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しおりを挟むそれから後の4日間、3人はやりとりの世界での濃密な観光ライフを過ごした。それは地球でいう所の観光旅行などとは全く別格の、“やりとりの世界”の本質に迫る、ある意味非常にアカデミックな、深い日々だったのであった。
ある日彼らはアリサに導かれて、山登りをしながらピクニックに出掛けた。快適な気候、山中に自由にのびのびと生えている美しい木々、そして時折姿を現す、その山に住む色々な動物達・・・。そして山の頂から見渡す事のできた、まるで別世界のような光景のカルデラ湖。
・・・どうやらこの世界では、『自然』というものに大変深い敬意を払い、大切に扱われているようだった。
またある日、彼らは広大な建造物である神殿に赴いて、アリサからこの世界で考えられている、“神”についての思想を教わった。この世界での神の存在については、昔からアニミズムや一神教など、多様な考え方があり、それらは時代と共に、様々に変化し続けてきたが、それでも自分達の世界が全てでない事をよく知っている彼らにとって、この世の何処か、言い換えればどこか別世界に、“神”が存在するのだという考え方は、決して異質なものではなく、素直に認められることだった。
そして彼らは神に何かを頼んだり、依存したりするようなことはなくて、それでも神はいる、というよりも、神は在るのだということを、自然な事として理解しているのだった。
そして3人がこの世界から最も学ぶべき事だと考えている、やりとりの世界の歴史について、彼らはこれまた巨大な歴史博物館に行って、アリサから事細かに教えを受けた。
イアンは特にこの知識に興味を惹かれたようで、アリサはそんな彼の思いに応えるべく、殆ど付きっきりで彼に、博物館の内容について伝授した。
そうやって学ぶべきと定められた時間は、驚きと感動を伴いながら、あっという間に過ぎていき・・・。
アリサに見送られてパレスまで戻ってきた3人は、その時彼女からこう告げられた。
「今日で、あなた達とはお別れですね。私のヘルパーとしての役目は終わりました。
どうか、これから部屋でゆっくりと休んで下さいね。そして明日はいよいよ、この世界の統治者、ヨル王子との謁見が待っています。
私は願っています、あなた達の要求、もしくは望みが、思い通りに叶いますようにと。
・・・それでは皆さん、お元気で!」
アリサからの別れの言葉を聞いたイアンは、感極まった様子でそっとアリサの手を握ると、言った。
「アリサさん、色々ありがとう。・・・本当にお世話になりました。」
その言葉を聞いた彼女は、優しい笑みを浮かべ、まずイアンの手を握り返し、次にケイトと遥の手を1人ずつ握ると、手を振りながら、彼らの元を去っていった。そしてパレスから彼女が出て行くのを見届けると、3人は自分達の泊まっている部屋まで、ぽつぽつと歩き始めたのだった。
その道中、何故かイアンは深刻に、何かを真摯に考えている様子だった。その事に気付いたケイトは、心配そうに彼に声を掛けた。
「イアン・・・。どうかしたの?」
「・・・あ、いや、何でもない。
遥、君はヨル王子に伝えたい事があって、わざわざこのやりとりの世界まで、やって来たんだろう?」
「うん、そうよ。でも自分でもどうやって私の気持ちを伝えればいいのか、まだ上手く考えが纏まっていなくて・・・。
だからこれからじっくり考えて、何とか明日までには、自分の意見を纏めておくつもりでいるの。」
イアンは、遥の言葉に納得したように頷くと、言った。
「そうか。じゃあ今日はこれで、それぞれ自分の部屋に戻った方が良さそうだね。各々の考えを整理するためにもね。
それじゃ、ケイト、遥、おやすみ。」
そしていつしか自分の宿泊部屋まで辿り着いていた3人は、口々に挨拶を交わした。
「おやすみなさい、イアン。」
「じゃあ、また明日ね。」
そして3人はそれぞれ自分が泊まっている部屋の中へ、入っていったのだった。
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