男が怖い

桃青

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 そんなわけで高校生になった頃、私には性的な事に関して深く話し合える友人がいなかったので、私はその知識を本の中に求める事にした。
 そして足繁く、学校のすぐ側に存在していた図書館に通っては、そういう類について詳しく書かれている本はないかと、それは熱心に探し求めたものだった。

 そんな時に出会ったのが、『性の殉教者』と呼ばれる、吉行淳之介さんの本である。

 対談の名手とされる吉行さんの対談集は、物凄く面白くて、また私の興味についてもピンポイントで、その答えが書かれていたのだった。そして私は片端から、夢中で彼の本を読破していったわ。

 私は若さも手伝って、性的なものに強く渇望を覚えていたのだ。彼の本の内容は、私のそんな思いを見透かしたように、私の心に染み込んでいく、まるで『水』のようなものだった。

 私は吉行さんにも夢中になった。
 ・・・もしかするとそれは恋心と、どこか似ていたのかもしれない。

 でもね。
 ・・・確かに私は本の世界を通じて、彼から普通の人だったら知りえない、性の知識の奥底まで教えてもらうことになった。
 男と女の関係の本質についてだって、いつしか私は深く考える事ができるようになっていたわ。

 しかし所詮、知識は知識に過ぎない。
 私は男の人とセックスをする事も、キスをする事も、いや手を握り合う事すら、経験したことがなかったのだもの。
 私は恋愛について頭でっかちになり、あくまで性行為について、いや、大風呂敷を広げて愛についてまでも、知った気分になっていただけだった。

 その結果。
 いつしか男について知りすぎていた私は、気がついた時にはもう、酷い男性恐怖症になっていたのである!
 ☆☆☆
 恋愛経験も、男友達も1人もいない私にとって、吉行さんの知識はいささか過激すぎたのだ。多感な年ごろには誰しも、多かれ少なかれ異性を苦手に感じる事がある。
 でも私の場合、異性が苦手・・・、なんて淡い感情ではなく、そんなものから遥かにぶっ飛んで、いつしか男の人が全て、『男の象徴』にしか見えないようになってしまっていた。

 どんな男の人だって、私と全く違うものをぶら下げている宇宙人と同類に見えたし、だからそんな異星人を怖れてしまう思いは、女子だったら誰でも抱いたことのある、仕方のない感情だったのかもしれない。
 ただ・・・。

 私の場合にはその思いが、あまりにも極端だったのだった。

 高校生の頃は、かっこよかろうが、しょぼくれていようが、男は皆平等にあんなものをぶら下げている生物、としか考えられなかった。

 爽やかな青年と道で擦れ違っても、
(こんな爽やかな青年にも・・・、あんなものが。)
 と思わずにはいられなかったし、固くて真面目そうな男性を見ると、
(こんなしゃちほこばった男性でも、あんなものがついていて、事と次第によって、女性と接触した時にはそれが・・・。
 大変、大変!)
 と私は心の中で叫んだものだった。

(もし、一生このままだったりしたら、どうしよう・・・。男の人を、『人間』としてではなく、セックスの『道具』としてしか見られないなんて・・・。
 なんという事!
 今の私には、仮に恋人が出来たとしても、異性との恋愛を楽しむなんていう『高等技術』なんて、とてもできないに違いない・・・。)
 悲しく私はそう思った。そして自分の将来に思いを馳せては、それは真剣に思い悩んだものである。
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