不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
上 下
85 / 201

マーツェの嫌悪的態度

しおりを挟む
「つまり褒美や実力が理由じゃない。黒色肌は自分たちで地位を固めていったわけだ。半ば王を脅すように。

書かれてた情報の全てが正しいとは限らないけど。でも流れは合ってる。特区が設立されてから初代の魔王が倒される流れだ。魔力量を理由に登用基準を変えたわけでもない。

真実味がある。以前知った説よりかずっとね」






対外的に耳障りのよい説を後世に残すために、“王を守った褒美と魔力量の実績で黒色肌が重用されるようになった”と記された書物がつくられたのだろうとマーツェは言う。

真実はごくごく一部で秘匿して。






「まあまだ謎はあるけどね。何を発明したのかとか。“争い”とは何を指しているのか。追い出された人物はどうなったのか。
…王城に残されてるのかな。その辺の情報も。うーん。あの時殺されるべきじゃなかったかな。もうちょっと慎重に行動してれば…。でも絶好の機会だったんだよな」





100年前の行動をいまさら後悔してもどうしようもない。
視野を広く持っているようで、時たま突っ走るマーツェに息を吐く。



「これからどうする」

「どうしようね。今の私は単なる子供だからな。特別な場所で調査とかできない。シュワーゼとは違ってね。ゲルハルトと同じところを回るって手もあるけど。子供と大人じゃ探れるところが違うもんね」



確かに子供相手だと警戒心が低い者もいる。
マーツェと行動を共にしていた方が都合がいいだろうか。









「そういえば。異形の姿の人たちの村って何?先を聞きたくて流しちゃったけど」

「なぜそうなのかは知らないが、生まれつき獣のような部位を持って生まれる者たちが集まった村だ。手足がそうであったり、顔であったり、ごく一部の者もいる」



話しながら、ノートの端に絵を描く。

半面で隠せる鼻と口元が異形のベスツァフ。
手足が獣で尻尾も生えているバリエレ。
手足合わせて6本生えている者や、獣の耳が生えている者。


それぞれの姿を思い浮かべて書いた絵からマーツェに視線を移すと、ひどく顔を歪めていた。



「本当に人間?呪いじゃなくその姿なのか?生まれつきって…。そんなこと有り得るのかな」

「彼らは自分たちを人間だと言っていた。閉鎖的に暮らしていて、中に入るのにも苦労したんだ。先ほどもこの村に行っていたからマーツェは連れていけなかった」

「村では何を?」

「魔法教育を行ってる」





マーツェは乾いた笑いを浮かべた。
無駄な行動だと馬鹿にしているかのように。




「贅沢だね。ゲルハルトが魔法教師だなんて。かつて魔王を倒した勇者。結界も転移もお手の物な魔法使い。それがそんな辺鄙な村で」












こんな反応をするとは思っていなかった。

レフラには辛辣な態度を取ったりもしていたが、あれは性格や態度を直で知っていての態度だ。
会ったこともない知らない相手に嫌悪する姿は見たことがない。





「随分とつっかかるな」

「…ごめん。失礼だったね。ろくに知りもしないのに。この絵を見たらつい」


私が描いたベスツァフたちの絵を指すマーツェ。




「なんだか魔物みたいだ。この絵。ゲルハルトが描いた絵だし。実物はもうちょっと違うのかもしれないけど。魔物が嫌いなんだよ。私。差別的な態度だったね」










獣と魔物を分ける違いはただひとつ。
魔法を使うか使わないか、だ。


魔法を使わないのが獣。
魔法を使うのが魔物。


姿かたちで線引きをするのは難しい。
害獣駆除や癒し目的に家庭で飼育される犬猫のように親しみやすい見た目の魔物もいれば、一目で魔物だと解る禍々しい容姿の魔物もいる。



魔物みたいだというマーツェの言葉で、初めて気づいた。
ベスツァフたちのことを獣に似た部位を持つ人間だと捉えていたが、“魔物に似た部位”と捉えることもできる。









「定期的に村に行ってるのか?」

「毎日だな。夕方からが教育の時間になっている」

「付いて行ってもいいか?今度でいい。一度見てみたい。この目で確かめたい。異形の姿を」



純粋な興味や調査目的という、明るい意味で言っているとは思えなかった。
ベスツァフたちにマーツェを会わせたら衝突しそうだ。
そうなると魔法での誓いに反する恐れも出てくる。



「考えさせてくれ」

「うん。わかった」



とりあえずは私とともに各地へ調査に行くという話に落ち着いた。
明日はバウムに会わせる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

処理中です...