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公爵邸の夕餉に玉子の白身を新しい甘味で味付けされた、白いふんわり焼きがデザートに出され、公爵夫人のマーリアル、ドレイファスと食卓を共にするグレイザールの三名がおかわりを申し出た夜。
柔らかな寝具に包まれたドレイファスは、新たな夢を見ていた。
庭で見た茶色い皮のついたウィーととてもよく似ている粒が、石?の器に放り込まれたと思うと変な道具でゴリゴリされている。
粒は潰れていき、潰れたそれを皿をひっくり返して籠のようなものにザバっといれ。
籠を左右に揺さぶり始めると、粉だけがさらさらと落ちてそれらが集められた。
袋に入れると口を紐で縛り、家に入って女の人に袋ごと渡す。
女の人は厨房に入り、せっかく縛られた紐を解くと、匙で何杯かの粉を袋から皿に出した。
牛乳と別の白い粉、玉子を入れて溶くとどろりとし、それを何かを塗った薄い鉄鍋に流し入れて火にかける。
ひっくり返し、こんがり焼けたそれにはちみつをとろりとかけて!
一口大に切ったそれを女の人が大きな口をあけてぱくっと食べた。パアッと笑い、おいしそう!ドレイファスがごくりと唾を飲んだとき
「*§“$@£%€\¢¢§†!」
声が聴こえた!
聞いたことがない言葉だが。確かに何か喋ったのが聴こえた!意味はわからないけど、うれしそうだったのは間違いない!
【神の眼】はレベルアップしたのだ!
ちなみに。
夢の中の女性は『自分で育てた家庭菜園の小麦だから、おいしさもひとしおだわ!』と言っていたが、ドレイファスにはゴニョゴニョとしか聞き取れなかった。
音が、声が。
そう、さっき粒をゴリゴリしている音が聴こえていたではないか!
夢の中なのにドレイファスはそれに気づいて驚いていることが不思議だった。
そして食いしん坊の本領発揮。
「なんておいしそうなんだろう!」
今にも食べられようとしている残りのパンケーキに目が釘付けになり、思わず口がああぁと開いたとき。メイベルに揺さぶられて夢から引き戻されてしまった。
パチっ。
左右を見ると見慣れた自分の部屋で。
おはようの挨拶をするメイベルを恨みがましい目で見ると
「メイベルのばかー!」
おはようの代わりに口から飛び出した。
「はあっ?何仰ってるんですか?おはようと仰らねばいけませんわよ坊ちゃまっ!」
目覚めのお叱りを受けても、夢への未練に不貞腐れている。
「いいところだったのにっ!」
夢で食べられるわけではないが、あと少し続きを見たかったのだ。寝台の上で地団駄を踏むようにジタバタするドレイファスを抱き下ろすとメイベルは顔を洗わせ、着替えをさせる。
メイベルの結婚退職に伴い、新しい侍女タイリーが引き継ぎを始めているが、やっぱりメイベルの手際の良さは特別だ。
ふとドレイファスは寝台を片付けるメイベルを見、
「バカって言ってごめんなさい、本当は大好きだよ」
それだけ言ってロイダルと部屋を出ていった。
「ねえ、夢の話したいんだけど」
ロイダルの袖を引っ張るとすぐ、
「畑に行く前に分室によりましょう」と離れの情報部へ連れて行かれた。
「おはよう、あ、ドレイファス様!おはようございます」
カイドが既に仕事を始めていたので、メモを頼む。
「昨日畑で見たウィーに似てた。茶色い粒を石でゴリゴリして籠に入れて粉取るの」
一気に話す。
意味不明な話にはだいぶ慣れた男たちだが、今日の話は今までで一番わかりやすかった!
「あとね、粉に牛乳と白い粉と玉子入れてどろどろにしたら、鍋で焼いてはちみつで食べてたよ。でねでね!ゴリゴリとか女の人の声とかが初めて聴こえたの!」
え?と男たちが顔を見合わせた。
「音?今までは?」
「なんにも聴こえなかったんだけど、初めて聴こえたんだ。何言ってるかは全然わからなかったけど」
「それってレベルアップしたんじゃないか?」
頷きあう。
過去歴代の嫡男のほとんどが失ったスキルだが、レベルアップするほどスキル発動しているということはもう消えることはないのでは?
