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133 やっぱりルジーは頼りになります
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冬。
学院は冬休みに入った。
フォンブランデイル公爵領では雪はめったに降らないが、今年は雪が降らない地域でも大雪があり、冬の作物がダメになることが増えていた。
他の領地では野菜が高騰しているらしいが、公爵領では、グゥザヴィ商会から定期的にまともな金額で売り出される野菜により、値段は適度に保たれている。
そのため、離れの庭師たちはフル回転中。
離れの庭園だけではなく、敷地内の森まで続く丘も、牧場以外はすべて畑に変えられた。スライム小屋が増設されまくり、火の魔石で暖められた室内で、冬でも採れるグリーンボールやスピナル草をどんどん作っている。
ただ離れの畑で、領内で販売を続けられるほど育てるには限界があった。
敷地内のロプロの森を切り拓くわけにはいかないので、どこか他の土地を畑に作り替えるか。
「そうか。まあそうだな、我が屋敷の敷地では限界が来るのはわかりきったことだ」
「はい、近隣に同じような畑を作れる場所を作るかしないと」
「ん、ではロプモス山はどうだ?」
閃いたようにドリアンが言ったのは、サールフラワーの群生地が見つかり、畑として認可を受けた公爵家所有の山だ。畑保護のため、既に鍵魔法で部外者は入山禁止となっている。
「それはいいかもしれませんね」
「山の中にスライム小屋を建てて、畑を作ればたくさん育てられる・・・か?」
「は・・・い。ただ人繰りがつけば。現状、ここの畑をまわすので手がいっぱいで」
「それもあったか。また人を探すか?」
「そうですね、見習い希望者でもよいかと。むしろその方が探しやすいかもしれませんので」
「それはタンジェントに任せる」
ドリアンと話が済んだタンジェントは、その足でマトレイドの元へ向かった。
「また庭師を増やすことになったんだ。ただ今度は見習い希望でもいい。頼めるか?」
「ああ、庭師見習いで募集をかけて、新館で面接したものの中から良さそうな者を身上調査して振り分けるのでいいか?」
「ミルケラも最近は忙しそうで、あまり庭の仕事が頼めなくなったから、多めにとりたい」
そう依頼して畑へと戻っていった。
畑に戻ると、三年前は考えられなかった複数棟のスライム小屋が並び、仲間たちがその中で作業しているのがうっすら透けて見える。
一体あと何人いれば、必要なだけ人が確保できるんだろう・・・。
ずいぶん大所帯になったが、まだ足りないとは。
ランチに戻ってきた庭師たちに、タンジェントが増員の話を切り出すと、見習いで良いなら心当たりがあると何人か推薦があった。
すぐメモを取り、情報室でマトレイドに相談。
「紹介や推薦は、調査もしやすくていいよな」
うれしそうにマトレイドが言う。
「調べ終えたらすぐ知らせるよ」
推薦や紹介があったのは八人!
これから山を拓くことを考えると、全員来てくれてもいいくらいだ。新しい仲間がやって来るのを心待ちに、また畑へと戻っていった。
ミルケラは、タンジェントから聞かされた畑拡張計画とスライム小屋増産の必要性に、顔を曇らせている。
「正直、今濁りガラスや農具なんかで手一杯なんだ。例えば薄鉄鍋は合同ギルドが契約した鍛冶工房に任せているように、農具も家具工房に任せるのは難しいのかな?」
「とうとうミルケラも音を上げるほどになったか」
「ああ。さすがにこれ以上は手を広げられないよ」
両手を上にあげて降参とポーズをとってみせたミルケラが、ひとつ提案をした。
「そういえば、木工品はロンドリン伯爵領が有名なんだよね。アラミス様もそういうの好きみたいだし、土地柄かな?ダルスラ様に工房紹介してもらえないかな?」
ドリアンはその提案を聞くと即座にダルスラへ伝言鳥を飛ばし、ロンドリン領の木工工房の中から、ロンドリン家も参加する合同ギルドと委託契約ができるところを紹介してほしいと依頼した。
すると一刻も待たずに光を纏った伝言鳥が現れ、領内に仕事が増えるのは大歓迎だとダルスラの声で、三つの家具木工工房の名が伝えられて。調査の上、そのうちの二つの工房と委託契約を交わし、農具の製作はようやくミルケラたちの手から離れることとなった。
「作らなくてもいいと言われると、ちょっとさみしくなるな」
しんみりとミルケラが言うと
「じゃあ、これからも作るか?」
兄コバルドにからかわれる。
「いや、作らないけどね」
