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59 春が来る
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公爵家の離れで畑を作ってから約九ケ月。
ここまで毎日観察を欠かさなかった庭師たちは、ある兆候に気がついていた。
「なあ、ミルケラ!これ見てくれよ」
タンジェントが体を低くして、地面に顔を寄せた先を指で差している。
ううん?と覗くと、倒れた枯れ草の下、ものすごく小さな緑の葉が一斉に土から顔を出し始めた。
「うわ、かわいい」
「サールフラワーが枯れて倒れてただけだったよな?ちっちゃい葉が出たきっかけはなんだ?」
この世界では放牧地と同じように、常に野菜や果実が生えるところを探して歩いている。
植物が群生している土地を見つけて国に登録し、管理することを生業とした家を農会と呼ぶ。
農会は、まさにトレジャーハンターなのだ。
ここでは農耕する、いわゆる田畑を耕して種をまき、作物を育てるという概念がなかった。
いくらでも生えてくるのだから。
気にしたことがないから、そもそも種の存在を知らない。植物がどうして生を受けるかなど考えることもなかった。
庭園に咲かせる花は、野山から取ってきて庭に植え替え、枯れそうになったら抜いて捨てることを繰り返してきた。
しかしドレイファスがスキルで見た世界は植物を探して歩くのではなく、土地を耕して植物を何らかの手段で生やし、自らの手で畑を作り上げる。
誰もそんなことができると考えたことがなかったが、今タンジェントらはそれまでの常識をひっくり返し、植物が生を受け育つサイクルを解明しようとしている。
大きなレッドメルが小指の爪先ほどの粒から生まれ出るとはわかったが、それが種で、それこそが植物の始まりだとは、まだ気がつけていないのだ。
ヨルトラがミルケラの声に気づいて様子を見に来た。
「ほら、小さな葉がでてた!」
「本当だ!」
ヨルトラがじーっと見つめていると、一つだけ、弾き出されたように斜めに飛び出た葉があった。
そっと摘んで引くと、葉の根元に小さな白い根と丸い白い粒がついている。
そういえば・・・
サールフラワーが伸びきって枯れた時、変なトゲトゲみたいなのにこんな粒が詰まっていた。観察すると言って放置していたら、いつの間にかそれも無くなっていた・・かも。
・・・・・!
「これ、サールフラワーではないか?」
ヨルトラが自分の仮説を話すと、ふたりはそうかもしれんともう一度手のひらに乗った、小さな粒を根にぶら下げた葉を見つめた。
「そうか、レッドメルのように実の中にあるものも、サールフラワーのように、そのあとに別に粒ができるものもある?」
タンジェントは自分に確かめるように言葉にしている。
「いろいろなんだな・・・。しかし、まだ全然観察出来てなかったってことはわかったな」
「アイルムたちが戻ったら、粒はなかったと思っていたものも見直しだ!」
昼食に戻ってきたアイルムたちに、小さな粒から葉が出たと話すと畑に走って見に行った。
戻ってきたアイルムは頬が赤い。
「なあ、あれ風に飛ばされたりしないかな?根が短いんだろう?風除けとかしなくても大丈夫かな?」
ミルケラが「じゃあ風除けをたてておこう」と、食事を置いたままふらりと出て行った。
てっきりこれから何か作るのだと、「食べ終わってからでもいいのに」とアイルムが背中に声をかけたのだが、しかし、ほんの数分で戻ってきた。
「これでとりあえず大丈夫だと思うから」
何をしてきたか言わないので、みんな気になって落ち着かない。結局アイルムが見に行って、乾燥スライムを葉っぱを囲むように土に挿して透明な壁を作っていたことがわかった。
「ミルケラって、よくなんでも思いつくよな、感心するよ」
モリエールが褒めた!