カイドはそう予想した。
(ドリアン様に予測に過ぎないがお知らせしよう)
夢の聞き取りを終えると、畑に行く時間がなくなってしまった。それどころか朝食の時間もなくなり、ロイダルに手を引かれて泣く泣く馬車に乗せられ、ドレイファスは空腹のまま学院に送られた。
さて。
カイドはドリアンの面会予約を入れて、次にボンディに会いに厨房へ向かう。
コンコンとカイドが立てたノック音に気づいたボンディは朝食の後片付けに追われていた。
「おう、カイド!用なら少し待っててくれ」
食堂に座り、手があくのを待っていると、トレーに茶と白身のふんわり焼きを持ってボンディがやってきた。
「これ、ローザリオ様が作った甘い粉を使って作ったんだ。食べてみてくれ」
話の前に試食させられたが、カイドは喜んで味見に応じた。
「ああ、これは甘味が苦手な男性でもおいしく頂けるよ」
「あ、ロイダルも似たようなこと言ってたな。甘味が苦手な人ってそんなにいるものなのか?」
甘いものは至上の喜びと思っているボンディには理解出来ないが。
甘味自体が貴重品のため、贈り物などでもらうことがあるとよほどの甘いもの好きの男性でないかぎり、たいていは喜ぶ女性やこどもに食べさせる。
食べる機会が少なければ好きも嫌いもそうは感じないだろうが、頻繁に食べるとなったら別だ。最近新レシピの試食が増え、カイドやロイダルは甘味が重いと感じ始めていたから、サトーカブのさらっとした甘味にほっとしたのだ。
「サトーカブさえ育てられれば、いつでもこの甘さが手に入るそうだぞ。楽しみだなぁ」
「ところでな、ボンディに見てもらいたいものがあるんだ」
そう断り、ドレイファスから聞き取ったばかりのメモを見せる。
ウィーから粉を作り、その粉を焼いて食べるという。
「ウィー?ウィーってなんだ?ウィーの粉?」
「昨日畑で見たってドレイファス様がおっしゃっていたから見に行かないか?」
ボンディとカイドは並んで畑に向かう。
一気に人数が増えた庭師たちがあちらこちらで作業しているが、タンジェントが気づいて手を振ってくれた。
「タンジー、ちょっと来られるか?」
見慣れた麦わら帽子がこちらに近づいてくる、帽子を被っているのによく日焼けた顔に深い青い瞳が印象的だ。
「ボンディ、カイドと来るなんて珍しいね」
「聞きたいことがあるんだ。ウィーについて」
「あ、ちょっと待って」
振り返るとモリエールを呼ぶと、緑の茂みから手ぬぐいを顔に巻いた男が出てきた。
「え、なんだあの格好?」
「まあ、いろいろあるんだよ」
残念な手ぬぐい姿のことをうまく説明できずにいるうちにモリエールが来たので用件を引き継ぎ、タンジェントは緑の中に身を沈めるよう素早く姿を消す。
「ウィーについて訊きたい!?よく知ってるわけでもないが、なんだ?」
「粒があったら少し欲しいんだが」
「ああ、ある」
そう言って倉庫に入ったかと思うと籠を持ってきた。
「これでよければやるが」
「おお、ありがたい!」
カイドが手を伸ばすと、モリエールがサッと籠を自分に引き寄せる。腕が空振ったカイドが眉を寄せると
「なぜウィーをもらい受けるのか、理由を話せ」
至極まっとうな質問!
