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桃青

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 私は手をカタカタと動かしながら、目の前で棒立ちになっている、二人の若い男性を調べ始めた。
 一人の若者はひょろっとしていて背の高い、眼鏡を掛けた、印象の薄い人だ。
(存在感には欠けるけど、植物との相性は良さそう。少し父を思い出したわ)
 そんなことを思いながら、ハーモニーを深く探る。短調ではあるものの、美しい音の持ち主だ。呆気にとられた顔をしているので、私が何をしているか、理解はしていないらしい。支配するどころか、明らかに支配される側、つまり影響を受ける側の人間で、調和を操ることなど考えたこともないに違いない。植物までに影響されて、自然に強く癒されるタイプでもある。
(この人が調和師とは考えにくい。私のことをめちゃくちゃ驚いた感じで見ているのは……、その様子は演技ではないよね。天然の彼の姿だわ。それじゃ、もう一人の人は……)
 隣にいる二人目の青年に目をやり、じっと見つめると、恥ずかしそうに眼を逸らす。どうも内気な青年らしい。背は低め、体形は太め、ノームのように見えないこともない。大人しそうな印象だが、ハーモニーの音は強い。意志は強めだ。言い方を変えるなら、実は自己主張が強い。
 繊細で傷つきやすくても、プライドの高さで乗り越えてゆけるタイプ。音の響き具合から、こもって聞こえるので、ややオタク気質。自分の面倒を見ることで、きっと精一杯だろう。
(自分に対する影響には敏感でも、他人に対する影響力には鈍感そう。徹底的に調和師に向かないタイプ。この人も調和師ではないな。第二の白井タクヤである可能性は、ほぼゼロ)
「水希さん、水希さん」
 雄大君の言葉でハッとして我に返ると、彼が耳打ちをしてきた。
「二人のオーラに共通点があります。二人とも、イエローのオーラを持っているんですよ」
「黄色のオーラって……」
「そのまんまのイメージです。明るくて健康的な感じですね。大人しそうな人達ですけど、実は接客業にも向いています。同じく明るいパワーを持つ花との相性も良さげだし、この二人だったら、お客を隠された力で呼び込めると思いますよ」
「つまり、どんてんフラワー植物園は安泰、ってこと? 」
「あいつが去ったならね」
 私はひとつ、安堵のため息をつくと、隣で興味深そうに見ている藤田さんに言った。
「彼らに問題はありません。これからお客さんは、きっと増えていくと思いますよ。最悪なシナリオからは脱したはずです」
「本当ですか。でも、私には、あの、ピンとこないのですけども」
 困り顔でそう言う藤田さんに、私は言った。
「とりあえず一か月様子を見てください。それでも何の変化も起きないのなら、また私達を呼んで下さい。私達の力不足でそうなった場合、追加料金なしで調整させていただきますので。それと……。菊池巧君は雇わないようにしてほしいです」
「ということは、彼が何か問題でも? 」
「はっきり言えば、そうです。でも多分、ここには二度と来ないでしょうけど」
「そうですか。そうだったのか。私には好青年に見えたんですけどねえ」
 ぽかんとした藤田さんの顔を見守ってから、しばらく雑談をし、彼が会得した様子を見届けた後、私達はどんてんフラワー植物園を後にしたのだった。
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