神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
15 / 272

15 チームそれぞれ

しおりを挟む
 ドレイファスたちが庭師タンジェントと、屋敷の一画をペリル畑にする相談をしている頃。

 マトレイドと疲れ目仲間たちは、ナズラエルド元公爵の日記の続きを読み進めていた。

「ナズラエルド様の日記を読むと、メイザー様がいくつかの発見や発明をしていることがわかる」
「何を見つけたか、書いてあるか?」
「うん、メイザー様は・・・十三歳のときにマヨネーズを発明しているんだ」

 ハルーサの言葉に、男三人が頬の染まった顔を見合わせた。

「でも、メイザー様の功績として伝わってないよね」
ロイダルは不思議そうだ。

 十三歳のこどもがいろいろ発見や発明をしたら、悪目立ちする。調味料はメイザーの時代から二百年以上立っているのに、いまだ塩・胡椒とマヨネーズくらいしかない。いつも同じものを食べ続ける生活を送っている人々にマヨネーズをもたらしたメイザーは、まさに英雄・・・。ただその大きな利益を生み出す力に、公爵家嫡男とはいえ誘拐され利用される可能性も大きい。王家に囲い込まれて公爵家の利益を吸い上げられてしまう、または潰されることも考えられたはずだ。そのため外部だけでは無く、身内に対してもメイザーの能力は徹底的に秘匿し、公爵家全体の知恵の功績とだけ表すことにしたと、ナズラエルドは書き残していた。

「メイザー様の日記はないのか?」
「それがナズラエルド様が、メイザー様はメモすら書かないめんどくさがり屋で、必要なことは口述で済ますようになってしまったことが悔やまれると書いておられる・・・。無いだろうな」
「なんだ、そりゃ。ただの変わり者じゃないか?」
「他にもメイザー様が見出したものはあるのだろうか?」
「うん。まだいくつかある」

 みんながハルーサに注目する。

「ロウソク」
「おお!なんと!それは火魔法が使えない人には僥倖だったな」

 火魔法が使えなくても、火打ち石はある。暖炉に火をくべ続ければある程度部屋の灯りは得られる。
しかし、夏はそういうわけにはいかないので、夏の夜は月明かりか、臭いが動物の脂を小さく燃やしたり、蛍籠を部屋に置いて過ごしていたらしい。
ロウソクが発明されてからは、夏の新月でも灯りのある生活を手にすることができるようになったのだ。

 素晴らしい発明だ・・・ったはず。今、夜でも本が読めるのはロウソクのおかけだ。だけど本当は発明ではなく、カミノメで他の世界にあったロウソクを知り、真似て作り上げたということか?

 ハルーサがひどくがっかりした顔をしたのを見て、マトレイドは彼の心中を察してしまった。

「ハルーサ。気持ちはわからないでもないが、そんな顔するなよ。今ドレイファス様とルジーはカミノメで見たらしい大きなペリルを探し出そうとしている。タンジーを引っ張りこんで、まずはペリルを庭に植えてみるそうだ。
異世界の物を見ることができたからすぐ真似て作れるわけではないぞ。見えた物がナニで、ナニから出来ているのか、材料を探すことに始まり、どういう過程でそれに辿りつけるか作り方を考え、完成するまできっと何度も試行錯誤しただろう。完成したとしても、カミノメで見たものと同じものが作れたか確認することもできないのだし。
少ない情報でも諦めずに、今の世まで残る物を作り上げたということは、やはり発明したと言っていいと思うぞ、俺はな」

「・・・そうですね」
俯くハルーサに対し、あまりものを深く考えないロイダルは、
「しかしメモも書かないめんどくさがりのくせに、よく飽きずに作り上げましたよねー。あ!実は死ぬほど字が下手だったんじゃないすかねぇ」
と、メイザーが今ここにいたら、きっと痛いだろうところを突いていた。

 会話に交じらず、ハルーサの読みかけの日記に顔を突っ込んでいたカイドがなにか気づいたらしい。

「おい!ロウソクを作ったのはメイザー様十八歳の時だ!二年ほどで作れたと書いてあるから、やはりメイザー様は十五歳を過ぎてもカミノメを持ち続けていたんだ!」

 疲れ目の男たちは、一気に盛り上がった!




