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109 庭師のターン
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タンジェントを震え上がらせたモリエールの手腕により、オレルとカモフラワーと二種の植物を手に入れて畑に凱旋した。
「おお、おかえり」
ヨルトラがにこやかに迎えてくれたが
「タンジーどうした、顔色が悪いぞ?」
心配して覗きこんでくる。
(モリエールのせいだよ)
と喉まで出かかったが、ヨルトラには従順で真面目なモリエールだ。魔王のような黒さは知らないかもしれない。
魔王・・・本当にいたら意外とモリエールみたいな美しい男かもしれんな。
なんとなく黒マントを翻すモリエールが頭に浮かんで、笑いがこぼれた。
「おい、思い出し笑いなんていやらしいぞ」
モリエールがなにか勘づいたようで、肘でこついてくる。
(やっぱり魔王かも)
そう思ったら笑いが止まらなくなってしまった。
さて。
荷馬車からすべて下ろすと一つ一つ鑑定を始める。
オレルとカモフラワーはわかっているが。
露店の娘から買ったのはサトーカブという初めて聞く名のものだ。
タンジェントが鑑定したところ家畜飼料と甘味と出た。
飼料はわかるが、甘味とは?
いままでの例だと、ガーリーのようにこの実を地面に植えたら育つような気がするので、まずそれをやってみたい。暑いよりひんやりが好きらしいからスライム小屋を立ててやろうと、そこまでは考えた。
老婆からいただいた・・・ゼラニラと出た花も、初めて見たもの。
けっこうな量を回収してきたが切り花なので、とりあえずラバンのように水に挿しておくことにする。
公爵領ではオレルは干し果物か果実水として売られていることが多く、実そのものを見かけることがめったにないので、入手できたのはラッキーと言えた。
この実をそのまま植えてみればよいのか?
実をどう食べるものなのかなどは知らないのだ。
実を片手に持ったタンジェントが鑑定する。
【オレルの実】
[状態]完熟、食べると甘酸っぱい
タンジェントの知りたいことを教えてくれた。
「食べられるんだな。どうやって?どこを食べるんだ?」
一人でやる勇気はないのでみんなに相談することにする、というかそろそろ夕餉の時間だ。
ドレイファスは水やりに来ないようだから撒いてしまわなければと、オレルをログハウスに運んで畑に戻った。
「そうだ、三日後に三人とも来られるそうだ」
ログハウスの食堂でヨルトラが告げる。
「パトロたちが?」
新しく雇うヨルトラの弟子たちが、やっと公爵邸に来る日が決まったらしい。
「ちょうど新しい花も試したいところだから、ありがたいな。ところでな」
手にしたオレルを皆に見せ、これ食べられるらしいとタンジェントが切り出す。
「まあ果実水になるくらいだから毒ではないことは間違いない。どこをどう食べるんだと思う?」
五人がそれぞれオレルを持ち、握ったり振ったり潰したりし始めた。ミルケラが潰しかけたオレルの外皮が破け、中に薄皮に包まれた実が見える!
「これ剥けるみたいだ」
厚い割には柔らかい皮を剥き、中身をさらけ出すとオレルの強い香りが室内に漂って。
「果実水より鮮烈だ!」
モリエールが嬉しそうに吸い込んで、はあーっと息を吐く。
むきだしになったオレルの実は小さな房がいくつもくっついたもので、薄皮ごと食べるのかそれを剥くのかでも意見が割れた。
「タンジー、薄皮食べられるか鑑定しろよ」
面倒くさそうにアイルムが言うので視てみると食べられるとわかり、みんな薄皮ごと口に放り込んだ。
「あっ甘いけど酸味もあって果実水よりうまい!」
モリエールが全部言った。
ガリっ!
「あ、固い粒が入ってる!」
ミルケラがぺっと吹き出すと、レッドメルの黒い粒を彷彿させる白い粒が手のひらに転がり落ちる。
「これ!植えたら育つのかな?」
みんな考えることは同じ。
一斉に皮を剥いて食べ始め、粒を見つけるとザルに集めて。翌朝、洗った粒を乾かして鑑定し、土作りに挑戦し始めた。
今日も学院が休みのためか、朝食後にドレイファスがロイダルとふたりでやって来る。
「花が増えてる?」
「昨日市場で探してきたんだ」
タンジェントが答え、他にもあるとサトーカブを見せた。
「これなに?」
そう言いながら、じーと見つめるドレイファス。
これどこかで見た気がする。
なんだろう?どこで?
