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6 みんなでペリル摘み
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マトレイドたちが必死に、カミノメを探っている頃。
当のドレイファスは侍女のメイベル、護衛騎士のナスレと副料理長のボンディに連れられ、森にペリル摘みに来ていた。
当初はボンディ一人で行く予定だった。
昨日ペリル摘みに行くともらした結果、聞きつけたドレイファスが一緒に行きたいとねだり、この顔触れの行中となった。
ドレイファスが森に来るのは初めてだ。
森と言っても公爵家の庭の中だが、ここまで歩けるほど体力もないので、途中メイベルやナスレに抱き上げてもらっていた。
「いつもあの辺で摘むんだよ」
ボンディが指差した低く広がる繁みに、確かにチラホラ小さな赤い実が見える。
ドレイファスは一気にテンションがあがり、たたたっと足音を立てて駆けていく。
「坊ちゃまっ危ないですから走らないで」
メイベルが追いかける。
ナスレとボンディは、草の上で転んでもどうってことないだろうという温い目で、元気いっぱいのこどもを見守った。
ドレイファスも公爵家嫡男として、そろそろ剣術や体術を習うことになる。ちいさな頃から飛んだり走ったりしていた方がよいのだが、侍女のメイベルにはわからないようだ。
「転んで覚えることもあるのに、過保護だな」
気づいたら口から零れていた言葉だが、ボンディも頷いている。
護衛だから転ぶことからも守れということではない。外敵からはもちろん守るが、ナスレはこどもの発達に必要な遊びを奪うつもりはなかった。
ドレイファスはというと皆の心配をよそに、バランスを崩すことなくペリルの繁みまで駆け抜けた!
・・・いや、実際は如何にもこどもらしく、頭を振りながら可愛くとてとて走っていたのだが、本人は風を感じてとてつもなく早く走れた気がしていた。
「あったー!」
地面に群生するペリルの赤い実を一粒摘み取り、匂いを嗅いだ。
新鮮なそれは、いままでのどのペリルより強く甘酸っぱく香りたち、ドレイファスの鼻をくすぐる。
「たべていい?」
追いついたメイベルに期待をこめたキラキラの瞳で小首を傾げて聞いてみた。
「反則!その可愛さズルい!」と叫んだメイベルは、「洗ってないから」と、バツと両手を顔の前で交差させるとドレイファスに言い聞かせる。
「まずたくさん摘みましょう。召し上がるのはお屋敷で粒を選んできれいに洗ってからですよ」
ちょっとがっかりしたドレイファスだが、たくさん摘めばたくさん食べられる!と気がつき、メイベルが差し出した籠を自分で抱えると、やる気を漲らせ始めた。
さて。
ペリルは、赤い実に緑のヘタがついていて、ヘタの少し上をねじるようにもぎ取ると簡単に摘むことができる。
(茎と葉っぱも一緒に持ち帰っておかあさまに見せたい!)
なぜか急に思いついて、赤い実をぶら下げた茎ごとプチッと引きちぎった。
ペリルの葉っぱを見たのは初めてだ。
青々してかわいい葉っぱ。そこから茎がのび赤い実をぶら下げている。ところどころに白い小さな枯れた花を残しているが、緑と赤の色がとてもかわいいとドレイファスは思った。
それはさておき。
黙々と、摘んだペリルを籠に放り込んで行くのだが、一向に大きなペリルというものは現れない。ドレイファスとボンディの籠がそれぞれいっぱいになって屋敷に戻り、摘んだペリルを選るもやはりすべて小粒だった。
生のまま食べるものと、煮詰めてジャムにするものに分け、すぐ食べる分だけきれいに洗っておやつの準備をする。
こんもり皿にもったペリルをメイベルに持たせ、ドレイファスは茎や葉ごとのペリルをさした花瓶を持ち、母マーリアルに見せに行くことにした。
コンコン!
