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第5話
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は、働くのってこんなに大変なんだっけ?
社員寮の電気をつけて、新しい匂いのするベッドに倒れ込んだ。寝転ぶのもずいぶん久しぶりだ。腰があるはずの場所を叩こうとしたけど、右手はすり抜けてシーツを軽く叩いた。やっぱり胴体はないらしい。
現文館長の就職提案を快諾し、働き始めた初日だよ、まだ。
こんなに疲れるのか。疲れるよな、仕事だもん。
覚えることがいっぱいあるけど、それでも少しでも、
「人の役に立ててるのが嬉し——」
窓の外の何かと目があった。
必死に枕を盾にする。よく見ると灰色の翼が見えた。あの天使(仮称)だ。少し窓を開けた。
「用があるなら玄関からどうぞ」
「セキュリティがあって入れない」
「じゃあ、お引き取りください」
窓を閉めてカーテンを掴もうとしたら、窓の隙間に天使が腕をねじ込んできた。
「何で働くんだ?」
「暇だから」
「働く以外にすることはないのか?」
「……別に」
「やりたいことはないのか? 見たいものはないのか?」
「……いや?」
「お前、自分を知らないんだろう? 自分探しの旅をしてみたらいい」
「いや別に、旅をしたい気持ちはない」
「……お前、何がしたいんだ?」
変な天使だな。
「わからない。自分もわからないままだし、どこへ向かうべきなのかも知らない。だからせめて善いことをしたい」
「お前は——」
天使の顔がどんどん曇っていく。
「明日も仕事がある。休ませて」
「お前ってやつは——」
「あの!」
僕が少し大きい声を出すと、天使は怯んだように見えた。
「あの……僕が決めたことです。天界とか、その、上とか? の意思やルールに反するなら、今すぐ罰を受ける覚悟はあるし、僕はその……多分ずっと生まれてから今までずっと、ただの風だった。こんな不安定な存在を生かしておくべきじゃないなら、今ここで終わらせてください。あなた、天使なんでしょう?」
「——違う」
「じゃあ、あなたこそ何なんですか」
「違う違う、違う! 俺は天使だよ。違うのは、お前だ。お前はもっと……」
「おやすみなさい。起こさないで」
腕を押しやって、窓を強引に閉めた。
舶物館の変人館長の言う通り、不思議なことがいくつ起こってもおかしくない場所らしいけど、これ毎晩だったらない骨が折れるなあ。
窓の外、カーテンも閉められてしまった天使は、頭を掻きむしって小さく悶えた。
「お前はもっと、選択肢を知るべきなんだよ……」
「知り合いなんじゃないんですか? 結構、そういうことありますよ」
仕事の合間、紫さんはさらりとそう言った。
「僕に記憶がないことに苛立っているんでしょうか、もしかして」
「ありえなくはないんじゃないんでしょうか。わ、何だか今言った文、ややこしくてこんがらがりそう」
「ただの人間が天使になった話は聞かないですね」
隣から聖徳さんも顔を出した。
「それに、天使が人間みたいに話すことも不可解なんですよ。たまに上から監査が入って、その時派遣されてくるのが天使なんですけど、喋っているのは見たことがないというか」
「そうそう。あの、機械みたいに話すんですよ。今風に言うとゴンセーオンセーでしたっけ?」
