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26 庭師、ぞろぞろ
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マドゥーンが組んだスケジュールで、五人の庭師と面談する日がやって来た。
屋敷の応接室で、マドゥーンとマトレイド、タンジェントが臨む。
「ストラデラ様、お一人目を案内してよろしいでしょうか?」
若い執事がマドゥーンに声をかけ、頷き返す。
「ストラデラ様?」
「まあ、下の執事たちにはそう呼ばれている」
「俺もそう呼ぶ?」
「いや、気持ち悪いからやめろ」
マドゥーンとマトレイドと副料理長のボンディは幼なじみである。タンジェント、ルジーとロイダルは、彼らより若いが、代々公爵家に仕える一族の子弟は、年齢差はあっても幼少よりともに過ごしており、今さら家名呼びする間柄ではない。
─コンコン─
最初の面談者がやって来た。
栗毛栗色目で身なりは清潔な若い男だ。
「自己紹介を頼む」
マトレイドが促す。
「この度は機会を賜り、ありがとうございます。
私はカーサル・サイマ男爵の三男、ヤンルイドと申します。
庭師はまだ経験が浅いのですが・・・アサルティ伯爵家でソイラス様に師事しておりました」
「アサルティ伯爵家?それは大変だったな」
マトレイドとマドゥーンが顔を見合わせる。
世事に疎いタンジェントは知らなかったが、伯爵の不敬事により一族連座の責任を問われ、廃爵が決定と見られている。使用人たちは他の貴族に仕事の口利きを依頼し始めたが、不祥事のあった家の使用人は、本人の身上だけでなく背後関係がクリアでなければ引受先はそうはないのが実情である。
しかも普通なら師匠と共に移るものだが・・・
そう簡単にはいかないのだろうな。
マトレイドにそう耳打ちされたタンジェントは淡々と、今まで師匠から何を学んだか。花以外の例えば木や果実など、花以外で庭園を飾ることもやろうと思っているが興味はあるか?雇用には神殿契約を結ぶ必要があることなどを話した。
ヤンルイドはたぶん平均的な男なのだろうと、様々な問への彼の答えを聞いて感じたタンジェントは、最後に彼の師匠ソイラスについて奇譚なく教えてほしいと請う。
「ソイラス様は優しい方です。ただ・・・奇想天外なところがあって、庭作りも少し奇抜な傾向があり、もう少し大人しい雰囲気の庭作りを学んでみたいと思いまして・・・」
奇想天外な庭師!
今の時点でロイダルが選んでいないということは、相応しくない何かがあるのだろうとは思うのだが。タンジェントはむしろ強く興味を惹かれた。
ヤンルイド自身は、可もなく不可もなくというところ。採用可否は改めて伝えるといい置いて退出させた。
「次の方をお連れしました」
扉が開くと、執事のひとりが艷やかな銀髪と濃い紫の瞳を持つ、こう言ってはなんだがとびきり美しい若い男を伴ってきた。肌も白くおよそ庭師には見えないのだが、ロイダルが選んだということは間違いなく庭師・・・?
「自己紹介を」またマトレイドが促す。
「はじめまして。私はモウンザール・ソラス子爵の三男、モリエールと申します。庭師の経験は浅いのですが、アサルティ伯爵家のソイラス様に師事しており・・・」
声も抜けるように高いな、と三人同じことを考えていたら、途中からヤンルイドとまったく同じ流れになって、顔を見合わせてしまう。
─ロイダルめ─
タンジェントはしかたなくヤンルイドと同じ質問をする。モリエールは一つ一つ考えながら答え、おおよそヤンルイドと似たようなものだと感じていた。
最後に、ソイラスについて訊ねてみた。
「はい、ソイラス様は、なんというかとても自由で楽しい方です。貴族でありながらそれに囚われることなく、感性で生きているような。私も自分自身の殻を破り、師匠のように、師匠にしか作り出せない世界を手にしたいです」
─ほお─
「ずいぶんソイラス様を慕われているようだが、共に新天地へとは考えないのか?」
モリエールは少し逡巡したあと言いづらそうに
「お怪我の具合が悪く、もう庭師はできないでしょう」
そう答えた。
「怪我が治ったら復帰できるのか?」
ソイラスに興味を持ったタンジェントが更に聞くと、しかたなさそうに、そして悔しそうに答えた。
「・・・足を斬られて・・・杖をつけば歩けそうですが仕事は難しいかと」
庭師は植物採取のために山や森に入り、魔獣に襲われることもある。ソイラスのように怪我で引退することもあるので、タンジェントは特に不思議に思わず、引き止めたことを詫びてモリエールを退出させた。
次も、アサルティ伯爵から流れてきた年齢的には中堅どころの庭師だった。
アサルティ伯爵家は一体何人の庭師を抱えていたんだ?公爵家でさえ、今は一人といえ、せいぜいタンジェントと師匠のふたりだったのに。
「失礼ながら、公爵家の庭師殿はまだお若いうちに継がれたようですな。私は師匠ソイラスよりすべての知識を受け継ぎ、やつを凌駕した技術を持っています。やつはやれ土を鑑定しろなどと言うのですが、そんなものに頼らずとも私が貴方に技術を教え、導けば立派な庭師になられるでしょう。ぜひ私を公爵家へ仕えさせてください。公爵閣下にもきっとご満足いただけます」
師匠をヤツ呼ばわりか?仕えさせろってなんだ?こんなやつはいらん!
