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43 大好物だから
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ガタゴトガタゴトと馬車の車輪が地面を踏むたびに音を立て少し傾ぐ。
馬の蹄の音と合わさって長閑過ぎて眠気に襲われるが、タンジェントとアイルムは声を掛け合って最初の目的地についた。
そこは公爵邸から馬車で一刻半ほど。まだ公爵領だ。馬車でも入れる畦道を少し進むと、目の前にグリーンロールと呼ばれる葉っぱの塊が群生している。
しかし広さはそう大きくなく、国の基準の半分もないだろう。採取自由な群生地のため、何人もの人がグリーンロールを根元からナイフで切り取っている。
タンジェントは根元から掘り出して馬車に積みたいのだが。そんなことをやっている者はいないので、かなり目立ちそうなのが心配なところだ。
「ここでは誰かに断ってから貰えばいいのか?」
ローカルルールもあるだろうと、アイルムが近くにいた老人に訊ねると
「いんや、好きなのほじっていきなされや」
グリーンロールを指さして言ってくれた。
「ほじって?」
「そうさ。切り取るよりなあ、根っこが甘いからなるべく大きくほじったほうがいいなあ」
タンジェントとアイルムは顔を見合わせ、パッと破顔した!
マジか!ツイてる!
タンジェントはすぐ馬車から旧型の穴掘り棒を取ってきて、馬車の近くに生えていたグリーンロールを掘り出しにかかる。時間をかけて、傷つけないように気をつけながら。
そのうちにさっきの老人は姿を消し、人気がなくなったところで一気に・・・と言っても八個だが敷布に土ごと包んで馬車にのせた。
「グリーンロールの根っこなんて食べたことがなかったが、甘いとは!なんか得したな」
お得が大好きなタンジェントは歯をむき出して笑っている。
「さ、じゃ次行くぞ!」
今度は、山道を登っていく。
まわりの木々があまりに鬱蒼としていて、馬車の屋根が枝を払う。馬もいつになくゆっくりと進んでいた。
「なんかすごいところだな」
「それがいいんだよ、誰も来ないだろ」
何があるかは見てのお楽しみだと言って教えてくれないのだが。
「もう少しだ。ここから少しだけ歩く」
馬車を止めると、敷布と穴掘り棒を肩にかけたタンジェントが道を外れて木々につかまり、登り始めた。
「ちょっとだけ頑張れ」
振り返り、上を指さす。本当に20歩ほど登っただけで、目の前が拓けた。
「ここは俺の秘密の場所だが、特別だ」
そこには、丸々と人の顔より少し大きいくらいに育ったレッドメルがいくつも転がっていた!
「うおっ!こりゃレッドメルじゃないか!もう?ずいぶん早いんじゃないか?」
「早生らしい。昔からここだけ、どこより早く生ってるんだよ。見つけにくいところだから俺ときどきこっそり取りに来てたんだ」
指で軽く叩くと、水をたっぷり含んだ音がする。
「これは一度に何個も持てないから、何度か馬車まで往復しないとならんが、なるべくたくさん持ち帰りたい。これ大好きなんだよ俺!植える分と食べる分、何個持って帰ろうか?」
タンジェントが、うれしそうに一玉抱えて頬ずりする。ちなみにアイルムも大好物だ。
「誰もいないうちに、早く採取しようぜ!」
敷布を広げてから、近くに生っていたレッドメルとそれに繋がる茎を辿る。茎から地面に伸びる根を辿り、傷つけないように掘り出して。
もちろん土を落とさないように。
大きなレッドメルの実をつけた株は根の土ごと敷布にのせる。敷布をくるっと結わえて背負うと馬車へ運ぶ。また斜面を登り、レッドメルを掘り出していく。
株を馬車にのせるとタンジェントは満足したらしく、次に行くか!と声をかけてきた。
馬車に戻ると、そのまま山道を登っていく。
「下りないのか?」
「うん、この先にブラックガーリーがあるんだ」
ブラックガーリー!
