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21 調査進捗
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マトレイド他資料室組は早々に神殿契約を済ませ、相変わらず資料室に籠もっている。
公爵とルジーたちとの面談から十数日。
メイザー様以降、これという成果がない。
カイドが読んでいた神殿記録は、十八代トロイル様より前のものはどれだけ探しても見つからなかった。もともとないのか、紛失か、捨ててしまったのかもわからない。
しかたがないので、四人揃ってわずかな手がかりを求めてひたすら公爵家先祖の日記を読み漁る。しかし、一人がほぼ毎日数十年に渡り書き記した日記を読むのだから、相当な時間がかかるのだ。
もううんざりだ!と言えたら、どんなに素晴らしいか。今となっては一抜けしたルジーが恨めしい。隣からはロイダルの唸り声が聞こえる。
「字が・・・汚くて読めないんだがなぁ、なぁってば」
「俺に話しかけてるのか?」
「ああ、マトレイドさまよ。ここ、なんて書いてあるんだ?」
投げやりにマトレイドを呼びつけたロイダルが指さしているところには、十八代様の名前があった。
「おい、これはトロイル・フォンブランデイルって書いてあるんじゃないのか?」
カイドが覗き込んで叫ぶ。
「本当だ!ということは、ここから先は神殿記録がなかった人々のものだ!より慎重さを求められるぞ」
慎重にするのはもちろんなのだが、今までより読みづらくなってきている。言葉使いや言い回しが今とは違うこともある。が、そもそもこの時代はあまり日記などに興味がなかったのかもしれない。ときどきしか書いていない人が増えていた。その分量は少なくなってくるだろうが、書きなれないせいか字が汚い。
すべてカイドたちにお願いしたいくらい。
読むのが辛いなんて、口が裂けてもいえないが。
「はあぁ」
大きな溜め息がロイダルから漏れた。
「それ、私が読もう」
まるで心の声が聞こえたように、カイドが手を上げてくれた!とロイダルは感謝したが。
あれほど盛大な溜め息をつかれてはと、カイドが積極的に慮ってくれただけである。まあカイドもどうせなら面白そうな日記を読みたいという下心があるのだけれど。
「おお!昔の雰囲気があるなあ。字もこの頃はこういう書き方が流行だったのかな。言葉遣いも随分違う。こんなに古い記録が読めるなんて!」
(下手じゃなく、流行?字に流行あるのか?)
ロイダルは呆然とした。
感動するポイントが違いすぎる。喜んでくれる人が読んだほうがいいよなと、その日記を読む権利を、喜んでカイドに献上することにした。
昼の休憩を挟み、続きを読み始めてすぐのこと。
「ん?これは」
ハルーサが何か気になるものを見つけたようだ。
「トロイル様より古い。十四代エレルヴァル様のだ」
「エレルヴァル様のご嫡男、つまり十五代ニルヴァナルド様についてだな。七歳でカミノメ発現。与えられし地位や力を活かす考えはなく、ニルヴァナルド様はとても自由で旅を愛し、領主嫡男でありながらあまり居着かないため、心もとなしとある。但し、夢に見たものを探す旅路の中で領地特産品を各地に紹介し、販路拡大により領地の貿易路を開拓の功とある」
「なんか、面白くねえなぁ」
ロイダルがとうとう愚痴り始めた。
「何が面白くないんだ?」
マトレイドがロイダルの後ろに立ち、両の頬をぐにっとつまんで引っ張った。
「いだだだ」
こどもみたいなことやめろ!とカイドが止めてくれる。
「で、なにが面白くないんだ?」
「どうせカミノメが出てくるなら、メイザー様みたいになにか発明してほしい!」
はあ?
ほか3人の呆れた視線にロイダルは、厠行ってくるわと出て行ってしまった。
「こうも動きがないと、私たちのように文献を調べることが仕事の者はいいが、ロイダルにはつらいだろう」
カイドは性に合わないことをしているロイダルに同情している。
「まあ、それも仕事だ。情報室だっていつか来るかもしれない人為的有事のために己を偽り、潜入し続けることもあるのだから。このくらいで根を上げていては仕事にならんよ」
マトレイドは厳しい。
「それよりさっきハルーサが言っていた、夢に見たものを求めて旅に出続けていたっていうところ、ニルヴァナルド様は何歳くらいなんだろう?」
ハルーサが、ガバッと綴りに顔を向けると指先で文字を辿り、目当ての記述を探す。
フンフンと呟きながら。
「あった!十九の誕生日を迎えた!のあとに書かれているから、そのくらいじゃない?」
「ニルヴァナルド様とメイザー様は失わずにいた!この二人の共通点ってなんだろうな?まあ、まだあとご当主様十七人いらっしゃるから、他にもいるかもしれないけど」
「メイザー様も、わりーと自由っぽかった。文字書かないとか。変わり者だった?」
ハルーサはふと閃いた。
「カミノメを失くしているほとんどは、おとなになることを意識して己を律っするようになる頃だ。より現実的になる年頃?
