ABC

桃青

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40.ためらいと、

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「私は自分のことを、感受性が壊れていると思って生きてきた。まともじゃないっていうのか……。だから自分の力を理解し始めたかなり幼い時から、普通ではないという罪悪感があったの、常に。それは今もそうね。だから一貫して、人として役に立ちたいという思いが、人一倍強かったと思う。そのためにどうやって自分の力を使えばいいのか、必死に考えてきて、その結果今に至る、って感じ」
「なーる。罪悪感ね。何で吉野さんはそんなに自分の力をセーブしてしまうのだろうと、疑問に思っていたけれど、やっと理解できたわ。
 僕は自分が悪いとは思わないし、これはピュアな才能なんだから、人生を賭けて自分の可能性を、自分なりに調べてきた。スピリチュアルな本も、山のように読んだし。そしたら、見えるようになったんだよね」
「何が? 」
「多分吉野さんにはできていないと思うけど。物事のあらゆる流れの過去から未来まで、僕には見えるんだ。ただ操れるのは常に、今、ここ。だから過去や未来を見て、here、now、を決める。それが僕の能力の大半で、神がかった能力の全てでもあるのさ」
「そんなこと、私に話していいの? 」
「話して何かが変わるわけじゃない。それに吉野さんにも、今日は話してもらう。ああ、桜だ」
 私達はすでに広い公園の中へ、足を踏み入れていた。あちこちで桜が咲き、景色はピンク色に霞んで、花見客のざわめきが耳に届く。私は言った。
「お花見、していこうか? 」
「いいね。なら、あの橋の上で話そう、桜を見ながら」
「なら、あそこに自販機があるから、飲み物買ってくる。先に橋の上で待っていて」
 そう言って白井から離れると、私は自販機に向かって歩き出した。
(会った時は殺されでもするのかと思ったけれど、どうもそういうわけではなさそうよ)
(多分、私と仲間になることができるのか、その道を探しているのだと思う。私と同じように)
(それが一番ハッピーエンディングだもの。でも)
(出発点が違う私達に、そんなことができるのかな)
(第一あそこまで分かってしまう人に、普通の人付き合いはできるのか)
(今日気付いたけれど、よく見てみると、彼の面影がどこか寂しそうだ)
 私は小さく息を吐き、気合を入れてから、缶コーヒーを二本買って、再び白井の元へ戻っていった。彼は一時停止して、氷のように固まり、桜を眺めていた。そんな彼の肩をコンコンと叩き、缶コーヒーを渡すと言った。
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