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75 グゥザヴィ商会
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グゥザヴィ兄弟、メルクルとミルケラは、兄のひとりモーダ・ユルグの返事を携え、公爵家へ戻ってきた。
家に残ることができなかった六人の男子のうち三人が、公爵家の仕事に携わることになった。しかもミルケラたちが作ったものを兄の商会を通して販売する。兄弟にとってはうれしいことばかりだ。
さて。
婿に行ってモーダ・ユルグとなったが、サリラは実家と縁を切るのだから、どうせならこの機会にグゥザヴィに変わりたいと言う。
モーダに異論はない。ふたりの商会もこれを機会にグゥザヴィ商会に変えた。
公爵家が商会との神殿契約書の準備が整ったとモーダに連絡したのは、兄弟の会談の三日後。
すぐユルグ夫妻、いやグゥザヴィ夫妻は公爵家を訪ねた。
乗合馬車を公爵邸の近くで降りると、想像を超える大邸宅が聳え立つ。
「さすが公爵家のお屋敷だわ・・・。こんな大貴族と仕事ができるなんて思わなかった。緊張してきた!」
サリラが小さく震えている。
ふたりは手を繋ぎ、門扉の呼び鈴を鳴らした。
「いらっしゃいませ、ユルグ様」
執事マドゥーンが出迎える。
中へ案内されるが、廊下に敷かれた絨毯がふかふか過ぎて足元がおぼつかない。手を繋いでいてよかったと、夫婦は思っていた。
「こちらへどうぞ」
末端貴族の子弟であったモーダも見たことがないほど、立派な椅子が置かれた応接に通され、畏れ多くて座ることができない。
いつまでも立ち尽くしている二人を見て、漸くふたりの様子に気がついたマドゥーンは客人に配慮が足りなかったと思い至った。
「どうぞ、お座りになってお待ちください」
少しでも座りやすいようにと、手のひらを上に、指先で椅子を示して丁寧に勧めた。
ふたりを待たせることなく、公爵家の法務部に仕えるウィーザ・カートルードを伴って現れたフォンブランデイル公爵は、モーダはもちろんだが平民のサリラにはとんでもない雲の上の存在で、いくら商会で貴族と繋がりを持とうとしていたと言っても、本来なら自分が会うとか口をきくなどありえない高位貴族だ。
緊張してガチガチで歯が噛み合わないほどだが、モーダはそれよりいくらかは落ち着いている。
モーダたちが立ち上がり深く礼をすると、座るようと公爵が勧め、そろそろとまた腰を下ろす。
「フォンブランデイル公爵ドリアンだ。本日はよく来てくれた。
また今回の迅速な決断に礼を言う」
モーダが「誠に畏れ多いことでございます」と頭を下げる。
「ウィーザ、契約書を確認する」
カートルードが二部の書類をテーブルに並べ、権利と義務、利益、違反事項に対するペナルティなどの詳細を読み上げていく。章が変わるごとに、質問を確認しながら進むので時間がかかっているが、重要なことだから気を抜くことはできない。
どちらかに大きく不利益になるようなことがないかなど、重点的に読み合わせ、双方納得がいけばこの契約書を持って神殿契約の宣誓に向かう。
モーダは先ほどから、喉がちりつくような違和感を感じていた。
なぜ公爵本人が直々に現れたのか?
このようなこと、それこそ法務部の人間の代理契約で十分ではないだろうか?
この契約書に何か隠されているのではないかと、目を皿のようにして文字を追ったが、違和感の正体を掴むことはできない。
このまま契約してしまっていいのだろうか?
公爵は、モーダの逡巡に気づいていた。
話がうますぎると疑っていることもわかっている。
「モーダ・ユルグ。
モーダと呼んでよいだろうか?