と三人一斉に遠い目をしたが、本人はまったく気づいていないようだ。
「あの。申し訳ないが、あなたは公爵家の家訓家風には合わないようなので、此度のご縁はなかったことにしてください」
一方的に演説のように語る男に割り込んだマドゥーンが言うと、なっ?何を!と顔を赤くして怒鳴りかけたが、荒事ならお任せのマトレイドがさっさと部屋から叩き出す。
「なんだ、あれは!知りもしないでタンジーを下に見やがって」
両手をパンパンと叩くとソファに座りなおすが、マトレイドは腹の虫がおさまらないらしい。
「あとふたり、一気に片付けるか、少し待たせて私たちもひと休みするか」
「じゃあ茶でも飲みましょう」
タンジェントに応え、マドゥーンが扉の外に待機する執事に申しつける。
「もう三人か、まだ三人か・・・。なんか疲れたな」
言葉も少なくなる。
「タンジー、前の二人はどうだった?」
「モリエールがなかなかよさそうだったな」
「顔か?」
「はぁ?何言ってるんだか。男でアレは、逆に苦労してんじゃないか?そうじゃなくて、型にはまらないことを求めてるのは、ドレイファス様向きかと思ったまでだ」
私も彼はよさげだと思ったと、マドゥーンが賛意をみせた。
ヤンルイドは・・・新しい屋敷ならありかもしれないが微妙。
─ロイダルに仕事をサボらないよう注意しよう!─
マトレイドは三人アサルティ家が続いて、腹を立てていたが、タンジェントは、杖がないと歩けないというソイラスに気を取られていた。
知識と経験と技術。
聞く限りだが、奇想天外な発想力。
ロイダルが選ばなかったのは、足が悪いから?
しかし・・・さっきソイラスが土を鑑定しろと言ってなかっただろうか?
「マドゥーン、さっきのソイラスについてだが、庭師としては足が悪かったら仕事は難しいと思うんだが、もし新しい畑についてその知識や経験を俺に与えてくれるとしたら、そういうお目付け役的なもので雇うのはアリだろうか?」
「アリだ。畑に関し、誰をなんの役割で何人雇うかはすべてタンジェントに任せるようドリアン様から指示されている」
ええっ!そ、そこまでいいのか?と怯んだが、マトレイドが背中を軽く叩きながら、よかったなー好きにやれてとおおらかに言った。
「もちろん待たせている二人にも会うんだが、ソイラスについてロイダルに調べてもらえないだろうか?」
マトレイドは、パチっとウインクをした。
たぶん、了解と言ったつもりだろう。
タンジェントはちょっと気持ちが悪くなった。
「そろそろいいでしょうか?」
四人目の庭師が連れてこられる。
黒髪に茶色の瞳。年齢はマトレイドと同じくらいだろうか。
「ターロス・マインザール子爵の三男、アイルムです。インルート伯爵家の庭師モイズリー様に師事していましたが、モイズリー様のご子息が継承されることとなり、独立を勧められました」
独立しても、ほとんどの貴族は子飼いの庭師がいるので、フリーで受けられる仕事はそうはない。大きな商家が新しく貴族風の庭をつくりたいというときにチャンスが与えられる程度だから、どこかの貴族の庭師でいる方が安定する。
─安易に独立を勧めるのは、愛情ある師匠とは言えそうにないが、そうさせる何ががこの男にあるのか?─
「最後にモイズリー様について奇譚なく教えてほしい」
タンジェントの切り出しに、
「モイズリー様とご子息は、どちらかというと保守的な方です。私は創意工夫を試すのが好きですが、それはあまり好まれないと言いますか。
モイズリー様は貴族らしい花で飾られた純粋な美しい庭を好まれる方ですが、私は花以外も混在させた雑多な美しさも悪くないと思うもので、趣味趣向が少し違うようでございました」
困ったように髪をポリポリと掻いている。
聞くべきことを聞き、アイルムを退出させると、誰と働くかタンジェントの気持ちはだいたい固まっていた。
「最後のお一人のご案内を」
ん?そういえば。まだ残っていた!
