不死の魔法使いは鍵をにぎる

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旅の目的

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「結構な町を回ってるもんね。たくさんの人を助けてる。今後も似たようなことあるかもね」



マーツェは嬉しそうに言う。

魔物に食われた部位を蘇生するなどの、治癒不可能な怪我もあったが、今のところは全ての命を助けることが出来ている。
命を助ける、被害を減らすという目的を達成できている状態だ。


これを当分の間続けることになる。
面倒な状況になりそうだな。

予想されうる憂鬱な事態に舌打ちをした。





「ゲルハルト駄目だよそれ。舌打ちの癖直した方がいいよ。っていうか舌打ちする要素あった?今の話に」





少し話題に出ただけで同一人物だと気づける状況。
それだけ認識が広まっているということだろう。


治癒師でない者が町で他人に治癒魔法を施すなどほぼない。
それだけの腕があるならば、自身も治癒師となるか、勇者に着いて旅をするか、だ。

加えて、面を付けた奇怪な恰好に、旅にそぐわない子供連れ。
印象に残らないはずがない。



わかってはいたが、憂鬱であることに変わりはない。






「仕方なく治癒を施しているが、私は人間に認識されたいわけではない。関わりたいわけでもない。そうやって声をかけられるなんて迷惑だ」



好意的に広まってるんだから良いじゃん、というマーツェの言葉は無視した。



「ヘフテとダモンは人間に広く知られて不快じゃないのか?」



異形がばれないよう結界内に隠れ暮らしていたベスツァフ達。
褐色肌のズィリンダ達も、排他的に生活していた。


同じ一族だろう2人は危機感を覚えないのだろうか。







「別に?おいしいの、もらえるなら嬉しい」



マーツェから新たな食事を受け取り、口の周りを汚しながら食べているヘフテ。

一族の存在が知られる危機感や、迫害されるかもしれない不安などは感じていない模様。
口元が面で隠れているため表情はわかりづらいが、ダモンもさして気にしていないように見える。



「仲いいのが良い。仲良くできる場所、行きたい」



甘辛いタレを絡めて焼いた麺と野菜の料理。
そこから目線を外さずにそう言った。



「仲良くできる場所?それが2人の目的?それを目的に旅をしてるのか?」

「うん。探してる」






ようやく旅の目的らしいものを聞けた。


しかし“仲良くできる場所”に行きたいとは、酷く難解な目的ではないだろうか。
異形の部位を持つ者と人間どもが友好的に生活できる場、という意味なら不可能だろう。



この世のどこを歩いたところで見つかるわけがない。







「ゲルハルトとマーツェ、仲良し。2人の村に行けば、楽しく暮らせる」






ヘフテの言葉にマーツェと顔を見合わせてしまった。

仲が良いつもりは毛頭なく、その点に関しては甚だ疑問だが、ヘフテとダモンが私たちに付いてきた理由は理解できた。


面を被る私。
赤色肌のマーツェ。


ヘフテとダモンの目には、異形の者と普通の人間が友好的に行動を共にしているように見えたのだろう。

実際には、私は異形の者ではないし、森の奥深くに根城を構えていて村に所属もしていないのだが。






「そっか。ヘフテは仲良く暮らしたいんだね。ダモンと一緒に。今まではそれができなかったのか?だから村を出たの?」

「うん。ダモンは、敵の村。殺される、…かもしれないって怒られる」






どういうことだろうか。


ベスツァフ達のところでは、褐色肌と異形の者たちは協力関係にある。
接触して怒られるなんてあり得ないことだ。
ましてや、殺される可能性など考えないだろう。




褐色肌と異形の者は同じ一族だとベスツァフは言っていた。

同じ母親から、ある時は褐色肌が、あるときは異形の部位を持った者が産まれる。
見た目は確かに異なるが、同じ人間なのだと。

そうではない村もあるということなのか。
褐色肌と異形の者が協力関係にない村も存在するということなのか。



わからないことだらけだが、しかし1つ明らかなことがある。
ヘフテとダモンの揃った状態では、2人の村に行っても門前払いにされる可能性が高い。

“敵”“殺される”と子供に教える程なのだ。
互いの村で仲が悪いのは間違いない。









新たな魔物が現れたため、それ以上の話を聞くことはできなかった。

騒ぎに気づいたマーツェは一目散に駆けだす。
それを追いかけて様子を見れば、マーツェ一人で事足りそうな様子。
魔物はマーツェに任せることにして、怪我を負った者への治癒を優先する。


対処を終えた頃には日が暮れていた。
次の場所へと出立するつもりだったが、この町にもう一泊だ。
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