「じゃあ、あの葉っぱはアイルムに世話を頼もうか」
と、ヨルトラが決める。
葉が小さいうちは、アイルムの水魔法で霧のように細かく水をかけてやるのが土が流されずに定着しやすいと、この一年で学んでいた。
水魔法が使えてもアイルムのように細かく少なく調整して出すのは以外と珍しいので、デリケートな水やりはすべてアイルムが担当している。
「ということはサールフラワーは、枯れた草から自分で粒を落とし、次の年にまた同じところから生まれるというわけか!」
ヨルトラが総括したことに、みんなコクコクと同意する。
「タンジー、土の適性はもう見たか?」
「あ、いやまだだ」
「土も同じ状態なら、それこそずっとそこから生えることも可能だよな」
ヨルトラとアイルムがタンジェントを挟んで思いつくままに話し合う。
いつの間にか、食事は冷たくなっていた。
「冷えた・・・」
モリエールの淡々とした一言で食事中だと思い出し、皆冷たい食事をかっこんで畑へと走り出る。
(サールフラワーとの土の適性は?)
土に手を当てたタンジェントが頭に思い浮かべると鑑定ボードが開く。
【フォンブランデイル家の庭の土】
[サールフラワーとの適性]やや低い
「どうだった?」
ヨルトラが覗きこんでくる。
「やや低いだって」
ヨルトラはなにか考え込んで、小屋へと戻って行った。すぐ、何かを手に戻ると、これを土にかけてみよう!と液体を渡そうとする。
「なあ、これポーションじゃないか?」
「人間や動物だって元気になるんだから試してもよかろう?」
ミルケラが素直に受け取り、迷うことなくさっさと土に染み込ませている。
「適性が下がるって、何が原因だ?土が動物のように疲労するなんてことがあるなら、もしかしたら効くかもな」
誰も信じていないが。
だって土だから。
それでもヨルトラに敬意を評してやってみた。
ミルケラがサールフラワーの周囲ぐるりと掛け回し、土がポーションを吸い込んだのを見て、タンジェントがもう一度鑑定を行う。
【フォンブランデイル家の庭の土】
[サールフラワーとの適性]普通まであと少し
「んん?なんかな・・・。普通まであと少しって出たんだけど」
「タンジーの鑑定って、微妙な匙加減が人みたいだよなあ」
ミルケラの一言で、みんなぷっと吹いてしまったが、言い得て妙か。
「まあ、あれだ。人用のポーションでもほんの少し回復できるということは、一年で足りなくなるものを永続的に足してやれれば、いわゆる畑が枯渇することもなくなるんじゃないかな?」
ヨルトラは素晴らしいことを言った!
「土用のポーションってあるのか?」
タンジェントが思いついて言ってみたが、みんな首を横に振る。
「聞いたことないなあ」
「・・・なあ、ドレイファス様にこの話をしてみよう。もしかしたら何か見てくれるかもしれないし」
「それより枯れ葉を足すとか、土の適性を上げるためにやっていたことも試してみたいな」
「いや、更地なら出来るが、植物が生えているところでは土混ぜるときに根や葉か傷むだろうが」
口々に言うのは勝手。
しかしこれでは収拾がつかないと、冷静にモリエールが止めてくれた。
食事のあとアイルムが枯れ葉をたんまりと運び込み、根や葉を傷めないぎりぎりまで漉きこんでいった。しかしタンジェントの鑑定結果は変わらず。
まわりに足した枯れ葉よりポーションのほうがマシとは!とアイルムはショックを受けたようだった。
タンジェントは土を握りしめて、いままでと違う鑑定をためしてみる。
(んー。サールフラワーの適性、足りないものを鑑定)
【フォンブランデイル家の土】
[サールフラワーの適性:不足物]
玉土
卵の殻
堆肥
腐葉土
少々の油粕
鑑定結果を見て、微妙な表情を浮かべて固まっていると、ヨルトラが気づいて肩を叩いた。
「タンジーどうした?」
「土に足りないものって鑑定してみたんだ」
え?と、ヨルトラと、モリエールも振り返った。
「当てずっぽうより早そうだと思って」
「それで、何かわかったのか?」
見たまま、みんなに教えてやる。
「・・・タンジー。おまえの鑑定スキルは普通じゃないな」
モリエールも師匠の言葉にコクコクしているが。はたしてそれは褒められたのか、呆れられたのか。
ミルケラが、タンジェントを引き戻した。
「玉土はわかるな。裏にまだけっこうあるから取ってこよう。
卵の殻ってなんだよ?うそだろう?ここは厨房かっての?