「合成音声みたいなんです。機械が人間の話し方を真似するように話すんです」
合成音声、という言葉はよくわからないが、とにかく人間のようにしゃべる天使は普通じゃないらしい。
「あとそうだ、業務上の呼び方について確認したくて。これから仕事をする以上、どうしても名前が必要になるので、何と呼びましょうか」
「ああ、確かにそうですね。どうしましょう……」
「で、館長がもう見越して仮名を考えてくれています」
「早い」
「トオルさんはどうでしょう。シンプルすぎると私は思うんですが」
「いや——」
違和感はなかった。しっくりきた。元々の名前みたいだった。
「それでお願いします」
「じゃあ、仮名はトオルさんで」
結局、天使(仮称)の謎は深まるばかりだった。
夕方、社員寮へ着くと、やっぱり窓の外で天使が待っていた。
「通報しますよ」
「してみろ。天使が来てるなんて誰も信じない。お前、本当に働くんだな?」
「しつこいなあ。名前ももらったんです」
「名前も! そんなの、お前を縛り付ける呪いじゃないか!」
ムッとした。館長たちのことは僕もまだ少ししか知らないけど、腹が立った。
「あなたの目的を教えてください」
「お前は他の選択肢を知るべきだ」
「……?」
「お前は周りをちゃんと見ているか? それは本当に正しい道なのか? 人の役に立つからって正しいとは限らないんだぞ」
「じゃあその正しさはどうやって判断するんですか。僕自身が正しいと思ってやっている以上、他人のあなたが入り込む余地はないはずです」
また天使が悲しそうな顔をした。
「……お前は本当にそれでいいのか?」
「僕が決めたことです」
天使は目を瞑って空を仰いだ。
「話は終わりですね?」
僕はぴしゃりと窓を閉めた。仕事の疲れのせいなのか、天使には突っかかってしまう。もし本当に彼が天使で、最大限に機嫌を損ねて消滅、みたいなこともありえなくはないとは思うけど、それでもいいや。何なんだ、本当。
数日後、休みだったので気になっていた場所へ行ってみた。
「あ、お客さんだ。チケットあげるね」
「お金は?」
「ないない。お好きな席へどーぞー。おすすめはど真ん中の席で、キャラメルポップコーンとメロンソーダが特別セールで格安よん」
10代と20代の境目のような少女がチケットを渡してくれた。黒い髪は短く、きらきらと照明の光を弾いていた。
「本日は影我館(えいがかん)へのご来場誠にありがとうございまーす。音が出る機械とか生き物は黙らせてねー。前の席を蹴ったら足を切りまーす。禁煙だよー。録画しなくていーよ、ロビーで円盤売ってるからー。トイレは出口出て右手でーす。はじまりまーす」
何とも気だるげな場内アナウンス。
影我館。この世に生まれなかった創作物(特に映像)を映し出す場所だという。それ以外の生まれなかった創作物は舶物館とかに置いているらしい。改めて思ったけど舶物館はブラックホールか何かなのか?
映像が始まった。
人混みの中で手が離れてしまった兄妹。10年後、兄は死んで異世界へ。妹は細々と暮らしてて、ゲームの中で兄と出会う。ゲームクリアしたら兄の冒険はおしまい。でも、クリアしないと異世界は救われない。最後は、飼い猫がゲームカセットに噛み付いて、火花が散って終わる。
……いや、胸糞だったな?
