神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

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64 祝の会 ─壱─

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 応接で開かれた軽い茶会のあと、皆公爵家の食堂へ案内された。

 長い円卓にカトラリーとナプキンが置かれている。そこに家族単位で座るよう促され、上座からサンザルブ侯爵家?と思ったら円卓の下座に座り、新鮮な景色だ!とワルターが朗らかに笑う。
 公爵家に一番近いところにスートレラ子爵家とヤンニル騎士爵家が座らされ、特に初参加のヤンニル一族は落ち着かずにモゾモゾしている。

(本当にここに座るの?)

 クロードゥル・ヤンニルは妻ナサリーの小さな声に、わからんと首を傾げた。
普通の常識ではありえない。
何かの間違いか、やっぱり嫌がらせ?

 ナサリーとダルスラ・ロンドリン伯爵のあいだに座った息子は、ロンドリン伯爵からアラミスの剣の稽古を聞かされ、夢中で話している。
 おとな二人は生きた心地がしないまま、浅く椅子に腰掛けてすぐ立ち上がれるように準備していた。
 そのあまりに思い悩んだ顔を見て、スートレラ子爵がふわっと笑いながら話しかける。

「大丈夫ですから。こんなこと、今日のような仲間内のときだけです。爵位が高い方とはなかなかこの距離で食事はできないからって、毎回ドリアン様がわざわざ並びを変えてくださってるんですよ!」

 そんなヤンニル緊張の一幕からドレイファス六歳の誕生日祝いの会が始められた。

 食事は、公爵家の皆が質素だと思っている物。

 おとなたちには食前酒と前菜のサールフラワーと川海老。こどもたちは果実水とトモテラのゼリーが供された。

 公爵一家以外は、みんなうまい!美味しい!と漏らしているが、肝心のドレイファスは食べ慣れているせいか普段どおり淡々と食していて、イマイチ感動が薄かった。

 次はおとなにはオニオンポタージュ、こどもはコーンポタージュ。
 コーンポタージュはドレイファスの大好物!さすがにうれしそうだ。黙々と匙ですくっては、微笑みを浮かべている。
 ドレイファスの様子を見て、ボルドアはカトラリーの音を立てないよう、そっとコーンポタージュをすくって一口飲み込んだ。
 ほんのり甘いコーンがとろりと舌に広がり、ボルドアが生まれて初めて!と思うほどの美味しさだった。 飲み込むのが惜しくて、ゆっくりちびちびと飲んでいたら母にバレた。視線を感じてナサリーを見ると、刺すような目で早く食べろと圧力をかけられ、しかたなく、ひと匙ごとにごっくんと飲み込んでいく。
スープ皿がきれいに空になったとき、ボルドアは二度と会えないともだちと別れたように、悲しくてさみしくて泣きたくなった。

 しかし、そんなボルドアを慰めるようにすぐ次の皿が置かれた。ここからはおとなもこどももみんな同じ料理が運ばれる。

 まずは一口大の白い魚の身。
 ほんのり塩味が効いていて、表面を香ばしく焼き色をつけてある。こどもでも美味しく食べられた。

「これ美味しい」

 ドレイファスがそう言ってナプキンでお口を拭いた。
 次の皿は一口大の肉だ。

「これはシーターラビットか?いいな、美味い!」

 ワルターがうれしそうに言い当てた。
塩胡椒と貴重なブラックガーリーが惜しげもなく使われて、風味を出している。

 噛むとほろほろと解れて、あっという間に無くなってしまうほど柔らかい。
もっとずっと噛みしめていたい・・・。
みんながそう思うほど美味だった。


 最後の料理にチキンロールリゾットが出される。

 これはドレイファスの大好物そのニである。柔らかく煮てあるので、匙でも切れるチキンロール。中にはコカ鳥のミンチとライスが包まれていて、スープの味が滲みて噛むとじゅわっと汁がひろがる。

「美味しい!うん、美味しい!毎日でも食べたい」

 そういったあと、ドレイファスはしばらく味の余韻を楽しんでいるように、何も言わず、ひたすらもぐもぐと口を動かしていた。



「そろそろデザートを出してもよろしいでしょうか?」

 ドレイファスがいつまでもチキンロールに執着しているので給仕が促すと、せっかくの楽しみを奪われたようにジトッと見返した。

 しかし皿はすでに空だ。無情にも給仕に皿を下げられて、諦めるしかない。
名残惜しそうに自分の手を離れていく皿を見つめていると、最後のデザートが届けられ、思わず「ああっ!」と声をあげてしまった。

 ペリルが皿に盛られているのだが、それが皿の真ん中に新鮮なペリル、縁取るように蜂蜜漬けのペリルがのせられていて、その贅沢さがみんなの目を釘付けにする。
一人づつそのペリルが置かれると、誰も彼もがうれしそうに笑って、一斉に食べ始めた。

「はああ、これは美味い!酸味のある新鮮な果実と、甘くとろける蜂蜜漬けがともに味わえるとは」

 ワルターが歌うようにペリルを褒める。

「初夏ならレッドメルが出せたと思うのだけど」

 マーリアルが残念そうに言ったのだが、いやいやこのペリルだってものすごく贅沢なものだ!とワルターは褒めちぎった。

 出された料理はすべて、残されることなくみんなの腹に収められた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 


いつもお読みいただき、ありがとうございます。
一話毎の字数を少なくしてみました。読みやすい長さを模索しております。

これからもよろしくお願いいたします。
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