「あ、理由な。そうだよな」
カイドが今朝方のドレイファスの話を順を追って話すとようやく籠を本当に渡してくれた。
「ウィーが足りなくてすぐ欲しいなら、北部のレンドウの町あたりにけっこう露店が出ているようだ。モーダが驚いたほど安いぞ」
とてもありがたい情報と共に得たウィー。
今度はこれを皿にいれてゴリゴリするのだが、そのための道具も問題だ。ドレイファスが描いた絵に似た皿はあるが、ゴリゴリする棒がない。
ミルケラを呼び、絵を見せると木で似たように作ってくれたのだが、皿の中で粒が滑ってうまく潰れない。失敗したようだともう一度相談に行くと、ローザリオ・シズルスが畑に来ていた。
「おお、ボンディ!この前はサトーカブの粉のレシピをありがとう。とても美味かった」
甘味に目がないローザリオは、今サトーカブの粉を商品化するため、工程の見直しをしている。ただサトーカブの価値が世に知れたら、今のように採り放題にはならないどころか高騰することは間違いないので、畑で収穫して増やせるまでは自分たちの分だけ細々と作るだけ。
しかし商品化したとき、それを使った素晴らしいレシピが沢山あれば甘い粉を売るだけではなく、二次利益を生み出すのも有利になる。畑で安定して収穫できると見込みが立つには最低でも三年から五年・・・。
ラバンやミンツのように繁殖力旺盛なものなら早く目処が立つが、庭師たちが一日も早くその道筋を作ってくれるように心から祈っているこの頃だ。
「それはなんだ?」
ミルケラが作った木の器とゴロゴロする道具を指差す。
「はあ、ウィーの粒を潰すために作ってもらたものなんですが、うまくいかなくて」
ボンディが困ったように言うと
「何かの粒を潰す?」
器を覗いてローザリオがニッと笑った。
「中に刻みを作るか、石で作らねば。これでは中で滑って粒をうまく捉えられんだろう?」
ボンディはハッと顔を上げる。
「錬金術でも素材をすり潰して使うことがあるんだ。私たちが使うのは石で作られた薬研というすり鉢と薬研車だが、そんなもの錬金術師か薬師くらいしか使わんし、道具はほぼ自分で作るから売られてもいない。まあ普通は目にすることがないだろう」
「なるほど」
「それでその粒を潰してどうするのだ?」
「粉と殻を笊で分けたら、粉を牛乳で溶いて焼いてはちみつで食べるそうです」
今度はローザリオがハッとした。
「な、なに?もしかしてそれもドレイファス様のアレか?」
ボンディに食いつきそうに顔を寄せてくる。
「え、そうらし・・」
「よし、私が作ってくる!」
最後まで言い終える前に、ローザリオは走って帰って行った。
「用事は済んでいるのかな?」
ボンディとカイドは顔を見合わせて、力なく笑い、とりあえずミルケラに報告するのはローザリオを待つことにしてそのまま戻っていった。
柔らかな寝具に包まれたドレイファスは、新たな夢を見ていた。
庭で見た茶色い皮のついたウィーととてもよく似ている粒が、石?の器に放り込まれたと思うと変な道具でゴリゴリされている。
粒は潰れていき、潰れたそれを皿をひっくり返して籠のようなものにザバっといれ。
籠を左右に揺さぶり始めると、粉だけがさらさらと落ちてそれらが集められた。
袋に入れると口を紐で縛り、家に入って女の人に袋ごと渡す。
女の人は厨房に入り、せっかく縛られた紐を解くと、匙で何杯かの粉を袋から皿に出した。
牛乳と別の白い粉、玉子を入れて溶くとどろりとし、それを何かを塗った薄い鉄鍋に流し入れて火にかける。
ひっくり返し、こんがり焼けたそれにはちみつをとろりとかけて!
一口大に切ったそれを女の人が大きな口をあけてぱくっと食べた。パアッと笑い、おいしそう!ドレイファスがごくりと唾を飲んだとき
「*§“$@£%€\¢¢§†!」
声が聴こえた!
聞いたことがない言葉だが。確かに何か喋ったのが聴こえた!意味はわからないけど、うれしそうだったのは間違いない!
【神の眼】はレベルアップしたのだ!
ちなみに。
夢の中の女性は『自分で育てた家庭菜園の小麦だから、おいしさもひとしおだわ!』と言っていたが、ドレイファスにはゴニョゴニョとしか聞き取れなかった。
音が、声が。
そう、さっき粒をゴリゴリしている音が聴こえていたではないか!
