不死の魔法使いは鍵をにぎる

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諸刃の剣は却下

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ダモンを受け入れられる子供を作り増やしていくことは重要だ。

ヘフテとダモンのためにも。
現在事実とされている歴史が間違っていると知らせるためにも。




重要なのはわかるが、同時に危険も高まる。


人間とは違う体を持った生き物だと排他される危険性。
人間を混乱させようとする魔王の手先だと思われる危険性。




現状平和に暮らしているヘフテやベスツァフの村を巻き込むことは、こちらの身勝手ではないか。


彼らは今ある平和を守ることに徹しているのだ。
ベスツァフたちは、自分たちが少数であり、人間から見たら異端であることを自覚している。

だからこそ人目につかないように、小さな平和にすがっているのだ。





ヘフテの村の内情は知らないが、似たような状況だろう。

人間が近寄らない、地図に載らない僻地で生活をしている。
心底人間を嫌っているわけではないが、好んで人間と関わろうとはしない。


協力を仰いだところで、快く乗ってくれるとは思わない。













「私がベスツァフたちの村に入るまで、どれだけ時間をかけたかわかっているのか。外部の者との交流は慎重すぎるくらいに慎重だ。それなのに、何をどう周りの連中に話すかわからない子供の相手を許すと思うか?」

「そっか。それもそうだ。無理だね。良い案だと思ったんだけどな。…ヘフテの村もそう?お願いしても無理かな。この町の子と友達になるのは」




ベスツァフたちの村はどう考えても望み薄だ。


ヘフテの村には足を踏み入れたことがない。
念のためとマーツェはヘフテに問いかける。




「わかんない。赤とか黄色の人がいるって、知らなかったもん」

「そっか。そうだったね。初めて見たんだっけ。ダモンと村を出てから。んー、じゃあダメかな。ヘフテの村も。残念」




ヘフテとダモンはその他に何をしてきたか聞いたが、特に有益そうな情報はなかった。




「さっきのエヌケルさんは兄の孫なんだ。死ぬ前の、私の兄の孫。王様について聞いてたんだよ。前の私は王様に殺されちゃったから。怖い王様だったんだ。今の王様はそうじゃないみたい」



マーツェがヘフテとダモンに今日の結果を話していく。



魔王に対して落ち着いて対処していると、エヌケルは言っていた。
王城に不穏な空気はなく、信頼できる、とも。


王と交渉する余地はありそうだ。


最後まで話を聞かずに造反者として処罰する、とはなるまい。
話を聞く冷静さは持ち合わせているだろう。

王と交渉する場をどう設けるか。
加えて、王に声明を出させるにたる交渉材料も必要だ。




できれば強制ではなく、王自らが魔物との共存に納得し、声明を出すのが望ましい。


現在の歴史は間違っていると受け入れさせる下地を市民の間に浸透させ、王を脅して声明を出させる方が幾分か楽ではあろう。

しかし圧力をかけて王に声明を出させた場合、その後どう転ぶかわからない。



王が魔物への恨みを強くし、人間と魔物の争いが激化するか。
魔物が悪だとまとまっていた国を脅かしたとして私たちに矛先が向くか。

それとも、誤った歴史を広げていたことに不信を持った民に責められ、王と民で争うかもしれない。


面倒はできるだけ避けたいものである。


王自らが魔物との共存に納得して出した声明ならば、その後も協力的な態度を期待できる。
少なくとも私たちを逆恨みすることはないだろう。














翌朝、エヌケルは王都に戻る前に顔を出していった。



「また機会があったら話をさしてくれるかな。年寄りになると思い出話ができる相手も少ないからね。そうだ、昨日の話だがね。王はなるべく被害を抑えて早く魔王を倒したいとお考えだ。何かあったら、協力を頼めると嬉しいね」

「うん。協力するよ。何でも、とは言えないけど。また話そうね」



基本的にエヌケルは王城に籠っての勤務だと言っていた。

道理で王都を調べてもエヌケルが見つからなかったわけである。



「それと、もし気が変わって治癒師として働く気になったなら、私の名前を出してくれればいい。話は通しておくのでね。よろしく頼むよ」



最後にそう付け加えて町を出ていった。

1つ、王城に入るための口実を得た。



治癒師として働くことにすると、結局は町で兵士の怪我を見ることになる。

王城へ入り込めるのはわずかの日数になる上、町に縛り付けられる。




この話は使えないが、エヌケルの名を出せば王城に入れるというのは良い収穫だ。
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