しばらく考えたが、どうも思い出せずに諦めた。
「ニ、三日中に若い庭師が三人来ますよ、全員私の弟子で性格もいい者ばかりです。楽しみにしていてくださいね」
ヨルトラが主の目線に合わせて腰を屈める。
「あれ、いつ植えるの?」
指差す先には、しゃくしゃくと呼ばれるようになってしまった美しい花。
「今は土を作り変えるほどの手が足りません。彼らが来てから植えるようにしようと思っているので、準備ができたら教えますね」
コクンと頷くとドレイファスは水やり樽を抱え、水滴をこぼしながら自分のペリル小屋へ走って行った。
翌日、こどもたちは学院へ。
寝坊でもしたのか朝の水やりに姿を見せなかった。代わりに姿を現したのはローザリオ・シズルスである。
「やあ、おはよう!久しぶりだな。元気だったかい?」
たった四日ぶりだが。
「カモフラワー、ありがとうございます。あのあと市場で買い足して、今は水に挿して根が出るか様子を見ています」
ローザリオを先制するタンジェントはすっかり彼の扱いに慣れ、次に言いそうなこともわかる。
「さすが、やることが早いな。それでいつ頃なら煮ることが出来るほど増えてるだろうな?」
今日明日で増えることはないとわかっていて、あえて聞くこの面倒くささ。性格だからしかたないと諦めるか、いちいちイラつくか。
タンジェントは前者、モリエールは後者なのでローザリオの相手は自然とタンジェントが務めることになっていた。
「増えてきたら知らせる。それで今日は?」
「ラバン水が少なくなってきたので、少し煮たいのだが刈り取ってもいいか?」
タンジェントはナイフを手に畑へ、ローザリオの希望に応じ刈ったラバンを錬金鍋に放り込んでいく。
煮えるまで時間があるのでどうするのかと思ったらログハウスのテラスに置かれたベンチに座り、
「あー、レッドメルが食べたいな。冷えてなくてもきっとうまいだろうなあ」
独り言には聞こえないわざとらしい独り言で、おねだりする天才錬金術師である。
「うるさいから残してあるレッドメルでも出してやれよ」
氷点下の視線でモリエールに言われ、抵抗する気力もないタンジェントが小屋から食べ残しとバレないよう小さくカットしたレッドメルを持って来た。
「おおっ、なんと!いただいていいのか!」
誰の答えも待たずに摘んで口に放り込むローザリオを見て、俯いて肩を揺らすモリエールが見える。
タンジェントは「マオウ」と声にならない言葉を吐き出していた。
「そういえば、ローザリオ様はこれ知ってるかな?」
ヨルトラがサトーカブを見せに来るが、
「なんだそれは、カブか?」と興味のないことにはそっけない。
「カブは錬金術では使わんからな、料理人にでも聞きたまえ」
モリエールはイラっとしたが、ヨルトラはそれもそうだ!と素直に腹に落ちたらしい。カブを持って厨房へと向かって行った。
コンコン
「ボンディ、今いいか?」
まだ新しい薄い鉄鍋を持ったまま、料理長ボンディが振り返る。玉子焼を焼いていたようだ。
ドレイファスが夢で見た薄い鉄鍋をグゥザヴィ商会が鍛冶工房と神殿契約して作らせた。これがあればいちいち石窯を使わずに済み、しかも焼き加減がわかりやすい!と売れまくっている。
ボンディが鉄鍋を振ると、玉子焼が浮き上がってくるりと回転する。それを皿に下ろすと漸く鍋を置いてヨルトラの元にやってきた。
「うまいものだな」
「鍋が小さくて振りやすいからできることだよ、すごく使いやすいんだ、あれ」
鉄鍋を指さし、ニカっと笑う。
ボンディが鍛冶職人にいろいろ指示を出して出来たものなので、鍛冶工房と監修ボンディ・ロマの銘が打たれているのだ。
「そうだ、これ見たことあるかな?」
サトーカブを出して見せたが、ボンディは首を傾げた。
「これはカブか?変わった形だな。それにデカい」
知らないようだ。
ヨルトラは他の料理人や下働きの者にも聞いたが反応は同じ。
「総料理長に聞いてみたらどうだ?」
ボンディに勧められるまま、地下通路を通って以前は新館と呼ばれていた本館に向かう。
まだどこもかしこも新築の名残がある屋敷の、広々した厨房では総料理長と複数の料理人、下働きがテキバキと動き回っている。
「総料理長!」
ヨルトラが呼ぶと手を止めて開いた戸口まで来てくれた。
「おお、ヨルトラではないか!どうした?」
総料理長は屋敷内でヨルトラと唯一同年代の、最年長組だ。それがわかってから親しくなった。
「人前だから総料理長と呼んでやったのに」
ヨルトラがちょっと不満げに言うと
「俺とお前の仲なんだからベレルで構わんと言ってるだろう」と笑う。
「まあいい、ベレルこれ知ってるか?」
「家畜のエサだろう?」
「え?見たことあるか?」
「あるぞ。確か北部の、んーどこでできるんだったかな?美味くないんだよ。いくら煮ても焼いてもガジガジしてる上にやたら甘くてな。それでエサにしか使い道がないと聞いた気がするな」
「サトーカブ?」
ベレルは眉間を寄せ、考えたが思い出せないようだ?