三人はすでにお腹いっぱいな気分だが、会わずに帰すわけにもいかない。
マドゥーンが大きく頷いた。
扉が開くと、明るい栗毛の巻毛と薄青の瞳をした人懐こそうな若い男が立っていた。
「イズルス・グゥザヴィ男爵の八男、ミルケラです。イーサール子爵家で兄と働いていました。よろしくお願いします」
八男・・・!
三人は、この男がどうとかより、まずその事実に絶句した。ずいぶん子沢山な。高位貴族でも次男以下はなかなか大変なことが多いので、ただそれだけで同情を覚えた。
「兄弟が多いんだね?」
そこを聞いてよいのか迷いながらタンジェントが切り出した。
「はは、そうなんです。女の子が生まれるまではって八人男で最後にようやく妹が生まれたんですが、そのせいでまあ貧乏で!」
明るくカラカラと笑いながら、兄弟や仕事についてハキハキと答える。
「まだ若輩で経験も浅いですが、兄のところも抱えられる人数に限りがありまして、庭師はもちろんですが力仕事も雑用もなんでもやりますので、ぜひお願いします!」
ガバッと頭を下げたのを見て、みんななんとなくコイツ好きだなと感じた。
あとで合否を報せると退出させると、深い疲労を感じながら三人はすべての面談を終えた。
屋敷の応接室で、マドゥーンとマトレイド、タンジェントが臨む。
「ストラデラ様、お一人目を案内してよろしいでしょうか?」
若い執事がマドゥーンに声をかけ、頷き返す。
「ストラデラ様?」
「まあ、下の執事たちにはそう呼ばれている」
「俺もそう呼ぶ?」
「いや、気持ち悪いからやめろ」
マドゥーンとマトレイドと副料理長のボンディは幼なじみである。タンジェント、ルジーとロイダルは、彼らより若いが、代々公爵家に仕える一族の子弟は、年齢差はあっても幼少よりともに過ごしており、今さら家名呼びする間柄ではない。
─コンコン─
最初の面談者がやって来た。
栗毛栗色目で身なりは清潔な若い男だ。
「自己紹介を頼む」
マトレイドが促す。
「この度は機会を賜り、ありがとうございます。
私はカーサル・サイマ男爵の三男、ヤンルイドと申します。
庭師はまだ経験が浅いのですが・・・アサルティ伯爵家でソイラス様に師事しておりました」
「アサルティ伯爵家?それは大変だったな」
マトレイドとマドゥーンが顔を見合わせる。
世事に疎いタンジェントは知らなかったが、伯爵の不敬事により一族連座の責任を問われ、廃爵が決定と見られている。使用人たちは他の貴族に仕事の口利きを依頼し始めたが、不祥事のあった家の使用人は、本人の身上だけでなく背後関係がクリアでなければ引受先はそうはないのが実情である。
しかも普通なら師匠と共に移るものだが・・・
そう簡単にはいかないのだろうな。
マトレイドにそう耳打ちされたタンジェントは淡々と、今まで師匠から何を学んだか。花以外の例えば木や果実など、花以外で庭園を飾ることもやろうと思っているが興味はあるか?雇用には神殿契約を結ぶ必要があることなどを話した。
ヤンルイドはたぶん平均的な男なのだろうと、様々な問への彼の答えを聞いて感じたタンジェントは、最後に彼の師匠ソイラスについて奇譚なく教えてほしいと請う。
「ソイラス様は優しい方です。ただ・・・奇想天外なところがあって、庭作りも少し奇抜な傾向があり、もう少し大人しい雰囲気の庭作りを学んでみたいと思いまして・・・」
奇想天外な庭師!
