、その日のドレイファスは珍しく、果実水に口をつけるより先におずおずと話を切り出した。
「僕のクラスにエメリーズという子がいるんです」
カップを持ったまま、ドリアンが頷く。
「今日ボルディから聞いたのですが、エメリーズの兄上が悪いことをしてしまって、そのせいでエメリーズはクラスを替えるか、もしかしたら学院をやめるかもって」
「それは、ラスライトか・・・?」
「そうです!」
ドレイファスは父がエメリーズを知っている、正確には、エメリーズの家がラスライト伯爵家らしいとすぐわかったことが不思議で。
その名を確かめたドリアンは、不快そうな、憐れむような複雑な顔を見せた
「そうだな。・・・ドレイファスがどこまで聞いているのかはわからぬが、まずラスライトの資力があれば多少のことがあってもAクラスに在籍し続けることは可能だろう」
「えっ?本当ですか!」
「相当な資産家だからな」
「なんだ、心配しなくてもよかったんだ!」
ドリアンは、くるくると表情を変えて最後にほっと息を吐いた愛息子を抱き寄せた。
「そうか、同級生だったのか・・・」
物思いに耽る父の異変に気づき、ドレイファスは不安な顔を浮かべる。
「ラスライトの長男なあ・・・そのエメリーズの兄だろうが。あれほどの家に生まれながら馬鹿をやったものだ」
「ばか?だれかをだましたって」
「そうだな。騙す気があってやったのか、意図せずに結果そうなってしまったのか、もしかしたらただの誤解に過ぎず騙してなどいないのか。・・・本当は騙されたと言っている方がラスライトを狙った可能性もあるのだが、本人が逃げているから真実がわからないままなのだ」
その言い回しを理解するのはドレイファスには難しかった。小首を傾げて父を見つめる。
「貴族は、一族皆が一丸となり家を盛り立てていても、ただ一人の不届きな者が現れただけで家名は大きく傷ついてしまう。その汚名をそそぐのは大変な時間と努力を要するのだ。酷いときには爵位返上と言って貴族から平民に落とされてしまうこともある。我が家のように60代以上公爵位を守り続けているのは国内唯一、とても稀なことだと、ドレイファスもこの機に知っておいてほしい」
ドリアンはゆっくりとドレイファスの理解に合わせて話を続けた。
「真実はともかく、逃げた以上ラスライトの長男は間違い無く廃嫡となるだろうな」
「はいちゃく?」
「跡継ぎではなくなるということだ。家がある限り誰かが爵位を継がねばならんが、不祥事を起こす者に家や一族の未来を委ねることはできまい?」
ドレイファスでもだんだんとわかってきた。
「学院のABクラスは、少人数のクラスのため月謝が高い。当然資力のある貴族の子息子女が集まるが、金があるからそのクラスにいるわけではない。力ある貴族同士の繋がりをこどもの頃から作り上げるためでもあるんだ。よい貴族家とのよい繋がりを持ちたくて行くのに、不祥事を起こす家をよしと思う者はいない。ここまではわかったかな?」
「はい、なんとなく。でも僕はエメリーズはエメリーズだと思います。エメリーズは人を騙したりはしません」
「ドレイファスはそのエメリーズと親しいのか?」
碧い目がちょっと考え込んで答える。
「・・・ともだちです」
「そうか。もしそのエメリーズに何かしてやりたいと思っているなら、今はただ今までどおりに接してやりなさい。正直、今すぐ助けてやれることはないからな」
ドレイファスを抱きしめたまま、柔らかな金髪を撫でてやった。
「しかしだ。ラスライト家が今を無事に乗り越える兆しが見えた時、彼らが望めば手助けするのは吝かではない」
「やぶさか?」
「ああ、やってみてもいい、時が来たなら。暫くラスライトの者は大変だろうと察するが、今はだめだ」
「どうして今はだめで、あとでならいいのですか?」
