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桃青

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21.フラワー

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 依頼人が座っているソファーに向かって、雄大君とガタガタと椅子を動かして近づいてから、私は言った。
「では、お話を聞かせてください」
 今回の依頼者である中年男性は、戸惑いを隠しきれていない。都会に馴染まない、ローカルな空気の持ち主だ。彼は不安そうに私に言う。
「どんな、話でも、いいんでしょうか? 」
「いいんです。私達はどんな話でも聞きます」
「あの……ですね、僕は、どんてんフラワー植物園という所で働いています」
 雄大君が口を挟んで訊ねた。
「そこはどんな所ですか? 」
「そう、ですね。森林の近くにいくつもの温室があり、そこで花をメインに植物達を育てています。どんてんフラワー植物園に来るまでの遊歩道で、軽く森林浴ができますし、温室では一年中様々な花が咲くので、いつ来ても可憐なお花達を楽しむことができます」
 雄大君は素直に自分の気持ちを言った。
「良さそうな所ですね。俺、行ってみたいな」
 私は訊ねた。
「で、何か問題でも? 」
「ええ。あのですね、来場者が減っているんです」
「ほう」
「うちは観光バスの行き先として、ルートに組み込まれることも多かったし、自力でわざわざ遠くからやってこられるお客様も、それなりにいました。物凄く有名ではないけれど、自分で言うのもなんですが、知る人ぞ知る名所、のような感じだったのです。それが……、訳もなく来る人が減ってきている……」
「何か思い当たる理由などありますか? 」
「全く分かりません。お花達は奇麗だし、お客様も楽しんでおられるように見えます。入場料を上げたりもしていないし……、スタッフも皆頑張っています。なのに、どうしてでしょう、運命の神様が悪戯でもしたのか」
 雄大君はぼやく。
「運命の神様の悪戯かあ」
 私はさらに深く訊ねた。
「分かりました。近頃その植物園で働いている人達の体調が悪いなど、他にも何か具合の悪いことがあれば、全て話して頂きたいです」
「数か月前に数人、アルバイトの子達を雇ったのですが」
「はい」
「その子たちが来てから、スタッフが皆、元気というか、多動になった気が……、っと、これは具合の悪いことではないですね」
「いえ、いいです。何でもいいから、変化についてもぜひ話してください。元気になったのは、もちろんいいことですよね? 」
「ええ、多分。空気が変わったというか、明るくなったというか。仕事場の多幸感は増した気がするのに、何故かお客は減ってきているのです。何が悪いのでしょう」
「うーん。スタッフの中でいざござなどは、生まれていない? 」
「人間関係が完璧な職場など、どこにもないと思います。でも大きな不和はないはずですが」
「そうですか。とにかく私達が一度、そのどんてんフラワー植物園へ行ってみるのが、一番いいと思います。伺ってかまわないでしょうか? 」
「来て下さるのですか? 良かった、言葉だけではこの現状を、うまく伝えられないと思っていました。ぜひ、よろしくお願いします」
「はい。では日程を決めて、お伺いしますね。こちらこそよろしくお願いします」
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