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58 閑話 アラミス・ロンドリン・・・の父
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ルマリ・ロンドリン伯爵夫人は、その美しさを月に例えられた社交界の花である。
ちなみにマーリアル・フォンブランデイル公爵夫人は大輪のひまわりと呼ばれている。
それはさておき。
ルマリにそっくりな伯爵家次男坊アラミスは、銀の髪にスカイブルーの瞳を持つ美しいこどもだった。
しかし、アラミスは自分が美少年とは思っていない。その容姿からおとなしそうに見られるが、剣を振り回したり、木に登って高いところから飛び降りたりするのが好きな活発なこどもである。
体を動かすことと、もう一つアラミスが大好きなことが発明だ。
といっても五歳でたいしたことができるわけではないが。
最初の発明は。
手水の桶の隣りに置かれた手ぬぐいは、手水から溢れた水でいつも濡れている。置かずに吊るせば余計には濡れないし、手が拭きやすいなと、竿をもらい、その先に吊るしてみた。
すると、手を拭いたあとに乾くのも早くなってみんなに喜ばれたのだ。
それから屋敷の中で、もっとみんなが便利になることがないか探して歩くようになった。
とても小さなことなのだが、アラミスが少しだけ何かを変えると、とっても便利になった!と使用人が喜んでくれるのがうれしくて。
アラミスは誰かを喜ばせるのが大好きになった。
公爵家から来た家庭教師ターナルに習うようになって、読み書きがすんなりできるようになった。
伯爵家に元からいる家庭教師は、まるで自分の手柄のように言っていたが、ターナルのおかげだ。
アラミスにはわかっていた。
教え方が全然違う!
ターナルはいい先生だと、身を持って気づいたアラミスはいろいろな質問をぶつけ、ターナルは五歳にしてその聡明さに舌を巻いた。
アラミスは文官になれば、さぞその力を活かせるだろうと家庭教師は見込んだのだが。
剣の稽古も大好きだ。
普段は屋敷の騎士に相手をしてもらっているが、時折領地が近いトレモルのところにも行く。年の近い者と切磋琢磨して稽古した方がともに成長できると考えた父が手配してくれたのだ。
今日はその父ダルスラと馬車に乗って、モンガル伯爵家に向かっていた。
行く道すがら、アラミスは屋敷のどこを直してみたいとか、使用人の誰が不便そうにしごとをしていたなど、そんな話をひたすら父にする。
ダルスラが、アラミスのこういうところは一体誰に似たんだろうと考えているとも知らずに。
もちろん、アラミスがダルスラとルマリのこどもであることは疑いようもない。
アラミスは母ルマリによく似ているが、抜けるような青空を思わせるスカイブルーの瞳はロンドリン家のものだから。
身体能力が高いので騎士もいいとは思うが、細かいことにやたら気づいて戦いのなかで気がそれたら危険だ。文官なんかどうだろう?など、アラミスがなるべく苦労しないようにと様々な職種を想像で当てはめ、ああでもないこうでもないと頭の中で心配をくり返すダルスラこそに、アラミスが似ているとは気づいていなかった。
モンガル家に着くと、こどもたちは早速稽古を始める。
公爵家から派遣された騎士ワーキュロイが今日の先生だ。
ふたりは木剣を渡され、柔軟体操と素振りから始める。
ワーキュロイはトレモルを見つめていた。身体能力含め、剣技の適性は年齢を考えたら相当高い。やればやっただけ身につくようで、本人もそれがわかっているから、自分でも積極的に鍛練を積んでいるのだろう。
アラミスもなかなか足腰がしっかりしているが、どちらかと言えばトレモルかと見ていた。
素振りを終えてトレモルがアラミスと打ち合いを始める。
トレモルはセンスがある!
ワーキュロイは立ち位置や間合いの取り方など、五歳の目覚めたばかりの才能をじっくり観察した。
しばらくすると面白いことに気づいた。
アラミスは、一度トレモルに踏み込まれると、すぐに修正して次を許さない。
最初はトレモルが圧倒的だと思っていたが、だんだんアラミスが優勢になっていった。
どこが分岐になったんだろう?
