千年の扉

桃青

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 それから数日が経って・・・。
 遥は再びファンタジーの事務所を訪れていた。今回は遠慮する事なく扉を開けて、中へずんずんと入っていくと、大江は驚きの目で遥を見つめていた。
「遥ちゃん・・・、どうしたんだい、急に事務所に来て?今度は何の用だい?」
 そう言う大江のデスクに遥は真っ直ぐ向かうと、バンと両手を机の上に置いて言った。
「大江さん、実は今日はお願いがあって来ました。」
「うん。―それは何だい?」
「私を、ファンタジーのメンバーにして下さい。」
「・・・ほう。それを頼みに来たの?」
「そうです。私、何でもします、お茶くみでも、掃除でも、どんな雑用でも。私もここにいて、千年の扉の情報を得る事に、全力を注ぎたいんです。だから・・・、
 私を仲間にしてもらえませんか。駄目でしょうか?」
 すると遥の熱心な様子を見て、何故か大江はニヤ~ッと笑った。それから気を取り直すと、こう言った。
「いや、僕としては全然構わないよ。・・・と言うかむしろそっちの方が話は早いし、有難いね。おい、太田!」
「うーん、何だ、満?」
 そう言って遥も見た記憶のある中年男性が、棚の奥から姿を現した。大江は遥を指差して言った。
「こちらが今日からファンタジーのメンバーになる、青山遥さんだ。だからお前がちょっと彼女に、このファンタジーについて色々説明をしてくれ。」
「ああ、そういう事ね。分かった。」
 そう言うとその男性は遥に向かって、ちょいちょいと手招きをしてみせた。遥は招かれるがまま、その男性の元へ歩いていくと、彼は軽く会釈をして彼女に言った。
「僕の名前は太田一郎って言います。よろしくね。・・・で、あっちのパソコンの前に陣取っているのが、やはりファンタジーの重要なメンバーである、マーク・スミスだ。
 彼は肌の色は黒いが、白人の血も、そして東洋人の血も流れているという、究極の混血児であり、根っからのコスモポリタンでもある。」
 そう言って太田に手を差し伸べられたマークは、その事に気付き、にっこりと遥に優しく笑ってみせた。遥はそんなマークに向かって丁寧にお辞儀をすると、今度太田は何を思ったか、急に遥に身を寄せて囁いた。
「・・・で、君もすでに知っている大江満は、このファンタジーの創始者で、ここのリーダーでもある。
 ・・・遥さん、あいつには気をつけろよ。確かに顔はいいが、女好きで、可愛い女の人には手が早いときてる。」
 すると大江は咳払いをし、声を張り上げて独り言を言った。
「全部聞こえているぞ、太田。」
 ・・・太田はまるで何事もなかったような顔をすると、丸眼鏡を顔に押し上げて、さらに話を続けた。
「このファンタジーという組織は、NGOともNPOとも取れる曖昧な組織でね、その財源は様々な形の寄付で賄われているんだが・・・。
 そんな僕達の仕事は、“謎の謎を解く”ということだ。」
 遥は鸚鵡返しに太田の言葉を繰り返した。
「謎の謎を解く?」
「そう。僕らの仕事は理屈で割り切れない出来事に挑み、その真実を明らかにする事だ。
 考えてもみて欲しい。これだけ科学的思考が定着している現代においても、我々が一生に置いて知り得る事は、ほんの僅かでしかない。そう、この世界はまだまだ謎に満ちているんだ。
 ―で、僕らは普通の人だったら誰も取り合おうとしない、謎の中の謎、つまり謎のエアーポケットに入ってしまったような問題に、取り組んでいるわけなのさ。
 それがいわゆる“謎の謎”ということになる。
 そういう事を調べて欲しいと望んでいる人々は、実はこの世の中にごまんといるわけで、それで俺らも食いはぐれる事なく、毎日のご飯にありつけるというわけなの。」
 遥は目を大きく開いて、太田の話を熱心に聞いていたが、急に思いついたように言った。
「―あっ、そう言えばこの間来た時にいた、3人の若い人達が今日はいませんけれど・・・。」
「ああ、あの3人組ね。
 あいつらはまだ高校生だからね、今日は学校に行っているよ。午後の4時頃になると、全員ここにやって来るのだけれど・・・。」
「そうですか。」
 遥はそう言って何度か頷いた。すると今まで何かの仕事に没頭していた様子の大江は、急に遥に向き直って言った。
「じゃあ遥。君には明日から仕事に来てもらおうと思う。何か時間帯の希望とか、日にちの都合とかあるかい?」
「いいえ、今は特にありません。」
「そうか、じゃあ、明日の朝9時に。またこの事務所に来て欲しい。分かったかな?」
「はい。―どうかよろしくお願いします!」
 遥はそう言って、ファンタジーの一員として、メンバーに向かって深く、頭を下げたのだった。

 遥は自分の部屋の窓から外を眺めていた。
 空には月が浮かび、遥は月光浴をしながら月の神秘について思いを馳せ、そしてファンタジーの一員になったことに、何か責任のようなものを感じていたのだったが、今心の中にある、ある思いを確かめてから、彼女は梅のいるリビングへと足を向けた。
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