夢に興味を持つことが無くなる?
何歳だからとかじゃなくて。
見た夢を受け入れてる人が失くさずにいるような気がするんだけど。見たまま再現しようとするとか、その景色を求めて旅立つとかさ」
ハルーサの洞察にも一理あるかもしれない。
普通は、見た夢は朝には忘れてしまう。
少しくらいは覚えていられるかもしれないが、見たことがないそれを覚えていて、形にするとか、その土地を探すというような行動を起こすことは、そうそうしないだろう。
ここまでの四十人近い元当主の中でたった二人。そして我がドレイファス様も、夢を形にしようとしている共通点がある。三人目になるのだろうか?
まあ、今のところドレイファス様はニルヴァナルド様のように勝手気ままではなく、メイザー様のように変わり者でもなく、ただ素直でかわいいこどもだが。
「そういえばこのスキルってさ。レベルアップするのかな?」
今日のハルーサは閃きまくりだった。
「とにかく十四代様まで来たんだ。あと少しがんばろう」
ロイダルは一向に戻らないが、三人はまた紙綴りの内容を暴くことに専念した。
読みづらい文字を目で追いながら、マトレイドはロイダルの事を考えていた。
著しくやる気を損なっている。このまま資料室に通わせても邪魔になるだけかもしれないから、外に出したほうがよさそうだ。
かと言って、資料室の調査が終わったらドレイファス様の護衛に入るのだから、そんな短い期間だけ情報室で何をやれるわけでもない。
─どうしたもんだろうなぁ─
何気なく読んでいた日記に、新しい侍女の手癖が悪くすぐ解雇した。身辺調査に力を入れよう!と書かれていた。
─あ!─
「カイドとハルーサに相談がある」
「ロイダル戻ってないが、いいのか?」
カイドの答えに頷いて応える。
「いい、ロイダルのことだから。やる気が落ちていて、はっきり言って邪魔だろう?」
「いや、そこまではまだ言ってないけど」
うんうん、言わなくてもわかってるとジェスチャーしてみせる。暗黙の了解というやつだ。
「幸い、ここでの調査は残すところ十四代分となったし、ロイダルに別の調査をさせようかと思うんだが。もし二人がいないと困ると思うなら、もう少し頑張らせるよ」
カイドとハルーサが顔を見合わせかと思うと頷き、もう答えを出したようだ。
「じゃっ、ロイダルは自由にしてやってくれ」
マトレイドがなかなか戻らないロイダルを探して屋敷を歩き回っていると、ボンディと出くわした。
「ロイダルが裏庭でサボってたぞ」
密告・・・いや、教えてくれた。
「お、探してたんだよ、ありがとう!」
裏庭に続く扉を開けると、花の影から突き出した足がちらりと見えた。上から覗いても見えないはずだ。
「ロイダル!こんなところに入り込んで、花でも折ったらタンジーに何されるかわからんぞ」
カサっと枯れた葉っぱが動く音がして、ロイダルが体を起こす。
「もうムリ、もう限界」
降参と両手をあげる。
「そうみたいだな。そんなロイダルに違う調査を用意した」
え?とロイダルが目を瞠ってこちらを見た。
「ドリアン様からドレイファス様の側近候補と侍従候補をそろそろと言われている。ドレイファス様のまわりは特に信頼できる者で固めろとも言われている。
こちらの調査は三人でなんとかするので、お前はまず適齢なこどもたちをピックアップし、こどもの家族と影響を与えそうな親族などを背後まで調査しろ」
ロイダルがはね起きた。
「やります、やらせてもらいます!ヤッター!」
─そんなにイヤだったのか─
心中で呆れながら、もう一つ思い出して付け加えた。
「タンジーのところで、庭師と大工を探している。どちらもドリアン様がここで召抱えられるそうなので、公爵邸で働く身許確かな庭師と大工を探して来てくれ」
「庭師はわかるんだけど、大工?」
「穴掘り棒を改良してるらしく、ドリアン様はうまくいったら売るつもりのようだ」
「なら、家具職人もイケるんじゃないっすかね?」
マトレイドは、言われてみてなるほどと思った。
「一度タンジーのところへ言って、家具職人とか大工以外でも代わりになれそうな職種を聞いてみてくれ。あとは任せる」
公爵とルジーたちとの面談から十数日。
メイザー様以降、これという成果がない。
カイドが読んでいた神殿記録は、十八代トロイル様より前のものはどれだけ探しても見つからなかった。もともとないのか、紛失か、捨ててしまったのかもわからない。
