神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
8 / 272

8 途中経過

しおりを挟む
誤字訂正しております。


==以下本文 ==


 マトレイドたちが執務室に行くと、ちょうど執事のマドゥーンが部屋から出てくるところだった。
厚みのある扉は立派だが重い。ズズッと音をさせながらゆっくり閉めるところだった。
「マドゥーン!ドリアン様にご報告があるが、お目通りできるだろうか?」
扉を閉めかけたまま振り返った執事が、中の公爵に伝えてくれる。
「どうぞ」
閉めかけていた扉を開き、マトレイドたちを通したあとはかなり頑張って音を立てずに閉めて行ってくれた。

「ドリアン様、まずは途中経過です」
「まだ全貌には辿り着けないか?」
「はい、申し訳ございません。かなり時間がかかると思われます」
「では今わかっているところまで聞こう」

 マトレイドから口を開く。

「まず王城図書室で司書の協力のもと調べた結果は、カミノメという言葉がある資料はありませんでした」
「ない?」
「はい、ですが、探し方を変えれば関連することが見つかる可能性はあると考えます。今の時点では謎のスキルだということしかわからないため、何が近似かの予測もできませんので」

 ドリアンが納得したように頷くのをみて、今度はカイドが切り出した。

「今、私が神殿記録を。公爵家のご当主様やご家族、執事などの日記録などをマトレイドたちが目を通しているところでございますが、こちらは大量過ぎてあまり進んではおりません。
まず神殿記録からわかっていることがひとつ」

カイドが、ほぅっとひと呼吸置く。

「カミノメは、フォンブランデイル公爵家のご嫡男のみに発現しているようで、ドリアン様の幼少の砌の神殿記録にも記載がございました」

 冷静なドリアンが一瞬ポカンと口を開け、気を取り直したようにいつもの表情にもどる。

「え?私も持っていた?しかし今はないというか、そんなスキルを持っていた記憶がないぞ」
「はい、実は・・・・・
大体どの方も五歳から十歳までの間に発現し、十五歳までのいずれかで消えてしまっているのです」
「ということは、私も発現したあと消失したと?」

 カイドが頷いて、「七歳で現れ十歳で失っておられます」と告げた。

 今度こそ、ドリアンの口は開きっぱなしになった。常識ではスキルは一度発現したら生涯消えるものではない。役に立つか立たぬかはともかく、それと一生を共にするのだ。
一度手にしたスキルが年齢とともに消えてしまうなど、今まで聞いたことがない。それが己の身に起きていたと聞かされても、今までまったく知らずにいたのだ。

 ドリアンの驚愕がおさまるまで待ち、カイドが言葉を続けた。

「今、四十ニ代様まで確認しておりますが、この四十ニ代メイザー様が十五歳の神殿記録でもまだカミノメをお持ちでございまして、消え失せなかった初めての方でございます。ただ、神殿記録はご存知のとおり十五歳までしか取りませんので、その後どうなったのかをこれからお調べするところでございます」

 ドリアンは、さきほどよりは持ち直したようだが、目を落ち着きなくパチパチと瞬いている。
こんな姿はいままで見たことがないが、頬杖をついて考え込んだまま反応しない。何かを深く考えている・・・ように見えて、完全に思考停止していた。

 しばらく様子を見ていたマトレイドたちだが、一向に動かないドリアンに引き続き調査すると伝え、執務室を辞した。

「ドリアン様、固まっていたな」
「そうだなぁ、あれは自分にも出て消えてたことにショックを受けてるのかな?」
「だな・・・。なるべく早く答えを見つけてドリアン様にお知らせできるようにしたいものだな」

 二人は顔を見合わせ、頷きあう。

「また明日からがんばろう」
「うん、また明日」

 マトレイドは、カイドと別れたあと執事のマドゥーンに会いに行った。思いついたことがあったからだ。もう少し早く気づけばドリアンに直接聞けたのだが。


 
 コンコン

「マドゥーンはいるだろうか?」

 控室で机に向かっていた若い侍従が顔を上げ「奥方様に呼ばれて行った」と教えてくれた。
 階段を上り、公爵夫人の控の間へ向かうと探していたマドゥーンの後ろ姿が室内に見える。
出てくるのを待つか─と、ほんやり階段で佇んでいると、部屋から奥方様が顔を出す。

「マトレイド、用があるならいらっしゃいな」

 声をかけられて、焦って返事を返す。どうして奥様が自分が潜んでいることに気づかれたのかとドキドキしながら室内に入ると、扉の横に置いてある鏡に階段が写っていた。

「あ、鏡か」

 マーリアルがクスクス笑った。

「なにか御用かしら?」

「あ、マドゥーンに確認したいことが。あ、奥方様お邪魔をして申し訳ございません!お加減が悪いのですか?」

ハッと気づくと急に汗が噴き出す。

「あら!情報部なのにご存知なかった?つわりだから大丈夫よ」
「え・・・つわ・・、ぉおめでとうございますっ!」
「ええ、ありがとう。四人目ともなれば楽勝よ」

 にこやかに微笑むそれは美しい奥方様に、一瞬見惚れたマトレイドだが、すぐ用件を思い出す。
探していた執事が呆れた顔で視線を寄越していた。

「先代様にうかがいたいことがあるんだが、もし同じ用件でドリアン様が既に使いを出されていたら申し訳ないので」
「ここ二週ほどシロイド様へのご連絡はどなたからもされておりませんな」
「そうか!では書状をお届けしたいのだが、手配を頼めるだろうか?」

マーリアルが気づいたように、片手をあげる。

「もしかしたら御義父様にドレイファスのスキルについておうかがいするのかしら?」
「はい、なにかご存知のことがあればと思いまして」
「調査は捗っていないの?」
「そうですね、先程ドリアン様に進捗をお伝えしてきたのですが。全貌を知るには遠そうです。わかってることだけでもお話ししますか?」

マーリアルはちょっと面倒くさそうに片手を振って、今はいいと断る。

「私もひさしぶりに御義父様にご機嫌伺いのお手紙を出すところなの。こちらから書いて送るわ」
「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

それほ願ってもないことだ。返事も期待できそうだとマトレイドは口角をあげた。

「よろしくお願いします」

マトレイドは礼をすると、控えの間から辞した。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

聖獣達に愛された子

颯希
ファンタジー
ある日、漆黒の森の前に子供が捨てられた。 普通の森ならばその子供は死ぬがその森は普通ではなかった。その森は..... 捨て子の生き様を描いています!! 興味を持った人はぜひ読んで見て下さい!!

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...