男が怖い

桃青

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ラストシーン

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 濃い闇に閉ざされている都会の町の中を、私と本田君は並んで、ポクポクと道を歩いていた。すると、
「・・・いい連中でしょ?」
 と本田君が話し掛けてきたから、私は答えたわ。
「はい、とても。皆さん男の方達なのに、なんだか・・・、可愛かったです。」
「男の人を可愛いと思うだなんて、井上さんも今日一日で、随分進歩したじゃない。
 最初にあいつらの輪の中に入った時なんて、・・・緊張で歯をガチガチ鳴らしていたくせにさ。」
「・・・えっ。気付いていたんですか?」
「うん、まあね。
 そんなに怖がることないのに、と思って、僕、思わず吹き出しそうになっちゃった。」
「やっぱり。本田君なら絶対に笑うと思ったんだ。」
 私がふくれっ面をしてぶつぶつそう言うと、本田君はにやにや笑って私の事を見ていた。
 それから彼は言ったわ。
「で、どうだった?初めて男だらけの飲み会に、参加してみた感想は?」
「・・・とても、楽しかった。
最初は皆さんが『男』なんだからって、強く意識していたけれど、でも最後の頃はそんな事も、すっかり忘れちゃったみたいで・・・。」
「あんなものの存在も忘れた?」
 本田君が真面目にそう聞くので、私も真面目に彼に答えたわ。
「ええ、すっかり忘れていました。」
 すると本田君はフフッと笑って、1人何かを考えているみたいだったけれど、私はそんな彼に言ったの。
「でも、当たり前の事だけれど、今日しみじみと思いました。
 (男の人も、私と同じ人間なんだ。)
 って。
 確かに男だとか、女だとか、違いはあるのだけれども、でもお互い人間同士なんだから、きっと通じあうことができるんだって。」
「そうだね。・・・だから、何も怖れる事はないんだよ。」
「怖れる事は何もない。そうかもしれません。」
 すると本田君はまるで私の事を窺うように、ちらっと横目で見て、真剣な表情をすると、決意を固めた様子で、私のこんなことを言ったの。
「じゃあ、これからもう少し男の人について深く知れば、君の“男性恐怖症”なるものは、きっと完全に治るよ。
 だからそのために。
 僕と付き合ってみる、・・・というのはどうかな?」
「・・・エッ?」
 私は言葉の意味が瞬時に呑み込めずに、ポカンとした顔をして本田君を見つめた。すると彼は冗談なんかじゃありませんといった、至極真面目な顔つきで、私を見ているのだった。

(そうだったのか。)
 私はやっと心の中で、得心がいった。

 本田君との出会いから、今現在に至るまでの出来事が、私の頭の中でくるくると回り始めた。すると今までの本田君の行いや、言葉ひとつひとつが、まるでジグソーパズルを作り上げるように、ひとつのものへと繋がっていったわ。

 そうなのだ。それらは全て、今日のこの『告白』のために、本田君の頭の中で計算されたものだったのだ!

(また嵌められた。)
 彼のトラップに見事に陥落してしまった私は、はぁ~と溜め息を吐きながら、何とも言えず、そう思ったのです。

「・・・どう?」
 本田君はまるで私に念を押すかのように、そう語りかけた。私は恨みがましい目で、彼の事をじっと見つめてから言ったわ。
「・・・それなら、私の男性恐怖症がきちんと治ったなら、その時こそ正式に本田君とお付き合いします。
 だからそれまでは・・・、」
 私がそう言って言葉を切ると、本田君は目をまん丸くしたまま、私の答えを待っていた。私はそんな彼に対して言ったわ!
「今度は私に、本田君が付き合ってほしいの。
 
これから私の色々なリクエストに、答えてくれる?
 そして“恋人役”として、私と一緒に道を歩んでくれるかしら?」
 どうやら私のOKサインについて、正確に理解した様子の本田君は、にっこりと笑顔になってこう言ったの。
「もちろん。君の望むままに。」
 ☆☆☆
 まさか私の男性恐怖症が、恋の引導を渡すことになるとは、思ってもみなかったわ。
 本当に人生って、分からないものね。

 でも恋愛について、ずっと凍てつく冬のような世界にいた私にも、新しい芽が息吹いて、やっと新緑の匂い薫る春が・・・、
 訪れたみたいです。
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