神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

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 ドレイファスたちが庭師タンジェントと、屋敷の一画をペリル畑にする相談をしている頃。

 マトレイドと疲れ目仲間たちは、ナズラエルド元公爵の日記の続きを読み進めていた。

「ナズラエルド様の日記を読むと、メイザー様がいくつかの発見や発明をしていることがわかる」
「何を見つけたか、書いてあるか?」
「うん、メイザー様は・・・十三歳のときにマヨネーズを発明しているんだ」

 ハルーサの言葉に、男三人が頬の染まった顔を見合わせた。

「でも、メイザー様の功績として伝わってないよね」
ロイダルは不思議そうだ。

 十三歳のこどもがいろいろ発見や発明をしたら、悪目立ちする。調味料はメイザーの時代から二百年以上立っているのに、いまだ塩・胡椒とマヨネーズくらいしかない。いつも同じものを食べ続ける生活を送っている人々にマヨネーズをもたらしたメイザーは、まさに英雄・・・。ただその大きな利益を生み出す力に、公爵家嫡男とはいえ誘拐され利用される可能性も大きい。王家に囲い込まれて公爵家の利益を吸い上げられてしまう、または潰されることも考えられたはずだ。そのため外部だけでは無く、身内に対してもメイザーの能力は徹底的に秘匿し、公爵家全体の知恵の功績とだけ表すことにしたと、ナズラエルドは書き残していた。

「メイザー様の日記はないのか?」
「それがナズラエルド様が、メイザー様はメモすら書かないめんどくさがり屋で、必要なことは口述で済ますようになってしまったことが悔やまれると書いておられる・・・。無いだろうな」
「なんだ、そりゃ。ただの変わり者じゃないか?」
「他にもメイザー様が見出したものはあるのだろうか?」
「うん。まだいくつかある」

 みんながハルーサに注目する。

「ロウソク」
「おお!なんと!それは火魔法が使えない人には僥倖だったな」

 火魔法が使えなくても、火打ち石はある。暖炉に火をくべ続ければある程度部屋の灯りは得られる。
しかし、夏はそういうわけにはいかないので、夏の夜は月明かりか、臭いが動物の脂を小さく燃やしたり、蛍籠を部屋に置いて過ごしていたらしい。
ロウソクが発明されてからは、夏の新月でも灯りのある生活を手にすることができるようになったのだ。

 素晴らしい発明だ・・・ったはず。今、夜でも本が読めるのはロウソクのおかけだ。だけど本当は発明ではなく、カミノメで他の世界にあったロウソクを知り、真似て作り上げたということか?

 ハルーサがひどくがっかりした顔をしたのを見て、マトレイドは彼の心中を察してしまった。

「ハルーサ。気持ちはわからないでもないが、そんな顔するなよ。今ドレイファス様とルジーはカミノメで見たらしい大きなペリルを探し出そうとしている。タンジーを引っ張りこんで、まずはペリルを庭に植えてみるそうだ。
異世界の物を見ることができたからすぐ真似て作れるわけではないぞ。見えた物がナニで、ナニから出来ているのか、材料を探すことに始まり、どういう過程でそれに辿りつけるか作り方を考え、完成するまできっと何度も試行錯誤しただろう。完成したとしても、カミノメで見たものと同じものが作れたか確認することもできないのだし。
少ない情報でも諦めずに、今の世まで残る物を作り上げたということは、やはり発明したと言っていいと思うぞ、俺はな」

「・・・そうですね」
俯くハルーサに対し、あまりものを深く考えないロイダルは、
「しかしメモも書かないめんどくさがりのくせに、よく飽きずに作り上げましたよねー。あ!実は死ぬほど字が下手だったんじゃないすかねぇ」
と、メイザーが今ここにいたら、きっと痛いだろうところを突いていた。

 会話に交じらず、ハルーサの読みかけの日記に顔を突っ込んでいたカイドがなにか気づいたらしい。

「おい!ロウソクを作ったのはメイザー様十八歳の時だ!二年ほどで作れたと書いてあるから、やはりメイザー様は十五歳を過ぎてもカミノメを持ち続けていたんだ!」

 疲れ目の男たちは、一気に盛り上がった!