「おはいりなさい」
「おかあさま、ペリルですぅ」
さっそく花瓶のペリルを持ち上げて見せると、マーリアルは息子の可愛らしさに蕩けるように笑った。
「まあ、ドレイファスおかえりなさい!ペリルはたくさん摘めたかしら?」
その時、マーリアルは花瓶に気がついた。わざわざ花でもない、葉っぱがついたままのペリルを花瓶に入れるのは今まで見たことがないが、赤と緑のコントラストが驚くほど新鮮で愛らしく見えるから不思議だ。
ドレイファスが持っているからというのも、効果倍増しかもしれないけれど。
どこからどう見ても世界最高の可愛い生き物に違いない我が息子に、思わずため息をつきながらポンポンと頭を撫でる母である。
ソファに母と息子が座り、一緒に摘みたてのペリルをつまむ。
「おかあさま、おいしい?」
「ええ、甘酸っぱくて香りも素晴らしいわね」
母の賞賛にドレイファスがうれしそうに頬を染め、自分も二つめのペリルをつまむ。
「んふ、おいしいねっ」
この世界には、砂糖がない。
甘味は蜂蜜や花の蜜を集める、そして果実のなる季節はたくさん摘み、各家ごとにジャムにして保存し少しづつ使う。そのため甘味は大変貴重で、甘味として保存できる果物を摘みたてで食べるのも、季節ごとのとても贅沢な楽しみだった。
「それで大きなペリルは見つかったかしら?」
「・・・・・なかったの」
かわいい息子は落ち込む姿も可愛らしく、いじらしい。
「まだ一回しか摘みに行ってないのだし、ペリルのあるうちに何度も探してみれば見つかるかもしれないわ。ボンディたちも探してくれているし」
パッと顔をあげ、にっこりするドレイファスに、マーリアルだけでなく侍女のメイベルもほぅっとため息が出る。
(こんなに可愛いなんて、本当に将来が心配だわ)
マーリアルは心の中で親バカすぎる自分に苦笑した。
一日走り回ったドレイファスは、いつの間にか母に寄りかかってウトウトしている。
こくん・・・・・
寝落ちた、と見守る母が気づいた時。
ドレイファスはペリルの夢を見ていた。
それは、この前の夢の中で食べられていたペリルととても良く似ている。
ついさっき森で摘んできたものよりとても大きく、丸いというよりやや三角っぽい形。
赤い実から目を離して辺りを見回すと、それらが生えている場所はどう見ても森ではなかった!
見たことがない細い柱を何本も交差させ、そこに薄く引き伸ばした透明のスライムを掛けたような小屋の中に、なんと!まっすぐ列になって生えている。まるで誰かにそう躾けられたように。
でも葉っぱや長い茎が延びているのは、今日摘んだペリルととても良く似ているように見えた。大きな赤い実がゴロンゴロンと生っている!
(ああ、やっぱり大きなペリルはあるんだ!あれをたべてみたいなあ)
「ペリ・・・・たべ・・・たい・・」
ドレイファスの口から小さな声が洩れ、母と侍女はペリルの夢を見ているらしいモゴモゴした寝言を聞くと、起こさぬようにそっとブランケットをかけて幼気な可愛らしさに幸せそうに目を細めた。
当のドレイファスは侍女のメイベル、護衛騎士のナスレと副料理長のボンディに連れられ、森にペリル摘みに来ていた。
当初はボンディ一人で行く予定だった。
昨日ペリル摘みに行くともらした結果、聞きつけたドレイファスが一緒に行きたいとねだり、この顔触れの行中となった。
ドレイファスが森に来るのは初めてだ。
森と言っても公爵家の庭の中だが、ここまで歩けるほど体力もないので、途中メイベルやナスレに抱き上げてもらっていた。
「いつもあの辺で摘むんだよ」
ボンディが指差した低く広がる繁みに、確かにチラホラ小さな赤い実が見える。
ドレイファスは一気にテンションがあがり、たたたっと足音を立てて駆けていく。
「坊ちゃまっ危ないですから走らないで」
メイベルが追いかける。
ナスレとボンディは、草の上で転んでもどうってことないだろうという温い目で、元気いっぱいのこどもを見守った。
ドレイファスも公爵家嫡男として、そろそろ剣術や体術を習うことになる。ちいさな頃から飛んだり走ったりしていた方がよいのだが、侍女のメイベルにはわからないようだ。
「転んで覚えることもあるのに、過保護だな」
気づいたら口から零れていた言葉だが、ボンディも頷いている。
護衛だから転ぶことからも守れということではない。外敵からはもちろん守るが、ナスレはこどもの発達に必要な遊びを奪うつもりはなかった。
ドレイファスはというと皆の心配をよそに、バランスを崩すことなくペリルの繁みまで駆け抜けた!
・・・いや、実際は如何にもこどもらしく、頭を振りながら可愛くとてとて走っていたのだが、本人は風を感じてとてつもなく早く走れた気がしていた。
「あったー!」
地面に群生するペリルの赤い実を一粒摘み取り、匂いを嗅いだ。
新鮮なそれは、いままでのどのペリルより強く甘酸っぱく香りたち、ドレイファスの鼻をくすぐる。
「たべていい?」
追いついたメイベルに期待をこめたキラキラの瞳で小首を傾げて聞いてみた。
「反則!その可愛さズルい!」と叫んだメイベルは、「洗ってないから」と、バツと両手を顔の前で交差させるとドレイファスに言い聞かせる。
「まずたくさん摘みましょう。召し上がるのはお屋敷で粒を選んできれいに洗ってからですよ」
ちょっとがっかりしたドレイファスだが、たくさん摘めばたくさん食べられる!と気がつき、メイベルが差し出した籠を自分で抱えると、やる気を漲らせ始めた。
さて。
ペリルは、赤い実に緑のヘタがついていて、ヘタの少し上をねじるようにもぎ取ると簡単に摘むことができる。
(茎と葉っぱも一緒に持ち帰っておかあさまに見せたい!)
