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11 公爵も驚いた!

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 マトレイドとカイドが執務室の扉を叩くと、中から執事のマドゥーンが顔を出した。

「ドリアン様は奥方様のお顔を見に行かれたが、そろそろ戻られると思うよ」
「お目通りできるだろうか?」
「ああ、もちろん。マトレイドたちとルジーは最優先と言われている」
「そうなのか?」
「ああ、淡々として見えるが、ドリアン様は坊ちゃまが可愛くてしかたない親馬鹿なのだからな」

 三人の男の間に(意外~)という空気が漂い始めたところで、噂の主役ドリアンが戻ってきた。挨拶をする間もなく、ドリアンから指示が飛ぶ。

「マトレイドたちは中で待て。マドゥーン」
 噂話が聞こえてしまっただろうか?お叱りを受けるかと思ったマドゥーンだが、まったく違う話だった。
「マーリアルの体調が思わしくないようなのだ。朝はなんともなかったが、今は気分が悪いと臥せり熱もあった。医者を呼べ」
 マドゥーンはすぐ反応し、あっという間に姿を消した。

 いつもならマドゥーンが閉める重い扉を、ドリアン自ら音を立てて閉め切る。
マトレイドたちは立ったまま待っていたのでソファに座らせ、自分も一人がけのソファに落ち着くと口を開いた。

「何かわかったことが?」
マトレイドがカイドと顔を見合わせ、カイドが持参した資料をテーブルに置く。
「これほ四十一代ナズラエルド様の、例の四十二代メイザー様がお子様時代の日記録の一部です。まだ全部に目が通せたわけではないのですが」

 ドリアンに見やすいようページを開くとこちらを!と、指を差して示した。
目をやるが読みづらいようだ。

「私が要約してお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、むしろ助かる」

 カイドはさきほど資料室で共有したことをドリアンにも話した。

「そんな・・・天孫降臨だと?初めて聞いたぞ。普通は誇り高きこととして何より大切に受け継ぐのではないか?」

 そうするのが当たり前では?とドリアンも感じたようだ。それでも四十一代まではなんとか継承されていた・・・

「推察にすぎませんが。影響が大きすぎたか、または王家とのパワーバランスを鑑みて秘したのかもしれませんね」
 カイドがフォローする。
「初代公爵様は王弟だったが臣下に下られ、公爵となられたと聞く。降臨された神姫の嫁ぎ先なら十分な家格だが、なぜ王に嫁がなかったのだろうな?」

 新たな疑問がドリアンからもたらされた。

「それに異世界を見る力か・・・・・。ドレイファスはこのところ毎日、不思議なペリルの話をしている。まさかと思うが異世界のペリルの話だというのか・・・」

 ははは・・・・男たちはあまりに未知すぎる話にどう反応したらよいものかと、力なく笑って誤魔化した。

「とりあえず。今調べていることは・・・どこまで調べれば終わりなのかわからんが、気の済むまで続けてもらいたい。わかったことは随時報告を。あと、本当に天孫降臨された姫が初代夫人なら、ここまで秘された理由を知りたいな。
それに公爵家の歴史は当主教育で学ぶが、メイザー様の名前に特筆するような記憶はないんだ。カミノメがそこまで影響があるなら、誰より長くスキルが在ったメイザー様の存在が薄いのはおかしいのではないか?」

 ドリアンの言いたいことは理解したが、彼も言ったとおり、これから先どこまで続くのか先の長さに少しだけうんざりしたマトレイドだった。

「ドレイファスの見る夢はこの世界にはないものの可能性が高く、それを取り込むことで大きな影響がある?」
 ドリアンの呟きを、カイドが肯定する。
「今はまだ、ただの夢で誤魔化せますが、今後によっては、ドレイファス様の護衛を手厚くすることを考えねばならなくなるかもしれませんね」

