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第8章 運命神の《ことわり》。

宴。

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 お社に戻るとお稲荷さんだけではなく、サナやナルシ、エルフ達の姿もあった。
 大きな怪我はなさそうだが、みんなぼろぼろだった。

「チャビ、〈回復〉……」

「いいよ、いいよ」

 チャビに〈回復〉を頼もうとすると、サナが手をひらひらと振って笑った。

「たいした傷じゃないよ」

「猫達も疲れているだろう」

 確かにいつもほどは元気がないが、おそらく眠くなってしまったのだ。
 今日は昼寝する暇もなかったからな。

 よつばだけが、わくわくしているようだった。

「あのでっかいのが出てきた時には、もうダメかと思ったけどね」

「……美味しいらしいよ?」

「は?」

「た、食べるのか!?」

 私の言葉にサナもエルフ達も顔を強張らせた。
 しかし、ナルシだけは重々しく頷いている。

「よつばが言うなら、間違いはない」

 ……いや、うん。そうなんだけど。
 ナルシの猫に対する盲目感は、女神様に通じるものがあるな。

「『島鯨』は美味しいですよ」

 お稲荷さんがにこにこしながら言った。
 「島鯨」の部分は真珠国周辺で使われているニホ語と言われているなまりだったため、サナ達は聞き取れなかったようで首を傾げている。

「お稲荷さんは食べた事があるの?」

「はい。五百年くらい前だったと思いますけど」

 なるほど。滅多には食べられないわけか。

「ほかの人達にも食べさせてあげようか?」

「にあん!?」

 信じられない、といった表情でよつばが鳴いた。

「だって、よつばだけじゃ食べきれないよ。おなか壊したら困るし」

 不満そうなよつばをどうにかなだめると、お稲荷さんが解体や調理をする人達を手配してくれた。
 しばらくの間、境内は炊き出しをしているような状態になった。

 ようやく終わった頃には、真っ暗になっていた。

「今夜は新月ですね」

 島鯨の刺身を食べながら、お稲荷さんが空を見上げた。

 島鯨の身は白っぽく、箸でつまむとぷるぷるとした弾力だった。
 口の中に入れると、あっという間に溶けて、ほんのりとした甘味だけが残った。

 美味しい。……が、眠い。
 とにかく眠い。

 米の酒を喜んで飲んでいたエルフ達は、早々とつぶれてしまっている。

 サナは槍を両手で抱え込むようにしながら、壁に寄りかかったまま眠ってしまった。

 ナルシは黙々と食べているが、いつも以上に口数が少ない。

 猫達も最初は喜んで食べていたが、眠気には勝てなかったらしい。
 みんな、次々と眠りに落ちていった。
 福助など口に島鯨をくわえたまま、うつらうつらと舟をこいでいた。
 カリカリ以外に興味を示さないりゅうたろうは、とっくに私の膝の上で丸くなっている。

 元気なのは、ようやく島鯨にありつけたよつばだけだった。

 よつば、全部、食べたら、ダメだからね……?

 ああ、もうダメ、だ。

 目を開けて、いられ……。

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