ドレイファスが食い下がる。
「ラスライトの相手がよろしくない。我が家とは敵対関係でまあまあ力もあり、たいていの貴族にとって好ましくない者たちだ」
「それなら今助けてあげないと」
「今助ければ、あやつらのことだから我が家も共犯と言い出しかねんのだ。奴等に目をつけられたのはラスライトには気の毒なことだが、今は見守るしかない」
苦々しい顔で言った父を見て、さすがのドレイファスもそれ以上続けようとはしない。
「先程も言ったとおり、ラスライトの嫡男に奴等が本当に騙されたのかもわからないのだ。ただ騙されたと訴えがあがったら調べねばならない。そこで調べに応じ、身の潔白を証明せねばならなかった。逃げたら罪を認めたようなものではないか。ラスライトの長男は自ら詰んだのだ」
クラス替えはなかったので、級友との仲は一層と深まって。
「ドレイファス様、夏休みはお茶会なさらないのですか?」
ラスライト伯爵家の次男エメリーズは去年のドレイファス主催の茶会に行かなかったのだが、休み明けにみんなからとても楽しくて、お料理もお土産も素晴らしくて感激したと聞かされ、海より深く後悔した。
それ以来、折につけ次の茶会はまだやらないのかと何度も訊ねているのだ。
フォンブランデイル公爵家では、実は子供茶会はあのあとも一度開催されたのだが、傘下の貴族だけを呼んだのでエメリーズには声がかからなかった。
仲は良いのだが、ドレイファスとしては誘ったときには来ず、あとになって羨ましくなって、早く次をやれと急かされるというのはどうも納得できない。やるのはいろいろと手間もかかるのに、実に簡単に早くやれと言われると面白くなくなり、茶会なんてやらん!とへそを曲げた。
「エメリーズもしつこいね」
シエルドはそういうのは嫌いなタイプである。
「もしかしたら、エメリーズはこのクラス・・・もしかしたら学院にいられなくなくなるかもしれないよ」
ボルドアが小さく囁く。
「え?なんで?」
ボルドアの父クロードゥル・ヤンニルは王城騎士団の騎士で、平時は市中見回りをしており情報が早い。
たぶん父から何か聞かされているのだろう。
「あとでね」
ロントン先生が来たので少年たちはチラッと視線を交わし、自席に戻った。
授業が終わり、帰宅の馬車に皆で戻ると、いつものようにそれぞれの迎えが揃うまで公爵家の馬車に乗り込み、シエルドが話を蒸し返した。
「ラスライト伯爵家は何かあったの?」
眉を顰めたボルドアは、ゆっくりと口を開いた。
「エメリーズの兄上が手配されてるんだ」
「ええ?なぜ?」
「どこかの伯爵家をだまして、逃げてるらしいよ。でもエメリーズを見ていると、すっごい普通だし知らないみたいだよね?」
「でもそれエメリーズがやったんじゃないよね?関係ないんじゃない?」
ドレイファスが首を傾げる。
「うーん、まあ、エメリーズに関係ないとしてもさ、ラスライト伯爵家としては大変なことで、エメリーズもそういう家の子って言われちゃうんだよ」
「そんなの、こどものエメリーズが騙したわけじゃないんだからおかしいよ!」
怒り始める。
「でも、そういうものなんだよドル」
ボルドアは面倒くさそうに言うが、トレモルにはわかる。
ドレイファスは普段はおっとりのんびりの食いしん坊だが、正義感がものすごく強い。事あれば少しも躊躇わず、立場の弱い者の味方をするのだ。
「じゃあエメリーズはクラス替えることになるかもしれないね」
冷静にシエルドが言う。
「なんで?どうして?エメリーズだけクラスかわらなきゃいけない理由なんかないよ」
口を尖らせてシエルドに噛みつかんばかりのドレイファスを、ボルドアが宥めながら