ミルケラは公爵家が通わせてくれた学院の侍従課を無事修了し、ドリアンから合同ギルドの契約や売上の管理、新製品の試作を任されたのでとても忙しくなった。とても販売商品の製作までは手がまわらないのだ。
ただ乾燥スライムの濁りガラスだけは材料も製作工程も神殿契約があったとしても一切秘密のため、委託ができない。離れにいる者だけで作るとなると、他の物事は手放さざるを得ないことはわかっていた。
「ここにもひとりかふたり、濁りガラスをやれる者がほしいよな」
コバルドの声に無意識に頷いている自分に気づくと、ある者の顔が浮かんだ
「そうだ、見習いでいいならエイルはどうだろう?」
歳の離れた二番目の兄ロルボのこどもだ。
グゥザヴィ家の血筋らしく手先の器用さに定評がある。学院を四年通わせたので、そろそろ辞めさせて、どこかの商会にでも奉公に出すつもりと言っていた。
「いいと思う。ここなら下手な商会より安定しているから嫌とは言わないだろう」
マトレイドに調査を依頼し、承諾が下りるとすぐ次兄のもとに向かった。
ロルボは、公爵家でミルケラやコバルドに預けられるならそんなに安心なことはないと、あと3ヶ月で学院を辞める予定のエイルをすぐ辞めさせると言う。それにはミルケラが慌て、受け入れるにも支度がいるので予定通りに通わせるよう説得してカタがついた。
春にはグゥザヴィ家からまたひとり。
ミルケラは楽しみで顔が笑ったまま戻らなくなった。
おとなたちが動き回っていることに頓着しないドレイファスは、今日もスライム小屋で水を撒いている。
背が伸びて、水やり樽も少し大きめのを持てるようになった。レイドがついてきているが、レイドは小屋の外で見ているだけ。
初めてスライム小屋に入ったときのレイドの驚きようが面白すぎて、何度もからかっていたら入らなくなってしまったのだ。
そのうちちゃんと謝らねばと、反省したドレイファスは密かにその機会をうかがっていた。
小屋を出て水やり樽を倉庫にしまいに行く途中、ドレイファスは足元の石に躓き、転ぶ!と思った瞬間に素早くレイドが受け止めたが、樽に残っていた水がレイドにかかってしまった。
「たすけてくれてありがとうレイド」
「いえ、大丈夫ですよこのくらい」
自分の服の袖で、頭から落ちる水滴を拭き取っている。
ドレイファスは自分のハンカチを出して、ブラウスの水滴を拭き取ろうとしたが、大丈夫と断られてわかりやすくしょげた。
「あー、大丈夫ですからほんとに」
ちょっと面倒くさそうにも見えた。
その日、自分の失敗を気にしたのかドレイファスは口数少なく、濡れたまま寒空を歩いたレイドは風邪を引いた。
翌朝もレイドの当番だろうと思っていたら、久しぶりにルジーが顔を出し、ドレイファスを喜ばせる。
「ルジーひさしぶり!メイベル元気?」
「すごく元気だよ。毎日いろいろ叱られる」
そう言ってルジーが笑う。
ドレイファスはルジーにきゅうっと抱きついて、お腹に顔をくっつけた。
「なんだ、どうした?何かあったか?」
「昨日レイドに水かけちゃったの。嫌われたから来ないのかな?」
「水?わざとやったのか?」
「ちがう。転びそうになってレイドが受け止めてくれたときに、樽の水がこぼれちゃったの」
「なんだ、じゃあしかたないな。そのくらいでレイドは怒ったりしない」
「でも朝はレイドの当番だったでしょ?」
碧い目を見開いて、食い下がる。
「風邪だ。・・・あっ!」
「それ、ぼくのせい?」
「いや、違うと思うぞ。ほら、ここのところ雪も多くて寒かったからなっ」
何か言いたそうな顔でルジーを見上げている。
「じゃ、じゃあな、レイドの見舞いに行こう!」
「見舞い?」
「そうだ。離れの寮に住んでるからな」
手を繋ぎ、地下通路を抜けて離れに向かう。
「あのね。僕レイドに謝らないといけないんだ」
「水かけたことか?」
「違う。スライム小屋に初めて入ったときのレイドが面白かったからからかって、そしたらレイド小屋に入らなくなっちゃったんだ」
ルジーがぐりぐりとドレイファスの頭を撫でると、
「じゃ。一緒に謝っちまおう。あ!次からは人をからかったりしないこと!」
「うん」
やはりドレイファスを動かすのはルジーが一番うまかった。
─コンコンコンコン
「だれ?具合悪いんであとにしてほしいんだが」
しつこいノック音に、部屋の中からレイドの声がする。
「悪いな、ルジーだ。ちょっとだけ顔出してくれないかな」
カチャッと鍵の開く音がしてレイドが現れたのだが、なんとふわふわのボンボンがついたかわいいナイトキャップを被っている。
「レ・・イド?具合大丈夫か?」
と言ったが、一応言ったが、寝着にナイトキャップの姿がかわいすぎて盛大に吹き出した。
「笑うなよ」