トレモルの打ち出す手を吸収し、自分の手として攻撃に防御にと即アレンジしているとしたら、アラミスの才能は凄いものでは?
剣技がどこまで伸びるかは未知数だ。
体の成長も。
ワーキュロイはできれば自分の手で、二人を一人前の剣士に育てたいと思うようになっていた。
アラミスがトレモルの剣を討ち取り、悔しそうなトレモルと戻ってくると、ダルスラが息子を迎えて顔の汗を拭いてやる。ダルスラは息子がここまで打ちあえるとは知らなかった。
ワーキュロイと同じように、もしかしたら才能があるのでは?と気づいたのだ。
今は軍務にはついていないが、ダルスラは優秀な射手だ。
剣を振るとまわりの細かいことが気になって集中できないのだが、弓は離れたところから射かけることができ、周りに気を散らさず力を発揮できる。
だからアラミスも気が逸れたら危ないと心配していたが、やっぱりこれは騎士かな?とぼんやり思った。
「おとうさま?」
無言で髪に流れた汗をぐりぐりと拭う父を、アラミスが見上げてくる。
「でもおとうさまは騎士はやっぱりイヤだよ、危ないよ」
一言そう言ってアラミスを抱き締め、叫んだ。
「元気で長生きが一番だぞ!アラミスー!」
また頭の中で騎士になったアラミスが怪我をしたらと想像し、そんなの嫌だ!と五歳の息子に抱きついたのだった。
トレモルが目を丸くして父に抱きつかれているアラミスの肩を叩くと、アラミスは美しい口を動かして声を出さずにダイジョウブ!と答えた。
目は笑っている。
ダルスラ・ロンドリン伯爵と言えば、百発百中の射手としてその凄腕が有名な男だ。
美しい妻ルマリと、美しい息子アラミス。
すべて持っていると思われている男のちょっと情けない言動に、その場にいた男たちは呆気にとられ、それから一斉に笑い転げた。
ちなみにマーリアル・フォンブランデイル公爵夫人は大輪のひまわりと呼ばれている。
それはさておき。
ルマリにそっくりな伯爵家次男坊アラミスは、銀の髪にスカイブルーの瞳を持つ美しいこどもだった。
しかし、アラミスは自分が美少年とは思っていない。その容姿からおとなしそうに見られるが、剣を振り回したり、木に登って高いところから飛び降りたりするのが好きな活発なこどもである。
体を動かすことと、もう一つアラミスが大好きなことが発明だ。
といっても五歳でたいしたことができるわけではないが。
最初の発明は。
手水の桶の隣りに置かれた手ぬぐいは、手水から溢れた水でいつも濡れている。置かずに吊るせば余計には濡れないし、手が拭きやすいなと、竿をもらい、その先に吊るしてみた。
すると、手を拭いたあとに乾くのも早くなってみんなに喜ばれたのだ。
それから屋敷の中で、もっとみんなが便利になることがないか探して歩くようになった。
とても小さなことなのだが、アラミスが少しだけ何かを変えると、とっても便利になった!と使用人が喜んでくれるのがうれしくて。
アラミスは誰かを喜ばせるのが大好きになった。
公爵家から来た家庭教師ターナルに習うようになって、読み書きがすんなりできるようになった。
伯爵家に元からいる家庭教師は、まるで自分の手柄のように言っていたが、ターナルのおかげだ。
アラミスにはわかっていた。
教え方が全然違う!