それは調味料の種類が少ないこの世界で、風味や香りづけにもっとも使われている、所謂にんにくの一種。
アイルムは、ガーリーで焼いた肉の香りを思い出してゴクンと唾を飲み込んだ。
山を登りきると、緩やかに下り始める。
しばらく走ると左に入る小道からまた少し登る。道はどんどん狭くなり、馬車で進むのが不安になるほどだがタンジェントは迷うことなく馬を進める。
「アイルム、ちゃんと道覚えてるか?この辺は強い魔物はいないからそのへんは楽だが、道が入り組んでるので気をつけたほうがいいぞ。
次からはひとりだからな」
それからさらに進んだ先でそっと馬を止め、馬車から敷布をおろして担いで歩き出した。
「ブラックガーリー、なってるところみたことあるか?」
「いや、ない。初めてだよ」
庭師は、草花や樹木は詳しいが野菜などの作物はまったくわからないのだ。
「俺、一番最初にブラックガーリーを見つけて食べられるって発見したやつ、すごいと思ったよ」
タンジェントが前を向いたまま、そう言った。
木の枝に絡んだ蔦が垂れ下がるのを手で除けながら歩いて行くのだが、この道覚えられるだろうかとアイルムが不安になったとき。
「着いた!」とタンジェントが振り返った。
その先にあるのは、ツンと先を尖らせたような硬そうな葉の群れ。ガーリーなどどこにも無さそうだが?とアイルムが目を見開くのを見て、タンジェントが面白そうに笑う。
その葉を一掴みし、根元あたり目がけて穴掘り棒を土に挿し込んで体重をかけると小さなメリっという音とともにガーリーが姿を現した。
「根っこに?」
「うん。これはアイルムに見せるのに引っこ抜いたけど、他のはちゃんと採取するぞ!」
「何本くらい?」
「誰もいないし、なるべくたっくさん持ち帰りたい。厨房のやつらも喜ぶだろうしな」
それから二人は、ひと株ごとに根の張りを確認して、丁寧に掘り起こしては敷布に包んだ。
かなりの時間を費やしたが、その間誰ひとり来なかったので、グリーンボールのときのような気遣いなしに採りたいだけ採ってしまった。
「腹減ったな。そろそろ馬車に戻るか?」
二人は、来たときよりはるかに重い荷物を担ぎ上げて、そろそろと斜面を下りていった。
たぶん昼はとうの昔に過ぎただろう。夢中になりすぎた。
御者台にあがり、厨房で分けてもらったブレッドと肉を食べる。いつもより更に固くなったブレッドでも、空きっ腹には御馳走だ。スープがほしいが、さすがにない。
今夜は厨房でおかわりでももらえるといいな。
道を覚えるために採取はこれで終わりにして明るいうちに公爵邸へと戻る。
ブラックガーリーをたくさん持って厨房に寄ったタンジェントとアイルムは、夕餉にもういらないと言うまで、肉もスープも食べ放題の歓待を受けた。
アイルムは、なんかとっても幸せだと。
そんな風に思える夜だった。
チュンチュンと鳥の鳴く声に目覚めると、アイルムはすぐ着替えて外に向かう。ミルケラ以外は庭に出ていて、昨夜のうちに馬車から下ろして水魔法で湿らせた敷布を、剥がしているところだった。
グリーンロール、レッドメルとブラックガーリー。
土が交ざらないよう置く場所を離して、根についた土をタンジェントが鑑定したら、モリエールが記録し、それにそって土や葉をそれぞれを植える予定の畑に混ぜ込んでいく。
鑑定して適性を確認し、また調整を三種類分続けるうち、ドレイファスがやってきた。
自分で厨房に行くことはないので、まるのままのグリーンロールやレッドメルは初めて見たらしい。
特にレッドメルの大きさに、目と口をポカンと開けたのがたまらなく可愛らしかった。
「しゅごいっ!おおおっきいぃねーっ!」
ルジーが護衛に就いたばかりの頃より、格段に滑舌はよくなったのだが、びっくりしすぎたり興奮すると噛んでしまうのは相変わらずだ。
「これ、なに?」
聞けばどれほどしつこくしてもなんでも答えてくれるヨルトラの手を握ってレッドメルの前に連れてくる。
「なんと!ドレイファス様はレッドメルを食べたことがないのですか?」
「うーん?ルジーぼくたべたことある?」
「ん?レッドメルか?どうだろうな、メイベル嬢ならわかるだろうけど。というか俺は食堂でレッドメルが出たのを見たことがないぞ。食事以外でおやつに出てたらわからんが」
タンジェントがニヤニヤしながらやって来る。
「なあルジー、メイベル嬢を呼んできてくれないか?」
「メイベル嬢を?なんで」
「いいから早く、ホラ」
ルジーを急きたてて迎えにやらせると、とってもイヤそうな顔なのに足もとは軽やかに、屋敷へと走って行った。
少しして、メイベルがルジーと二人庭に下りて来る。
メイベルは妹リンラと違い、滅多に畑に来ることがなかったので、初めてみるものに目を見開いている。
「メイベル嬢、ひさしぶりだね」
「タンジェント様、ごきげんよう」
「なんだメイベル嬢!俺にはそんな口きかないくせに」
ルジーがからかうが、メイベルは知らんぷりだ。
「つーか、おまえたち親しかったのか?」
「ルジー。庭師は奥方様や侍女殿に部屋に飾る花をお届けするのも仕事なんだよ」
タンジェントが馬鹿にしたように言うと、
「それっくらい知ってたけどな!」とふて腐れた。
(こどもか?)