しかたがないので、四人揃ってわずかな手がかりを求めてひたすら公爵家先祖の日記を読み漁る。しかし、一人がほぼ毎日数十年に渡り書き記した日記を読むのだから、相当な時間がかかるのだ。
もううんざりだ!と言えたら、どんなに素晴らしいか。今となっては一抜けしたルジーが恨めしい。隣からはロイダルの唸り声が聞こえる。
「字が・・・汚くて読めないんだがなぁ、なぁってば」
「俺に話しかけてるのか?」
「ああ、マトレイドさまよ。ここ、なんて書いてあるんだ?」
投げやりにマトレイドを呼びつけたロイダルが指さしているところには、十八代様の名前があった。
「おい、これはトロイル・フォンブランデイルって書いてあるんじゃないのか?」
カイドが覗き込んで叫ぶ。
「本当だ!ということは、ここから先は神殿記録がなかった人々のものだ!より慎重さを求められるぞ」
慎重にするのはもちろんなのだが、今までより読みづらくなってきている。言葉使いや言い回しが今とは違うこともある。が、そもそもこの時代はあまり日記などに興味がなかったのかもしれない。ときどきしか書いていない人が増えていた。その分量は少なくなってくるだろうが、書きなれないせいか字が汚い。
すべてカイドたちにお願いしたいくらい。
読むのが辛いなんて、口が裂けてもいえないが。
「はあぁ」
大きな溜め息がロイダルから漏れた。
「それ、私が読もう」
まるで心の声が聞こえたように、カイドが手を上げてくれた!とロイダルは感謝したが。
あれほど盛大な溜め息をつかれてはと、カイドが積極的に慮ってくれただけである。まあカイドもどうせなら面白そうな日記を読みたいという下心があるのだけれど。
「おお!昔の雰囲気があるなあ。字もこの頃はこういう書き方が流行だったのかな。言葉遣いも随分違う。こんなに古い記録が読めるなんて!」
(下手じゃなく、流行?字に流行あるのか?)
ロイダルは呆然とした。
感動するポイントが違いすぎる。喜んでくれる人が読んだほうがいいよなと、その日記を読む権利を、喜んでカイドに献上することにした。
昼の休憩を挟み、続きを読み始めてすぐのこと。
「ん?これは」
ハルーサが何か気になるものを見つけたようだ。
「トロイル様より古い。十四代エレルヴァル様のだ」
「エレルヴァル様のご嫡男、つまり十五代ニルヴァナルド様についてだな。七歳でカミノメ発現。与えられし地位や力を活かす考えはなく、ニルヴァナルド様はとても自由で旅を愛し、領主嫡男でありながらあまり居着かないため、心もとなしとある。但し、夢に見たものを探す旅路の中で領地特産品を各地に紹介し、販路拡大により領地の貿易路を開拓の功とある」
「なんか、面白くねえなぁ」
ロイダルがとうとう愚痴り始めた。
「何が面白くないんだ?」
マトレイドがロイダルの後ろに立ち、両の頬をぐにっとつまんで引っ張った。
「いだだだ」
こどもみたいなことやめろ!とカイドが止めてくれる。
「で、なにが面白くないんだ?」
「どうせカミノメが出てくるなら、メイザー様みたいになにか発明してほしい!」
はあ?
ほか3人の呆れた視線にロイダルは、厠行ってくるわと出て行ってしまった。
「こうも動きがないと、私たちのように文献を調べることが仕事の者はいいが、ロイダルにはつらいだろう」
カイドは性に合わないことをしているロイダルに同情している。
「まあ、それも仕事だ。情報室だっていつか来るかもしれない人為的有事のために己を偽り、潜入し続けることもあるのだから。このくらいで根を上げていては仕事にならんよ」
マトレイドは厳しい。
「それよりさっきハルーサが言っていた、夢に見たものを求めて旅に出続けていたっていうところ、ニルヴァナルド様は何歳くらいなんだろう?」
ハルーサが、ガバッと綴りに顔を向けると指先で文字を辿り、目当ての記述を探す。
フンフンと呟きながら。
「あった!十九の誕生日を迎えた!のあとに書かれているから、そのくらいじゃない?」
「ニルヴァナルド様とメイザー様は失わずにいた!この二人の共通点ってなんだろうな?まあ、まだあとご当主様十七人いらっしゃるから、他にもいるかもしれないけど」
「メイザー様も、わりーと自由っぽかった。文字書かないとか。変わり者だった?」
ハルーサはふと閃いた。
「カミノメを失くしているほとんどは、おとなになることを意識して己を律っするようになる頃だ。より現実的になる年頃?