 次の報告からはルジーも同席させることにしようと言ったドリアンに、そういえばとマトレイドが訊ねる。

「今ルジーは何を?」
「ドレイファスの護衛を兼ねて、夢の記録と検証を。ルジーひとりで十分と思ったんだが、こちらの調査が終わる頃には事情がわかっているマトレイドとロイダルにも加わってもらうことになるだろう。情報室を外れることになるが」
「はい、全力でドレイファス様を御守りします」
「それでは、初代夫人のことも含め、引き続き頼む。それにしても毎日驚いてばかりだな」

 ドリアンも疲れを感じているように見えた。
 面会が終わり振り返ってみると、自分たちなりにまとめたつもりだったのが、ドリアンの指摘で見えていた物以外も見つめなければダメだとわかる。調査もより丁寧に、見落とすことがないようにと心した。

「今日は疲れて、これ以上は無理だ」

 珍しくカイドがギブアップしてきた。いつになく興奮していたから疲れたのだろう。

「そうだな、資料室に戻ったら話を共有して解散としよう」

 資料室に戻る途中、厨房のボンディに会った。

「あ、マティー!干しペリルを作ったから少し持って行けよ」
「四人分もらえるか?」
「ああ、ちょっと待ってろ」

 四つの小さな紙包みを作ってボンディが渡してくれる。

「差し入れだ。なんか調べ物頑張ってるんだって?腹減るだろ」
「あー、まあそうだな。やり慣れないことすると疲れるわ腹減るわで大変だよ」
「まあ頑張れよ」

 マトレイドはありがとうと片手を上げ、苦笑いを浮かべた。紙包みの一つをカイドに渡し、無言で資料室まで戻る。
 ノックして返事を待たずに扉を開けると、ハルーサとロイダルが黙々と記録を読んでいた。
差し入れもらったぞ!と紙包みを二人にも渡してやると、ハルーサが茶を入れに立ち上がる。

「なにか新しいことはあったか?」
「いーや、これと言って特には」と紙包みをベリベリと破り、ロイダルが干しペリルを咥える。
ガリッと音がして、かてぇな!とこぼすので、お茶につけて食べたほうがいいとハルーサが忠告してやったが、そのままガリガリ齧っている。

「かてぇけど、噛むほど味がでる。うまいぞ」

ハルーサとカイドはお茶につけて、少しふやかしてから音も立てずに食べている。相容れないようだ。マトレイドはというと、あたためたジャムをのせて染み込ませてから食べたいが、ここではできないので最初から持ち帰るつもり。茶を一口飲み込んで、そろそろ一息つけたか?と声をかけると、みんなこちらを向いてちょっと笑ってみせた。

「ドリアン様から、合わせて初代ご夫妻について調べることを指示されたんだ。それから四十二代メイザー様が長くカミノメを持っていたなら、この世界に大きな影響を与えていてもおかしくないのにそういう話は聞いたことがないと。メイザー様のことをよく調べてほしいと仰られていた」
「今日はなんだかいつもより疲れがひどいんだ。早いけど、これで解散としたい」 

 やはり今日のカイドは興奮しすぎたのだろう。ハルーサと、今日が初日のロイダルはとてもうれしそう。
「じゃあ、また明日な」

 そういって資料室を出たマトレイドは、ドレイファスの部屋へ足を向けた。
階段を上ると、マーリアルの控えの間とドレイファスの控えの間が並ぶ。

 ルジーはいるだろうか?
控えの間の扉をノックすると、侍女のメイベルが顔を出した。
「ルジーは?いたらマトレイドが会いたいと伝えてほしいのだが」
侍女がお待ちくださいと答え、扉の奥に引っ込むと同時に、機嫌のよさそうなルジーが顔を出した。

「おー、マトレイド!調子はどうだ?」
「なんか機嫌いいな、おまえ」

 ルジーは返事のかわりにウインクをしてみせた。

「さっきドリアン様に面会して進捗報告をしてきた」
「また何かわかった?」
侍女がいるここで話してよいのかと迷い、ドリアン様への報告のときはルジーも同席するようにとだけ伝えることにした。

「報告前に必ず知らせるから」
「了解」
「じゃあな」
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