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98 新たなスイーツの誕生
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ドレイファスと離れの料理人たちで作り上げた、なんちゃって異世界フード。
料理人とドレイファス、ルジー、メイベルとトレモルで試食会のテーブルを囲む。
ボンディがまず、卵焼きを一口より少し大きくカットして給仕した。
最初に作った卵焼きはあっという間に食べてしまったので、ドレイファスたちが食堂に向かったあと料理人たちが作り直したものだ。
「さあどうぞ」
ボンディの言葉が待ちきれず、さっと匙を出したのはドレイファス。
「んっふー!おいしいっ」
今度はゆっくり味わっている。それを皮切りにみんな手を伸ばすと
「はっ!ふわふわ!何これ?」
メイベルが目を細めて口をすぼめた。
「うまい?」
ルジーと視線を交わしたメイベルは
「すっごく美味しい」
答えてにっこりと、いやニカーッと笑った。
トレモルは何も言わずにひたすら美味しさを堪能している。ひと噛みごとにほんのり広がる甘さ、飲み込んだら消えてしまうことが悲しいほど。
「まだ次があるぞ」
カップごと火を通した牛乳と玉子を、ドレイファスに習ったやり方で皿に出してみんなに出した。続きがあると知らなかったトレモルはちいさな悲しみを吹き飛ばし、頬を紅潮させる。
それは皿の動きに合わせてぷるんぷるんして、見ただけで食べる前からわくわくした。
本来の世界ではこんなに『す』が入ってるプリンなんてありえない。ポコポコと穴があって舌触りも滑らかとは言えないが、そんなことはドレイファスたちにはわからない。
彼らはただ、今までにないやわらかい食感の料理が作れた!ということで満たされていた。
「では、二つ目の料理。ドレイファス様がぷるんと名付けました。みなさんどうぞ!」
ぷ・・・るん?
そのネーミングにみんなはぬるい汗が流れたが、まずはひと掬いして口に運んだ。
「ほっ!ぷるっほわっ」
誰の声かわからないが、その気持ちはみんなに伝わった。ぷるほわで牛乳なのか卵なのか、ほんのり甘ーいのだ。
スッとボンディが立ち上がり厨房に消えたと思ったら、はちみつを手に戻ってきた。
「かけたい人は?」
みんなサッと手を上げ、ボンディがひと匙づつ垂らして回ったおかげで、残りのぷるんは甘味たっぷりさらに美味しく楽しむことができた。
「すごい・・・・・素晴らしい」
料理人のロイはボンディのひと垂らしにも感嘆の声を上げる、ほんの少しのアレンジでこんなに劇的に変わるなんて。
「はああ」
誰かの漏らした幸せなため息にほっこりする。
「では最後の料理を持ってこよう」
白身を泡立てて一匙分をくるりと落とし、堅焼きしたものを小皿に入れてくれた。
一つ掴んで口に放り込むと、甘味はほとんどないが、このとろけて消える感じは経験がないものだ。
「焼く前にはちみつを入れたら、甘い菓子になりそうだな」
ボンディの思いつきに、想像した甘みでとろけた顔をした者もいる。
「今だってこんなに美味しいのに。もっと美味しくなっちゃうの?」
貝のように黙っていたトレモルが、ようやく口を開いた。
「そうだよ、もっと美味しくなっちゃうんだ」
こどもたちは、それとわかるほどパァっとうれしそうな顔をしたが、もう一人、メイベルも感情を抑えるということは完全に忘れたような期待に満ち満ちた顔をしている。
「よし、明日もやろう!三つ全部は時間が大変だから卵焼きと白身焼き、ぷるんを交互に試してもっとうまく作れるようにしよう」
ドレイファスは、やった!と。
ルジーは、マジか?と。
トレモルはただにこにこと。
メイベルはひとりだけ、私も食べられる?と自分の心配をしているのだった。
翌日からボンディは宣言通りに空き時間を利用して試作をくり返したが、ドレイファスもトレモルも勉強や剣術、魔法の稽古などがあり、そうそうは来られない。
きっと離れで作っていると思うと勉強などに勤しむのは非情なことで、集中力も失われてしまう。家庭教師に叱られながら、離れに行く時間を心待ちに過ごしていた。
厨房では。
まず卵焼きに使う黄身を丁寧に混ぜることから作業を見直してみた。もっとよく混ぜたら?と混ぜる時間も見直し、焼いてみるをくり返した。やはりこのほうがふっくらとする。料理人たちは一歩前に進んだ。
