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69 祝の会、その後 ─弐─

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 公爵邸離れの畑では、ミルケラが前にドレイファスから聞いた、変わった農具を作っていた。

 堅い木の棒を一本。
それから板を少し丸みをつけて削り、棒を嵌める・・・のか?

 うーん?

 実はドレイファスからこれを聞いてから二ヶ月以上試作しているが、しっくりこない。
 実物が見られないからなぁと、ちょっぴり後ろ向きになってしまうミルケラだが。
畑を眺めていて、ふと、これをどう使っていたか、ドレイファスが話していたのを思い出した。

 そうだ!
 板を削り、それを畑に置いてみる。
 土を起こす?
 この板を使って土を起こすにはどう動かせばいい?うん、じゃあ、この板を動かしやすくするためには棒はどこにあればいい?

 そうだ!これだっ!

 ミルケラの思考回路がガチッと繋がった。穴掘り棒とは違う動きをしやすい農具!

 ミルケラはいつも部屋の中で物作りをしていたが、その道具をどこでどう使うかが欠けていたのだ。聞いていたのに。
 考えたら、水やり樽も頭だけで考えていた。

「まだまだ全然ダメだなぁ。でも次はもっとうまくやれるぞ!うん」

 今度は部屋に戻り、ナイフと金槌を出して思いついた形を再現し始める。もう外に出なくても頭にしっかりイメージはできているから。

「あー、なんでもっと早く気づかなかったかなぁ」

 そう独りごちながら、板がほんの少し湾曲するように削っていく。端に穴を開けて持ち手の棒を挿し込むと、握ったときに滑りにくいよう細工をする。最後に棒が抜けないように紐で固定し、全体に補強魔法をかけて、いままでで一番納得いくものになった。

 出来上がったそれは、異世界で鍬と呼ばれるものであった。

(早くドレイファス様と兄上に見せたいなぁ)

 ふたりの反応を知りたかったが、まずは自分で試してみようと、新しい農具を肩に担いで外に出る。

 畑ではモリエールがレッドメルの世話を焼いていた。去年畑で割れた実から落ちたらしい粒が葉を伸ばし、順調に育っている。
 土の適性が下がらないようタンジェントが鑑定して、不足した物をまめに足して歩くのは大体モリエール。外見は華やかだが、誰に言うでもなく根気のいる地味な仕事を黙々とこなす姿を見て、ミルケラも驕ることなく小さなことも大切にしようと改めて胸に秘めた。

「あれ?何それ」

 モリエールが気がついて、様子を見に来る。

「ドレイファス様が言ってたやつだよ」
「ああ!ミルケラがよくわからん!って言ってたアレか!」

 くすりと笑う。

 ミルケラは畑の端に薄く削った板の先を差し込み、土を起こしてみせた。

「あ、それいいかも!」

 手に持った農具をモリエールに渡してやると、すぐ見よう見まねで使ってみる。

「うん!いいね。採取は絶対穴掘り棒だけど、畑で土を起こしたり畝を作るのはこっちのほうがやりやすいな!これ、なんていう物?」

・・・・・沈黙が答えを物語る。

「あ、決めてないのか?」
「ドレイファス様に見せてから考えようかなーと思って」
「じゃあ、早く見てもらいたいな」

 そう言うと、レッドメルの土に葉などを寄せて

「ほら!穴掘り棒だと先しか使えなかったけど、これなら面で土が動かせるから効率がいい!」

 ミルケラの農具を褒め、振り返ったモリエールは満面の美しい笑みを浮かべていた。

 その日、ドレイファスが水やりに来たときに、いかにも目立つようにモリエールが使っていた道具。
 さすがにすぐ気づいたドレイファスが、

「あーっ!それしってる!」

 叫んでモリエールの元に走ってきた。

「これですか?さっきミルケラが作ったばかりの道具ですよ」
「かしてくれる?」

 碧い瞳がうれしそうに見上げてくる。
もちろんです!とモリエールがドレイファスの手に持たせてやると、ドレイファスにはかなり大きいのだがうれしそうに引きずって歩いている。

「かーわいいなあ」

 後ろ姿を見て、にんまりしたモリエールは栗鼠や犬、猫やうさぎが大好きだ。ここだけの話、こどもの頃から大切にしている犬のぬいぐるみがあり、ドレイファスがそれに似てると思っている。
 こどもが好きかと言われるとよくわからないのだが、ドレイファスがかわいいと素直に思うのは容姿はもちろんだが、なんと言っても人懐こい性格だろう。

「ドレイファス様のようなこどもならいてもいいな。あ、でも嫁はいらん」

 モリエールの呟きが聞こえたタンジェントがプーッと吹き出し、顔をそむけた。
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