生死の狭間

そこらへんの学生

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錯綜

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「監視カメラの映像を一か月分?」
 人混み溢れるデパートの一階。店内アナウンスや客たちのあらゆるざわめきが聞こえる中、従業員専用エリアの特別応対室。外渉担当らしき30代らしき黒縁メガネの女性ーー安藤といったか。彼女は、俺の言葉に明らかに嫌悪感を示した。単純に、面倒なのだろう、彼女も。
「そうです。1月25日から遡って12月25日、いえ、24日までの映像を丸々捜査資料としてお見せいただけないかと」
「えーと、もう一度警察手帳を見せていただいても?」
 数分前に見せたはずの警察手帳を開いて、堂々と彼女に見せた。そこに書かれている情報と顔写真をマジマジと見つめ、時折俺の顔と見比べながら、訝しむ。
「警察さんの方で、事件の捜査を行いたいということでしたよね?」
「ええ、先ほども申し上げたことに間違いはありません」
 じじいと会って、商店街を抜けた後、真っ先に目に入ったのは此処、街随一の規模を誇る大型デパートだった。そして俺は何の許可も相談もなくデパートのサービスカウンターから本部に繋いでもらい、事件の捜査を行なっていると言う情報だけを伝え、今に至る。
 警察として。ではない。刑事佐竹として個人の調査であった。だから、「警察の刑事です。事件の調査を行いたいのですが」とだけ言った。嘘は言っていない。まあ別に特段違反でも無いのだが、苦情がくると始末書を書くこともしばしばだ。例えば事件に全く関係なかったり、相手方のプライバシーの問題とかで。

「そうですかぁ」
 少し頭をかきながら、彼女は渋々了承したようだった。少々お待ちくださいと席を外し、特別応対室の外に出て行った。一ヶ月分の監視カメラの映像、つまりデパートの入り口付近、内部の映像24時間×約一ヶ月分の映像を持ってきてくれるらしい。随分と大量な資料になる事は間違いなかった。

「どうして、一ヶ月分も必要なのでしょうか?」
 映像を持ってきてくれた後、二人で持ち帰る為の仕分け作業を行なっている時に彼女は俺に問うた。警察として、と言う名目で事件の詳細については一切伝えていなかったが、これくらいの質問には彼女への感謝も込めて伝えても許されるだろう。そう思った。そもそもここで頑固になって伝えずにいることで、彼女の中で不信感が高まって上に連絡されたらたまったものではなかったからともいえる。

「理由ですか。刑事としての勘ってやつですかね」

「勘、ですか。随分ベタなんですね」

 言って、彼女はくすりと微笑む。冗談のつもりで、どころかまさに冗談嘘極まりないものだったが、彼女の素朴な笑顔に何処か心が締め付けられる気がした。
 勘にも似た、形容し難い感覚。
 俺はもとより勘なんて言葉を信じちゃいない。そんなのは気まぐれで、気の迷いだ。

 だから、俺が事件発生日から一ヶ月前までの映像を要求したのは、気の迷いだったのかもしれない。

 麗華が殺されたのは数年前の、12月24日深夜から25日朝までの時間。
 歩道橋から転落したとして死亡した被害者の死亡推定時刻1月24日深夜から25日明朝。
 河川敷で殺されていた被害者の死亡推定時刻、昨年の12月24日から26日。
 商店街近辺で起きた連続殺人事件の最初の被害者と思われる人物の死亡推定時刻11月24日から26日。
 事件は全て、夜中から明朝にかけて。これは別に、そこまでおかしなことではない。が。

 全ての被害者に共通する特徴。

 圧倒的に他殺の特徴を示す現場証拠、被害者の状態であるにも関わらず、一切の目撃情報や個人を特定できる証拠は残っていないこと。

 被害者の死因はそれぞれでありながら、腹部に真一文字の切り傷があること。

 商店街、いやこの街で起きているこれまでの三件は、ただの連続殺人では無い。
 麗華が死んだ、数年前と、何らかの関係があることは、間違いない。

 気の迷いでも、気まぐれでも、刑事の勘でもない。

 それが、明確な俺の答えだった。
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