兄弟よく似ているのだな。
メルクルとミルケラはとてもよく仕えてくれていて、我が公爵家ではグゥザヴィ家の者というだけで、信頼に足る人物のような気がしてくるほどなのだ」
笑ってみせると、サリラは頬を赤くする。
「法務部から公爵代理を立ててもよかったが、グゥザヴィのふたりの兄であるからな。それにこれは公爵家にとって大切な契約なのだ」
公爵の黒い瞳にじっと見つめられたモーダは、目をそらすこともできず、進むしかないと漸く意を決した。
「では早速神殿に参ろうか」
モーダたちは公爵家の馬車に乗せられて神殿へ連れて行かれ、宣誓を済ませてまた、連れられて戻ってきた。
「今日は疲れただろう?じきにミルケラが迎えに来る。夕餉も用意させるのでゆっくりしていくとよい。帰りは馬車で遅らせるので心配はいらないぞ」
予想外の言葉だ。
もっとドライなやり取りをすると思っていたモーダ、そして公爵家の夕餉を頂けると喜んでいるサリラ。
「そういえば、ユルグではなくグゥザヴィを名乗っているのだな?」
「はい、いろいろ考えまして此度を機に変えました」
公爵は満足そうに微笑んだ。
「ん、良いと思うぞ」
またじっと黒い瞳でモーダを見つめると
「他の使用人の手前あまり大きな声では言えないが、私はグゥザヴィ兄弟を殊の外気に入っている。優秀で人柄も良い。さぞ男爵夫妻が上手に育て上げたのだろう。
そうだ、ミルケラは貴族学院に通わなかったそうだが、モーダはどうなのだ?」
問われたモーダは少し俯き、小さな声で答える。
「はい、私も通っておりません。市井に下りるから不要と言われ」
「そうか。グゥザヴィ家の当主は子育てはうまかったと思うが・・・。貴族として与えるべき教育を施さなかったことは理解できぬな。
モーダ、もし今機会があったら貴族学院に通いたいと思うだろうか?」
「え?え、ええ、そうですね。貴族と商売をするならそのほうが良かったと思いますが、いまさら」
「貴族学院には。
スペアの庶子を引き取ったり、侍従の教育などで遅い入学をする者のためのコースもあるのだよ。但し本来の通学期間よりはかなり短いが。
それでも学院に行くことで、他の貴族やその情報を持つ侍従たちと知り合うことができる。
ミルケラが行きたいと行ったら、通わせようと思っているのだが、共に行ってみてはどうだ?
その気があるなら我が家が支援するが」
弾かれたように上げたモーダの顔は、口が開いたまま固まっている。
サリラがモーダを促すように背中をさすったのでハッと我に返った。
「そ、んな・・・そんな畏多い」
「そう畏まるな。これはむしろ公爵家の利益のためだ」
サリラを見ると微笑んでいる。
しかし、短い間とは言え学院に行くとなると仕事が・・・と考えていると。
「その間の商会には我が家から人を遣わそう」
ドリアンはちょっとの閃きだったが、考えれば考えるほど、なかなかよい思いつきだと口角があがる。
公爵家から人手を入れることで商会を完全に掌握できる上に、ミルケラの性格から 絶対的忠誠を公爵家に誓うだろう。
我ながら素晴らしい!
ドリアンは貴族にしては優しいよい人と呼ばれるが、それだけで貴族社会を泳げるわけがない。貴族らしさはうちに秘め、見破られぬよう上手に隠しているだけなのだ。
少しだけ、腹黒いとも言えた。
モーダが思考停止に陥っていると、ミルケラがやって来た。
「ミルケラ、ちょうどいいから話しを聞いてから戻れ」
ドリアンはミルケラを学院に通わせたいと話す。
ミルケラは、目を赤くして
「本当に?本当に?よろしいんでしょうか?」
絞り出すように聞く。
「ああ。その代わり、公爵家の発展のために尽くしてもらう」
「はいっ!もちろんですっ」
ガバっと体を折り曲げて礼を言った。
家族は仲が良かったが、貧しすぎて学院に通えなかったのは悲しかった。上の二人と、早くに辺境伯領に行ったメルクルは卒業しており、自分たちとは違うと言われているみたいに感じていた。
行けるものなら行ってみたかった!今からでも。
公爵家への忠誠?そんなものはいまさらだ。公爵家以外に忠義を尽くすべき家など他にない。
ミルケラはうれしくて小さく震えてしまった。
モーダとサリラを連れ、離れへとミルケラが案内しているのだが、冷めやらぬ興奮に目が輝いている。
「うれしい!うれしすぎるよ」
こどものように大はしゃぎしている。
「兄上も一緒に通えるなんて」
足元が軽やかにステップを踏み、あっという間に離れについてしまった。
門の前に立ったミルケラが急に素に戻ると、呼び鈴を鳴らす。
その変化にモーダは戸惑った。
「兄上、義姉上。
ここから先は神殿契約を済ませ、かつ許可を得た者しか入館を許可されないんだ」
モーダは門前から屋敷を見あげる。
さきほどの館とも遜色ない広く立派な館で、しかも歩いて五分もかからない。
こんな近くに、でも離して建てたのはなぜだろう?