その場にいた者はみな、ルジーをチラ見したが。あえて誰も突っ込まない。
おとなだから。
「メイベル嬢、ドレイファス様はレッドメルを召し上がったことはあるのかな?」
タンジェントの手にある大きなレッドメルを見て、質問の意図がわかったようだ。
「なかったと思いますわ。レッドメルってなかなか手に入らないですし、同じ季節に出回るものでしたら奥様はピンクピートを召し上がられますね」
「お好きではないのかな?」
「いいえ、その逆です。マーリアル様は
レッドメルが好きすぎて止まらなくなるから、見ないようにされているのですわ」
(もし、庭で作れるようになったら、どんなになるんだろうな奥様・・・)
「じゃあ、お分けするのはやめるか」
「あ、やっぱりそれ、そうですよね?でも早くないですか?」
「本物だよ。早く出来る種類なんだ。もしよければ奥様にと思って多めに採ってきたんだけど」
「お待ちください、すぐお伺いして参りますわ」
そう言うと、スカートの端をつまんで小走りに屋敷へ戻って行った。
「おい。ああいうのは行儀悪くないのか?」
むくれたようにルジーが口を尖らせた。
馬の蹄の音と合わさって長閑過ぎて眠気に襲われるが、タンジェントとアイルムは声を掛け合って最初の目的地についた。
そこは公爵邸から馬車で一刻半ほど。まだ公爵領だ。馬車でも入れる畦道を少し進むと、目の前にグリーンロールと呼ばれる葉っぱの塊が群生している。
しかし広さはそう大きくなく、国の基準の半分もないだろう。採取自由な群生地のため、何人もの人がグリーンロールを根元からナイフで切り取っている。
タンジェントは根元から掘り出して馬車に積みたいのだが。そんなことをやっている者はいないので、かなり目立ちそうなのが心配なところだ。
「ここでは誰かに断ってから貰えばいいのか?」
ローカルルールもあるだろうと、アイルムが近くにいた老人に訊ねると
「いんや、好きなのほじっていきなされや」
グリーンロールを指さして言ってくれた。
「ほじって?」
「そうさ。切り取るよりなあ、根っこが甘いからなるべく大きくほじったほうがいいなあ」
タンジェントとアイルムは顔を見合わせ、パッと破顔した!
マジか!ツイてる!
タンジェントはすぐ馬車から旧型の穴掘り棒を取ってきて、馬車の近くに生えていたグリーンロールを掘り出しにかかる。時間をかけて、傷つけないように気をつけながら。
そのうちにさっきの老人は姿を消し、人気がなくなったところで一気に・・・と言っても八個だが敷布に土ごと包んで馬車にのせた。
「グリーンロールの根っこなんて食べたことがなかったが、甘いとは!なんか得したな」
お得が大好きなタンジェントは歯をむき出して笑っている。
「さ、じゃ次行くぞ!」
今度は、山道を登っていく。
まわりの木々があまりに鬱蒼としていて、馬車の屋根が枝を払う。馬もいつになくゆっくりと進んでいた。
「なんかすごいところだな」
「それがいいんだよ、誰も来ないだろ」
何があるかは見てのお楽しみだと言って教えてくれないのだが。
「もう少しだ。ここから少しだけ歩く」
馬車を止めると、敷布と穴掘り棒を肩にかけたタンジェントが道を外れて木々につかまり、登り始めた。
「ちょっとだけ頑張れ」
振り返り、上を指さす。本当に20歩ほど登っただけで、目の前が拓けた。
「ここは俺の秘密の場所だが、特別だ」
そこには、丸々と人の顔より少し大きいくらいに育ったレッドメルがいくつも転がっていた!
