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56 こどもドレイファス団

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 こどもたちをプレイルームに任せ、あっという間に神殿への道を往復した公爵たちは応接に籠もった。

 ドリアンは急がなくていいと思っていたが、決まったなら早く固めたほうが安心していられる。思いのほかすべてがサクサクと進んでいった。

 五歳で将来の側近が決まってしまってよいのかというと、迷いがまったくないわけではないが。

 ドレイファスとの相性だけならもっと長い目でというところだが、マーリアルの人を見る目というか勘は侮れない。妻が良いといったら、それは良い縁に違いないのだ。

 神殿契約を済ませてきた三組の夫婦とヌレイグを前に、ドリアンはさっさと秘密を話した。マトレイドのようにもったいぶったりはしない。
 公爵家の初代夫妻と王家との関係、初代の奥方から受け継いだ秘密のスキルとそれを活かして今やっていること。

 皆の顔が青褪める。
 いきなり重すぎたか?とドリアンは皆がかわいそうになったが、いつか聞くか今聞くかだけの違いだ。

「はあぁ」

 ワルターが大きなため息を吐いた。

「ドリアン・・・、そんなこといきなり話すなよ、腰が抜けるぞ」

 ワルターは親類で学友でもある。
 普段はフランクに話せる仲、ただ皆の手前上下関係を守っていたのだが。面倒くさくなったらしく、とうとう被っていた猫の皮を投げ捨てたようだ。

 
 まだ口をきけずに俯く者もいたが、意外にも奥方たちは立ち直りが早かった。

「先日皆様にお出ししたレッドメルは、我が家で育てたものなのよ」

 マーリアルが自慢すると、すごい!信じられない!と瞳をキラキラさせてマーリアルを質問攻めにしている。

「外部に知られたらドレイファスに、また公爵家に危険が及ぶことは間違いない。かと言って、何も知らせずにそばに置くのはこどもが危険だし、不満にも繋がるだろう?秘密は徹底的に守られねばならない。故に神殿契約で縛らせてもらったんだ」

 ふっと一息ついて続ける。

「こどもの口は閉じておくことはできないと思うので、学院に入るまではこの秘密を知らせる気はない。入学する頃には分別もつくだろうから、その頃神殿契約を交わしてくれればいい」

 ドリアンがよく考えて導き出したそれは、誰の耳にも納得・・・できたかはわからないが、するしかないなと腹に落とし込むことはできた。

「一蓮托生」

 ヌレイグがぽつっと呟く。

「いいね、悪くないよドリアンとなら」

 同じ船に乗る覚悟を決めた九人が、その部屋にいた。

 それからは家庭教師や剣術など、学院にあがるまでの打ち合わせに、離れたところに住むこどもたちを定期的に公爵家に泊まらせて結束を高めようなど、いろいろなことを決めていった。

 こどもが泊まるときは親も一緒に。

 ヌレイグがトレモルと寝起きを共にして、初めて通じ合えることがあったという言葉がきっかけになり、他の家族もやってみたくなったようだ。
 ドリアンもマーリアルも、また他の親もこどもは乳母や侍女に任せっきりでともに眠ったことはなかったから。

「なんだか、すごく楽しみになってきたわ」

 マーリアルが陽気に言い放ったことで、重く考えるより前を向こうと、なんとなくみんなそんな気持ちになることができた・・・気がした。




 プレイルームでは、五人のこどもたちがメイベルを囲んで積み木をしている。護衛もいるが、部屋の外で待機中だ。ちなみに今日はルジーは休み。

「あ!もっと丁寧に、角を合わせないと崩れてしまいますよ!」

 メイベルにびしびし叱られているのだが、みんな楽しそうだ。誰が一番高く積めるかを競っていて、雑に積むとすぐ崩れてしまうのは本当だった。

「あー、のど乾いた」

 ドレイファスが床に足を投げ出して座り込むと、メイベルはチラッとこちらの目を見たはずなのにやり過ごした。

「あー、のど乾いた、のど乾いた」

 ドレイファスもムキになってさらにくり返す。

 まずトレモルが吹き出し、カルルドも笑ってしまう。

「僕、果実水もらってきます」

 カルルドが立ち上がると、メイベルは慌てて止め、自分で取りに部屋を出て行った。
 戻ってきたとき、手にはトレーにのせた五個のカップと、出かけていたはずの大人たちを引き連れている。

「ちょっと聞いてくれ」

 ドリアンが話しかけると、積み木を持ったまま、こどもたちがくるりと顔を向けた。

「君たちのお父上、お母上とも話して決めたことがある」

 ドリアンは息子の側に寄り、柔らかい金の髪をもしゃもしゃと撫でながら話す。

「ドレイファス、今日から彼らはおまえの側近候補になった。と言っても、なんのことだかわからないだろうな。うん。
 今日からみんながドレイファスの仲間になったんだ。ほらあれだ!ドレイファス団になるんだ。
 だからドレイファスはみんなを守ってやらなくてはいけない、そして、みんなもドレイファスを守ってやってくれるか?」