ルジーに文句をつけようとしたとき、陰に隠れるように立つドレイファスに気づく。
「ドレイファスさま!」
「レイド具合悪いの?ぼくが水かけちゃったから?ごめんなさい」
「あっ、いや違いますよ。このところ寒かったから。本当に」
何を真面目に言っても、レイドがかわいすぎてルジーの笑いは止まらない。
「笑うなって」
苛ついたようにナイトキャップをむしり取ると、柔らかそうな髪に寝癖がついていて、別のかわいさがあふれる。
「ルジー!ぼくにからかっちゃダメって言ったよ」
ドレイファスがルジーの袖を引っ張って、言ってることとやってることが違う!と口を尖らせた。
「ドレイファス様、ありがとうございます」
レイドが目の高さまで屈んでお礼を言ったので、ぶんぶんと首を振る。
「ぼくもレイドからかったから謝らなくちゃいけないの。ごめんなさい」
驚いたらしいレイドの目が丸くなり、それからにっこり笑う。
「気にかけていただいたんですね、ありがとうございます。ドレイファス様にからかわれたくらい、私は何でもありませんよ」
「ほんとに?だってレイド、スライム小屋に入らないでしょ」
ああ!と頷くと
「暑いのが苦手なんですよ、私は。あの中のモワッていうのがイヤで。だからドレイファス様のせいじゃないんです。わかっていただけましたか?」
こくんと大きく頭を振ってニッカリ笑った。
「これで安心したか?」
「うん」
「よし、それじゃあ畑に寄ってから戻ろう」
レイドによく休むように言うと、以前のように手を繋いで畑へと降りていった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
おやすみを頂き、ありがとうございました。
八~九月は超繁忙期なので、ちょこちょこおやすみを頂くことがあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
学院は冬休みに入った。
フォンブランデイル公爵領では雪はめったに降らないが、今年は雪が降らない地域でも大雪があり、冬の作物がダメになることが増えていた。
他の領地では野菜が高騰しているらしいが、公爵領では、グゥザヴィ商会から定期的にまともな金額で売り出される野菜により、値段は適度に保たれている。
そのため、離れの庭師たちはフル回転中。
離れの庭園だけではなく、敷地内の森まで続く丘も、牧場以外はすべて畑に変えられた。スライム小屋が増設されまくり、火の魔石で暖められた室内で、冬でも採れるグリーンボールやスピナル草をどんどん作っている。
ただ離れの畑で、領内で販売を続けられるほど育てるには限界があった。
敷地内のロプロの森を切り拓くわけにはいかないので、どこか他の土地を畑に作り替えるか。
「そうか。まあそうだな、我が屋敷の敷地では限界が来るのはわかりきったことだ」
「はい、近隣に同じような畑を作れる場所を作るかしないと」
「ん、ではロプモス山はどうだ?」
閃いたようにドリアンが言ったのは、サールフラワーの群生地が見つかり、畑として認可を受けた公爵家所有の山だ。畑保護のため、既に鍵魔法で部外者は入山禁止となっている。
「それはいいかもしれませんね」
「山の中にスライム小屋を建てて、畑を作ればたくさん育てられる・・・か?」
「は・・・い。ただ人繰りがつけば。現状、ここの畑をまわすので手がいっぱいで」
「それもあったか。また人を探すか?」
「そうですね、見習い希望者でもよいかと。むしろその方が探しやすいかもしれませんので」
「それはタンジェントに任せる」
ドリアンと話が済んだタンジェントは、その足でマトレイドの元へ向かった。
「また庭師を増やすことになったんだ。ただ今度は見習い希望でもいい。頼めるか?」
「ああ、庭師見習いで募集をかけて、新館で面接したものの中から良さそうな者を身上調査して振り分けるのでいいか?」
「ミルケラも最近は忙しそうで、あまり庭の仕事が頼めなくなったから、多めにとりたい」
そう依頼して畑へと戻っていった。
畑に戻ると、三年前は考えられなかった複数棟のスライム小屋が並び、仲間たちがその中で作業しているのがうっすら透けて見える。
一体あと何人いれば、必要なだけ人が確保できるんだろう・・・。
ずいぶん大所帯になったが、まだ足りないとは。
ランチに戻ってきた庭師たちに、タンジェントが増員の話を切り出すと、見習いで良いなら心当たりがあると何人か推薦があった。
すぐメモを取り、情報室でマトレイドに相談。
「紹介や推薦は、調査もしやすくていいよな」
うれしそうにマトレイドが言う。
「調べ終えたらすぐ知らせるよ」
推薦や紹介があったのは八人!
