あたし、婚活します!

桃青

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31.

カイルについて知る

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 そんな風にアンナの心がさ迷いだして、懊悩の日々を送っていたある日のこと。
 彼女が特にするべきこともなく、家の中をうろうろと歩き回っている所に、お手伝いさんが駆けつけてきた。
「アンナさん、アンナさん!」
「はい?」
「お電話です、ジュン・ミリイっていう方から。」
「ジュンが?」
 アンナは慌てて電話台に駆けつけ、受話器を取るなり言った。
「ジュン?ジュンなの?」
 すると電話の向こうで、ジュンが嬉しそうに答えた。
「そうです。アンナ、元気にしてる?」
「ま、一応ね。しばらく会っていないけれど、どうしていたの?」
「うんと、特にこれといった用事はなかったんだけれど…。でもアンナに会いたいなとは、何度も思っていたの。でも婚活の邪魔をしちゃいけないと思うと、なかなか電話を掛けられなくって。」
「そんなの、気を使わなくてもよかったのに。で、今日はどんなご用件?」
「あの…。えっと…。」
 そう言ってジュンは電話先で戸惑いを見せた。アンナはそんな気弱なジュンの背中を押すように言った。
「何でも言ってちょうだい、ジュン。」
「あのね、私…、もう一度カイルに会いたいの!」
 そう言われた途端、アンナはたちまち複雑な気持ちになったが、でもその感情を押し殺すようにして、ジュンに答えた。
「カイルなら今、家にいるわよ。」
「ほんと?それなら…、今からアンナの家に遊びに行っても構わない?迷惑だったりとか…。」
「そんなことある訳ないじゃない。ジュン、ぜひ遊びに来て。私ももう一度、あなたに会いたい。」
「私もカイルに会うだけじゃなく、アンナともお喋りしたいの。じゃあ、今から早速出掛けてもいいかしら?」
「ええ、待ってるわ。」
 そこまで話し合うと、アンナは受話器を置いた。そしてお手伝いさんを手伝いながら、2人でお茶の準備をして、しばらく時が流れた後―。リンゴ―ンと玄関のベルの音が鳴り、アンナは自ら出向いて玄関の扉を開けると、そこには可愛らしい格好をしたジュンが、ぽつんと立っていた。
「ジュン。」
「アンナ。久し振り。」
 そう言い合って、2人は笑顔で軽く抱き合うと、並んで家に入りながらリビングまで行って、すっかりお茶の準備が整えられたテーブルに着いて、ジュンを座らせるとアンナは言った。
「じゃあちょっと待っていてね。今からカイルを呼んでくるから。」
 ジュンはびっくりして叫んだ。
「ええ、もう?私、まだ心の準備が出来ていないの。…アンナ、私おかしな恰好をしていないかしら?」
 アンナは思わず笑って、彼女に答えた。
「そんなことないわ、とっても可愛いわよ。じゃ、ジュン、行ってくるわね。」
「ううアンナ、私とっても心細いの!」
 そう言いながらも、すっかりときめいている様子のジュンを後に残して、アンナはカイルの部屋に行くと、ドア越しに彼に呼び掛けた。するとアンナと同じく、すっかり時間を持て余した様子のカイルがのっそりと出てきて、アンナは彼に事情を説明した。
「あのね、今友達が家に来ているんだけれど、カイルに会ってみたいっていうから…。お願い、今から始まるお茶会に付き合って。」
「それは…、君の従者として?」
「いえ、『カイル・マナー』としてよ。」
 そう言うと、カイルは頭をボリボリと掻いてから言った。
「別にいいよ。どうせ今、暇だし。」
 そして2人揃って、ジュンのいるリビングに行くと、そこではジュンがお菓子に手をつけようともせず、カチコチに固まって、ただ一点、つまりカイルを、穴が開くんじゃないかと思うほど、真っ直ぐに見つめていた。カイルはそんなジュンを見つめ返し、ぽん!と手を叩くと言った。
「ああ、あなたはこの間も会った―。」
「はい、ジュン・ミリイと申します。どうぞよろしくお願いします。」
 そう言って、ジュンはカチカチになってお辞儀をすると同時に、ゴン、とテーブルに頭を打ちつけた。そんなジュンの様子に驚いて、カイルは椅子に座りながら言った。
「いえ、そんなに畏まらなくてもいいですよ。もう少し気を楽にして下さい。」
 そして様子を窺っていたアンナも着席すると、3人のお茶会が始まった。
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