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17 畑をつくろう2

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 畑にする予定の土地は土魔法でしつこく耕したことで、かなりコンディションがよくなった。鑑定でも、ペリルへの適性はまあまあ良いと出た。
ペリルの株を採ってきて植えてみるか。
それとも一日二日馴染ませてからにするか。
悩ましいところだが、しばらく考えて少し植えることにした。残りは土を馴染ませたあとに。
そうすれば土の比較ができ、もし枯れてしまっても、今なら森にペリルも多くあるからやり直しもできる。そう考え、作業小屋に戻って二人に告げようとしたのだが。
 ルジーに寄りかかって、ドレイファスが眠りこけていた。

「寝たばかりなんだよな。まあ起こせと言うなら起こすが」
「はは、騒ぎすぎたか。すっごいはしゃいでたもんな。屋敷に連れて帰ってやれよ。あんなに楽しみにしてるんだから今日俺が一人で、ペリル採ってくる。続きは明日一緒にやろう」

 ルジーが困ったように眉を寄せる。
「これで連れて帰っても、このままベッドに寝かせることはできんだろ。起きるまでもう少しここで待たせてくれないか」
確かに湯浴みと着替えをしないと、ベッドは無理そうだ。
「じゃあ、ここでのんびりしてろ。俺、ちょっと森に行ってくるよ」

小声で言ってみたが、ルジーは
「あ、小声にしなくてもへーきだ。揺らさない限り起きないんだよ」
けろっと、でかい声のままだ。が、確かにスヤスヤ眠っている。
「じゃ、ちょっと行ってくるな」

(そういえば、この前植えたのはどうなっただろう?行きがけにちょっと見ておくかな。枯れそうなら追加も採ろう)

 茎だけちぎってきたものは萎れ始めている。
土ごと採ってきた株のペリルはいまのところ大丈夫そうだ。株から延びた茎も縄張りを広げるように土にしがみついているようだ。
なんとなくその茎をつまんでみた。

自分で採ってきた、小さな根や土がついた茎。
これは土ごとだったせいもあるだろうが、問題なさそうだ。
そう考えたとき、突然鑑定ボードが開いた。

【ペリルの茎】
[状態]
発根中

「おわっ、また出た!」

 いちいち鑑定ボードに驚いてしまう自分に苦笑してしまうが、それだけ前より興味を持ち探求しようという姿勢が現れた・・・ということだよな。うん。

「ん?発根ってなんだ?」

字のとおりだと根が出たってことか?
そんなことも鑑定できたのか!
そぉっと茎を土から引いてみると、本当に茎の下からチョロっと短い真っ白な根がたくさん増えていた。

タンジェントは、雷に撃たれた(気がした)!
体中が衝撃に痺れている。

「嘘だろ・・・、長い茎があれば根が出るなら、どこかに自然に生えるのを待たなくても、いくらでも増やせるんじゃないか?」

─これは庭師の常識で俺が知らなかっただけ?それとも俺だけが知ってることなのか?
ああ、誰か他の庭師に聞いてみたい!
自分だけが知らなかったとしても構わない。
自分で気づけたということが心底嬉しかった─

気になって気になってしかたないが、まずはタンジェントに引き上げられ、引き抜かれないよう必死に土にしがみついている茎をそっと戻してやり、他の茎も指で触れて鑑定してみることにした。
枯れ始めたものもあるが。想像していたより順調に発根しているようで、その生命力に感動したせいか、タンジェントの体がちょっと震えている。

「なんて日だ!素晴らしいぞ」

 ほぅっと深く大きな息を吐き出した。

 歩いてもたいしてかからない公爵邸の中にある森。ペリルの繁みに入り、少しでも大きな実をつけている株を探して掘り出したら布で包む。
背負いカゴの中にみっちり詰め込み、すく小屋へ戻ると、ちょうど寝起きのドレイファスを抱き上げたルジーが作業小屋から下りてきた。

「待たせたな」
「いや、全然」

 くるっと振り返ったタンジェントは、ルジーが見たことないほど機嫌よさそうな顔をしていた。

「なんだ?なにかいいことあったのか?」
「そおおおなんだよ!」

 タンジェントの口が喋りたそうにムズムズしているのがわかる。たった一刻の間に何があった?

