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桃青

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63.普通とは?

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 見慣れたはずの道を歩いているのに、常に新鮮さを感じ続けている。木の葉の緑も、空の青も、以前のように猛々しくなく、素直に目に入ってくる感じがする。父は急に閃いたように言った。
「子供の頃の水希は、外食が苦手でな」
「そうだったんだ」
「ぐずるのを必死になだめながら、何とかご飯を食べさせたものだ。それとは別の話になるが、お前の母さんだった人、私の妻は、」
「うん」
「おまえのことを、『運のいい赤ちゃん』と言っていたよ。運がいい……。確かにお前はそういう所がある」
「初めて聞くけどさ。何で私を、引き取ることにしたの? 」
「運命だな」
「それじゃ、よく分からないよ。もっと詳しく話して」
「つまり何だ、私と妻の条件にぴったり合うのが、水希だったんだ。そんなことはそう起きないものだし、運命的な出会いだと思った。妻は短い間だったが、お前をとても愛し、大事にしていた」
「そう」
「問題も起こさない子だったし」
「存在することが大問題だったけれど」
「フッ。でもその大問題が、今となっては消え失せたんだろう? 」
「その通りです」
「あそこが目的の店だ。フライドチキンとおかずなんかを売っている店。イートインもできるんだぞ」
「ちょっとしゃれた店じゃない。父さんらしくないな」
「だから、一人じゃ中で食べられなかった、勇気がなくて。いつもはテイクアウトだったが、今日は水希という心強い仲間がいる」
「分かりました。一緒に入りましょう」
 私と父は頷き合うと、店の中へ入っていった。レジで手早く注文を済ませ、奥の方にあるテーブル席に腰を落ち着ける。手前では若い女の子の二人組が、きゃいのきゃいの言いながら話し合っていた。私は周囲の空気に埋没していく自分を感じながら思った。
(前だったら、もっと色々なことを感じて、理解を深められたのに)
(今はとにかく落ち着きが最初に来る)
(これが日常の世界。以前とは別の意味で、世界と強く繋がっている。これが、真の安定ってやつかな)
(これが普通ということ? )
 そんな私の思考に、フッと父が割って入ってきた。
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