 資料室で噂されていたとは知らず、ルジーはドレイファスから聞いた夢の話を、タンジェントと二人で共有しているところだった。

「そうか、そんなスキルが世の中にあるのか」
「うん。ただ、まだよくわかってないというのが正しいな。マトレイドたちが調べているよ」

 資料室で男四人、目頭を揉みながら読み続けたことを思い出し、ドレイファス付きになれたことに感謝する。

「じゃあドレイファス様から聞いていることを全部教えてくれるか?」
「よし、じゃあ整理するために紙に書くが、秘密保持を約束してくれ」

 もちろん!とタンジェントが同意するのを確認し、ルジーはカリカリと書き始めた。

・白い大きな食べ物に大きなペリルがのっていた夢が発端。
・ペリルが大好物だったため、今は大きなペリルを食べてみたい!ということで頭がいっぱいなためか、頻繁にペリルの夢を見ている。

(ペリルの夢)

・森のペリルと葉っぱや花がよく似ていた
・夢のペリルはかなり大きい、三角っぽい?
・森ではなく、スライム小屋で育つ?
・小屋の中で一列に並んで生えている?
・ペリルの長い茎を切り、土に挿している?
・ペリルの花のひげひげしたところに、他の花のひげひげをスリスリぽんぽんしていた
・ペリルの根元の土に土みたいなのをのせてた

「今のところこんな感じらしいんだが、タンジーはこれが何のことだかわかるか?」
「んーっ、すまん!一個もわからんわ」

はーっ。二人で大きなため息をつく。

「まあ、茎を土に挿すっていうのは、やってはみたからそのうちに何のためかわかるようになるさ」

 タンジェントは、茶でも淹れるわと立ち上がり、コップ二つと干しオレルを皿にのせてきた。

「お、すまんな」

「この、花のひげひげをスリスリぽんぽんはやることもわかる。それが何の意味を為すのかわからなくても、そのままやってみればいいだろ。あと一列に並んで生えているっていうのは、そう植えりゃいいわけなんだな?最初は勝手に森に生えるんだから一列に並ぶわけねぇし、ありえないと思ってたけどそう聞いたら納得だ」 

 茶を啜ったらズズッと音が立ち、ルジーは眉をひそめたが、タンジェントは気にせず先を進める。

「考えたんだが。
ペリルの実のような、森で小さな群生にしかならないものはともかく。
 食べられる植物が群生する土地をみつけたら、それをみつけた者が所有できて、自分の畑として代々受け継いでいる家が農会になれるだろう?
畑さえ見つければ、放っておいても毎年同じところから同じ物が生えるし、実がなる。但し、突然生えなくなることもあるから、いつもそういう場所を探して歩き続けなければならんが、売れるほどの量が取れる土地を見つけたら一攫千金だ。そういった土地を一定数守ってさえいれば代々豊かな農会でいられる。俺たちは自分でイチから畑を作り上げるなんて考えたこともなかった。

だがドレイファス様の見た世界では、自分で畑を起こし、野菜や果実を植え、育てているんじゃないかな。それを守るために小屋の中に生やしているんじゃないかと思うんだ。だからペリルも小屋の中でまっすぐ一列に生えているというか植えられている。そう考えれば納得できるんだ。

まあ、大きいとか三角とかは、今のところどうにもできん。俺の知る限り、森では小指の先よりほんの少し大きい実しか見たことないしな。そのへんは保留だ」

 干しオレルを口に放り込み、ゆっくり噛み締めているルジーを見ながら続ける。

「この中でも、本当にまったくわからないのが、スライム小屋と土に土だ。いつかわかるようになる・・・という予感がこれっぽっちもないぞ。ははは」
苦笑いし、先は遠そうだなぁと、また深いため息をつく。
「なあ、ルジー。
俺、恥ずかしながら年の割にはけっこうやれてるって自惚れてたんだよ。でもひょっこり土の鑑定してから、知らないことの方が多いって思い知った。これからたくさん試行錯誤してでもさ、いつか大きなペリルを食べられたらいいと思わんか?」

 タンジェントの顔を見ると、最初に協力を頼んだときの面倒くさそうな気怠そうな雰囲気はなくなり、ちょっとキラキラしてみえた。

「なんか、もしかしてやる気出してたりする?」

 タンジェントは「ああ、やる気だけはすげぇあるぞ!」とニヤッと笑った。

「わからなくても挑戦してみたいのがスライム小屋だな。採取に行くときについでに狩ってきて、スライムを小屋に張るっつうのができるのか試してみようと思ってるんだがな」
「あのな、それたぶんスライムとは違うと思うぞ」
タンジェントの口がポカンとする。
「風ではためくくらい薄い透明な膜?らしいんだよな、だから石ガラスじゃない。それに石ガラスじゃ高すぎて、畑を囲うなんてできないしな。
ドレイファス様が知っている物の中で一番近い透明なものがスライムだったんじゃねえかな」

 タンジェントが、ガーンと音がしそうなほどがっかりした顔をするので、ルジーはププッと吹き出した。

「こどもの発想についていくのはたーいへんだな」

 何がおかしいのか、腰を折って笑っている。

「ドリアン様がドレイファス様付きをおまえにした理由がなんとなくわかったよ」
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...