ドレイファスたちが来ると、前の日より明らかにふんわり感が上がった玉子焼が待ち受けていて、誰しもが笑顔になる。
「ふわっふわぁ~!」
賛辞の声が一斉に上がった。
もう一つボンディが思いついた白身の泡立て焼きの改良。所謂メレンゲだが、はちみつを混ぜて焼いてみたのだ。昨日より甘くなったそれは、焼き上がりにツヤが生まれ、口に含むと甘さを広げながら溶けていく。
「おっ、おいしいっ!昨日よりすっごく!ねっ」
こどもたちが顔を見合わせてコクコクと頷き、お互いの口に一個づつ放り込んでは笑っている。
ボンディと料理人たちはこれで完成とはまだ思っていないが、今日試したことについては満足していた。
明日はぷるんを作ると約束し、解散する頃にはみんな興奮して頬を染め、特にドレイファスは毎日食べたいとボンディにぶら下がって強請るほどだ。
ふと、そのドレイファスがあえて残した白身の泡立て焼きをハンカチで包んでいるのを見かけた。視線に気づくと
「おかあさまにあげたいの」と。
あれほどもっと食べたいと強請りながらも、自分の分を母や兄弟、友に分けることを厭わない。
「奥方様のは籠に用意してメイベルに持たせるので、それは全部ドレイファス様がお上がりください」
そう言うと、とんでもなくうれしいことが起きた!という風に飛び上がって喜んだ。
籠を持ったメイベルとルジーが並び、トレモルと手を繋いだドレイファスの四人で地下通路を歩き屋敷へ戻ると、トレモルはこのまま鍛練場へ行くというので三人でマーリアルの部屋へ向かうことにする。
「おかあさま?」
ひょこっと顔を出したドレイファスに、イグレイドを抱いた母は手招きで答えた。
「寝てるの?」
「起きてるわ、ぼんやりしているだけ」
そう言って赤ん坊の頬をぷにぷにと押してみるが、起きる気配はない。
「あら、寝てるのかしら?」
気づいていなかった自分がおかしいらしく、うふふと笑う。
「おかあさまにこれあげます」
ドレイファスが視線をやるとメイベルが籠を差し出した。
「なあに?」
「新しいお菓子です、離れの料理長が作りましたの。どうぞお召し上がりくださいませ」
籠から白いコロリとしたものをひとつ、つまみ上げて眺める。ほんのり甘い香りがしたので、迷うことなく口に入れた。
歯ごたえはない、それどころか口の中で消えて無くなりそうな儚い甘さ!
「これボンディが?本当に?」
「ドレイファス様の・・・アレでお作りしたのです。」
「そうだったのね!」
マーリアルはにっこりしながら長男の頭を撫でたあと、もう一つ摘んで・・・いや、もう三つ摘んで口に放り込んだ。
「なんて!なぁんてまあおいしいのかしら」
手が止まらない。一度に三つ指の中に隠して口の中に連投していくため、あっという間になくなってしまった。籠の中で指が二度空振って、すべて食べてしまったことに気づく。
「もう無くなってしまったわ」
未練を浮かべた瞳でメイベルを見上げたが、どうしようもない。
「また作られると思いますので、奥方様の分を多めにとお願いしておきましょうか?」
ええ!と言いかけたが、自分の分だけ多めなんて恥ずかしいか?とぎりぎりのところで思いとどまる。
公爵夫人の迷いが顔に現れていたので、
「奥方様のとは言わず、新館に多めにほしいと伝えますので」
とメイベルが気を利かせると、今度こそ公爵夫人らしい嫣然とした笑みを浮かべて
「ではそのように」と言った。
その夜の公爵一家の夕餉には、黄色いふんわりした玉子焼がデザートとして出された。
こどもたちはてっきり離れで食べたものだと口に入れたが
「あまい!」
ボンディはこの玉子焼にもはちみつを入れて焼いていた。こんなにもふんわりとやわらかく甘いものを初めて食べた公爵と夫人は、何も言葉を発せずにひたすらもぐもぐと口を動かしている。味わい尽くし飲み込むまで一言だって口にすまいとでもいうように、じっくり堪能して。
「今日の料理は素晴らしかった」
漸く公爵が料理の感想を述べると、総料理長が恭しく
「本日はボンディのレシピでご用意致しました」
とわざわざ告げたので、公爵はそれが何由来で作られたものか理解することができた。
「そうか。苦労をかけたことと思うが報われたな。また励んでくれと伝えてくれ」