今の時点でロイダルが選んでいないということは、相応しくない何かがあるのだろうとは思うのだが。タンジェントはむしろ強く興味を惹かれた。
ヤンルイド自身は、可もなく不可もなくというところ。採用可否は改めて伝えるといい置いて退出させた。
「次の方をお連れしました」
扉が開くと、執事のひとりが艷やかな銀髪と濃い紫の瞳を持つ、こう言ってはなんだがとびきり美しい若い男を伴ってきた。肌も白くおよそ庭師には見えないのだが、ロイダルが選んだということは間違いなく庭師・・・?
「自己紹介を」またマトレイドが促す。
「はじめまして。私はモウンザール・ソラス子爵の三男、モリエールと申します。庭師の経験は浅いのですが、アサルティ伯爵家のソイラス様に師事しており・・・」
声も抜けるように高いな、と三人同じことを考えていたら、途中からヤンルイドとまったく同じ流れになって、顔を見合わせてしまう。
─ロイダルめ─
タンジェントはしかたなくヤンルイドと同じ質問をする。モリエールは一つ一つ考えながら答え、おおよそヤンルイドと似たようなものだと感じていた。
最後に、ソイラスについて訊ねてみた。
「はい、ソイラス様は、なんというかとても自由で楽しい方です。貴族でありながらそれに囚われることなく、感性で生きているような。私も自分自身の殻を破り、師匠のように、師匠にしか作り出せない世界を手にしたいです」
─ほお─
「ずいぶんソイラス様を慕われているようだが、共に新天地へとは考えないのか?」
モリエールは少し逡巡したあと言いづらそうに
「お怪我の具合が悪く、もう庭師はできないでしょう」
そう答えた。
「怪我が治ったら復帰できるのか?」
ソイラスに興味を持ったタンジェントが更に聞くと、しかたなさそうに、そして悔しそうに答えた。
「・・・足を斬られて・・・杖をつけば歩けそうですが仕事は難しいかと」
庭師は植物採取のために山や森に入り、魔獣に襲われることもある。ソイラスのように怪我で引退することもあるので、タンジェントは特に不思議に思わず、引き止めたことを詫びてモリエールを退出させた。
次も、アサルティ伯爵から流れてきた年齢的には中堅どころの庭師だった。
アサルティ伯爵家は一体何人の庭師を抱えていたんだ?公爵家でさえ、今は一人といえ、せいぜいタンジェントと師匠のふたりだったのに。
「失礼ながら、公爵家の庭師殿はまだお若いうちに継がれたようですな。私は師匠ソイラスよりすべての知識を受け継ぎ、やつを凌駕した技術を持っています。やつはやれ土を鑑定しろなどと言うのですが、そんなものに頼らずとも私が貴方に技術を教え、導けば立派な庭師になられるでしょう。ぜひ私を公爵家へ仕えさせてください。公爵閣下にもきっとご満足いただけます」
師匠をヤツ呼ばわりか?仕えさせろってなんだ?こんなやつはいらん!
と三人一斉に遠い目をしたが、本人はまったく気づいていないようだ。
「あの。申し訳ないが、あなたは公爵家の家訓家風には合わないようなので、此度のご縁はなかったことにしてください」
一方的に演説のように語る男に割り込んだマドゥーンが言うと、なっ?何を!と顔を赤くして怒鳴りかけたが、荒事ならお任せのマトレイドがさっさと部屋から叩き出す。
「なんだ、あれは!知りもしないでタンジーを下に見やがって」
両手をパンパンと叩くとソファに座りなおすが、マトレイドは腹の虫がおさまらないらしい。
「あとふたり、一気に片付けるか、少し待たせて私たちもひと休みするか」
「じゃあ茶でも飲みましょう」
タンジェントに応え、マドゥーンが扉の外に待機する執事に申しつける。
「もう三人か、まだ三人か・・・。なんか疲れたな」
言葉も少なくなる。
「タンジー、前の二人はどうだった?」
「モリエールがなかなかよさそうだったな」
「顔か?」
「はぁ?何言ってるんだか。男でアレは、逆に苦労してんじゃないか?そうじゃなくて、型にはまらないことを求めてるのは、ドレイファス様向きかと思ったまでだ」
私も彼はよさげだと思ったと、マドゥーンが賛意をみせた。
ヤンルイドは・・・新しい屋敷ならありかもしれないが微妙。
─ロイダルに仕事をサボらないよう注意しよう!─
マトレイドは三人アサルティ家が続いて、腹を立てていたが、タンジェントは、杖がないと歩けないというソイラスに気を取られていた。
知識と経験と技術。
聞く限りだが、奇想天外な発想力。
ロイダルが選ばなかったのは、足が悪いから?