夢に興味を持つことが無くなる?
何歳だからとかじゃなくて。
見た夢を受け入れてる人が失くさずにいるような気がするんだけど。見たまま再現しようとするとか、その景色を求めて旅立つとかさ」
ハルーサの洞察にも一理あるかもしれない。
普通は、見た夢は朝には忘れてしまう。
少しくらいは覚えていられるかもしれないが、見たことがないそれを覚えていて、形にするとか、その土地を探すというような行動を起こすことは、そうそうしないだろう。
ここまでの四十人近い元当主の中でたった二人。そして我がドレイファス様も、夢を形にしようとしている共通点がある。三人目になるのだろうか?
まあ、今のところドレイファス様はニルヴァナルド様のように勝手気ままではなく、メイザー様のように変わり者でもなく、ただ素直でかわいいこどもだが。
「そういえばこのスキルってさ。レベルアップするのかな?」
今日のハルーサは閃きまくりだった。
「とにかく十四代様まで来たんだ。あと少しがんばろう」
ロイダルは一向に戻らないが、三人はまた紙綴りの内容を暴くことに専念した。
読みづらい文字を目で追いながら、マトレイドはロイダルの事を考えていた。
著しくやる気を損なっている。このまま資料室に通わせても邪魔になるだけかもしれないから、外に出したほうがよさそうだ。
かと言って、資料室の調査が終わったらドレイファス様の護衛に入るのだから、そんな短い期間だけ情報室で何をやれるわけでもない。
─どうしたもんだろうなぁ─
何気なく読んでいた日記に、新しい侍女の手癖が悪くすぐ解雇した。身辺調査に力を入れよう!と書かれていた。
─あ!─
「カイドとハルーサに相談がある」
「ロイダル戻ってないが、いいのか?」
カイドの答えに頷いて応える。
「いい、ロイダルのことだから。やる気が落ちていて、はっきり言って邪魔だろう?」
「いや、そこまではまだ言ってないけど」
うんうん、言わなくてもわかってるとジェスチャーしてみせる。暗黙の了解というやつだ。
「幸い、ここでの調査は残すところ十四代分となったし、ロイダルに別の調査をさせようかと思うんだが。もし二人がいないと困ると思うなら、もう少し頑張らせるよ」
カイドとハルーサが顔を見合わせかと思うと頷き、もう答えを出したようだ。
「じゃっ、ロイダルは自由にしてやってくれ」
マトレイドがなかなか戻らないロイダルを探して屋敷を歩き回っていると、ボンディと出くわした。
「ロイダルが裏庭でサボってたぞ」
密告・・・いや、教えてくれた。
「お、探してたんだよ、ありがとう!」
裏庭に続く扉を開けると、花の影から突き出した足がちらりと見えた。上から覗いても見えないはずだ。
「ロイダル!こんなところに入り込んで、花でも折ったらタンジーに何されるかわからんぞ」
カサっと枯れた葉っぱが動く音がして、ロイダルが体を起こす。
「もうムリ、もう限界」
降参と両手をあげる。
「そうみたいだな。そんなロイダルに違う調査を用意した」
え?とロイダルが目を瞠ってこちらを見た。
「ドリアン様からドレイファス様の側近候補と侍従候補をそろそろと言われている。ドレイファス様のまわりは特に信頼できる者で固めろとも言われている。
こちらの調査は三人でなんとかするので、お前はまず適齢なこどもたちをピックアップし、こどもの家族と影響を与えそうな親族などを背後まで調査しろ」
ロイダルがはね起きた。
「やります、やらせてもらいます!ヤッター!」
─そんなにイヤだったのか─
心中で呆れながら、もう一つ思い出して付け加えた。
「タンジーのところで、庭師と大工を探している。どちらもドリアン様がここで召抱えられるそうなので、公爵邸で働く身許確かな庭師と大工を探して来てくれ」
「庭師はわかるんだけど、大工?」
「穴掘り棒を改良してるらしく、ドリアン様はうまくいったら売るつもりのようだ」
「なら、家具職人もイケるんじゃないっすかね?」
マトレイドは、言われてみてなるほどと思った。
「一度タンジーのところへ言って、家具職人とか大工以外でも代わりになれそうな職種を聞いてみてくれ。あとは任せる」
応援ありがとうございます!
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