ボンディを労ってから、カトラリーを置く。
「またこれを食べられるのを楽しみにしている」
そう言い残し、席を立った。
料理人とドレイファス、ルジー、メイベルとトレモルで試食会のテーブルを囲む。
ボンディがまず、卵焼きを一口より少し大きくカットして給仕した。
最初に作った卵焼きはあっという間に食べてしまったので、ドレイファスたちが食堂に向かったあと料理人たちが作り直したものだ。
「さあどうぞ」
ボンディの言葉が待ちきれず、さっと匙を出したのはドレイファス。
「んっふー!おいしいっ」
今度はゆっくり味わっている。それを皮切りにみんな手を伸ばすと
「はっ!ふわふわ!何これ?」
メイベルが目を細めて口をすぼめた。
「うまい?」
ルジーと視線を交わしたメイベルは
「すっごく美味しい」
答えてにっこりと、いやニカーッと笑った。
トレモルは何も言わずにひたすら美味しさを堪能している。ひと噛みごとにほんのり広がる甘さ、飲み込んだら消えてしまうことが悲しいほど。
「まだ次があるぞ」
カップごと火を通した牛乳と玉子を、ドレイファスに習ったやり方で皿に出してみんなに出した。続きがあると知らなかったトレモルはちいさな悲しみを吹き飛ばし、頬を紅潮させる。
それは皿の動きに合わせてぷるんぷるんして、見ただけで食べる前からわくわくした。
本来の世界ではこんなに『す』が入ってるプリンなんてありえない。ポコポコと穴があって舌触りも滑らかとは言えないが、そんなことはドレイファスたちにはわからない。
彼らはただ、今までにないやわらかい食感の料理が作れた!ということで満たされていた。
「では、二つ目の料理。ドレイファス様がぷるんと名付けました。みなさんどうぞ!」
ぷ・・・るん?
そのネーミングにみんなはぬるい汗が流れたが、まずはひと掬いして口に運んだ。
「ほっ!ぷるっほわっ」
誰の声かわからないが、その気持ちはみんなに伝わった。ぷるほわで牛乳なのか卵なのか、ほんのり甘ーいのだ。
スッとボンディが立ち上がり厨房に消えたと思ったら、はちみつを手に戻ってきた。
「かけたい人は?」
みんなサッと手を上げ、ボンディがひと匙づつ垂らして回ったおかげで、残りのぷるんは甘味たっぷりさらに美味しく楽しむことができた。
「すごい・・・・・素晴らしい」
料理人のロイはボンディのひと垂らしにも感嘆の声を上げる、ほんの少しのアレンジでこんなに劇的に変わるなんて。
「はああ」
誰かの漏らした幸せなため息にほっこりする。
「では最後の料理を持ってこよう」
白身を泡立てて一匙分をくるりと落とし、堅焼きしたものを小皿に入れてくれた。
一つ掴んで口に放り込むと、甘味はほとんどないが、このとろけて消える感じは経験がないものだ。
「焼く前にはちみつを入れたら、甘い菓子になりそうだな」
ボンディの思いつきに、想像した甘みでとろけた顔をした者もいる。
「今だってこんなに美味しいのに。もっと美味しくなっちゃうの?」
貝のように黙っていたトレモルが、ようやく口を開いた。
「そうだよ、もっと美味しくなっちゃうんだ」
こどもたちは、それとわかるほどパァっとうれしそうな顔をしたが、もう一人、メイベルも感情を抑えるということは完全に忘れたような期待に満ち満ちた顔をしている。
「よし、明日もやろう!三つ全部は時間が大変だから卵焼きと白身焼き、ぷるんを交互に試してもっとうまく作れるようにしよう」
ドレイファスは、やった!と。
ルジーは、マジか?と。
トレモルはただにこにこと。
メイベルはひとりだけ、私も食べられる?と自分の心配をしているのだった。
翌日からボンディは宣言通りに空き時間を利用して試作をくり返したが、ドレイファスもトレモルも勉強や剣術、魔法の稽古などがあり、そうそうは来られない。
きっと離れで作っていると思うと勉強などに勤しむのは非情なことで、集中力も失われてしまう。家庭教師に叱られながら、離れに行く時間を心待ちに過ごしていた。
厨房では。
まず卵焼きに使う黄身を丁寧に混ぜることから作業を見直してみた。もっとよく混ぜたら?と混ぜる時間も見直し、焼いてみるをくり返した。やはりこのほうがふっくらとする。料理人たちは一歩前に進んだ。
ドレイファスたちが来ると、前の日より明らかにふんわり感が上がった玉子焼が待ち受けていて、誰しもが笑顔になる。
「ふわっふわぁ~!」