夢の中なのにドレイファスはそれに気づいて驚いていることが不思議だった。
そして食いしん坊の本領発揮。
「なんておいしそうなんだろう!」
今にも食べられようとしている残りのパンケーキに目が釘付けになり、思わず口がああぁと開いたとき。メイベルに揺さぶられて夢から引き戻されてしまった。
パチっ。
左右を見ると見慣れた自分の部屋で。
おはようの挨拶をするメイベルを恨みがましい目で見ると
「メイベルのばかー!」
おはようの代わりに口から飛び出した。
「はあっ?何仰ってるんですか?おはようと仰らねばいけませんわよ坊ちゃまっ!」
目覚めのお叱りを受けても、夢への未練に不貞腐れている。
「いいところだったのにっ!」
夢で食べられるわけではないが、あと少し続きを見たかったのだ。寝台の上で地団駄を踏むようにジタバタするドレイファスを抱き下ろすとメイベルは顔を洗わせ、着替えをさせる。
メイベルの結婚退職に伴い、新しい侍女タイリーが引き継ぎを始めているが、やっぱりメイベルの手際の良さは特別だ。
ふとドレイファスは寝台を片付けるメイベルを見、
「バカって言ってごめんなさい、本当は大好きだよ」
それだけ言ってロイダルと部屋を出ていった。
「ねえ、夢の話したいんだけど」
ロイダルの袖を引っ張るとすぐ、
「畑に行く前に分室によりましょう」と離れの情報部へ連れて行かれた。
「おはよう、あ、ドレイファス様!おはようございます」
カイドが既に仕事を始めていたので、メモを頼む。
「昨日畑で見たウィーに似てた。茶色い粒を石でゴリゴリして籠に入れて粉取るの」
一気に話す。
意味不明な話にはだいぶ慣れた男たちだが、今日の話は今までで一番わかりやすかった!
「あとね、粉に牛乳と白い粉と玉子入れてどろどろにしたら、鍋で焼いてはちみつで食べてたよ。でねでね!ゴリゴリとか女の人の声とかが初めて聴こえたの!」
え?と男たちが顔を見合わせた。
「音?今までは?」
「なんにも聴こえなかったんだけど、初めて聴こえたんだ。何言ってるかは全然わからなかったけど」
「それってレベルアップしたんじゃないか?」
頷きあう。
過去歴代の嫡男のほとんどが失ったスキルだが、レベルアップするほどスキル発動しているということはもう消えることはないのでは?
カイドはそう予想した。
(ドリアン様に予測に過ぎないがお知らせしよう)
夢の聞き取りを終えると、畑に行く時間がなくなってしまった。それどころか朝食の時間もなくなり、ロイダルに手を引かれて泣く泣く馬車に乗せられ、ドレイファスは空腹のまま学院に送られた。
さて。
カイドはドリアンの面会予約を入れて、次にボンディに会いに厨房へ向かう。
コンコンとカイドが立てたノック音に気づいたボンディは朝食の後片付けに追われていた。
「おう、カイド!用なら少し待っててくれ」
食堂に座り、手があくのを待っていると、トレーに茶と白身のふんわり焼きを持ってボンディがやってきた。
「これ、ローザリオ様が作った甘い粉を使って作ったんだ。食べてみてくれ」
話の前に試食させられたが、カイドは喜んで味見に応じた。
「ああ、これは甘味が苦手な男性でもおいしく頂けるよ」
「あ、ロイダルも似たようなこと言ってたな。甘味が苦手な人ってそんなにいるものなのか?」
甘いものは至上の喜びと思っているボンディには理解出来ないが。
甘味自体が貴重品のため、贈り物などでもらうことがあるとよほどの甘いもの好きの男性でないかぎり、たいていは喜ぶ女性やこどもに食べさせる。
食べる機会が少なければ好きも嫌いもそうは感じないだろうが、頻繁に食べるとなったら別だ。最近新レシピの試食が増え、カイドやロイダルは甘味が重いと感じ始めていたから、サトーカブのさらっとした甘味にほっとしたのだ。
「サトーカブさえ育てられれば、いつでもこの甘さが手に入るそうだぞ。楽しみだなぁ」
「ところでな、ボンディに見てもらいたいものがあるんだ」
そう断り、ドレイファスから聞き取ったばかりのメモを見せる。
ウィーから粉を作り、その粉を焼いて食べるという。
「ウィー?ウィーってなんだ?ウィーの粉?」
「昨日畑で見たってドレイファス様がおっしゃっていたから見に行かないか?」
