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第8章 運命神の《ことわり》。
嵐。
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「猫達が一番前で魔法を使うから、全力で」
全力、の所を強調した私の言葉を聞いて、サナ達はにやりと笑った。
「あたしらは、討ちもらした魔物を始末すればいいってことだね」
「分かった」
「兄貴、猫に見とれて不覚を取らないでよ」
サナがからからと笑う。
ナルシはこっくりと頷いた。
「善処する」
善処かよ!
まぁ、実際に始まればサナ達の戦いぶりはほかの冒険者達より数段上なのは確かだが。
「……ん?」
風が出てきたな。
せりが耳の後ろを激しくかいた。
ほかの猫達もやたらとひげの手入れをしたり、しっぽをなめていたりする。
通常モードなのは福助だけだ。
おいおい、嘘だろ……。
「つかさ。精霊達が騒いでいる」
やっぱりか!
「どうしたんだい?」
サナが首を傾げた。
「今から天気が崩れる」
「は?」
うちの猫達は、台風がくる前になるとそわそわして落ち着かなくなるのだ。……福助以外は。
あっという間に空は厚い雲でおおわれ、強い風が吹いてきた。
海の色は暗くなり、波が高くなる。
まずい、この天気では……。
「つかさ、変だ」
ナルシの声に振り向くと、雲におおわれているのは真珠国の周辺だけのようだった。
……運命神の仕業か!?
嵐が起こるタイミングで黒い霧を発生させたのか、それとも、嵐が起こるように《ことわり》を書きかえたのか。
どちらにせよ、嵐の中、魔物が襲ってきたら対応が難しい。
……いや、方法はある。
「船を出す」
「こんな嵐の中を?」
私の言葉に、サナ達もエルフ達もいい顔をしなかった。
「大丈夫」
以前、海神様にもらった加護がある。
私が海に出れば絶対に荒れない。
「船はどうする?」
「ここに停泊しているのは商船だろ? 戦いには向いてないよ」
船もある。
魔導で造られた船だ。
遠い遠い、異なる世界に渡るための船が。
だが。
船の動力は、猫の魔力だ。
海上の戦闘に参加する猫達の魔力は使えない。
「…………」
よつば、おこん、キングの魔力に頼るしかない。
担当する魔力を三等分すれば、短時間なら大丈夫だろうか……。
ほかに方法はない。
「よつば、おこん、キング。お願い、力を貸して……」
「にあん!」
よつばが、誇らしげに胸を張った。
「にゃん!」
おこんの目が、イタズラをする時のように輝いた。
「にゃう……」
キングは、私の足に頭をこすりつけてナデナデを要求した。
「短時間なら、いける」
キングの頭を撫でながら私は言った。
「つまり、一気にかたをつけるって事だね」
ひゅんっと、サナが槍を振った。
「…………」
ナルシは無言で大剣を握った。
「絶対にここは通さない」
エルフ達が弓を鳴らす。
私は無限収納から船を取り出し港に浮かべた。
「出航!」
全力、の所を強調した私の言葉を聞いて、サナ達はにやりと笑った。
「あたしらは、討ちもらした魔物を始末すればいいってことだね」
「分かった」
「兄貴、猫に見とれて不覚を取らないでよ」
サナがからからと笑う。
ナルシはこっくりと頷いた。
「善処する」
善処かよ!
まぁ、実際に始まればサナ達の戦いぶりはほかの冒険者達より数段上なのは確かだが。
「……ん?」
風が出てきたな。
せりが耳の後ろを激しくかいた。
ほかの猫達もやたらとひげの手入れをしたり、しっぽをなめていたりする。
通常モードなのは福助だけだ。
おいおい、嘘だろ……。
「つかさ。精霊達が騒いでいる」
やっぱりか!
「どうしたんだい?」
サナが首を傾げた。
「今から天気が崩れる」
「は?」
うちの猫達は、台風がくる前になるとそわそわして落ち着かなくなるのだ。……福助以外は。
あっという間に空は厚い雲でおおわれ、強い風が吹いてきた。
海の色は暗くなり、波が高くなる。
まずい、この天気では……。
「つかさ、変だ」
ナルシの声に振り向くと、雲におおわれているのは真珠国の周辺だけのようだった。
……運命神の仕業か!?
嵐が起こるタイミングで黒い霧を発生させたのか、それとも、嵐が起こるように《ことわり》を書きかえたのか。
どちらにせよ、嵐の中、魔物が襲ってきたら対応が難しい。
……いや、方法はある。
「船を出す」
「こんな嵐の中を?」
私の言葉に、サナ達もエルフ達もいい顔をしなかった。
「大丈夫」
以前、海神様にもらった加護がある。
私が海に出れば絶対に荒れない。
「船はどうする?」
「ここに停泊しているのは商船だろ? 戦いには向いてないよ」
船もある。
魔導で造られた船だ。
遠い遠い、異なる世界に渡るための船が。
だが。
船の動力は、猫の魔力だ。
海上の戦闘に参加する猫達の魔力は使えない。
「…………」
よつば、おこん、キングの魔力に頼るしかない。
担当する魔力を三等分すれば、短時間なら大丈夫だろうか……。
ほかに方法はない。
「よつば、おこん、キング。お願い、力を貸して……」
「にあん!」
よつばが、誇らしげに胸を張った。
「にゃん!」
おこんの目が、イタズラをする時のように輝いた。
「にゃう……」
キングは、私の足に頭をこすりつけてナデナデを要求した。
「短時間なら、いける」
キングの頭を撫でながら私は言った。
「つまり、一気にかたをつけるって事だね」
ひゅんっと、サナが槍を振った。
「…………」
ナルシは無言で大剣を握った。
「絶対にここは通さない」
エルフ達が弓を鳴らす。
私は無限収納から船を取り出し港に浮かべた。
「出航!」
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