「お客さんどーだった? いいでしょ、このアマチュア感」
「う、うん……」
「生まれなかった創作物ってこう、尖っていて、ギラギラしてて、あたしだーいすきなんだよね。誰に向けてるかもわかんなくてさ。それが最高。あはは、わかんなくて大歓迎。お客さんわかりやすいね」
「そうかな……」
「お客さんも案外そうなのかもね。生まれるはずだった存在なんじゃない」
生まれるはずで、生まれなかった存在。
それもありえる。息吹くべきものが息吹かずに、そしてどういうわけだか風になってしまったのかもしれない。
「……というか、驚かないんだね、僕に」
透明人間がいることは、もう天界でもかなり知られたらしい。
「うん。だって現文館長がメッセくれてたしー」
「あ、そうなんだ」
改めて、現文館長が気を回してくれているのがよくわかる。なるほどね。
「アイリスさんとはもう会ったんでしょー? あの人やばいよねー」
「え、誰?」
「あれ、舶物館行ったんじゃないのー」
「あ、変な人アイリスって名前なんだ」
「やば。名乗ってないし聞いてないし」
「いや、僕もその時名前なかったし聞かなかったし言われなかったし……」
「あなたも相当やばそーう。てかやばー。面白いねー」
ゆるーい。
「あたしアマチュア映像大好き委員会の序針(じょはり)って言うんだー。人生に迷ったら影我館においで」
「もっと迷いそう」
「今日のはちょっと不条理すぎたかもねー。未発表のクラシックコンサートのライビュやる日もあるし、なんか色々やってるからおいでませませ」
チラシをもらった。
「えっ、これはさすがに知ってる音楽家……ちょっと待ってこの人まだ天界にいるの!?」
「新作だからいるんじゃなーい? 創作家はたまにゴネて長居する人いるしー」
「ええええ……やっば、来週の土曜か、行かなきゃ」
チラシを持つ手に思わず力が入ってしまう。改めて、すげーな天界。
「……お客さん、多分一度はちゃんと生まれてそうだね」
「え、何?」
「んーん。なんでもなーい。来週土曜は多分混むから席とっておいてあげる」
「ありがとうございます」
「見てくれる人がいることは創作家にとって何よりの幸せなんだよー。遮る真似なんて生き返ってもできないよん」
ウインクをしたその笑顔の儚さ。
ふわあと広がる白いワンピース。
カウンターに置かれた大きすぎる麦わら帽子。
どこからともなく聞こえる、ヒグラシの鳴き声。
「ねぇ、序針さんって本当は」
口元に人差し指を立てられる。
「ひみつ、ね」
「う、うん」
ドギマギした。
その頃。
屠書館は予期せぬ客に騒然としていた。
「噂をすれば天使の方々。監査ですか?」
[いいえ]
耳にざらつく音声だ、と紫式部はひっそり不快感を抱く。
[とある人物 に ついて 原本 を 確認 させて 頂きたい]
「上の命令ですね?」
[はい]
「聖徳さん、カードを」
「館長、よろしいのですか?」
「僕も気になっていました。天使の方々の協力があれば、手間は省けるでしょう」
重々しい書庫のロックが解かれる音が鳴り響いた。
社員寮の電気をつけて、新しい匂いのするベッドに倒れ込んだ。寝転ぶのもずいぶん久しぶりだ。腰があるはずの場所を叩こうとしたけど、右手はすり抜けてシーツを軽く叩いた。やっぱり胴体はないらしい。
現文館長の就職提案を快諾し、働き始めた初日だよ、まだ。
こんなに疲れるのか。疲れるよな、仕事だもん。
覚えることがいっぱいあるけど、それでも少しでも、
「人の役に立ててるのが嬉し——」
窓の外の何かと目があった。
必死に枕を盾にする。よく見ると灰色の翼が見えた。あの天使(仮称)だ。少し窓を開けた。
「用があるなら玄関からどうぞ」
「セキュリティがあって入れない」
「じゃあ、お引き取りください」
窓を閉めてカーテンを掴もうとしたら、窓の隙間に天使が腕をねじ込んできた。
「何で働くんだ?」
「暇だから」
「働く以外にすることはないのか?」
「……別に」
「やりたいことはないのか? 見たいものはないのか?」
「……いや?」
「お前、自分を知らないんだろう? 自分探しの旅をしてみたらいい」
「いや別に、旅をしたい気持ちはない」
「……お前、何がしたいんだ?」
変な天使だな。
「わからない。自分もわからないままだし、どこへ向かうべきなのかも知らない。だからせめて善いことをしたい」
「お前は——」
天使の顔がどんどん曇っていく。
「明日も仕事がある。休ませて」
「お前ってやつは——」
「あの!」
僕が少し大きい声を出すと、天使は怯んだように見えた。
