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3.インターバル
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私が笑みを浮かべてそう言うと、お客も微かに笑った。不安は見え隠れしているが、彼女の目に輝きが戻ってきたので、私も安心することができた。彼女と日時の打ち合わせをして、今週の土曜日に家へ伺うことにし、少し雑談をしてから、一つ目の面談は終了。お客人の姿が室内から消えると、私達はほっと息を吐いた。この仕事で、かなりとんでもない人に会い、とんでもない言い分をたくさん聞かされてきたが、今回の依頼者の女性、鈴木のぶ子さんという方は、かなりまともな人だ。というか、一見、依頼自体のどこに大問題が隠されているのか、今の時点では見ることができない。
私は雄大君が気をきかせて淹れてくれた、温かいインスタントコーヒーを啜りながら、少しぼんやりしつつ言った。
「彼女……、鈴木さんもまともだし、一体何に怯えているのかしらね、雄大君」
「水希さん、彼女のハーモニーは少しも乱れていないんですか? 」
「乱れていない。直す必要もなかった。普通は相手の調和が乱れていると、自分も多少影響を受けておかしくなる人が多いのに、それがない」
「強い人なのかな。自分軸がしっかりしているみたいな」
「かもね。それは不安定な彼を支えるにあたって、好都合なことなんだけれど―」
「不自然……ですよね」
「そう。影響しあうのが、人間だから。物凄い悟りを開いている人じゃない限り、揺れるのよね。彼女は表層では揺れていたけれど、深層に全く影響を受けていない感じがした」
「何か、変ですね」
「しっくり来ないよね」
「じゃあ、とりあえず土曜日を楽しみに待つことにしますか」
「それがいい。仕事は楽しく」
「仕事に関しては前向きに、って。あ、次の予約、三十分後です」
「なら、リラックスして心の準備をしておきましょう」
そう言って、私は雄大君を見た。ややがたいのいい体つき、でも太っているわけではなく、少し男らしいといった印象の人だ。
私は雄大君が気をきかせて淹れてくれた、温かいインスタントコーヒーを啜りながら、少しぼんやりしつつ言った。
「彼女……、鈴木さんもまともだし、一体何に怯えているのかしらね、雄大君」
「水希さん、彼女のハーモニーは少しも乱れていないんですか? 」
「乱れていない。直す必要もなかった。普通は相手の調和が乱れていると、自分も多少影響を受けておかしくなる人が多いのに、それがない」
「強い人なのかな。自分軸がしっかりしているみたいな」
「かもね。それは不安定な彼を支えるにあたって、好都合なことなんだけれど―」
「不自然……ですよね」
「そう。影響しあうのが、人間だから。物凄い悟りを開いている人じゃない限り、揺れるのよね。彼女は表層では揺れていたけれど、深層に全く影響を受けていない感じがした」
「何か、変ですね」
「しっくり来ないよね」
「じゃあ、とりあえず土曜日を楽しみに待つことにしますか」
「それがいい。仕事は楽しく」
「仕事に関しては前向きに、って。あ、次の予約、三十分後です」
「なら、リラックスして心の準備をしておきましょう」
そう言って、私は雄大君を見た。ややがたいのいい体つき、でも太っているわけではなく、少し男らしいといった印象の人だ。
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