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桃青

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14.

友だち誕生

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「アンナ、準備はできた?あまり華美でない服装を選ぶんですよ!」
 メルにそう声を掛けられて、自分の部屋から飛び出してきたアンナは、すっとしゃがんでみせて、メルに訊ねた。
「あの、…これでいいですか?」
「あなた紺色がとてもよく似合うのね。ええ、いいわ。とっても素敵です。では行きましょう。」
「はい!」
 その日アンナはメルに連れられて、神について語られる集会に参加することになっていた。そして家から外へ出て、集会所までの道のりを歩き始めると、メルはアンナに、まるで教師のように教え諭した。
「アンナ、あなたは神を信じる?」
「ええ、『神』ですか?うう、何とも言えない。正直ビミョ~な所です。」
「どんな形であろうとも、神の存在を信じることは、とても大切なことです。」
「それは何故ですか?」
「人間というのは、1人で全てを判断することのできる生き物ではありません。そう考える人は往々にして、人生の道を踏み外すものです。」
「そうでしょうか。1人で全てを判断できる人っていうのは、完全に独立独歩できる、素晴らしい人間だという証では…。」
「それはただの傲慢に過ぎないのですよ、アンナ。私達は『神』の存在を意識することによって初めて、人生においての責任感について、考えることができるようになるのです。」
「う~ん。分かる気もするし、分からないような気もする…。」
 そう言いながらアンナが考え込んでいると、誰かがポンと彼女の肩を叩いた。
「?」
 誰だろうと思ってアンナが振り返ってみると、そこには何処かで見覚えのある、はにかんだ笑みを湛えた自分と同年代らしき女の子が立っていた。彼女はそっとアンナに話し掛けた。
「私のこと、覚えている?」
 その声を聞いて、アンナはやっと思い出した。
「ああ、あなたは確か、私が初めてハリスのパーティに出席した時に声を掛けてきた…。」
 すると彼女はたちまち柔らかい笑顔になって言った。
「そうそう。確かあなたはあの時、素敵な従者さんと一緒にいたわよね。今日彼はいないの?」
「ああ、カイルのこと?あの人、一応私も誘ってみたんだけれど、
『面倒くせえ。』
 …とか言って、来なかったんだ。」
「ふーん、そうなんだ。ちょっと残念。」
 そう言って内気そうに下を向く彼女に、アンナは訊ねてみた。
「あの、もし良かったら名前を教えてくれないかしら?」
「あっ、あの、私はジュン。ジュン・ミリイって言います。あなたは?」
「私はアンナ・レターよ。ジュンはもしかして、これからここで開かれる集会に参加するの?」
「ええ。私、伝道師さんの話を聞くのが好きなの。色々な気付きがあって、すっと心が落ち着くから。アンナもそう?」
「いえ、私はおばさんに、やや強引にここに連れてこられただけ…、何て言ったら、おばさんに怒られるわ。」
「ね、アンナ。私1人っきりだから、良かったらあなたと一緒に集会に参加しても構わない?何だかその方が楽しそう。」
「ええ、もちろんいいわよ。一緒に行きましょう。」
 そう言ってアンナとジュンは笑い合うと、2人並んで、いつしか辿り着いていた集会所の中へと入っていった。

 集会所というのは、かなり大きめで古い木造建築の建物のことで、部屋の中に入ってみると、前方の真ん中に講壇が設えてあり、その中でゆうに数百人を超える人々が、鮨詰めになって伝道師の話をウンウンと聞くのである。アンナは人に揉まれながら、何とか空いている空間を見つけ出すと、そこにメルおばさんとジュンと共に落ち着いてから言った。
「私、こんな、人口密度の高い場所にいたことなんて、セレナでは1度もなかった!」
 するとジュンはアンナに淡々と言った。
「あら、ハリスってどこでもこんな感じよ。」
「そうなの?」
 するとそんな2人に対して、メルは厳しく話し掛けた。
「2人ともお喋りをお止めなさい。これからお話が始まりますよ。」
 そう言われてアンナが講壇を見てみると、何処から見ても普通のおじさんにしか見えない人が、高く手を上げて皆に挨拶をしていた。アンナはジュンの耳元で囁いた。
「…あの人が伝道師?正直、あまり偉そうには見えないんだけれど。」
「あら、でも彼ってこのハリスでは結構有名な人なのよ。いつも何だかほんわかとした、心温まるいいお話をしてくれるの。」
「ふ~ん、そうなんだ。」
 そして伝道師が話し始めると、メルもジュンも話に集中して、アンナの話し相手をする所ではなくなったので、アンナは気乗りしないながらも、自然とその話に耳を傾けることにした。
 確かに彼はためになることを言っているような気がした。話もギスギスした所のない穏やかな話で、でもアンナは心の中で、
(その通りね。でも、だから何なのよ?)
 と、ずっと話の間中、伝道師に突っ込みを入れていた。そしてアンナにとって実に退屈な話が、長い時間をかけてやっと終わりになると、アンナはやれやれと思って思いきり伸びをした。が、隣にいたジュンはすっかり感動したらしく、感慨深い様子で言った。
「…素敵なお話だったわね。」
「ええ、そうだった?」
「ねえ、アンナ。」
「うん、何?」
「話は変わるんだけれど…、私、もう一度カイルに会ってみたいな。」
「私の従者に?」
「ええ、そう。」
「彼ならたぶん、メルおばさんの家にいると思うけれど…。じゃあ、もし良かったら、これからおばさんの家まで来る?」
「うそ!本当にいいの?」
「だって私もジュンともっと話をしてみたいし…。ねえ、メルおばさん、ジュンを家に招待しても構わないですか?」
 アンナはメルにそう話し掛けると、彼女はすでに気持ちの切り替えを済ませて、自分の小説の世界に思いを馳せているらしく、全く上の空状態でアンナに答えた。
「ええ、いいわよ。ただし、私の執筆の邪魔だけはしないで頂戴。」
 その返事を聞いて、思わず顔を見合わせてガッツポーズをするアンナとジュンだった。
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