賛辞の声が一斉に上がった。
もう一つボンディが思いついた白身の泡立て焼きの改良。所謂メレンゲだが、はちみつを混ぜて焼いてみたのだ。昨日より甘くなったそれは、焼き上がりにツヤが生まれ、口に含むと甘さを広げながら溶けていく。
「おっ、おいしいっ!昨日よりすっごく!ねっ」
こどもたちが顔を見合わせてコクコクと頷き、お互いの口に一個づつ放り込んでは笑っている。
ボンディと料理人たちはこれで完成とはまだ思っていないが、今日試したことについては満足していた。
明日はぷるんを作ると約束し、解散する頃にはみんな興奮して頬を染め、特にドレイファスは毎日食べたいとボンディにぶら下がって強請るほどだ。
ふと、そのドレイファスがあえて残した白身の泡立て焼きをハンカチで包んでいるのを見かけた。視線に気づくと
「おかあさまにあげたいの」と。
あれほどもっと食べたいと強請りながらも、自分の分を母や兄弟、友に分けることを厭わない。
「奥方様のは籠に用意してメイベルに持たせるので、それは全部ドレイファス様がお上がりください」
そう言うと、とんでもなくうれしいことが起きた!という風に飛び上がって喜んだ。
籠を持ったメイベルとルジーが並び、トレモルと手を繋いだドレイファスの四人で地下通路を歩き屋敷へ戻ると、トレモルはこのまま鍛練場へ行くというので三人でマーリアルの部屋へ向かうことにする。
「おかあさま?」
ひょこっと顔を出したドレイファスに、イグレイドを抱いた母は手招きで答えた。
「寝てるの?」
「起きてるわ、ぼんやりしているだけ」
そう言って赤ん坊の頬をぷにぷにと押してみるが、起きる気配はない。
「あら、寝てるのかしら?」
気づいていなかった自分がおかしいらしく、うふふと笑う。
「おかあさまにこれあげます」
ドレイファスが視線をやるとメイベルが籠を差し出した。
「なあに?」
「新しいお菓子です、離れの料理長が作りましたの。どうぞお召し上がりくださいませ」
籠から白いコロリとしたものをひとつ、つまみ上げて眺める。ほんのり甘い香りがしたので、迷うことなく口に入れた。
歯ごたえはない、それどころか口の中で消えて無くなりそうな儚い甘さ!
「これボンディが?本当に?」
「ドレイファス様の・・・アレでお作りしたのです。」
「そうだったのね!」
マーリアルはにっこりしながら長男の頭を撫でたあと、もう一つ摘んで・・・いや、もう三つ摘んで口に放り込んだ。
「なんて!なぁんてまあおいしいのかしら」
手が止まらない。一度に三つ指の中に隠して口の中に連投していくため、あっという間になくなってしまった。籠の中で指が二度空振って、すべて食べてしまったことに気づく。
「もう無くなってしまったわ」
未練を浮かべた瞳でメイベルを見上げたが、どうしようもない。
「また作られると思いますので、奥方様の分を多めにとお願いしておきましょうか?」
ええ!と言いかけたが、自分の分だけ多めなんて恥ずかしいか?とぎりぎりのところで思いとどまる。
公爵夫人の迷いが顔に現れていたので、
「奥方様のとは言わず、新館に多めにほしいと伝えますので」
とメイベルが気を利かせると、今度こそ公爵夫人らしい嫣然とした笑みを浮かべて
「ではそのように」と言った。
その夜の公爵一家の夕餉には、黄色いふんわりした玉子焼がデザートとして出された。
こどもたちはてっきり離れで食べたものだと口に入れたが
「あまい!」
ボンディはこの玉子焼にもはちみつを入れて焼いていた。こんなにもふんわりとやわらかく甘いものを初めて食べた公爵と夫人は、何も言葉を発せずにひたすらもぐもぐと口を動かしている。味わい尽くし飲み込むまで一言だって口にすまいとでもいうように、じっくり堪能して。
「今日の料理は素晴らしかった」
漸く公爵が料理の感想を述べると、総料理長が恭しく
「本日はボンディのレシピでご用意致しました」
とわざわざ告げたので、公爵はそれが何由来で作られたものか理解することができた。
「そうか。苦労をかけたことと思うが報われたな。また励んでくれと伝えてくれ」
ボンディを労ってから、カトラリーを置く。
「またこれを食べられるのを楽しみにしている」
そう言い残し、席を立った。
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