 資料室で噂されていたとは知らず、ルジーはドレイファスから聞いた夢の話を、タンジェントと二人で共有しているところだった。

「そうか、そんなスキルが世の中にあるのか」
「うん。ただ、まだよくわかってないというのが正しいな。マトレイドたちが調べているよ」

 資料室で男四人、目頭を揉みながら読み続けたことを思い出し、ドレイファス付きになれたことに感謝する。

「じゃあドレイファス様から聞いていることを全部教えてくれるか?」
「よし、じゃあ整理するために紙に書くが、秘密保持を約束してくれ」

 もちろん!とタンジェントが同意するのを確認し、ルジーはカリカリと書き始めた。

・白い大きな食べ物に大きなペリルがのっていた夢が発端。
・ペリルが大好物だったため、今は大きなペリルを食べてみたい!ということで頭がいっぱいなためか、頻繁にペリルの夢を見ている。

(ペリルの夢)

・森のペリルと葉っぱや花がよく似ていた
・夢のペリルはかなり大きい、三角っぽい?
・森ではなく、スライム小屋で育つ?
・小屋の中で一列に並んで生えている?
・ペリルの長い茎を切り、土に挿している?
・ペリルの花のひげひげしたところに、他の花のひげひげをスリスリぽんぽんしていた
・ペリルの根元の土に土みたいなのをのせてた

「今のところこんな感じらしいんだが、タンジーはこれが何のことだかわかるか?」
「んーっ、すまん!一個もわからんわ」

はーっ。二人で大きなため息をつく。

「まあ、茎を土に挿すっていうのは、やってはみたからそのうちに何のためかわかるようになるさ」

 タンジェントは、茶でも淹れるわと立ち上がり、コップ二つと干しオレルを皿にのせてきた。

「お、すまんな」

「この、花のひげひげをスリスリぽんぽんはやることもわかる。それが何の意味を為すのかわからなくても、そのままやってみればいいだろ。あと一列に並んで生えているっていうのは、そう植えりゃいいわけなんだな?最初は勝手に森に生えるんだから一列に並ぶわけねぇし、ありえないと思ってたけどそう聞いたら納得だ」 

 茶を啜ったらズズッと音が立ち、ルジーは眉をひそめたが、タンジェントは気にせず先を進める。

「考えたんだが。
ペリルの実のような、森で小さな群生にしかならないものはともかく。
 食べられる植物が群生する土地をみつけたら、それをみつけた者が所有できて、自分の畑として代々受け継いでいる家が農会になれるだろう?
畑さえ見つければ、放っておいても毎年同じところから同じ物が生えるし、実がなる。但し、突然生えなくなることもあるから、いつもそういう場所を探して歩き続けなければならんが、売れるほどの量が取れる土地を見つけたら一攫千金だ。そういった土地を一定数守ってさえいれば代々豊かな農会でいられる。俺たちは自分でイチから畑を作り上げるなんて考えたこともなかった。

だがドレイファス様の見た世界では、自分で畑を起こし、野菜や果実を植え、育てているんじゃないかな。それを守るために小屋の中に生やしているんじゃないかと思うんだ。だからペリルも小屋の中でまっすぐ一列に生えているというか植えられている。そう考えれば納得できるんだ。

まあ、大きいとか三角とかは、今のところどうにもできん。俺の知る限り、森では小指の先よりほんの少し大きい実しか見たことないしな。そのへんは保留だ」

 干しオレルを口に放り込み、ゆっくり噛み締めているルジーを見ながら続ける。

「この中でも、本当にまったくわからないのが、スライム小屋と土に土だ。いつかわかるようになる・・・という予感がこれっぽっちもないぞ。ははは」
苦笑いし、先は遠そうだなぁと、また深いため息をつく。
「なあ、ルジー。
俺、恥ずかしながら年の割にはけっこうやれてるって自惚れてたんだよ。でもひょっこり土の鑑定してから、知らないことの方が多いって思い知った。これからたくさん試行錯誤してでもさ、いつか大きなペリルを食べられたらいいと思わんか?」

 タンジェントの顔を見ると、最初に協力を頼んだときの面倒くさそうな気怠そうな雰囲気はなくなり、ちょっとキラキラしてみえた。

「なんか、もしかしてやる気出してたりする?」

 タンジェントは「ああ、やる気だけはすげぇあるぞ!」とニヤッと笑った。

「わからなくても挑戦してみたいのがスライム小屋だな。採取に行くときについでに狩ってきて、スライムを小屋に張るっつうのができるのか試してみようと思ってるんだがな」
「あのな、それたぶんスライムとは違うと思うぞ」
タンジェントの口がポカンとする。
「風ではためくくらい薄い透明な膜?らしいんだよな、だから石ガラスじゃない。それに石ガラスじゃ高すぎて、畑を囲うなんてできないしな。
ドレイファス様が知っている物の中で一番近い透明なものがスライムだったんじゃねえかな」

 タンジェントが、ガーンと音がしそうなほどがっかりした顔をするので、ルジーはププッと吹き出した。

「こどもの発想についていくのはたーいへんだな」

 何がおかしいのか、腰を折って笑っている。

「ドリアン様がドレイファス様付きをおまえにした理由がなんとなくわかったよ」
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