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125 ロイダルは、護衛が嫌い

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「見たかったのにー!」
ドレイファスが、とても貴族のお坊ちゃまとは思えない地団駄を踏んでいる。
 カルルドが無事トロンビーをテイムし、蜂たちを連れてスートレラ家に戻ったと聞いたからだ。

「トロンビーなんか、他にも巣があるからそれを見ればいい」
「そういうことじゃないんだってば!テイムしたカルディに蜂がついていくところが見たかったのにーっ!」

 おっとりしたドレイファスが珍しく癇癪を起こしているのは、間違いなくロイダルのせいだ。

 ロイダルはやるべきことをやっただけだが、ドレイファスに我慢をさせるための配慮はまるっきり欠けている。
 聞き分けのよいドレイファスだから、護衛としてやらねばならないことをしたのはわかっているが、その後が問題だ。屋敷に避難したあと、大丈夫そうだとわかった時点で戻りたがったのに、ロイダルは面倒くさがって二度と庭には出なかった。
 ほんの少し気持ちを汲んで、チラッとでも遠目にでも一瞬でも庭にでていれば鉾をおさめただろう、こどもながらにそういった事に長けたドレイファスを、一体どうしたらこれほどいきり立たせることができるのか。
 ロイダルもわかっているくせに、平気で煽るようにやるのだから始末が悪い。

 様子を見ていたマトレイドは、ロイダルにドレイファスの護衛はムリかと考え始めた。
 腕が立ち調査能力も高いが、護衛の対象をいちいち苛つかせに行くその神経が理解できない、しかも相手はこどもなのに。
考えられるのは、飽きてきてやる気がなくなった仕事だから外されるために悪い態度を取っている・・・。
 仕事ができる故に、そのような我儘も今まで許されてきたため、恐れることなくそういう態度を取ってしまう。

 ─ありえるな─

 自分自身も結局のところ分室長の雑事に忙殺され、あまりドレイファスにつくことができずにいる。その分ロイダルの負担が増え、不満も増えたことは否めない。

 やる気が落ちて仕事に興味を失っても普通は惰性で職務を全うしようとするものだが、ロイダルはわかりやすく手を抜く。今までの経験でいうと説得するほどへそが曲がる。護衛で言えば最低限ドレイファスを死なせない程度にしか働かなくなる可能性だってある。そうなると悪影響にしかならなくなってしまう・・・。

 ─やっぱり外すしかないな─

 情報室総長ウディルのところへ向かう。

「申し訳ございません、ロイダルに限界がやってきたようなのでご相談を」

 そう伝えるとウディルが眉をあげ、マトレイドの気持ちを代弁するようなため息をつく。

「またか?本当にどうしようもないやつだな」
「私ももっと目を配るべきでした」
「いや、あれはあいつの性根の問題だ。誰がどれだけ目を配ろうと、一度気が削がれたら誰にもどうにもできん。こちらに異動させる。後任に希望はあるか?」

 ウディルの決断は早く、ロイダルがウディルの厳重な管理下に戻されることが決められた。

「ドレイファス様と相性が良さそうな者をお願いしたいです」
「うむ、では交代要員については一両日もらうが。ロイダルは即日こちらへ戻そう。今日明日はマティとノージュで対応してくれ」

 現在のドレイファスの護衛は外出時は騎士団が、屋敷内は情報室員が担っている。
屋敷から出ることがなかった幼少時はルジーが一人で見てきたが、本来表立った護衛は騎士の仕事だ。
 新しい屋敷を建てたときに必要最低限の増員しか確保できなかったため、団員の休みを維持しながらドレイファスに張り付かせるとなると人的に少々厳しい。新規採用は腕が立てば誰でもよいわけではないので、常に探しているがこれは!という者が少ない現状、屋敷内の護衛は今でも情報室が受け持っていた。

「よろしくお願い致します」

 頭を下げ、ウディルの部屋から辞するとマトレイドはため息をついた。

「ロイダルに話があるので、ドレイファス様にはノージュがついてもらえるか?」

 引導を渡すため、資料室にいたノージュ・ファンダラに交代を頼みロイダルを呼び出した。

「あ、ノージュ!ちょっと訊きたいことが」
「ん?」
「ドレイファス様の護衛は、おまえにとってどういう仕事だろう?」

 不思議そうな顔を浮かべたノージュだが。

「なんだ、改まって。俺にとって?・・・そうだな、ドレイファス様は素直でかわいい。屋敷内の護衛だから最初は物足りない仕事だと思っていたが、慣れてくると調査とかホラいろいろやるより危険も少ないし、今はありがたいと思っている」
「うん、俺もだ。ついでに言うと妻も喜んでいる」
「このままドレイファス様についていられるなら、安心して結婚できそうだよな」
「それなのにロイダルはどうして」