タイヒとフヨウド?ってなんだ?」
ミルケラは木材加工は素晴らしいが、庭師としてはまだまだ見習い程度だ。
観察力と着眼点はあるが、知識に欠ける。
「ロプロの森に行けば、腐葉土もどきは手に入るな。堆肥は厩務員に聞いたら作れるかもしれん。ミルケラ、荷馬車借りてくるついでに聞いてみてくれ」
ヨルトラが一緒に行くつもりらしく、穴掘り棒を手にミルケラを待ち受ける。
「おいおい、俺が行くよ」
タンジェントが手をあげると、なぜか今日に限ってヨルトラも行くと言い張り、三人一緒に行くことになってしまった。今日は新館担当のアイルムも行きたがったが、残念そうに新館に戻って行く。
ミルケラを御者に、タンジェントとヨルトラが荷台に乗り込み、残るモリエールは心配そうにヨルトラに穴掘り棒を手渡した。
「久しぶりだ、楽しみだな」
穴掘り棒を握りなおしてヨルトラは森を見つめた。
ヨルトラはここに来てから一度新館に行ったきり、全く外に出ていない。
買い物から手紙などのちょっとしたおつかいまでモリエールがやっているので必要ないのもあるが、杖をついてまで出かけるのが嫌なのだろうとみんななんとなく思っていた。
しかしタンジェントは気がついた。
そういえば今日のヨルトラは杖をつかずに自分の足だけで歩いている。
ゆっくりだが、確実に。
「杖なくて大丈夫なのか?」
「ゆっくりならな。ずっと練習していたのさ。やっぱり自分で穴も掘りたいしな」
そう言うとヨルトラは、からりと笑った。
まだ自力で歩きはじめたばかりのヨルトラは、そんなにたくさん動くことはできないが、その分ミルケラに指示を出してザクザクと必要なものを森から掘り出させて荷馬車に乗せ、今度は御者台によじ登る。
「帰りは私が御者をやろう!」
杖を捨てたヨルトラはやる気に満ちて、とても楽しそうで。
タンジェントとミルケラは、素直にうれしくなった。
ここまで毎日観察を欠かさなかった庭師たちは、ある兆候に気がついていた。
「なあ、ミルケラ!これ見てくれよ」
タンジェントが体を低くして、地面に顔を寄せた先を指で差している。
ううん?と覗くと、倒れた枯れ草の下、ものすごく小さな緑の葉が一斉に土から顔を出し始めた。
「うわ、かわいい」
「サールフラワーが枯れて倒れてただけだったよな?ちっちゃい葉が出たきっかけはなんだ?」
この世界では放牧地と同じように、常に野菜や果実が生えるところを探して歩いている。
植物が群生している土地を見つけて国に登録し、管理することを生業とした家を農会と呼ぶ。
農会は、まさにトレジャーハンターなのだ。
ここでは農耕する、いわゆる田畑を耕して種をまき、作物を育てるという概念がなかった。
いくらでも生えてくるのだから。
気にしたことがないから、そもそも種の存在を知らない。植物がどうして生を受けるかなど考えることもなかった。
庭園に咲かせる花は、野山から取ってきて庭に植え替え、枯れそうになったら抜いて捨てることを繰り返してきた。
しかしドレイファスがスキルで見た世界は植物を探して歩くのではなく、土地を耕して植物を何らかの手段で生やし、自らの手で畑を作り上げる。
誰もそんなことができると考えたことがなかったが、今タンジェントらはそれまでの常識をひっくり返し、植物が生を受け育つサイクルを解明しようとしている。
大きなレッドメルが小指の爪先ほどの粒から生まれ出るとはわかったが、それが種で、それこそが植物の始まりだとは、まだ気がつけていないのだ。
ヨルトラがミルケラの声に気づいて様子を見に来た。
「ほら、小さな葉がでてた!」
「本当だ!」
ヨルトラがじーっと見つめていると、一つだけ、弾き出されたように斜めに飛び出た葉があった。
そっと摘んで引くと、葉の根元に小さな白い根と丸い白い粒がついている。
そういえば・・・
サールフラワーが伸びきって枯れた時、変なトゲトゲみたいなのにこんな粒が詰まっていた。観察すると言って放置していたら、いつの間にかそれも無くなっていた・・かも。
・・・・・!