「いや、いい。それだけわかっただけでもかなりありがたいよ。助かった!またそのうち飲もう」
そう約束を取付けてヨルトラは離れに戻っていった。
夕方、ドレイファスと久しぶりにルジーが畑にやって来た。
家畜のエサ以上の何もわからないサトーカブがログハウスの前に転がされているのを見て、ルジーは何か思い出しかけている。ドレイファスが袖を引っ張るのだが、あと少しだ、なにか引っかかって。
「ルジーってば!」
「ちょっと待て!今思い出せそうなんだから」
しゃがんで、転がるカブをじっと見つめている。待ちくたびれたドレイファスの口が、くちばしになりそうなくらい尖った頃。
「ああっそうだっ!」
ルジーの叫び声に、まずヨルトラが、そしてタンジェントが反応して戻ってくる。
「ルジー、大きな声で何だ?」
サトーカブを見つめていたときに叫んだのだから、それだよな?という期待の目。
「けっこう前だ!三角のカブの夢の話をしてなかったか?」
ドレイファスにどんな夢だったか覚えていないか訊ねてみるが、きょとんとした顔に諦めの空気が漂った。
「おお、おかえり」
ヨルトラがにこやかに迎えてくれたが
「タンジーどうした、顔色が悪いぞ?」
心配して覗きこんでくる。
(モリエールのせいだよ)
と喉まで出かかったが、ヨルトラには従順で真面目なモリエールだ。魔王のような黒さは知らないかもしれない。
魔王・・・本当にいたら意外とモリエールみたいな美しい男かもしれんな。
なんとなく黒マントを翻すモリエールが頭に浮かんで、笑いがこぼれた。
「おい、思い出し笑いなんていやらしいぞ」
モリエールがなにか勘づいたようで、肘でこついてくる。
(やっぱり魔王かも)
そう思ったら笑いが止まらなくなってしまった。
さて。
荷馬車からすべて下ろすと一つ一つ鑑定を始める。
オレルとカモフラワーはわかっているが。
露店の娘から買ったのはサトーカブという初めて聞く名のものだ。
タンジェントが鑑定したところ家畜飼料と甘味と出た。
飼料はわかるが、甘味とは?
いままでの例だと、ガーリーのようにこの実を地面に植えたら育つような気がするので、まずそれをやってみたい。暑いよりひんやりが好きらしいからスライム小屋を立ててやろうと、そこまでは考えた。
老婆からいただいた・・・ゼラニラと出た花も、初めて見たもの。
けっこうな量を回収してきたが切り花なので、とりあえずラバンのように水に挿しておくことにする。
公爵領ではオレルは干し果物か果実水として売られていることが多く、実そのものを見かけることがめったにないので、入手できたのはラッキーと言えた。
この実をそのまま植えてみればよいのか?