いろいろと疑問や違和感がありすぎて、どうにも落ち着けない。
サリラはただキョロキョロとしているが。
「兄上は仕入れで出入りが必要になるから神殿契約が交わされれば許可すると言われていたんだ。義姉上はとりあえず今回だけの許可となる。あとは必要に応じてかな」
中からスラリとした顔色の優れない若い男が出てきた。
「ハルーサ、聞いてるとおりに鍵魔法頼むよ」
軽く頷くと、鍵魔法をモーダとサリラに付与する。
「これで入れるよ。但し、入れるエリアは限定される。あと奥様は今日八刻までの鍵になっているので帰りの時間には気をつけて」
モーダはまた落ち着かなくなる。
この厳重さ。あの契約書も、ただの商会と取り交わすものとは思えないほど条項が多いものだった。神殿契約を交わしてしまった今となっては遅いかもしれないが、手厚い待遇もやっぱりおかしいのではないか・・・
「ミルケラ?聞きたいことがあるんだが」
思い切って切り出すと
「うん、ちょっと待ってくれ。まず俺の作業小屋に案内するから。びっくりするなよ」
ハハハ!と陽気に笑う弟に、自分の不安は考えすぎなのかと頭を振った。
屋敷奥の扉の前で立ち止まる。ここまでは特に変わったところはなかった。
「あのな。これから見る物は秘密だから。まあ神殿契約があるから心配ないがな」
「ひ・・・みつ?」
ミルケラはニカっと笑ってその扉を開け放った。
家に残ることができなかった六人の男子のうち三人が、公爵家の仕事に携わることになった。しかもミルケラたちが作ったものを兄の商会を通して販売する。兄弟にとってはうれしいことばかりだ。
さて。
婿に行ってモーダ・ユルグとなったが、サリラは実家と縁を切るのだから、どうせならこの機会にグゥザヴィに変わりたいと言う。
モーダに異論はない。ふたりの商会もこれを機会にグゥザヴィ商会に変えた。
公爵家が商会との神殿契約書の準備が整ったとモーダに連絡したのは、兄弟の会談の三日後。
すぐユルグ夫妻、いやグゥザヴィ夫妻は公爵家を訪ねた。
乗合馬車を公爵邸の近くで降りると、想像を超える大邸宅が聳え立つ。
「さすが公爵家のお屋敷だわ・・・。こんな大貴族と仕事ができるなんて思わなかった。緊張してきた!」
サリラが小さく震えている。
ふたりは手を繋ぎ、門扉の呼び鈴を鳴らした。
「いらっしゃいませ、ユルグ様」
執事マドゥーンが出迎える。
中へ案内されるが、廊下に敷かれた絨毯がふかふか過ぎて足元がおぼつかない。手を繋いでいてよかったと、夫婦は思っていた。
「こちらへどうぞ」
末端貴族の子弟であったモーダも見たことがないほど、立派な椅子が置かれた応接に通され、畏れ多くて座ることができない。
いつまでも立ち尽くしている二人を見て、漸くふたりの様子に気がついたマドゥーンは客人に配慮が足りなかったと思い至った。
「どうぞ、お座りになってお待ちください」
少しでも座りやすいようにと、手のひらを上に、指先で椅子を示して丁寧に勧めた。
ふたりを待たせることなく、公爵家の法務部に仕えるウィーザ・カートルードを伴って現れたフォンブランデイル公爵は、モーダはもちろんだが平民のサリラにはとんでもない雲の上の存在で、いくら商会で貴族と繋がりを持とうとしていたと言っても、本来なら自分が会うとか口をきくなどありえない高位貴族だ。
緊張してガチガチで歯が噛み合わないほどだが、モーダはそれよりいくらかは落ち着いている。
モーダたちが立ち上がり深く礼をすると、座るようと公爵が勧め、そろそろとまた腰を下ろす。
「フォンブランデイル公爵ドリアンだ。本日はよく来てくれた。
また今回の迅速な決断に礼を言う」
モーダが「誠に畏れ多いことでございます」と頭を下げる。
「ウィーザ、契約書を確認する」
カートルードが二部の書類をテーブルに並べ、権利と義務、利益、違反事項に対するペナルティなどの詳細を読み上げていく。章が変わるごとに、質問を確認しながら進むので時間がかかっているが、重要なことだから気を抜くことはできない。
どちらかに大きく不利益になるようなことがないかなど、重点的に読み合わせ、双方納得がいけばこの契約書を持って神殿契約の宣誓に向かう。
モーダは先ほどから、喉がちりつくような違和感を感じていた。
なぜ公爵本人が直々に現れたのか?
