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桃青

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59.ジ・エンド…

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 再び遊歩道に戻ると、雄大君は言った。
「忘れそうでしたけど、俺達仕事でここに来たんでしたよね。白井の影響力は自然に消えるでしょうが、とりあえず明るめのオーラを強くしておきますか」
「そうね。お願い」
「……水希さん、本当にもう、気の流れが見えないんですか? 」
「うん。何も見えないし、何も感じない。白井が私を完全に調和させたのね」
「それで能力が消えた」
「そうだと思う。で、私も白井に同じことをしたので、彼の力も多分完全に消え失せた。そうじゃなきゃ、あんな風に怒らないでしょ」
「まあ、そうですね。この街の病んでいる空気も、これで消え失せるわけですか。何とか依頼はこなせましたね」
「それは本当に良かった。そのことを報告しに行きましょう」
「はい」
 私達は来た道を後戻りし始めた。道の周囲に立つ青々とした木々、涼やかな鳥の声、辺りに広がる、環境が生み出す気配。全てのものが、それ以上でも、それ以下でもない現実。心は落ち着いている。体調だって悪くない。大きな才能を亡くした割には、虚無感も喪失感もない。ただ、これが普通なのかもしれないが、未来が見えない。普通であるということは、とてもいいことだけれど、私にとっては新しい感覚だし、馴染むまで多少の時間がかかる気がする。雄大君は言った。
「白井のやつ、パニックみたいになっていましたけれど、どうなるんですかね。多少気になりますが」
「あの人はお金が沢山あるらしいから、それを使って何かやりだすかもね」
「ベンチャービジネスとか? 宗教家とかも向いていそう」
「私は神であーる。そんなこと自分で言っていたけど」
「ははは。でも精神世界の深さはよく分かっている人ですから、彼の創造する世界観に打たれて、リスペクトする人はいそうです」
「そうね、カリスマ性はあるかもしれない。あ、看板が見えてきた」
「この看板、見つけやすくていいな。書かれているキャラクターも面白いんで、楽しい気持ちになりますし」
 私達は出発点である建物まで歩いていって、中へと入っていったら、桂さんがドタドタと、待ちきれない様子でやってきて、言った。
「どうでしたか? 」
「問題解決です」
 雄大君が重々しく頷いてからそう言うと、桂さんは動きを一時停止してから言った。
「本当に? どうやってそんなことをしたのですか? 」
「この街のまずい空気を出していた人物を、封印したんです。いや、消し去ったというべきか……」
「まさか、……殺したんですか? 」
「そんなことするわけないでしょ」
 思わず突っ込む雄大君に続いて、私も言った。
「その人の影響力だけ、消し去った感じです。これからどんどん、この街に普通の流れが流れ込み、平凡な日常へ揺り戻しが起きるはず。安心して、今まで通りにお過ごしください」
「本当ですか。でもにわかには信じがたいですが。何か証となるようなものは―」
「明日から子供達の様子をよく見ていて下さい。きっと元気になっていくはずです。一番大きな影響を受けた子供が、この変化の事実も一番大きく受け取るはずですから」
「なるほど。なら、そうしてみます。でも、凄いな」
「何が? 」
「正直、失礼ですが、あなた方を信じていなかったです。頼んでおきながら何ですけれど。でも私の気持ちも澄んできた気がするし、明日からが楽しみだ」
 桂さんと私達は自然と笑顔になり、少し話し合ってから、今回の仕事を終えることにしたのだった。
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