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第5章 神の息吹。

惨状。

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「儂も、この国も、荒事は苦手での」

 確かに、オパール王国はほかの国と比べると平和な国だ。
 ギルドへの依頼もほとんどがお使いや採取系だ。
 魔物退治などはめったにない。

「以前に魔物の大発生も防いでもらったし、フラーも退治してもらった」

 農耕神様は、私を見てにっこりと笑った。

「本当に、感謝している」

「あ、いいえ」

 魔物の大発生を防いだのは副産物的なものだったし、フラーはうちの猫達の狩りだったしな……。

 ふう、と農耕神様が疲れたようなため息をついた。

「?」

「……少し前にも、フラーの群れに襲われた事があっての」

 ……ギルドマスターのおばあさんが言っていたやつかな?
 神様だと、少し前くらいの感覚になるのか。

「猫神に来てもらって、一緒に駆け付けたんじゃが……」

 農耕神様は苦しそうな顔をした。

 悲惨だったのだろう。
 自分が守護している国と民の惨状を見て、神様はどんな気持ちになるのだろうか……。

「食い荒らされた死体の中で、血塗れになった若い冒険者の夫婦が戦ってくれていたんじゃが……」

 農耕神様が、言葉に詰まる。

「儂らの顔を見た時の、あの子達の目が忘れられんのだ」

 ……その冒険者の夫婦の目は何を語っていたのだろう。

 助かった? 
 何で来てくれなかった? 
 どうして?

 その場にいなかった私には分からない。
 仕方なかったと言える立場でもない。

 するりと、キャットハウスからチャビが出てきた。
 そのまま、農耕神様の膝に飛び乗った。

「こら、チャビ!」

 チャビは、農耕神様の顔を見ながらごろごろとのどを鳴らし始めた。

 チャビ、もしかして。

「慰めてくれとるのか……?」

 農耕神様は泣きそうな顔になった。

「優しい子じゃ」

 そう呟きながら、農耕神様はチャビの頭を撫でた。

 ……まぁ、うちの癒し系なんで。

 いかん。私が泣きそうだ。

「心持ち、身体が軽くなったような気もするのぅ」

 チャビの顔を見ながら、農耕神様は笑った。

 それは気のせいではないです、多分。

「チャビのスキルは〈回復〉なので」

 しかし、神様にも〈回復〉の効果ってあるんだな……。





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