 ドレイファスが誰より先に声をあげる。

「ほんとに?やったぁ!」

 トレモルとシエルド、アラミスが立ち上がってドレイファスと跳ねまわり。カルルドだけモジモジして母に抱きついている。

 男子五人、このまま仲よく元気に成長してくれますようにと、カルルドの母は心で願い、ひとり母に甘えにきた息子を仲間の輪に押し戻してやった。



 三日後。
 ドレイファスは初めて、父の寝室でともに眠った。母は懐妊中だから安全のため別室だが。
 眠りにつく瞬間までいろいろと話しながら父が髪を撫でてくれ、父の香りに包まれながら初めての温かさを感じてとても深く眠った。




 こどもたちが定期的に集まるようになると、おもちゃを巡って少年同士小競り合いの喧嘩をすることもあったりしたが、いつもドレイファスが上手に仲裁をしてまとめていた。

 ドレイファスは少年同士のことで困ることがあると、まずルジーに助けを求める。
 ルジーは拗れの原因を見定めるのがうまく、教わったとおりに話すとすぐ仲直りができるのだ。

 仲間たちと過ごす以外は家庭教師との勉強と剣の稽古、それからタンジーたちと離れで水やりや観察を続けている。

 ドレイファスは、誰からも畑について口止めされたわけではないのだが、こども心にこれは秘密だと弁えていたので仲間たちにも話したことはない。

 タンジーやヨルトラ爺はまだ秘密なのだ!
 秘密ってなんだかカッコいい!

 ドレイファスはそう思って口をつぐんでいた。

 ところで。
 新館が建ったときに、もう一つ生まれた新しい秘密がある。

 公爵家の土魔法使いは四人。道路の敷設や土砂崩れなどの復旧作業に出る土木士だ。
 今回ドリアンはその四人に依頼して、新館の階段の裏に隠し部屋を用意させ、そこから離れまで地下通路を作らせて繋げた。
 新館と離れは、あいだに公爵領の役所があるだけで、門の外に出て歩いてもあいだに屋敷一軒ほどの距離だ。あっという間に着くのだが、それでも誘拐を警戒して地下を歩けるように作ってしまった。

 今ドレイファスは、ルジーと探検のようにこの地下通路を歩くのがお気に入りで、本当はトレモルたちにも教えたくてウズウズしている。
 でも、ルジーにまだ絶対ダメと言われているから我慢我慢。他の誰でもない、ルジーがダメというのはよほどのことだと。
 ドレイファスはちゃあんとわかっていたのだ。



 朝夕と離れに行くと、水やりをする他に、夢で見たものの話をヨルトラ爺やミルケラに聞いてもらう。
 ときどき絵も描くこともある。
 そうすると、いつの間にかミルケラが作ってくれることもあって!
 何でも教えてくれて、何でも作ってくれる庭師たちが本当に本当に大好きだ。

 今はミルケラが、そっくりの顔をしたメルクルとふたりでスライム小屋を大きくしているところ。
 最初のスライム小屋は分解して、今は新しくペリルの畑を覆うように作り直されている。
 春や夏に植えていた植物の根や株を来年のために残したものも、スライム小屋に入れて寒くならないように守ってやるといっていた。

 そのためにメルクルはしょっちゅうスライムを取りに行く。いくらとってきても、乾燥させると縮んでしまうので足りないらしい。
 メルクルが狩りに行った次の日は、畑にたくさんのスライムが干してあるからすぐわかるのだ。カチカチスライムができるたびに、庭園があったところに新しいスライム小屋が増えている。

「ねえミルケラ?この葉っぱはなあに?」

 新しいスライム小屋の中にとても小さい葉っぱが一列に並んでいるのを、ドレイファスが見つけた。

「それはスピナル草だよ。前にあった草を枯れるまで置いておいたら粒が取れてね、それを試しに植えてみたら葉っぱの赤ちゃんが出てきたのさ」

「赤ちゃん、スライム小屋の中なら寒くないよね?」

 ミルケラが寒くないから大丈夫と頭を撫でながら言ってくれた。

 葉っぱの赤ちゃんに水をやりたかったけど、水やりの勢いで流れてしまうかもしれないからと止められた。
 こういうのは水魔法でものすごく細かい水滴が飛ばせるアイルムしかできない。
 ドレイファスも魔法属性はあるのだが、まだ使うことはできないので、アイルムが羨ましかった。

(いつになったら魔法の練習させてもらえるんだろう?おとうさまにきいてみよう・・・)

 魔法で水やりができるようになるまでは、メルクルが作ってくれた小さな水やり樽で、そっと撒くしかない。
 これはドレイファスでも軽々と持つことが出来て、とっても使いやすいので気に入っている。

 ドレイファスは、早くトレモルやカルル ドたちに庭師を紹介したいなと。
 本当にその日が待ち遠しくてたまらなかった。
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