「これ、サールフラワーではないか?」
ヨルトラが自分の仮説を話すと、ふたりはそうかもしれんともう一度手のひらに乗った、小さな粒を根にぶら下げた葉を見つめた。
「そうか、レッドメルのように実の中にあるものも、サールフラワーのように、そのあとに別に粒ができるものもある?」
タンジェントは自分に確かめるように言葉にしている。
「いろいろなんだな・・・。しかし、まだ全然観察出来てなかったってことはわかったな」
「アイルムたちが戻ったら、粒はなかったと思っていたものも見直しだ!」
昼食に戻ってきたアイルムたちに、小さな粒から葉が出たと話すと畑に走って見に行った。
戻ってきたアイルムは頬が赤い。
「なあ、あれ風に飛ばされたりしないかな?根が短いんだろう?風除けとかしなくても大丈夫かな?」
ミルケラが「じゃあ風除けをたてておこう」と、食事を置いたままふらりと出て行った。
てっきりこれから何か作るのだと、「食べ終わってからでもいいのに」とアイルムが背中に声をかけたのだが、しかし、ほんの数分で戻ってきた。
「これでとりあえず大丈夫だと思うから」
何をしてきたか言わないので、みんな気になって落ち着かない。結局アイルムが見に行って、乾燥スライムを葉っぱを囲むように土に挿して透明な壁を作っていたことがわかった。
「ミルケラって、よくなんでも思いつくよな、感心するよ」
モリエールが褒めた!
「じゃあ、あの葉っぱはアイルムに世話を頼もうか」
と、ヨルトラが決める。
葉が小さいうちは、アイルムの水魔法で霧のように細かく水をかけてやるのが土が流されずに定着しやすいと、この一年で学んでいた。
水魔法が使えてもアイルムのように細かく少なく調整して出すのは以外と珍しいので、デリケートな水やりはすべてアイルムが担当している。
「ということはサールフラワーは、枯れた草から自分で粒を落とし、次の年にまた同じところから生まれるというわけか!」
ヨルトラが総括したことに、みんなコクコクと同意する。
「タンジー、土の適性はもう見たか?」
「あ、いやまだだ」
「土も同じ状態なら、それこそずっとそこから生えることも可能だよな」
ヨルトラとアイルムがタンジェントを挟んで思いつくままに話し合う。
いつの間にか、食事は冷たくなっていた。
「冷えた・・・」
モリエールの淡々とした一言で食事中だと思い出し、皆冷たい食事をかっこんで畑へと走り出る。
(サールフラワーとの土の適性は?)
土に手を当てたタンジェントが頭に思い浮かべると鑑定ボードが開く。
【フォンブランデイル家の庭の土】
[サールフラワーとの適性]やや低い
「どうだった?」
ヨルトラが覗きこんでくる。
「やや低いだって」
ヨルトラはなにか考え込んで、小屋へと戻って行った。すぐ、何かを手に戻ると、これを土にかけてみよう!と液体を渡そうとする。
「なあ、これポーションじゃないか?」
「人間や動物だって元気になるんだから試してもよかろう?」
ミルケラが素直に受け取り、迷うことなくさっさと土に染み込ませている。
「適性が下がるって、何が原因だ?土が動物のように疲労するなんてことがあるなら、もしかしたら効くかもな」
誰も信じていないが。
だって土だから。
それでもヨルトラに敬意を評してやってみた。
ミルケラがサールフラワーの周囲ぐるりと掛け回し、土がポーションを吸い込んだのを見て、タンジェントがもう一度鑑定を行う。
【フォンブランデイル家の庭の土】
[サールフラワーとの適性]普通まであと少し
「んん?なんかな・・・。普通まであと少しって出たんだけど」
「タンジーの鑑定って、微妙な匙加減が人みたいだよなあ」
ミルケラの一言で、みんなぷっと吹いてしまったが、言い得て妙か。
「まあ、あれだ。人用のポーションでもほんの少し回復できるということは、一年で足りなくなるものを永続的に足してやれれば、いわゆる畑が枯渇することもなくなるんじゃないかな?」
ヨルトラは素晴らしいことを言った!
