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64.おめでとう
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「水希、どんな感じだ、今は」
「自分が目立たない気がする。己の隅々までがナチュラルで、周囲に馴染むというか」
「そんなことはない。水希の存在感は、なかなかのものだ」
「えっ、そう? 」
「今までの特異な体験がそうさせているのかもしれないな。で、これからどうするか決まりそうか? 」
「うーん。うーん。どうしよう、お父さん」
「新生水希は父さんにとっても新しいものだから、何ともアドバイスができん」
「自分の道は自分で決めろ。それが責任というものだ」
「そんなことは言っていないぞ。お前の特殊な能力故に、以前は人に相談しても、理解されることがなかっただろうが、今は誰に聞いてもいい。『私にできることは何ですか?』ってな。もっと、もっと人に頼ってもいいんだ、水希」
「自分でも分かっていないけど、何となく、泣きたい気持ちなんだよね」
「悲しいのか? 」
そこでフライドチキンが運ばれてきた。私と父は一本ずつ手に取り、食べながら続きを話した。私が言う。
「悲しくて、寂しくて、嬉しくて、安堵して。見えなくなったけれど、今私は新しい世界に包まれているの。その世界がとても優しい。何ていうか、尊い日常に触れて、感動して、涙が溢れそうなの」
「そうか。水希はずっと戦士だったのかもしれない。自分の力で戦い続けてきたわけだし。そして今、ようやく戦士の休息が訪れたわけか」
「戦わなければ、自分を保つことができなかったから。戦うことは、自分を守り、かつ育てる手段だったし、私の存在意義でもあった」
「能力を無くした今でも、私は水希が人の五倍くらい、心が分かると思うんだよ」
「何で? 」
「今までの、人の心に触れてきた経験値が、半端ないんだ。それはお前の中で、確実に積み重ねられてきた。お前の性格からしても、直感の鋭さは相変わらずだから、かなり深く、他者を分かってあげられる人だと思う」
「その辺が次の職探しの目安になるかな」
「そうかもしれんな」
「お父さん」
「何だい」
「今までありがとう」
「何だ、水希。死ぬのか? 」
「死なないよ。でも―」
そう言うと、涙で視界がぼやける。涙をボロボロ零しながら、チキンを頬張る。一人きりで戦ってきたからこそ、今訪れた休息に、甘やかされている気持ちになってしまう。思い起こせば父が側にいてくれたから、私独自の生き方をし続けることができた。父はずっと、迷い続ける私の側で、道を指し示す明かりだった。
離別と感謝が胸の内で同時に沸き起こり、何とも言えない切ない気持ちに、歯止めをかけることができずにいた。父は言った。
「頑張ったな、水希」
「うん」
「よく頑張った」
「自分が目立たない気がする。己の隅々までがナチュラルで、周囲に馴染むというか」
「そんなことはない。水希の存在感は、なかなかのものだ」
「えっ、そう? 」
「今までの特異な体験がそうさせているのかもしれないな。で、これからどうするか決まりそうか? 」
「うーん。うーん。どうしよう、お父さん」
「新生水希は父さんにとっても新しいものだから、何ともアドバイスができん」
「自分の道は自分で決めろ。それが責任というものだ」
「そんなことは言っていないぞ。お前の特殊な能力故に、以前は人に相談しても、理解されることがなかっただろうが、今は誰に聞いてもいい。『私にできることは何ですか?』ってな。もっと、もっと人に頼ってもいいんだ、水希」
「自分でも分かっていないけど、何となく、泣きたい気持ちなんだよね」
「悲しいのか? 」
そこでフライドチキンが運ばれてきた。私と父は一本ずつ手に取り、食べながら続きを話した。私が言う。
「悲しくて、寂しくて、嬉しくて、安堵して。見えなくなったけれど、今私は新しい世界に包まれているの。その世界がとても優しい。何ていうか、尊い日常に触れて、感動して、涙が溢れそうなの」
「そうか。水希はずっと戦士だったのかもしれない。自分の力で戦い続けてきたわけだし。そして今、ようやく戦士の休息が訪れたわけか」
「戦わなければ、自分を保つことができなかったから。戦うことは、自分を守り、かつ育てる手段だったし、私の存在意義でもあった」
「能力を無くした今でも、私は水希が人の五倍くらい、心が分かると思うんだよ」
「何で? 」
「今までの、人の心に触れてきた経験値が、半端ないんだ。それはお前の中で、確実に積み重ねられてきた。お前の性格からしても、直感の鋭さは相変わらずだから、かなり深く、他者を分かってあげられる人だと思う」
「その辺が次の職探しの目安になるかな」
「そうかもしれんな」
「お父さん」
「何だい」
「今までありがとう」
「何だ、水希。死ぬのか? 」
「死なないよ。でも―」
そう言うと、涙で視界がぼやける。涙をボロボロ零しながら、チキンを頬張る。一人きりで戦ってきたからこそ、今訪れた休息に、甘やかされている気持ちになってしまう。思い起こせば父が側にいてくれたから、私独自の生き方をし続けることができた。父はずっと、迷い続ける私の側で、道を指し示す明かりだった。
離別と感謝が胸の内で同時に沸き起こり、何とも言えない切ない気持ちに、歯止めをかけることができずにいた。父は言った。
「頑張ったな、水希」
「うん」
「よく頑張った」
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