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桃青

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9.パパ

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 久々に来た。〇〇森林公園。ここの景色はいつ来ても変わることがない。木々は大きく育ち、季節は春間近。ひと月後には桜が満開になるだろうから、春を求める人々で賑うはずだが、今現在は静かだ。大きく息を吸って、口から息を吐き出す。胸の中がフッと軽くなるのが分かる。自然とはよく言ったものだ。この自然環境の中では、確かに不自然が存在しない。悪者に見えるものだって、自然の中の調和の一部分だ。

 私が解放されていく。私が自由に染まってゆく。

 鳥の声を聞きながら遊歩道をゆったり歩いていくと、先にちんまりとした人工物、つまり建物が見えてきた。コンクリート製の、白くて四角い家のようなもので、私はそれがこの公園の管理事務所であることを知っている。ドアを開け、中へ入っていって、受付窓口から事務所で働いている人達を眺めていると、ある男性がすくっと立ち上がり、バタバタと私の元までやってきて言った。
「水希、何しに来たの。父さんは仕事中だよ」
「分かってる。この公園に遊びに来ただけなの。ついでに父さんの顔を見に来た」
「相変わらずの自由人ぶりじゃないか。それに会うのも久々だね」
「まあね」
「じゃ、少しだけ話をしよう。何か訳ありなんだろう」
「そう。察しがいい」
「なら、行こうか」
 白髪が目立つ私の父、吉野夕吉は、スタスタと事務所から出てきて、軽い足取りで先を歩いてゆく。私も後に続いた。大きな木の下にある古びたベンチに並んで座ると、父はまずこう言った。
「結婚でもするのか? 」
「違います。困った時は、まず父さんに相談。それが私の中での決まり事なの」
「うん。で。何に困ったんだ」
「私、調和師として働いているでしょう。それで、今まで生きてきて、私のような感覚、つまり私と同じ能力がある人と出会ったことがなくて」
「父さんもないな。いてもいい気がするけれど」
「それが、……もしかしたらいるかもしれない」
「本当に? 知り合いか、それとも友達? 」
「いや、多分、敵」
「てき? エナミ―? 悪い奴なのか? 」
「うん、そんな感じね。今の所は」
「そうか」
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