「土用のポーションってあるのか?」
タンジェントが思いついて言ってみたが、みんな首を横に振る。
「聞いたことないなあ」
「・・・なあ、ドレイファス様にこの話をしてみよう。もしかしたら何か見てくれるかもしれないし」
「それより枯れ葉を足すとか、土の適性を上げるためにやっていたことも試してみたいな」
「いや、更地なら出来るが、植物が生えているところでは土混ぜるときに根や葉か傷むだろうが」
口々に言うのは勝手。
しかしこれでは収拾がつかないと、冷静にモリエールが止めてくれた。
食事のあとアイルムが枯れ葉をたんまりと運び込み、根や葉を傷めないぎりぎりまで漉きこんでいった。しかしタンジェントの鑑定結果は変わらず。
まわりに足した枯れ葉よりポーションのほうがマシとは!とアイルムはショックを受けたようだった。
タンジェントは土を握りしめて、いままでと違う鑑定をためしてみる。
(んー。サールフラワーの適性、足りないものを鑑定)
【フォンブランデイル家の土】
[サールフラワーの適性:不足物]
玉土
卵の殻
堆肥
腐葉土
少々の油粕
鑑定結果を見て、微妙な表情を浮かべて固まっていると、ヨルトラが気づいて肩を叩いた。
「タンジーどうした?」
「土に足りないものって鑑定してみたんだ」
え?と、ヨルトラと、モリエールも振り返った。
「当てずっぽうより早そうだと思って」
「それで、何かわかったのか?」
見たまま、みんなに教えてやる。
「・・・タンジー。おまえの鑑定スキルは普通じゃないな」
モリエールも師匠の言葉にコクコクしているが。はたしてそれは褒められたのか、呆れられたのか。
ミルケラが、タンジェントを引き戻した。
「玉土はわかるな。裏にまだけっこうあるから取ってこよう。
卵の殻ってなんだよ?うそだろう?ここは厨房かっての?
タイヒとフヨウド?ってなんだ?」
ミルケラは木材加工は素晴らしいが、庭師としてはまだまだ見習い程度だ。
観察力と着眼点はあるが、知識に欠ける。
「ロプロの森に行けば、腐葉土もどきは手に入るな。堆肥は厩務員に聞いたら作れるかもしれん。ミルケラ、荷馬車借りてくるついでに聞いてみてくれ」
ヨルトラが一緒に行くつもりらしく、穴掘り棒を手にミルケラを待ち受ける。
「おいおい、俺が行くよ」
タンジェントが手をあげると、なぜか今日に限ってヨルトラも行くと言い張り、三人一緒に行くことになってしまった。今日は新館担当のアイルムも行きたがったが、残念そうに新館に戻って行く。
ミルケラを御者に、タンジェントとヨルトラが荷台に乗り込み、残るモリエールは心配そうにヨルトラに穴掘り棒を手渡した。
「久しぶりだ、楽しみだな」
穴掘り棒を握りなおしてヨルトラは森を見つめた。
ヨルトラはここに来てから一度新館に行ったきり、全く外に出ていない。
買い物から手紙などのちょっとしたおつかいまでモリエールがやっているので必要ないのもあるが、杖をついてまで出かけるのが嫌なのだろうとみんななんとなく思っていた。
しかしタンジェントは気がついた。
そういえば今日のヨルトラは杖をつかずに自分の足だけで歩いている。
ゆっくりだが、確実に。
「杖なくて大丈夫なのか?」
「ゆっくりならな。ずっと練習していたのさ。やっぱり自分で穴も掘りたいしな」
そう言うとヨルトラは、からりと笑った。
まだ自力で歩きはじめたばかりのヨルトラは、そんなにたくさん動くことはできないが、その分ミルケラに指示を出してザクザクと必要なものを森から掘り出させて荷馬車に乗せ、今度は御者台によじ登る。
「帰りは私が御者をやろう!」
杖を捨てたヨルトラはやる気に満ちて、とても楽しそうで。
タンジェントとミルケラは、素直にうれしくなった。
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