「あの……僕が決めたことです。天界とか、その、上とか? の意思やルールに反するなら、今すぐ罰を受ける覚悟はあるし、僕はその……多分ずっと生まれてから今までずっと、ただの風だった。こんな不安定な存在を生かしておくべきじゃないなら、今ここで終わらせてください。あなた、天使なんでしょう?」
「——違う」
「じゃあ、あなたこそ何なんですか」
「違う違う、違う! 俺は天使だよ。違うのは、お前だ。お前はもっと……」
「おやすみなさい。起こさないで」
腕を押しやって、窓を強引に閉めた。
舶物館の変人館長の言う通り、不思議なことがいくつ起こってもおかしくない場所らしいけど、これ毎晩だったらない骨が折れるなあ。
窓の外、カーテンも閉められてしまった天使は、頭を掻きむしって小さく悶えた。
「お前はもっと、選択肢を知るべきなんだよ……」
「知り合いなんじゃないんですか? 結構、そういうことありますよ」
仕事の合間、紫さんはさらりとそう言った。
「僕に記憶がないことに苛立っているんでしょうか、もしかして」
「ありえなくはないんじゃないんでしょうか。わ、何だか今言った文、ややこしくてこんがらがりそう」
「ただの人間が天使になった話は聞かないですね」
隣から聖徳さんも顔を出した。
「それに、天使が人間みたいに話すことも不可解なんですよ。たまに上から監査が入って、その時派遣されてくるのが天使なんですけど、喋っているのは見たことがないというか」
「そうそう。あの、機械みたいに話すんですよ。今風に言うとゴンセーオンセーでしたっけ?」
「合成音声みたいなんです。機械が人間の話し方を真似するように話すんです」
合成音声、という言葉はよくわからないが、とにかく人間のようにしゃべる天使は普通じゃないらしい。
「あとそうだ、業務上の呼び方について確認したくて。これから仕事をする以上、どうしても名前が必要になるので、何と呼びましょうか」
「ああ、確かにそうですね。どうしましょう……」
「で、館長がもう見越して仮名を考えてくれています」
「早い」
「トオルさんはどうでしょう。シンプルすぎると私は思うんですが」
「いや——」
違和感はなかった。しっくりきた。元々の名前みたいだった。
「それでお願いします」
「じゃあ、仮名はトオルさんで」
結局、天使(仮称)の謎は深まるばかりだった。
夕方、社員寮へ着くと、やっぱり窓の外で天使が待っていた。
「通報しますよ」
「してみろ。天使が来てるなんて誰も信じない。お前、本当に働くんだな?」
「しつこいなあ。名前ももらったんです」
「名前も! そんなの、お前を縛り付ける呪いじゃないか!」
ムッとした。館長たちのことは僕もまだ少ししか知らないけど、腹が立った。
「あなたの目的を教えてください」
「お前は他の選択肢を知るべきだ」
「……?」
「お前は周りをちゃんと見ているか? それは本当に正しい道なのか? 人の役に立つからって正しいとは限らないんだぞ」
「じゃあその正しさはどうやって判断するんですか。僕自身が正しいと思ってやっている以上、他人のあなたが入り込む余地はないはずです」
また天使が悲しそうな顔をした。
「……お前は本当にそれでいいのか?」
「僕が決めたことです」
天使は目を瞑って空を仰いだ。
「話は終わりですね?」
僕はぴしゃりと窓を閉めた。仕事の疲れのせいなのか、天使には突っかかってしまう。もし本当に彼が天使で、最大限に機嫌を損ねて消滅、みたいなこともありえなくはないとは思うけど、それでもいいや。何なんだ、本当。
数日後、休みだったので気になっていた場所へ行ってみた。
「あ、お客さんだ。チケットあげるね」
「お金は?」
「ないない。お好きな席へどーぞー。おすすめはど真ん中の席で、キャラメルポップコーンとメロンソーダが特別セールで格安よん」
10代と20代の境目のような少女がチケットを渡してくれた。黒い髪は短く、きらきらと照明の光を弾いていた。
「本日は影我館(えいがかん)へのご来場誠にありがとうございまーす。音が出る機械とか生き物は黙らせてねー。前の席を蹴ったら足を切りまーす。禁煙だよー。録画しなくていーよ、ロビーで円盤売ってるからー。トイレは出口出て右手でーす。はじまりまーす」
何とも気だるげな場内アナウンス。
影我館。この世に生まれなかった創作物(特に映像)を映し出す場所だという。それ以外の生まれなかった創作物は舶物館とかに置いているらしい。改めて思ったけど舶物館はブラックホールか何かなのか?