これから山を拓くことを考えると、全員来てくれてもいいくらいだ。新しい仲間がやって来るのを心待ちに、また畑へと戻っていった。
ミルケラは、タンジェントから聞かされた畑拡張計画とスライム小屋増産の必要性に、顔を曇らせている。
「正直、今濁りガラスや農具なんかで手一杯なんだ。例えば薄鉄鍋は合同ギルドが契約した鍛冶工房に任せているように、農具も家具工房に任せるのは難しいのかな?」
「とうとうミルケラも音を上げるほどになったか」
「ああ。さすがにこれ以上は手を広げられないよ」
両手を上にあげて降参とポーズをとってみせたミルケラが、ひとつ提案をした。
「そういえば、木工品はロンドリン伯爵領が有名なんだよね。アラミス様もそういうの好きみたいだし、土地柄かな?ダルスラ様に工房紹介してもらえないかな?」
ドリアンはその提案を聞くと即座にダルスラへ伝言鳥を飛ばし、ロンドリン領の木工工房の中から、ロンドリン家も参加する合同ギルドと委託契約ができるところを紹介してほしいと依頼した。
すると一刻も待たずに光を纏った伝言鳥が現れ、領内に仕事が増えるのは大歓迎だとダルスラの声で、三つの家具木工工房の名が伝えられて。調査の上、そのうちの二つの工房と委託契約を交わし、農具の製作はようやくミルケラたちの手から離れることとなった。
「作らなくてもいいと言われると、ちょっとさみしくなるな」
しんみりとミルケラが言うと
「じゃあ、これからも作るか?」
兄コバルドにからかわれる。
「いや、作らないけどね」
ミルケラは公爵家が通わせてくれた学院の侍従課を無事修了し、ドリアンから合同ギルドの契約や売上の管理、新製品の試作を任されたのでとても忙しくなった。とても販売商品の製作までは手がまわらないのだ。
ただ乾燥スライムの濁りガラスだけは材料も製作工程も神殿契約があったとしても一切秘密のため、委託ができない。離れにいる者だけで作るとなると、他の物事は手放さざるを得ないことはわかっていた。
「ここにもひとりかふたり、濁りガラスをやれる者がほしいよな」
コバルドの声に無意識に頷いている自分に気づくと、ある者の顔が浮かんだ
「そうだ、見習いでいいならエイルはどうだろう?」
歳の離れた二番目の兄ロルボのこどもだ。
グゥザヴィ家の血筋らしく手先の器用さに定評がある。学院を四年通わせたので、そろそろ辞めさせて、どこかの商会にでも奉公に出すつもりと言っていた。
「いいと思う。ここなら下手な商会より安定しているから嫌とは言わないだろう」
マトレイドに調査を依頼し、承諾が下りるとすぐ次兄のもとに向かった。
ロルボは、公爵家でミルケラやコバルドに預けられるならそんなに安心なことはないと、あと3ヶ月で学院を辞める予定のエイルをすぐ辞めさせると言う。それにはミルケラが慌て、受け入れるにも支度がいるので予定通りに通わせるよう説得してカタがついた。
春にはグゥザヴィ家からまたひとり。
ミルケラは楽しみで顔が笑ったまま戻らなくなった。
おとなたちが動き回っていることに頓着しないドレイファスは、今日もスライム小屋で水を撒いている。
背が伸びて、水やり樽も少し大きめのを持てるようになった。レイドがついてきているが、レイドは小屋の外で見ているだけ。
初めてスライム小屋に入ったときのレイドの驚きようが面白すぎて、何度もからかっていたら入らなくなってしまったのだ。
そのうちちゃんと謝らねばと、反省したドレイファスは密かにその機会をうかがっていた。
小屋を出て水やり樽を倉庫にしまいに行く途中、ドレイファスは足元の石に躓き、転ぶ!と思った瞬間に素早くレイドが受け止めたが、樽に残っていた水がレイドにかかってしまった。
「たすけてくれてありがとうレイド」
「いえ、大丈夫ですよこのくらい」
自分の服の袖で、頭から落ちる水滴を拭き取っている。
ドレイファスは自分のハンカチを出して、ブラウスの水滴を拭き取ろうとしたが、大丈夫と断られてわかりやすくしょげた。
「あー、大丈夫ですからほんとに」
ちょっと面倒くさそうにも見えた。
その日、自分の失敗を気にしたのかドレイファスは口数少なく、濡れたまま寒空を歩いたレイドは風邪を引いた。