実をどう食べるものなのかなどは知らないのだ。
実を片手に持ったタンジェントが鑑定する。
【オレルの実】
[状態]完熟、食べると甘酸っぱい
タンジェントの知りたいことを教えてくれた。
「食べられるんだな。どうやって?どこを食べるんだ?」
一人でやる勇気はないのでみんなに相談することにする、というかそろそろ夕餉の時間だ。
ドレイファスは水やりに来ないようだから撒いてしまわなければと、オレルをログハウスに運んで畑に戻った。
「そうだ、三日後に三人とも来られるそうだ」
ログハウスの食堂でヨルトラが告げる。
「パトロたちが?」
新しく雇うヨルトラの弟子たちが、やっと公爵邸に来る日が決まったらしい。
「ちょうど新しい花も試したいところだから、ありがたいな。ところでな」
手にしたオレルを皆に見せ、これ食べられるらしいとタンジェントが切り出す。
「まあ果実水になるくらいだから毒ではないことは間違いない。どこをどう食べるんだと思う?」
五人がそれぞれオレルを持ち、握ったり振ったり潰したりし始めた。ミルケラが潰しかけたオレルの外皮が破け、中に薄皮に包まれた実が見える!
「これ剥けるみたいだ」
厚い割には柔らかい皮を剥き、中身をさらけ出すとオレルの強い香りが室内に漂って。
「果実水より鮮烈だ!」
モリエールが嬉しそうに吸い込んで、はあーっと息を吐く。
むきだしになったオレルの実は小さな房がいくつもくっついたもので、薄皮ごと食べるのかそれを剥くのかでも意見が割れた。
「タンジー、薄皮食べられるか鑑定しろよ」
面倒くさそうにアイルムが言うので視てみると食べられるとわかり、みんな薄皮ごと口に放り込んだ。
「あっ甘いけど酸味もあって果実水よりうまい!」
モリエールが全部言った。
ガリっ!
「あ、固い粒が入ってる!」
ミルケラがぺっと吹き出すと、レッドメルの黒い粒を彷彿させる白い粒が手のひらに転がり落ちる。
「これ!植えたら育つのかな?」
みんな考えることは同じ。
一斉に皮を剥いて食べ始め、粒を見つけるとザルに集めて。翌朝、洗った粒を乾かして鑑定し、土作りに挑戦し始めた。
今日も学院が休みのためか、朝食後にドレイファスがロイダルとふたりでやって来る。
「花が増えてる?」
「昨日市場で探してきたんだ」
タンジェントが答え、他にもあるとサトーカブを見せた。
「これなに?」
そう言いながら、じーと見つめるドレイファス。
これどこかで見た気がする。
なんだろう?どこで?
しばらく考えたが、どうも思い出せずに諦めた。
「ニ、三日中に若い庭師が三人来ますよ、全員私の弟子で性格もいい者ばかりです。楽しみにしていてくださいね」
ヨルトラが主の目線に合わせて腰を屈める。
「あれ、いつ植えるの?」
指差す先には、しゃくしゃくと呼ばれるようになってしまった美しい花。
「今は土を作り変えるほどの手が足りません。彼らが来てから植えるようにしようと思っているので、準備ができたら教えますね」
コクンと頷くとドレイファスは水やり樽を抱え、水滴をこぼしながら自分のペリル小屋へ走って行った。
翌日、こどもたちは学院へ。
寝坊でもしたのか朝の水やりに姿を見せなかった。代わりに姿を現したのはローザリオ・シズルスである。
「やあ、おはよう!久しぶりだな。元気だったかい?」
たった四日ぶりだが。
「カモフラワー、ありがとうございます。あのあと市場で買い足して、今は水に挿して根が出るか様子を見ています」
ローザリオを先制するタンジェントはすっかり彼の扱いに慣れ、次に言いそうなこともわかる。
「さすが、やることが早いな。それでいつ頃なら煮ることが出来るほど増えてるだろうな?」
今日明日で増えることはないとわかっていて、あえて聞くこの面倒くささ。性格だからしかたないと諦めるか、いちいちイラつくか。
タンジェントは前者、モリエールは後者なのでローザリオの相手は自然とタンジェントが務めることになっていた。
「増えてきたら知らせる。それで今日は?」
「ラバン水が少なくなってきたので、少し煮たいのだが刈り取ってもいいか?」
タンジェントはナイフを手に畑へ、ローザリオの希望に応じ刈ったラバンを錬金鍋に放り込んでいく。
煮えるまで時間があるのでどうするのかと思ったらログハウスのテラスに置かれたベンチに座り、