ボンディとカイドは並んで畑に向かう。
一気に人数が増えた庭師たちがあちらこちらで作業しているが、タンジェントが気づいて手を振ってくれた。
「タンジー、ちょっと来られるか?」
見慣れた麦わら帽子がこちらに近づいてくる、帽子を被っているのによく日焼けた顔に深い青い瞳が印象的だ。
「ボンディ、カイドと来るなんて珍しいね」
「聞きたいことがあるんだ。ウィーについて」
「あ、ちょっと待って」
振り返るとモリエールを呼ぶと、緑の茂みから手ぬぐいを顔に巻いた男が出てきた。
「え、なんだあの格好?」
「まあ、いろいろあるんだよ」
残念な手ぬぐい姿のことをうまく説明できずにいるうちにモリエールが来たので用件を引き継ぎ、タンジェントは緑の中に身を沈めるよう素早く姿を消す。
「ウィーについて訊きたい!?よく知ってるわけでもないが、なんだ?」
「粒があったら少し欲しいんだが」
「ああ、ある」
そう言って倉庫に入ったかと思うと籠を持ってきた。
「これでよければやるが」
「おお、ありがたい!」
カイドが手を伸ばすと、モリエールがサッと籠を自分に引き寄せる。腕が空振ったカイドが眉を寄せると
「なぜウィーをもらい受けるのか、理由を話せ」
至極まっとうな質問!
「あ、理由な。そうだよな」
カイドが今朝方のドレイファスの話を順を追って話すとようやく籠を本当に渡してくれた。
「ウィーが足りなくてすぐ欲しいなら、北部のレンドウの町あたりにけっこう露店が出ているようだ。モーダが驚いたほど安いぞ」
とてもありがたい情報と共に得たウィー。
今度はこれを皿にいれてゴリゴリするのだが、そのための道具も問題だ。ドレイファスが描いた絵に似た皿はあるが、ゴリゴリする棒がない。
ミルケラを呼び、絵を見せると木で似たように作ってくれたのだが、皿の中で粒が滑ってうまく潰れない。失敗したようだともう一度相談に行くと、ローザリオ・シズルスが畑に来ていた。
「おお、ボンディ!この前はサトーカブの粉のレシピをありがとう。とても美味かった」
甘味に目がないローザリオは、今サトーカブの粉を商品化するため、工程の見直しをしている。ただサトーカブの価値が世に知れたら、今のように採り放題にはならないどころか高騰することは間違いないので、畑で収穫して増やせるまでは自分たちの分だけ細々と作るだけ。
しかし商品化したとき、それを使った素晴らしいレシピが沢山あれば甘い粉を売るだけではなく、二次利益を生み出すのも有利になる。畑で安定して収穫できると見込みが立つには最低でも三年から五年・・・。
ラバンやミンツのように繁殖力旺盛なものなら早く目処が立つが、庭師たちが一日も早くその道筋を作ってくれるように心から祈っているこの頃だ。
「それはなんだ?」
ミルケラが作った木の器とゴロゴロする道具を指差す。
「はあ、ウィーの粒を潰すために作ってもらたものなんですが、うまくいかなくて」
ボンディが困ったように言うと
「何かの粒を潰す?」
器を覗いてローザリオがニッと笑った。
「中に刻みを作るか、石で作らねば。これでは中で滑って粒をうまく捉えられんだろう?」
ボンディはハッと顔を上げる。
「錬金術でも素材をすり潰して使うことがあるんだ。私たちが使うのは石で作られた薬研というすり鉢と薬研車だが、そんなもの錬金術師か薬師くらいしか使わんし、道具はほぼ自分で作るから売られてもいない。まあ普通は目にすることがないだろう」
「なるほど」
「それでその粒を潰してどうするのだ?」
「粉と殻を笊で分けたら、粉を牛乳で溶いて焼いてはちみつで食べるそうです」
今度はローザリオがハッとした。
「な、なに?もしかしてそれもドレイファス様のアレか?」
ボンディに食いつきそうに顔を寄せてくる。
「え、そうらし・・」
「よし、私が作ってくる!」
最後まで言い終える前に、ローザリオは走って帰って行った。
「用事は済んでいるのかな?」
ボンディとカイドは顔を見合わせて、力なく笑い、とりあえずミルケラに報告するのはローザリオを待つことにしてそのまま戻っていった。
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