「うおっ!こりゃレッドメルじゃないか!もう?ずいぶん早いんじゃないか?」
「早生らしい。昔からここだけ、どこより早く生ってるんだよ。見つけにくいところだから俺ときどきこっそり取りに来てたんだ」
指で軽く叩くと、水をたっぷり含んだ音がする。
「これは一度に何個も持てないから、何度か馬車まで往復しないとならんが、なるべくたくさん持ち帰りたい。これ大好きなんだよ俺!植える分と食べる分、何個持って帰ろうか?」
タンジェントが、うれしそうに一玉抱えて頬ずりする。ちなみにアイルムも大好物だ。
「誰もいないうちに、早く採取しようぜ!」
敷布を広げてから、近くに生っていたレッドメルとそれに繋がる茎を辿る。茎から地面に伸びる根を辿り、傷つけないように掘り出して。
もちろん土を落とさないように。
大きなレッドメルの実をつけた株は根の土ごと敷布にのせる。敷布をくるっと結わえて背負うと馬車へ運ぶ。また斜面を登り、レッドメルを掘り出していく。
株を馬車にのせるとタンジェントは満足したらしく、次に行くか!と声をかけてきた。
馬車に戻ると、そのまま山道を登っていく。
「下りないのか?」
「うん、この先にブラックガーリーがあるんだ」
ブラックガーリー!
それは調味料の種類が少ないこの世界で、風味や香りづけにもっとも使われている、所謂にんにくの一種。
アイルムは、ガーリーで焼いた肉の香りを思い出してゴクンと唾を飲み込んだ。
山を登りきると、緩やかに下り始める。
しばらく走ると左に入る小道からまた少し登る。道はどんどん狭くなり、馬車で進むのが不安になるほどだがタンジェントは迷うことなく馬を進める。
「アイルム、ちゃんと道覚えてるか?この辺は強い魔物はいないからそのへんは楽だが、道が入り組んでるので気をつけたほうがいいぞ。
次からはひとりだからな」
それからさらに進んだ先でそっと馬を止め、馬車から敷布をおろして担いで歩き出した。
「ブラックガーリー、なってるところみたことあるか?」
「いや、ない。初めてだよ」
庭師は、草花や樹木は詳しいが野菜などの作物はまったくわからないのだ。
「俺、一番最初にブラックガーリーを見つけて食べられるって発見したやつ、すごいと思ったよ」
タンジェントが前を向いたまま、そう言った。
木の枝に絡んだ蔦が垂れ下がるのを手で除けながら歩いて行くのだが、この道覚えられるだろうかとアイルムが不安になったとき。
「着いた!」とタンジェントが振り返った。
その先にあるのは、ツンと先を尖らせたような硬そうな葉の群れ。ガーリーなどどこにも無さそうだが?とアイルムが目を見開くのを見て、タンジェントが面白そうに笑う。
その葉を一掴みし、根元あたり目がけて穴掘り棒を土に挿し込んで体重をかけると小さなメリっという音とともにガーリーが姿を現した。
「根っこに?」
「うん。これはアイルムに見せるのに引っこ抜いたけど、他のはちゃんと採取するぞ!」
「何本くらい?」
「誰もいないし、なるべくたっくさん持ち帰りたい。厨房のやつらも喜ぶだろうしな」
それから二人は、ひと株ごとに根の張りを確認して、丁寧に掘り起こしては敷布に包んだ。
かなりの時間を費やしたが、その間誰ひとり来なかったので、グリーンボールのときのような気遣いなしに採りたいだけ採ってしまった。
「腹減ったな。そろそろ馬車に戻るか?」
二人は、来たときよりはるかに重い荷物を担ぎ上げて、そろそろと斜面を下りていった。
たぶん昼はとうの昔に過ぎただろう。夢中になりすぎた。
御者台にあがり、厨房で分けてもらったブレッドと肉を食べる。いつもより更に固くなったブレッドでも、空きっ腹には御馳走だ。スープがほしいが、さすがにない。
今夜は厨房でおかわりでももらえるといいな。
道を覚えるために採取はこれで終わりにして明るいうちに公爵邸へと戻る。
