神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
64 / 272

64 祝の会 ─壱─

しおりを挟む
 応接で開かれた軽い茶会のあと、皆公爵家の食堂へ案内された。

 長い円卓にカトラリーとナプキンが置かれている。そこに家族単位で座るよう促され、上座からサンザルブ侯爵家?と思ったら円卓の下座に座り、新鮮な景色だ!とワルターが朗らかに笑う。
 公爵家に一番近いところにスートレラ子爵家とヤンニル騎士爵家が座らされ、特に初参加のヤンニル一族は落ち着かずにモゾモゾしている。

(本当にここに座るの?)

 クロードゥル・ヤンニルは妻ナサリーの小さな声に、わからんと首を傾げた。
普通の常識ではありえない。
何かの間違いか、やっぱり嫌がらせ?

 ナサリーとダルスラ・ロンドリン伯爵のあいだに座った息子は、ロンドリン伯爵からアラミスの剣の稽古を聞かされ、夢中で話している。
 おとな二人は生きた心地がしないまま、浅く椅子に腰掛けてすぐ立ち上がれるように準備していた。
 そのあまりに思い悩んだ顔を見て、スートレラ子爵がふわっと笑いながら話しかける。

「大丈夫ですから。こんなこと、今日のような仲間内のときだけです。爵位が高い方とはなかなかこの距離で食事はできないからって、毎回ドリアン様がわざわざ並びを変えてくださってるんですよ!」

 そんなヤンニル緊張の一幕からドレイファス六歳の誕生日祝いの会が始められた。

 食事は、公爵家の皆が質素だと思っている物。

 おとなたちには食前酒と前菜のサールフラワーと川海老。こどもたちは果実水とトモテラのゼリーが供された。

 公爵一家以外は、みんなうまい!美味しい!と漏らしているが、肝心のドレイファスは食べ慣れているせいか普段どおり淡々と食していて、イマイチ感動が薄かった。

 次はおとなにはオニオンポタージュ、こどもはコーンポタージュ。
 コーンポタージュはドレイファスの大好物!さすがにうれしそうだ。黙々と匙ですくっては、微笑みを浮かべている。
 ドレイファスの様子を見て、ボルドアはカトラリーの音を立てないよう、そっとコーンポタージュをすくって一口飲み込んだ。
 ほんのり甘いコーンがとろりと舌に広がり、ボルドアが生まれて初めて!と思うほどの美味しさだった。 飲み込むのが惜しくて、ゆっくりちびちびと飲んでいたら母にバレた。視線を感じてナサリーを見ると、刺すような目で早く食べろと圧力をかけられ、しかたなく、ひと匙ごとにごっくんと飲み込んでいく。
スープ皿がきれいに空になったとき、ボルドアは二度と会えないともだちと別れたように、悲しくてさみしくて泣きたくなった。

 しかし、そんなボルドアを慰めるようにすぐ次の皿が置かれた。ここからはおとなもこどももみんな同じ料理が運ばれる。

 まずは一口大の白い魚の身。
 ほんのり塩味が効いていて、表面を香ばしく焼き色をつけてある。こどもでも美味しく食べられた。

「これ美味しい」

 ドレイファスがそう言ってナプキンでお口を拭いた。
 次の皿は一口大の肉だ。

「これはシーターラビットか?いいな、美味い!」

 ワルターがうれしそうに言い当てた。
塩胡椒と貴重なブラックガーリーが惜しげもなく使われて、風味を出している。

 噛むとほろほろと解れて、あっという間に無くなってしまうほど柔らかい。
もっとずっと噛みしめていたい・・・。
みんながそう思うほど美味だった。


 最後の料理にチキンロールリゾットが出される。

 これはドレイファスの大好物そのニである。柔らかく煮てあるので、匙でも切れるチキンロール。中にはコカ鳥のミンチとライスが包まれていて、スープの味が滲みて噛むとじゅわっと汁がひろがる。

「美味しい!うん、美味しい!毎日でも食べたい」

 そういったあと、ドレイファスはしばらく味の余韻を楽しんでいるように、何も言わず、ひたすらもぐもぐと口を動かしていた。



「そろそろデザートを出してもよろしいでしょうか?」

 ドレイファスがいつまでもチキンロールに執着しているので給仕が促すと、せっかくの楽しみを奪われたようにジトッと見返した。

 しかし皿はすでに空だ。無情にも給仕に皿を下げられて、諦めるしかない。
名残惜しそうに自分の手を離れていく皿を見つめていると、最後のデザートが届けられ、思わず「ああっ!」と声をあげてしまった。

 ペリルが皿に盛られているのだが、それが皿の真ん中に新鮮なペリル、縁取るように蜂蜜漬けのペリルがのせられていて、その贅沢さがみんなの目を釘付けにする。
一人づつそのペリルが置かれると、誰も彼もがうれしそうに笑って、一斉に食べ始めた。

「はああ、これは美味い!酸味のある新鮮な果実と、甘くとろける蜂蜜漬けがともに味わえるとは」

 ワルターが歌うようにペリルを褒める。

「初夏ならレッドメルが出せたと思うのだけど」

 マーリアルが残念そうに言ったのだが、いやいやこのペリルだってものすごく贅沢なものだ!とワルターは褒めちぎった。

 出された料理はすべて、残されることなくみんなの腹に収められた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 


いつもお読みいただき、ありがとうございます。
一話毎の字数を少なくしてみました。読みやすい長さを模索しております。

これからもよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...