 マトレイドが漏らした一言で、質問の意図がノージュに正確に理解されたようだ。

「最近特に酷くなってきているよな、あいつ」
「気づいていたか。そろそろこちらも限界だ。これ以上はドレイファス様にとってもよくない」
「しかたないな。後任は誰が?」
「ウディル様は一両日中に決められると」

 そこまで聞くと一度頷いて、ノージュはドレイファスのところへと向かって行った。
 入れ替わりに戻ったロイダルに解任を伝えると、左遷だというのにうれしそうな顔をする。

「ああ、助かった。もう限界だったんだ、こどもの相手なんて」

 あろうことか、誉れ高い次期公爵の護衛をそう言って肩を竦めてみせたのだ。

(これは・・・いくら腕が立つと言っても、本当にウディル様に締め上げていただかねばダメだな)

「こちらはもういいので、荷物をまとめて。寮も離れから本館に移る。あ、あと鍵魔法を外す」
「うわ、めんどくさ」

 はははと笑うロイダルに、カイドが鍵魔法をかけ直す。

「今から六刻有効な鍵に変えた。それだけあれば荷物も持ち出せるだろ?」
「ああ、大丈夫だ」

 そういうと楽しそうに出て行った。

「はあ。一体どうしたらあそこまでになるんだろうな」
「うん、生まれ育ちより飽きっぽい性格が問題だな・・・。ウディル様がおっしゃるように、持って生まれた性格がよくないということなのかも知れんなぁ」

 部屋に残されたカイドとマトレイドは、もう一度深く大きなため息をついたのだった。

 一両日と聞いていたが、翌日ウディルから呼ばれたマトレイドは二人の若者を離れに連れ帰った。

 ソーミ・ライザとレイド・アタルア。
 ソーミはルジーと同じ歳で、巻毛の黒髪を令嬢のように伸ばして結わえている。目立ちそうな出で立ちだが、不思議と印象が残らない特徴のない顔立ちだ。
 亜麻色の髪と薄い黄色い瞳を持つレイドは、まだ17歳だが情報室の次代のホープと見做されている。
学院を卒業した15歳で情報室に来たが、武術のセンスはもちろん、体術が卓越していて、気配を消したかのように人に交じりこみ情報収集を行える久しぶりの逸材だ。ウディルはレイドを手放したくなかったが、ロイダルの失態を挽回するにはそれなりの人材を投入しなくてはならず、泣く泣く分室に送り込んだ。元々ロイダルを選んだのはドリアンなのだが、管理不足を問われたらさすがのウディルもぐうの音も出ない。

「ドレイファス様の護衛に選んでいただけるなんてうれしいです!」

 ソーミは元気いっぱい。

「私も、ドレイファス様をよくお見かけして、なんて可愛らしいと思っていたのでうれしいです」

 にこにこしながらレイドも続く。

(まさかお気に入りのレイドを出してくるとは・・・ロイダルは罪深いな)

 ウディルに背水の陣的な人事を決断させた、ロイダルの今後が少し心配になったマトレイドである。

「今日は寮に引っ越しなどしてもらって、勤務は明日から。期待している、よろしく頼む」



 ドレイファスは新しい二人の護衛を喜んで受け入れた。二人との顔合わせで、目線を合わせ、楽しそうに相手をしてくれる護衛が気に入ったようだ。

「レイドとソーミになってよかったぁ」

 ドレイファスが何気なく放った言葉に、居合わせた情報室の面々は笑顔を浮かべながら凍りついた。

(ドレイファス様も限界だったのかも、危なかった・・・)

 本当の大事になる前に入れ替えできてよかったとおとなたちは胸をなでおろし、ドレイファスは二人の護衛に両の手を繋いでもらってぴょんぴょん跳ねた。

 学院に入ってから飛び跳ねているところを見ることは無くなっていたが、ロイダルがついていたからかも知れないなと思い当たると、マトレイドは胃がキリキリと痛む。
 厳しいウディルの再教育はかわいそうだと思っていたが、今はウディルにぜひギッチギチにやってもらいたいと思っている。

「ざまあみろだな」
「ざまあみろってなに?」
「あっ、いやドレイファス様はそういう言葉は覚えてはいけませんよ」

 聞かれているとは思わず、うっかり独り言を言ってしまったマトレイドは大慌てでドレイファスの気持ちを逸らそうと手を振るが、口から放たれた言葉は消すことはできない。

「ふーん。ざまあみろっざまあみろっ」

 だめと言われたらやりたくなるのがこどもというものだ。

「ドレイファス様っ、もーうダメですってば」

 マトレイドの弱り顔がよほど面白かったらしい、ドレイファスはケラケラと笑い始めた。

 困ったなとは思うのだが、あまりに楽しそうに解き放たれたように笑うドレイファスを見て、悪い言葉の一つくらいはいいかと。そんなマトレイドの諦めのため息を聴いたレイドとソーミは、やれやれと眉を下げてほんの少しだけ笑みを浮かべていた。
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