翌朝もレイドの当番だろうと思っていたら、久しぶりにルジーが顔を出し、ドレイファスを喜ばせる。
「ルジーひさしぶり!メイベル元気?」
「すごく元気だよ。毎日いろいろ叱られる」
そう言ってルジーが笑う。
ドレイファスはルジーにきゅうっと抱きついて、お腹に顔をくっつけた。
「なんだ、どうした?何かあったか?」
「昨日レイドに水かけちゃったの。嫌われたから来ないのかな?」
「水?わざとやったのか?」
「ちがう。転びそうになってレイドが受け止めてくれたときに、樽の水がこぼれちゃったの」
「なんだ、じゃあしかたないな。そのくらいでレイドは怒ったりしない」
「でも朝はレイドの当番だったでしょ?」
碧い目を見開いて、食い下がる。
「風邪だ。・・・あっ!」
「それ、ぼくのせい?」
「いや、違うと思うぞ。ほら、ここのところ雪も多くて寒かったからなっ」
何か言いたそうな顔でルジーを見上げている。
「じゃ、じゃあな、レイドの見舞いに行こう!」
「見舞い?」
「そうだ。離れの寮に住んでるからな」
手を繋ぎ、地下通路を抜けて離れに向かう。
「あのね。僕レイドに謝らないといけないんだ」
「水かけたことか?」
「違う。スライム小屋に初めて入ったときのレイドが面白かったからからかって、そしたらレイド小屋に入らなくなっちゃったんだ」
ルジーがぐりぐりとドレイファスの頭を撫でると、
「じゃ。一緒に謝っちまおう。あ!次からは人をからかったりしないこと!」
「うん」
やはりドレイファスを動かすのはルジーが一番うまかった。
─コンコンコンコン
「だれ?具合悪いんであとにしてほしいんだが」
しつこいノック音に、部屋の中からレイドの声がする。
「悪いな、ルジーだ。ちょっとだけ顔出してくれないかな」
カチャッと鍵の開く音がしてレイドが現れたのだが、なんとふわふわのボンボンがついたかわいいナイトキャップを被っている。
「レ・・イド?具合大丈夫か?」
と言ったが、一応言ったが、寝着にナイトキャップの姿がかわいすぎて盛大に吹き出した。
「笑うなよ」
ルジーに文句をつけようとしたとき、陰に隠れるように立つドレイファスに気づく。
「ドレイファスさま!」
「レイド具合悪いの?ぼくが水かけちゃったから?ごめんなさい」
「あっ、いや違いますよ。このところ寒かったから。本当に」
何を真面目に言っても、レイドがかわいすぎてルジーの笑いは止まらない。
「笑うなって」
苛ついたようにナイトキャップをむしり取ると、柔らかそうな髪に寝癖がついていて、別のかわいさがあふれる。
「ルジー!ぼくにからかっちゃダメって言ったよ」
ドレイファスがルジーの袖を引っ張って、言ってることとやってることが違う!と口を尖らせた。
「ドレイファス様、ありがとうございます」
レイドが目の高さまで屈んでお礼を言ったので、ぶんぶんと首を振る。
「ぼくもレイドからかったから謝らなくちゃいけないの。ごめんなさい」
驚いたらしいレイドの目が丸くなり、それからにっこり笑う。
「気にかけていただいたんですね、ありがとうございます。ドレイファス様にからかわれたくらい、私は何でもありませんよ」
「ほんとに?だってレイド、スライム小屋に入らないでしょ」
ああ!と頷くと
「暑いのが苦手なんですよ、私は。あの中のモワッていうのがイヤで。だからドレイファス様のせいじゃないんです。わかっていただけましたか?」
こくんと大きく頭を振ってニッカリ笑った。
「これで安心したか?」
「うん」
「よし、それじゃあ畑に寄ってから戻ろう」
レイドによく休むように言うと、以前のように手を繋いで畑へと降りていった。
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おやすみを頂き、ありがとうございました。
八~九月は超繁忙期なので、ちょこちょこおやすみを頂くことがあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
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