「ドルはそういうこと気にしたことないと思うけど、貴族学院のABクラスって人数少ないから月謝がすごーく高いんだよ。僕だって、騎士爵のこどものくせにぶんふそうおうって言われてるんだ。まあそれは本当だけどね。ドリアン様が月謝出してくれてドルと同じクラスにいられるんだから」
初めて知る事実に、ドレイファスは驚いて口が開いてしまっている。
「エメリーズの家が、もし兄上のやったことの責任を一緒に問われたら、騙しとったお金の弁償とかでAクラスに通うのが難しくなるかも、それどころか学院に来られなくなることだって」
「兄上がやったことで、エメリーズに関係なくても?」
「少なくともラスライト伯爵家には何らかの影響がある」
「エメリーズを助けることはできないの?」
トレモルが興奮したドレイファスの背中に手を当てて、落ち着かせながら言い聞かせる。
「ぼくたちはただのこどもだから、できないことのほうが多いんだよ、ドル。でもさ、カルディがぼくを許してくれたみたいに、僕らはエメリーズを家のことで差別しないで、今までどおりにともだちでいることはできるよ。僕はカルディやドルにそうしてもらえてすごくうれしかった」
ゆっくりと頷き、ドレイファスやカルルドに笑いかけるトレモルは、みんな同じ年なのに少し大人びて見える。
ドレイファスも頷き、まっすぐ顔をあげた。
「そっか・・・わかった。じゃあ同じクラスでも違うクラスでもエメリーズはただのともだちだ」
「いいね」
「エメリーズの兄上のこと、早く片付くといいけど」
いつも明るい光を放つ碧い眼は、今はしょんぼりと俯いている。
諭すようシエルドが声をかけた。
「同情しすぎるのもよくないからね、ドル」
「どうじょう?シエルどうじょうってなに?」
「えっ?うそ!・・・知らないの?じゃあ同情しようもないね。ドル、もうちょっと勉強したほうがいいんじゃない?」
シエルドに鼻で笑われて、ぷうっと頬を膨らますが、トレモルはそういうドレイファスが自分を救ってくれたのだと、やさしい目で見守った。
そしてカルルドも。カルルドの許しがなければ、そもそもここにはいられなかっただろう。
「カルディありがとう」
トレモルは急にカルルドに伝えたくなった。
「うん?なに?急にどうしたのトリィってば!変なの」
カルルドは穏やかに笑う。
兄の不祥事に巻き込まれていくエメリーズ・ラスライトを思いながら、仲間に支えられていることを感じ、あたたかいものが少年たちの胸を満たしていった。
その夜、ドレイファスは食事のあとに父ドリアンを呼び止めた。
「お父さま、僕知りたいことがあるのです」
「では一緒に茶でも飲もう」
最近こども部屋での食事を卒業したノエミは、マーリアルに連れられてとうに寝室に戻っている。
ドリアンはふたりで執務室のソファで寛ぐことにした。
執事マドゥーンがドリアンには熱いレッドティーを、ドレイファスにはオレルの果実水を用意して扉の前に控えると、その日のドレイファスは珍しく、果実水に口をつけるより先におずおずと話を切り出した。
「僕のクラスにエメリーズという子がいるんです」
カップを持ったまま、ドリアンが頷く。
「今日ボルディから聞いたのですが、エメリーズの兄上が悪いことをしてしまって、そのせいでエメリーズはクラスを替えるか、もしかしたら学院をやめるかもって」
「それは、ラスライトか・・・?」
「そうです!」
ドレイファスは父がエメリーズを知っている、正確には、エメリーズの家がラスライト伯爵家らしいとすぐわかったことが不思議で。
その名を確かめたドリアンは、不快そうな、憐れむような複雑な顔を見せた
「そうだな。・・・ドレイファスがどこまで聞いているのかはわからぬが、まずラスライトの資力があれば多少のことがあってもAクラスに在籍し続けることは可能だろう」
「えっ?本当ですか!」
「相当な資産家だからな」
