ABC

桃青

文字の大きさ
上 下
35 / 67

34.停止

しおりを挟む
「世界が止まっています」
 小川さんはびっくりした顔をして、私に言った。
「えっ、それってどういうこと? 」
「誰かが流れを止めているみたい。とりあえず、停止を解除しますね」
 そう言って私は手と指を細かく動かしながら、探りを入れ始めた。
(サイトの停止した感覚が、このサイトの来訪者にも停止を促しているんだわ。そこにまず流れを作る)
(ブロックを外して。かなり固いブロックだな、でも流れ始めているわ。このページに自由の空気を戻す。見ている人達に、自由と流れ、勢いを感じてもらう―。ブロックは念のため、完全に破壊して消し去っておこう。壊して壊して、存在を流して……)
 すると小川さんが囁くように言った。
「またチャットが流れ出していますね」
 雄大君も言う。
「オーラも強くなっていますよ、水希さん」
「よかった。悪霊のせいではなく、気の流れが悪くなっていただけでした。でも―」
 そう言って私が言葉に詰まると、小川さんは私の心の内を代弁した。
「どうして、気の流れが悪くなったんですか?」
 その時、私達がパソコンの画面に目をやると、再び画面は真っ暗になっていた。私が素早く調和を探ると、さっきより強固なブロックが置かれている。私はブロックを崩しながら言った。
「誰かが操っていますね。人的な操作でこういうことになっている。ハッキングじゃありません。交流によって生まれる温かい流れを止め、消し去っている人がいるんです」
 雄大君が唇を噛んで言った。
「また、あいつか。白井タクヤ」
「多分」
 私がそう言うと、小川さんは驚いた顔をして言った。
「えっ、犯人の目星がついているんですか? 凄いな、ならそいつを捕まえる、」
「彼は観衆の一人です。だからぶっちゃけて言えば、何も悪くはない。ただ、人々が自然と逃げていくだけ」
 私の答えに小川さんは黒い画面を見ながら言った。
「なら、俺達に打つ手はないってことですか。その白井という人のアクセスをブロック……、いや、不可能か。アクセスなんてどうとでもできる―」
「でも私は彼が作り出す、流れを遮断する壁を、壊すことができます。それをこまめにやっていけば相手が諦めるか、もしくは」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...