映像が始まった。
人混みの中で手が離れてしまった兄妹。10年後、兄は死んで異世界へ。妹は細々と暮らしてて、ゲームの中で兄と出会う。ゲームクリアしたら兄の冒険はおしまい。でも、クリアしないと異世界は救われない。最後は、飼い猫がゲームカセットに噛み付いて、火花が散って終わる。
……いや、胸糞だったな?
「お客さんどーだった? いいでしょ、このアマチュア感」
「う、うん……」
「生まれなかった創作物ってこう、尖っていて、ギラギラしてて、あたしだーいすきなんだよね。誰に向けてるかもわかんなくてさ。それが最高。あはは、わかんなくて大歓迎。お客さんわかりやすいね」
「そうかな……」
「お客さんも案外そうなのかもね。生まれるはずだった存在なんじゃない」
生まれるはずで、生まれなかった存在。
それもありえる。息吹くべきものが息吹かずに、そしてどういうわけだか風になってしまったのかもしれない。
「……というか、驚かないんだね、僕に」
透明人間がいることは、もう天界でもかなり知られたらしい。
「うん。だって現文館長がメッセくれてたしー」
「あ、そうなんだ」
改めて、現文館長が気を回してくれているのがよくわかる。なるほどね。
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「え、誰?」
「あれ、舶物館行ったんじゃないのー」
「あ、変な人アイリスって名前なんだ」
「やば。名乗ってないし聞いてないし」
「いや、僕もその時名前なかったし聞かなかったし言われなかったし……」
「あなたも相当やばそーう。てかやばー。面白いねー」
ゆるーい。
「あたしアマチュア映像大好き委員会の序針(じょはり)って言うんだー。人生に迷ったら影我館においで」
「もっと迷いそう」
「今日のはちょっと不条理すぎたかもねー。未発表のクラシックコンサートのライビュやる日もあるし、なんか色々やってるからおいでませませ」
チラシをもらった。
「えっ、これはさすがに知ってる音楽家……ちょっと待ってこの人まだ天界にいるの!?」
「新作だからいるんじゃなーい? 創作家はたまにゴネて長居する人いるしー」
「ええええ……やっば、来週の土曜か、行かなきゃ」
チラシを持つ手に思わず力が入ってしまう。改めて、すげーな天界。
「……お客さん、多分一度はちゃんと生まれてそうだね」
「え、何?」
「んーん。なんでもなーい。来週土曜は多分混むから席とっておいてあげる」
「ありがとうございます」
「見てくれる人がいることは創作家にとって何よりの幸せなんだよー。遮る真似なんて生き返ってもできないよん」
ウインクをしたその笑顔の儚さ。
ふわあと広がる白いワンピース。
カウンターに置かれた大きすぎる麦わら帽子。
どこからともなく聞こえる、ヒグラシの鳴き声。
「ねぇ、序針さんって本当は」
口元に人差し指を立てられる。
「ひみつ、ね」
「う、うん」
ドギマギした。
その頃。
屠書館は予期せぬ客に騒然としていた。
「噂をすれば天使の方々。監査ですか?」
[いいえ]
耳にざらつく音声だ、と紫式部はひっそり不快感を抱く。
[とある人物 に ついて 原本 を 確認 させて 頂きたい]
「上の命令ですね?」
[はい]
「聖徳さん、カードを」
「館長、よろしいのですか?」
「僕も気になっていました。天使の方々の協力があれば、手間は省けるでしょう」
重々しい書庫のロックが解かれる音が鳴り響いた。
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