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一人空回りする夏休み

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北斗と距離を置くと決意して迎えた次の日の朝
不安な気持ちで待ち合わせ場所に立つ敦也
北斗は昨日のことをどう思っているだろうか、とソワソワしながら北斗を待った。
少しすると満面の笑みで駆け寄って来る北斗が見えた

「おはよう!あっくん!」

「あ…あぁ。おはよう北斗」

その笑顔は久しぶりに見た幼さを感じさせる、こちらを信じきった様な笑顔で、思わず敦也は動揺してしまった。

(ぐっ…駄目だ…好き過ぎる)

近付いて来た北斗に慌てて距離をとる敦也
どういう訳か北斗はこれまでの距離を取ろうとしていた雰囲気が無くなり、安心しきった顔で近付いて来るようになっていた。
嬉しい反面、気を引き締めなくてはうっかり抱きしめてしまいたくなる為、敦也は必死で距離を取った。
不自然にならない程度に距離を置くことで少し冷静になり、自分を戒める。

(北斗にこの気持ちがバレたら終わりだ…)

しかし、自然に距離を置けていると思っていたのは敦也の方だけだった様で、勘の鋭い北斗は変に思っていたらしい。
帰り道に北斗らしい直球の質問が飛んできた

「あっくん、もしかして昨日俺が変な質問しちゃった事気にしてる?」

「なっ!…いきなり何だよ。俺は別に気にして無いよ」

「だってなんか、あっくんいつもと違う感じがしたから…」

そう言うと北斗は少ししょんぼりとした顔をした。
敦也は北斗を安心させるように頭を撫でた
北斗を悲しませるのは本意じゃない

「北斗が突拍子も無い事言うのはいつものことだし、気にして無い。
北斗の方が気にし過ぎてるだけだ」

敦也はもう一度昨日の件は気にして無いと言い切ると北斗の頭から手を離した。
北斗の細くサラサラの髪は触り心地が良く少し名残り惜しく感じていると、北斗は安心したように納得した様子を見せた。

「そっかぁ~」

「そうだよ」

しかし、その後も敦也は上手く北斗との距離を取ろうとして上手くいかず、過剰に北斗を避けてしまう様になった。
そうこうしている内にあっという間に夏休みに入った。

毎年夏休みには朝から夕方まで一緒に遊ぶ事が多かった敦也と北斗
中学に入って部活に行くようになってからも、部活の終わった後や部活の無い日は一緒に過ごしていたし、お盆には二家族合同で旅行に行ったりもしていた。
だから、より一層気を引き締めなくてはならない
北斗と距離を取り過ぎて、以前より余計に北斗が恋しくなってしまった敦也の努力は変な方向へ向かっていた。

(北斗…)

あの日から上手く距離を取れない敦也は少しずつ北斗と一緒に過ごす時間が減っていた。
朝は共に登校するものの、休み時間は理由を付けて席を外し別行動が増え、昼休みも部活の用事と言って一緒に食べたり食べなかったり、帰りに至っては時間をずらす為に部室に残り別々に帰るようになってしまった。
急に避けられる様になった北斗は当然、どうしたのかと聞いてきたが、部活が忙しくなったと言い訳をすれば、体操部の北斗には詳細など分からない為、すぐに納得してくれた。

夏休みに入って直ぐの日曜日、敦也は部活の仲間と出掛ける約束をしていた。
前までなら、北斗と会えるかもしれない日は予定を入れないようにしていたが、今年は逆になるべく予定を入れるようにしていた。

"あっくん今日用事ある?久しぶりに遊ぼうよ"

敦也がそのメッセージに気付いたのは、部活仲間との待ち合わせ場所に着いた時だった。
しかし直ぐに返事をしようとスマホを手に持ったまま、なかなかメッセージを返すのに手間取った。
合流した部活仲間と会話をしていたのもあったが、それよりも北斗の誘いを断るのが辛く感じてなかなか手が進まなかったのだ。

"ごめん。今日は出掛けてるから遊べない"

迷いに迷ってやっと送ったメッセージは何とも素っ気ないメッセージになってしまった。

(北斗、どう思ったかな…)

上辺は楽しそうに振る舞いながらも、敦也は北斗のことばかり考えていた。
自分がもっと北斗と自然に接することが出来たなら、今頃北斗と一緒にいられただろうことを思うとやるせ無い。

(あぁ…北斗に会いたい)

それから少しして、高校から一番近い駅前でお祭りがあるから行こうと部活仲間から誘われて行った先で北斗を見かけた。
北斗は敦也の知らない友達らしき男達と一緒に楽しそうに歩いていた。
きっと部活の仲間なんだろう
久しぶりに北斗の顔を見る事が出来た喜びよりも、北斗が自分の知らない人間と楽しそうにしていることに嫉妬する気持ちの方が強かった。

自分だって北斗が知らないであろう部活仲間とこうしてお祭りに来ているにも関わらず、敦也は嫉妬するのを抑えられない。
本当はいつだって北斗の一番近くにいるのは自分でありたい
自分から北斗を避けていたのに、側に居たくて堪らない気持ちが溢れて来る。

(俺は何をやってたんだ…)

北斗への好意がバレるのを怖がって北斗を避けて、結局ずっと大事に思ってきた北斗とのこれまでの関係すら壊してしまっている。
そのことに気付いた敦也はこれからは変に避けたりせず北斗の隣にいたいと強く思った。
しかし、その後も夏休み中に何度か北斗からの誘いがあったが、先に予定を入れてしまっていたせいで全て断らなければならず、気まずくて敦也から誘うことも出来なかった。恒例だった二家族の合同旅行に期待していだが今年は予定が合わないらしく別々になってしまった為、結局一度も顔を合わせること無く夏休みは終わってしまった。

深刻な北斗不足で好調だった部活でもミスが目立ち、何をしても北斗のことしか考えられない日々も明け、漸く迎えた始業式の朝
気合を入れて身支度をしていた敦也の元へ、ずっと焦がれていた北斗からのメッセージが届いた

"ごめん。今日は早く行きたいから先に行くね"

いつもは北斗らしい顔文字付きのメッセージを送ってくれるのに、その朝届いたメッセージは文字だけの素っ気なく感じるものだった。

敦也の背中に嫌な汗が伝う
バクバクと激しく鼓動する心臓が不安な気持ちを掻き立てる
始業式の日に、自分と一緒に行けないくらい早い時間に学校へ行く用事などあるだろうか?

(北斗を怒らせてるかもしれない…)

正直、心当たりしか無い。
何の非も無い北斗のことを夏休み前から散々露骨に避けて、夏休み中も何度も誘ってくれたのに全て断って一度も会わなかったのだ。
こんなことはこれまで一度も無かった
北斗が嫌な気持ちになるのは当たり前だ
旅行が無くなっても弁解する機会はいくらでもあったのに、尻込みしていた敦也に愛想を尽かせてしまったのかもしれない。
北斗は敦也の顔を見るのが嫌なくらい怒っていて、だから一緒に登校するのを避けたのだろうか
そう考えると、もうそれが正解としか思えなくなって来る
あまりのショックにふらふらしながら、敦也は北斗へ了解の返事を送ると、いつもより遅れて登校して行った。











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