「あー、レッドメルが食べたいな。冷えてなくてもきっとうまいだろうなあ」
独り言には聞こえないわざとらしい独り言で、おねだりする天才錬金術師である。
「うるさいから残してあるレッドメルでも出してやれよ」
氷点下の視線でモリエールに言われ、抵抗する気力もないタンジェントが小屋から食べ残しとバレないよう小さくカットしたレッドメルを持って来た。
「おおっ、なんと!いただいていいのか!」
誰の答えも待たずに摘んで口に放り込むローザリオを見て、俯いて肩を揺らすモリエールが見える。
タンジェントは「マオウ」と声にならない言葉を吐き出していた。
「そういえば、ローザリオ様はこれ知ってるかな?」
ヨルトラがサトーカブを見せに来るが、
「なんだそれは、カブか?」と興味のないことにはそっけない。
「カブは錬金術では使わんからな、料理人にでも聞きたまえ」
モリエールはイラっとしたが、ヨルトラはそれもそうだ!と素直に腹に落ちたらしい。カブを持って厨房へと向かって行った。
コンコン
「ボンディ、今いいか?」
まだ新しい薄い鉄鍋を持ったまま、料理長ボンディが振り返る。玉子焼を焼いていたようだ。
ドレイファスが夢で見た薄い鉄鍋をグゥザヴィ商会が鍛冶工房と神殿契約して作らせた。これがあればいちいち石窯を使わずに済み、しかも焼き加減がわかりやすい!と売れまくっている。
ボンディが鉄鍋を振ると、玉子焼が浮き上がってくるりと回転する。それを皿に下ろすと漸く鍋を置いてヨルトラの元にやってきた。
「うまいものだな」
「鍋が小さくて振りやすいからできることだよ、すごく使いやすいんだ、あれ」
鉄鍋を指さし、ニカっと笑う。
ボンディが鍛冶職人にいろいろ指示を出して出来たものなので、鍛冶工房と監修ボンディ・ロマの銘が打たれているのだ。
「そうだ、これ見たことあるかな?」
サトーカブを出して見せたが、ボンディは首を傾げた。
「これはカブか?変わった形だな。それにデカい」
知らないようだ。
ヨルトラは他の料理人や下働きの者にも聞いたが反応は同じ。
「総料理長に聞いてみたらどうだ?」
ボンディに勧められるまま、地下通路を通って以前は新館と呼ばれていた本館に向かう。
まだどこもかしこも新築の名残がある屋敷の、広々した厨房では総料理長と複数の料理人、下働きがテキバキと動き回っている。
「総料理長!」
ヨルトラが呼ぶと手を止めて開いた戸口まで来てくれた。
「おお、ヨルトラではないか!どうした?」
総料理長は屋敷内でヨルトラと唯一同年代の、最年長組だ。それがわかってから親しくなった。
「人前だから総料理長と呼んでやったのに」
ヨルトラがちょっと不満げに言うと
「俺とお前の仲なんだからベレルで構わんと言ってるだろう」と笑う。
「まあいい、ベレルこれ知ってるか?」
「家畜のエサだろう?」
「え?見たことあるか?」
「あるぞ。確か北部の、んーどこでできるんだったかな?美味くないんだよ。いくら煮ても焼いてもガジガジしてる上にやたら甘くてな。それでエサにしか使い道がないと聞いた気がするな」
「サトーカブ?」
ベレルは眉間を寄せ、考えたが思い出せないようだ?
「いや、いい。それだけわかっただけでもかなりありがたいよ。助かった!またそのうち飲もう」
そう約束を取付けてヨルトラは離れに戻っていった。
夕方、ドレイファスと久しぶりにルジーが畑にやって来た。
家畜のエサ以上の何もわからないサトーカブがログハウスの前に転がされているのを見て、ルジーは何か思い出しかけている。ドレイファスが袖を引っ張るのだが、あと少しだ、なにか引っかかって。
「ルジーってば!」
「ちょっと待て!今思い出せそうなんだから」
しゃがんで、転がるカブをじっと見つめている。待ちくたびれたドレイファスの口が、くちばしになりそうなくらい尖った頃。
「ああっそうだっ!」
ルジーの叫び声に、まずヨルトラが、そしてタンジェントが反応して戻ってくる。
「ルジー、大きな声で何だ?」
サトーカブを見つめていたときに叫んだのだから、それだよな?という期待の目。
「けっこう前だ!三角のカブの夢の話をしてなかったか?」
ドレイファスにどんな夢だったか覚えていないか訊ねてみるが、きょとんとした顔に諦めの空気が漂った。
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