しかし・・・さっきソイラスが土を鑑定しろと言ってなかっただろうか?
「マドゥーン、さっきのソイラスについてだが、庭師としては足が悪かったら仕事は難しいと思うんだが、もし新しい畑についてその知識や経験を俺に与えてくれるとしたら、そういうお目付け役的なもので雇うのはアリだろうか?」
「アリだ。畑に関し、誰をなんの役割で何人雇うかはすべてタンジェントに任せるようドリアン様から指示されている」
ええっ!そ、そこまでいいのか?と怯んだが、マトレイドが背中を軽く叩きながら、よかったなー好きにやれてとおおらかに言った。
「もちろん待たせている二人にも会うんだが、ソイラスについてロイダルに調べてもらえないだろうか?」
マトレイドは、パチっとウインクをした。
たぶん、了解と言ったつもりだろう。
タンジェントはちょっと気持ちが悪くなった。
「そろそろいいでしょうか?」
四人目の庭師が連れてこられる。
黒髪に茶色の瞳。年齢はマトレイドと同じくらいだろうか。
「ターロス・マインザール子爵の三男、アイルムです。インルート伯爵家の庭師モイズリー様に師事していましたが、モイズリー様のご子息が継承されることとなり、独立を勧められました」
独立しても、ほとんどの貴族は子飼いの庭師がいるので、フリーで受けられる仕事はそうはない。大きな商家が新しく貴族風の庭をつくりたいというときにチャンスが与えられる程度だから、どこかの貴族の庭師でいる方が安定する。
─安易に独立を勧めるのは、愛情ある師匠とは言えそうにないが、そうさせる何ががこの男にあるのか?─
「最後にモイズリー様について奇譚なく教えてほしい」
タンジェントの切り出しに、
「モイズリー様とご子息は、どちらかというと保守的な方です。私は創意工夫を試すのが好きですが、それはあまり好まれないと言いますか。
モイズリー様は貴族らしい花で飾られた純粋な美しい庭を好まれる方ですが、私は花以外も混在させた雑多な美しさも悪くないと思うもので、趣味趣向が少し違うようでございました」
困ったように髪をポリポリと掻いている。
聞くべきことを聞き、アイルムを退出させると、誰と働くかタンジェントの気持ちはだいたい固まっていた。
「最後のお一人のご案内を」
ん?そういえば。まだ残っていた!
三人はすでにお腹いっぱいな気分だが、会わずに帰すわけにもいかない。
マドゥーンが大きく頷いた。
扉が開くと、明るい栗毛の巻毛と薄青の瞳をした人懐こそうな若い男が立っていた。
「イズルス・グゥザヴィ男爵の八男、ミルケラです。イーサール子爵家で兄と働いていました。よろしくお願いします」
八男・・・!
三人は、この男がどうとかより、まずその事実に絶句した。ずいぶん子沢山な。高位貴族でも次男以下はなかなか大変なことが多いので、ただそれだけで同情を覚えた。
「兄弟が多いんだね?」
そこを聞いてよいのか迷いながらタンジェントが切り出した。
「はは、そうなんです。女の子が生まれるまではって八人男で最後にようやく妹が生まれたんですが、そのせいでまあ貧乏で!」
明るくカラカラと笑いながら、兄弟や仕事についてハキハキと答える。
「まだ若輩で経験も浅いですが、兄のところも抱えられる人数に限りがありまして、庭師はもちろんですが力仕事も雑用もなんでもやりますので、ぜひお願いします!」
ガバッと頭を下げたのを見て、みんななんとなくコイツ好きだなと感じた。
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