ターナルはいい先生だと、身を持って気づいたアラミスはいろいろな質問をぶつけ、ターナルは五歳にしてその聡明さに舌を巻いた。
アラミスは文官になれば、さぞその力を活かせるだろうと家庭教師は見込んだのだが。
剣の稽古も大好きだ。
普段は屋敷の騎士に相手をしてもらっているが、時折領地が近いトレモルのところにも行く。年の近い者と切磋琢磨して稽古した方がともに成長できると考えた父が手配してくれたのだ。
今日はその父ダルスラと馬車に乗って、モンガル伯爵家に向かっていた。
行く道すがら、アラミスは屋敷のどこを直してみたいとか、使用人の誰が不便そうにしごとをしていたなど、そんな話をひたすら父にする。
ダルスラが、アラミスのこういうところは一体誰に似たんだろうと考えているとも知らずに。
もちろん、アラミスがダルスラとルマリのこどもであることは疑いようもない。
アラミスは母ルマリによく似ているが、抜けるような青空を思わせるスカイブルーの瞳はロンドリン家のものだから。
身体能力が高いので騎士もいいとは思うが、細かいことにやたら気づいて戦いのなかで気がそれたら危険だ。文官なんかどうだろう?など、アラミスがなるべく苦労しないようにと様々な職種を想像で当てはめ、ああでもないこうでもないと頭の中で心配をくり返すダルスラこそに、アラミスが似ているとは気づいていなかった。
モンガル家に着くと、こどもたちは早速稽古を始める。
公爵家から派遣された騎士ワーキュロイが今日の先生だ。
ふたりは木剣を渡され、柔軟体操と素振りから始める。
ワーキュロイはトレモルを見つめていた。身体能力含め、剣技の適性は年齢を考えたら相当高い。やればやっただけ身につくようで、本人もそれがわかっているから、自分でも積極的に鍛練を積んでいるのだろう。
アラミスもなかなか足腰がしっかりしているが、どちらかと言えばトレモルかと見ていた。
素振りを終えてトレモルがアラミスと打ち合いを始める。
トレモルはセンスがある!
ワーキュロイは立ち位置や間合いの取り方など、五歳の目覚めたばかりの才能をじっくり観察した。
しばらくすると面白いことに気づいた。
アラミスは、一度トレモルに踏み込まれると、すぐに修正して次を許さない。
最初はトレモルが圧倒的だと思っていたが、だんだんアラミスが優勢になっていった。
どこが分岐になったんだろう?
トレモルの打ち出す手を吸収し、自分の手として攻撃に防御にと即アレンジしているとしたら、アラミスの才能は凄いものでは?
剣技がどこまで伸びるかは未知数だ。
体の成長も。
ワーキュロイはできれば自分の手で、二人を一人前の剣士に育てたいと思うようになっていた。
アラミスがトレモルの剣を討ち取り、悔しそうなトレモルと戻ってくると、ダルスラが息子を迎えて顔の汗を拭いてやる。ダルスラは息子がここまで打ちあえるとは知らなかった。
ワーキュロイと同じように、もしかしたら才能があるのでは?と気づいたのだ。
今は軍務にはついていないが、ダルスラは優秀な射手だ。
剣を振るとまわりの細かいことが気になって集中できないのだが、弓は離れたところから射かけることができ、周りに気を散らさず力を発揮できる。
だからアラミスも気が逸れたら危ないと心配していたが、やっぱりこれは騎士かな?とぼんやり思った。
「おとうさま?」
無言で髪に流れた汗をぐりぐりと拭う父を、アラミスが見上げてくる。
「でもおとうさまは騎士はやっぱりイヤだよ、危ないよ」
一言そう言ってアラミスを抱き締め、叫んだ。
「元気で長生きが一番だぞ!アラミスー!」
また頭の中で騎士になったアラミスが怪我をしたらと想像し、そんなの嫌だ!と五歳の息子に抱きついたのだった。
トレモルが目を丸くして父に抱きつかれているアラミスの肩を叩くと、アラミスは美しい口を動かして声を出さずにダイジョウブ!と答えた。
目は笑っている。
ダルスラ・ロンドリン伯爵と言えば、百発百中の射手としてその凄腕が有名な男だ。
美しい妻ルマリと、美しい息子アラミス。
すべて持っていると思われている男のちょっと情けない言動に、その場にいた男たちは呆気にとられ、それから一斉に笑い転げた。
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