なぜか急に思いついて、赤い実をぶら下げた茎ごとプチッと引きちぎった。
ペリルの葉っぱを見たのは初めてだ。
青々してかわいい葉っぱ。そこから茎がのび赤い実をぶら下げている。ところどころに白い小さな枯れた花を残しているが、緑と赤の色がとてもかわいいとドレイファスは思った。
それはさておき。
黙々と、摘んだペリルを籠に放り込んで行くのだが、一向に大きなペリルというものは現れない。ドレイファスとボンディの籠がそれぞれいっぱいになって屋敷に戻り、摘んだペリルを選るもやはりすべて小粒だった。
生のまま食べるものと、煮詰めてジャムにするものに分け、すぐ食べる分だけきれいに洗っておやつの準備をする。
こんもり皿にもったペリルをメイベルに持たせ、ドレイファスは茎や葉ごとのペリルをさした花瓶を持ち、母マーリアルに見せに行くことにした。
コンコン!
「おはいりなさい」
「おかあさま、ペリルですぅ」
さっそく花瓶のペリルを持ち上げて見せると、マーリアルは息子の可愛らしさに蕩けるように笑った。
「まあ、ドレイファスおかえりなさい!ペリルはたくさん摘めたかしら?」
その時、マーリアルは花瓶に気がついた。わざわざ花でもない、葉っぱがついたままのペリルを花瓶に入れるのは今まで見たことがないが、赤と緑のコントラストが驚くほど新鮮で愛らしく見えるから不思議だ。
ドレイファスが持っているからというのも、効果倍増しかもしれないけれど。
どこからどう見ても世界最高の可愛い生き物に違いない我が息子に、思わずため息をつきながらポンポンと頭を撫でる母である。
ソファに母と息子が座り、一緒に摘みたてのペリルをつまむ。
「おかあさま、おいしい?」
「ええ、甘酸っぱくて香りも素晴らしいわね」
母の賞賛にドレイファスがうれしそうに頬を染め、自分も二つめのペリルをつまむ。
「んふ、おいしいねっ」
この世界には、砂糖がない。
甘味は蜂蜜や花の蜜を集める、そして果実のなる季節はたくさん摘み、各家ごとにジャムにして保存し少しづつ使う。そのため甘味は大変貴重で、甘味として保存できる果物を摘みたてで食べるのも、季節ごとのとても贅沢な楽しみだった。
「それで大きなペリルは見つかったかしら?」
「・・・・・なかったの」
かわいい息子は落ち込む姿も可愛らしく、いじらしい。
「まだ一回しか摘みに行ってないのだし、ペリルのあるうちに何度も探してみれば見つかるかもしれないわ。ボンディたちも探してくれているし」
パッと顔をあげ、にっこりするドレイファスに、マーリアルだけでなく侍女のメイベルもほぅっとため息が出る。
(こんなに可愛いなんて、本当に将来が心配だわ)
マーリアルは心の中で親バカすぎる自分に苦笑した。
一日走り回ったドレイファスは、いつの間にか母に寄りかかってウトウトしている。
こくん・・・・・
寝落ちた、と見守る母が気づいた時。
ドレイファスはペリルの夢を見ていた。
それは、この前の夢の中で食べられていたペリルととても良く似ている。
ついさっき森で摘んできたものよりとても大きく、丸いというよりやや三角っぽい形。
赤い実から目を離して辺りを見回すと、それらが生えている場所はどう見ても森ではなかった!
見たことがない細い柱を何本も交差させ、そこに薄く引き伸ばした透明のスライムを掛けたような小屋の中に、なんと!まっすぐ列になって生えている。まるで誰かにそう躾けられたように。
でも葉っぱや長い茎が延びているのは、今日摘んだペリルととても良く似ているように見えた。大きな赤い実がゴロンゴロンと生っている!
(ああ、やっぱり大きなペリルはあるんだ!あれをたべてみたいなあ)
「ペリ・・・・たべ・・・たい・・」
ドレイファスの口から小さな声が洩れ、母と侍女はペリルの夢を見ているらしいモゴモゴした寝言を聞くと、起こさぬようにそっとブランケットをかけて幼気な可愛らしさに幸せそうに目を細めた。
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