「なんだ、心配しなくてもよかったんだ!」
ドリアンは、くるくると表情を変えて最後にほっと息を吐いた愛息子を抱き寄せた。
「そうか、同級生だったのか・・・」
物思いに耽る父の異変に気づき、ドレイファスは不安な顔を浮かべる。
「ラスライトの長男なあ・・・そのエメリーズの兄だろうが。あれほどの家に生まれながら馬鹿をやったものだ」
「ばか?だれかをだましたって」
「そうだな。騙す気があってやったのか、意図せずに結果そうなってしまったのか、もしかしたらただの誤解に過ぎず騙してなどいないのか。・・・本当は騙されたと言っている方がラスライトを狙った可能性もあるのだが、本人が逃げているから真実がわからないままなのだ」
その言い回しを理解するのはドレイファスには難しかった。小首を傾げて父を見つめる。
「貴族は、一族皆が一丸となり家を盛り立てていても、ただ一人の不届きな者が現れただけで家名は大きく傷ついてしまう。その汚名をそそぐのは大変な時間と努力を要するのだ。酷いときには爵位返上と言って貴族から平民に落とされてしまうこともある。我が家のように60代以上公爵位を守り続けているのは国内唯一、とても稀なことだと、ドレイファスもこの機に知っておいてほしい」
ドリアンはゆっくりとドレイファスの理解に合わせて話を続けた。
「真実はともかく、逃げた以上ラスライトの長男は間違い無く廃嫡となるだろうな」
「はいちゃく?」
「跡継ぎではなくなるということだ。家がある限り誰かが爵位を継がねばならんが、不祥事を起こす者に家や一族の未来を委ねることはできまい?」
ドレイファスでもだんだんとわかってきた。
「学院のABクラスは、少人数のクラスのため月謝が高い。当然資力のある貴族の子息子女が集まるが、金があるからそのクラスにいるわけではない。力ある貴族同士の繋がりをこどもの頃から作り上げるためでもあるんだ。よい貴族家とのよい繋がりを持ちたくて行くのに、不祥事を起こす家をよしと思う者はいない。ここまではわかったかな?」
「はい、なんとなく。でも僕はエメリーズはエメリーズだと思います。エメリーズは人を騙したりはしません」
「ドレイファスはそのエメリーズと親しいのか?」
碧い目がちょっと考え込んで答える。
「・・・ともだちです」
「そうか。もしそのエメリーズに何かしてやりたいと思っているなら、今はただ今までどおりに接してやりなさい。正直、今すぐ助けてやれることはないからな」
ドレイファスを抱きしめたまま、柔らかな金髪を撫でてやった。
「しかしだ。ラスライト家が今を無事に乗り越える兆しが見えた時、彼らが望めば手助けするのは吝かではない」
「やぶさか?」
「ああ、やってみてもいい、時が来たなら。暫くラスライトの者は大変だろうと察するが、今はだめだ」
「どうして今はだめで、あとでならいいのですか?」
ドレイファスが食い下がる。
「ラスライトの相手がよろしくない。我が家とは敵対関係でまあまあ力もあり、たいていの貴族にとって好ましくない者たちだ」
「それなら今助けてあげないと」
「今助ければ、あやつらのことだから我が家も共犯と言い出しかねんのだ。奴等に目をつけられたのはラスライトには気の毒なことだが、今は見守るしかない」
苦々しい顔で言った父を見て、さすがのドレイファスもそれ以上続けようとはしない。
「先程も言ったとおり、ラスライトの嫡男に奴等が本当に騙されたのかもわからないのだ。ただ騙されたと訴えがあがったら調べねばならない。そこで調べに応じ、身の潔白を証明せねばならなかった。逃げたら罪を認めたようなものではないか。ラスライトの長男は自ら詰んだのだ」
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