このようなこと、それこそ法務部の人間の代理契約で十分ではないだろうか?
この契約書に何か隠されているのではないかと、目を皿のようにして文字を追ったが、違和感の正体を掴むことはできない。
このまま契約してしまっていいのだろうか?
公爵は、モーダの逡巡に気づいていた。
話がうますぎると疑っていることもわかっている。
「モーダ・ユルグ。
モーダと呼んでよいだろうか?
兄弟よく似ているのだな。
メルクルとミルケラはとてもよく仕えてくれていて、我が公爵家ではグゥザヴィ家の者というだけで、信頼に足る人物のような気がしてくるほどなのだ」
笑ってみせると、サリラは頬を赤くする。
「法務部から公爵代理を立ててもよかったが、グゥザヴィのふたりの兄であるからな。それにこれは公爵家にとって大切な契約なのだ」
公爵の黒い瞳にじっと見つめられたモーダは、目をそらすこともできず、進むしかないと漸く意を決した。
「では早速神殿に参ろうか」
モーダたちは公爵家の馬車に乗せられて神殿へ連れて行かれ、宣誓を済ませてまた、連れられて戻ってきた。
「今日は疲れただろう?じきにミルケラが迎えに来る。夕餉も用意させるのでゆっくりしていくとよい。帰りは馬車で遅らせるので心配はいらないぞ」
予想外の言葉だ。
もっとドライなやり取りをすると思っていたモーダ、そして公爵家の夕餉を頂けると喜んでいるサリラ。
「そういえば、ユルグではなくグゥザヴィを名乗っているのだな?」
「はい、いろいろ考えまして此度を機に変えました」
公爵は満足そうに微笑んだ。
「ん、良いと思うぞ」
またじっと黒い瞳でモーダを見つめると
「他の使用人の手前あまり大きな声では言えないが、私はグゥザヴィ兄弟を殊の外気に入っている。優秀で人柄も良い。さぞ男爵夫妻が上手に育て上げたのだろう。
そうだ、ミルケラは貴族学院に通わなかったそうだが、モーダはどうなのだ?」
問われたモーダは少し俯き、小さな声で答える。
「はい、私も通っておりません。市井に下りるから不要と言われ」
「そうか。グゥザヴィ家の当主は子育てはうまかったと思うが・・・。貴族として与えるべき教育を施さなかったことは理解できぬな。
モーダ、もし今機会があったら貴族学院に通いたいと思うだろうか?」
「え?え、ええ、そうですね。貴族と商売をするならそのほうが良かったと思いますが、いまさら」
「貴族学院には。
スペアの庶子を引き取ったり、侍従の教育などで遅い入学をする者のためのコースもあるのだよ。但し本来の通学期間よりはかなり短いが。
それでも学院に行くことで、他の貴族やその情報を持つ侍従たちと知り合うことができる。
ミルケラが行きたいと行ったら、通わせようと思っているのだが、共に行ってみてはどうだ?