ブラックガーリーをたくさん持って厨房に寄ったタンジェントとアイルムは、夕餉にもういらないと言うまで、肉もスープも食べ放題の歓待を受けた。
アイルムは、なんかとっても幸せだと。
そんな風に思える夜だった。
チュンチュンと鳥の鳴く声に目覚めると、アイルムはすぐ着替えて外に向かう。ミルケラ以外は庭に出ていて、昨夜のうちに馬車から下ろして水魔法で湿らせた敷布を、剥がしているところだった。
グリーンロール、レッドメルとブラックガーリー。
土が交ざらないよう置く場所を離して、根についた土をタンジェントが鑑定したら、モリエールが記録し、それにそって土や葉をそれぞれを植える予定の畑に混ぜ込んでいく。
鑑定して適性を確認し、また調整を三種類分続けるうち、ドレイファスがやってきた。
自分で厨房に行くことはないので、まるのままのグリーンロールやレッドメルは初めて見たらしい。
特にレッドメルの大きさに、目と口をポカンと開けたのがたまらなく可愛らしかった。
「しゅごいっ!おおおっきいぃねーっ!」
ルジーが護衛に就いたばかりの頃より、格段に滑舌はよくなったのだが、びっくりしすぎたり興奮すると噛んでしまうのは相変わらずだ。
「これ、なに?」
聞けばどれほどしつこくしてもなんでも答えてくれるヨルトラの手を握ってレッドメルの前に連れてくる。
「なんと!ドレイファス様はレッドメルを食べたことがないのですか?」
「うーん?ルジーぼくたべたことある?」
「ん?レッドメルか?どうだろうな、メイベル嬢ならわかるだろうけど。というか俺は食堂でレッドメルが出たのを見たことがないぞ。食事以外でおやつに出てたらわからんが」
タンジェントがニヤニヤしながらやって来る。
「なあルジー、メイベル嬢を呼んできてくれないか?」
「メイベル嬢を?なんで」
「いいから早く、ホラ」
ルジーを急きたてて迎えにやらせると、とってもイヤそうな顔なのに足もとは軽やかに、屋敷へと走って行った。
少しして、メイベルがルジーと二人庭に下りて来る。
メイベルは妹リンラと違い、滅多に畑に来ることがなかったので、初めてみるものに目を見開いている。
「メイベル嬢、ひさしぶりだね」
「タンジェント様、ごきげんよう」
「なんだメイベル嬢!俺にはそんな口きかないくせに」
ルジーがからかうが、メイベルは知らんぷりだ。
「つーか、おまえたち親しかったのか?」
「ルジー。庭師は奥方様や侍女殿に部屋に飾る花をお届けするのも仕事なんだよ」
タンジェントが馬鹿にしたように言うと、
「それっくらい知ってたけどな!」とふて腐れた。
(こどもか?)
その場にいた者はみな、ルジーをチラ見したが。あえて誰も突っ込まない。
おとなだから。
「メイベル嬢、ドレイファス様はレッドメルを召し上がったことはあるのかな?」
タンジェントの手にある大きなレッドメルを見て、質問の意図がわかったようだ。
「なかったと思いますわ。レッドメルってなかなか手に入らないですし、同じ季節に出回るものでしたら奥様はピンクピートを召し上がられますね」
「お好きではないのかな?」
「いいえ、その逆です。マーリアル様は
レッドメルが好きすぎて止まらなくなるから、見ないようにされているのですわ」
(もし、庭で作れるようになったら、どんなになるんだろうな奥様・・・)
「じゃあ、お分けするのはやめるか」
「あ、やっぱりそれ、そうですよね?でも早くないですか?」
「本物だよ。早く出来る種類なんだ。もしよければ奥様にと思って多めに採ってきたんだけど」
「お待ちください、すぐお伺いして参りますわ」
そう言うと、スカートの端をつまんで小走りに屋敷へ戻って行った。
「おい。ああいうのは行儀悪くないのか?」
むくれたようにルジーが口を尖らせた。
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