「話したいのはやまやまなんだが、日が落ちる前にこのペリルを植えてしまおう」

 ルジーがドレイファスを抱いたまま、一歩畑に踏み込むと、目が覚めてきたドレイファスがオリルーと憤り始めた。

「穴が開けてあるのは、そこにペリルの株を入れるためだからな」

 踏み荒らすなよ!とタンジェントから飛んだ注意に、ハイっ!と元気よく返事が返ってくる。

─ヨシヨシ─

 さっき採取してきたばかりの株を籠から出すと、機嫌よくガンガン植えていくタンジェントに引っ張られて、植え替えはあっという間に終わった。
「じゃ水撒こう!」とバケツを持ち、小さなお椀で汲んでは、そっと水を地面に染み込ませていく。
ふと。ドレイファスが零した。

「そういえば、スライム小屋の中で、雨振らせてたの」
え?小屋の中で雨?
「うん。バケツに長いお鼻みたいのがついてて、お鼻の先から雨降ってた」

 タンジェントとルジーは顔を見合せ、ちょっと何言ってるのかわからんな?という表情を浮かべていた。

「ドレイファス様、思い出したのはそれだけか?」
「んーと、穴掘り棒がね、ちょっと違ってたと思う」
「よしっ。じゃあその二つ、お屋敷に戻ったら夕餉まで お絵かきするぞ!」

 ルジーがドレイファスの頭をぐりぐり撫でまわす。

「なあタンジー、おまえのいいことってペリル絡み?」

 ドレイファスに意識を向けていると思ったら、すかさず聞いてくる。
今のタンジェントの口は軽かった。

「そうなんだ」
「そか。あのな。今夜、マトレイドと会うんだ。あっちで調べたことがあればタンジーとも共有したいから、よかったら一緒にどうだ?」
「大事な話かもしれないのに、勝手に俺連れてって大丈夫なのか?」
「マトレイドにはタンジーを引っ張りこんだって話してあるし、ドレイファス様のペリルを実証してるのはタンジーだ。もうおまえなしには進まん。ドレイファス様について知っておいたほうがいいこともあると思うからな」

「ルジー見て!」と呼ぶ声がする。
ドレイファスがオオムラサキムカデを持ってぶら下げていた。

「おおおー、ドレイファス様それ捨てろ!」
「見せなくていいから、はやく!手がかぶれるぞ!」

 ドレイファスは、二人の剣幕に驚いてポーンとムカデを投げた。ルジーが水やり用の樽を持って走り寄ると、その水をドレイファスの手にザバッとかけて洗い流す間にタンジェントは作業小屋へ走り、虫や蛇の解毒用ジェルを持ってとんぼ返りする。
目指す小さな手を掴み、水気を拭いて、瓶からごっそりジェルをぬぐって塗りたくる。
ドレイファスの手はジェルまみれになったが、これでひとまず大丈夫だろう。

 キョトンとしたこどもを安心させるためにか、それとも大人たちが安心するためか、タンジェントが深く息を吸い、大きく吐き出した。

「はーっ。とりあえずこれで大丈夫だろう。」
「ドレイファス様、なんでもかんでも触っちゃダメだ!ありゃあオオムラサキムカデって言って毒があるんだ。最初はかぶれるだけだが、ほっておくとどんどんひどくなってケロイドになるんだぞ」

「ああ、早く気づけてよかったぁ!早く対処できて本当によかったぁ!」
ルジーが屈んでドレイファスを抱き上げる。

「ルジー、大丈夫だと思うが、屋敷に戻って念のために医者を呼べ」
「うん、そうだな。そうしよう。しっかしよくあんな気持ち悪いもん触れたもんだよ」

 あんな毒々しいムラサキのむか!・・オエッ
思い出して嘔吐く。実はルジーが限界らしい。
やっぱり屋敷に連れてくわと、小さなこどもを抱き直し、ちょっとよろけながら手を振って階段を上がって行った。

「あ、夜の約束忘れんなよ」
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