その気があるなら我が家が支援するが」
弾かれたように上げたモーダの顔は、口が開いたまま固まっている。
サリラがモーダを促すように背中をさすったのでハッと我に返った。
「そ、んな・・・そんな畏多い」
「そう畏まるな。これはむしろ公爵家の利益のためだ」
サリラを見ると微笑んでいる。
しかし、短い間とは言え学院に行くとなると仕事が・・・と考えていると。
「その間の商会には我が家から人を遣わそう」
ドリアンはちょっとの閃きだったが、考えれば考えるほど、なかなかよい思いつきだと口角があがる。
公爵家から人手を入れることで商会を完全に掌握できる上に、ミルケラの性格から 絶対的忠誠を公爵家に誓うだろう。
我ながら素晴らしい!
ドリアンは貴族にしては優しいよい人と呼ばれるが、それだけで貴族社会を泳げるわけがない。貴族らしさはうちに秘め、見破られぬよう上手に隠しているだけなのだ。
少しだけ、腹黒いとも言えた。
モーダが思考停止に陥っていると、ミルケラがやって来た。
「ミルケラ、ちょうどいいから話しを聞いてから戻れ」
ドリアンはミルケラを学院に通わせたいと話す。
ミルケラは、目を赤くして
「本当に?本当に?よろしいんでしょうか?」
絞り出すように聞く。
「ああ。その代わり、公爵家の発展のために尽くしてもらう」
「はいっ!もちろんですっ」
ガバっと体を折り曲げて礼を言った。
家族は仲が良かったが、貧しすぎて学院に通えなかったのは悲しかった。上の二人と、早くに辺境伯領に行ったメルクルは卒業しており、自分たちとは違うと言われているみたいに感じていた。
行けるものなら行ってみたかった!今からでも。
公爵家への忠誠?そんなものはいまさらだ。公爵家以外に忠義を尽くすべき家など他にない。
ミルケラはうれしくて小さく震えてしまった。
モーダとサリラを連れ、離れへとミルケラが案内しているのだが、冷めやらぬ興奮に目が輝いている。
「うれしい!うれしすぎるよ」
こどものように大はしゃぎしている。
「兄上も一緒に通えるなんて」
足元が軽やかにステップを踏み、あっという間に離れについてしまった。
門の前に立ったミルケラが急に素に戻ると、呼び鈴を鳴らす。
その変化にモーダは戸惑った。
「兄上、義姉上。
ここから先は神殿契約を済ませ、かつ許可を得た者しか入館を許可されないんだ」
モーダは門前から屋敷を見あげる。
さきほどの館とも遜色ない広く立派な館で、しかも歩いて五分もかからない。
こんな近くに、でも離して建てたのはなぜだろう?
いろいろと疑問や違和感がありすぎて、どうにも落ち着けない。
サリラはただキョロキョロとしているが。
「兄上は仕入れで出入りが必要になるから神殿契約が交わされれば許可すると言われていたんだ。義姉上はとりあえず今回だけの許可となる。あとは必要に応じてかな」
中からスラリとした顔色の優れない若い男が出てきた。
「ハルーサ、聞いてるとおりに鍵魔法頼むよ」
軽く頷くと、鍵魔法をモーダとサリラに付与する。
「これで入れるよ。但し、入れるエリアは限定される。あと奥様は今日八刻までの鍵になっているので帰りの時間には気をつけて」
モーダはまた落ち着かなくなる。
この厳重さ。あの契約書も、ただの商会と取り交わすものとは思えないほど条項が多いものだった。神殿契約を交わしてしまった今となっては遅いかもしれないが、手厚い待遇もやっぱりおかしいのではないか・・・
「ミルケラ?聞きたいことがあるんだが」
思い切って切り出すと
「うん、ちょっと待ってくれ。まず俺の作業小屋に案内するから。びっくりするなよ」
ハハハ!と陽気に笑う弟に、自分の不安は考えすぎなのかと頭を振った。
屋敷奥の扉の前で立ち止まる。ここまでは特に変わったところはなかった。
「あのな。これから見る物は秘密だから。まあ神殿契約があるから心配ないがな」
「ひ・・・みつ?」
ミルケラはニカっと笑ってその扉を開け放った。
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