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「あっ、あの、だから俺をケンちゃんとは呼ばないで・・・。
―そうですか、“素質”。」
「そう。
そしてその素質こそが、人の運命を掌るものであり、決して誰しも変える事ができない。
無論それは、超人的な霊力を持つ山伏、つまりわしの力をもってしても、不可能な事であるわ。」
「素質は・・・、変えられない。」
「そうじゃ。
つまりそれはこういうことになる。
人は最初から生まれ持った魂によって、
『できることはできる。そしてできないものはできない。』
と決まっておるわけだ。この世には決して、万能の人間というものは存在せん。誰もが生きていく過程で、より自分を知り、極めていく・・・。
それが人生において大切な事の1つであり、人が生きる意味でもあるわけよ。
でな。
わしは霊的な眼力によって、人の魂の本質を見抜く力を持っておる。それでさっきからわしは、ケンちゃんの魂をずっと見続けているんじゃが・・・。
結論から言わせてもらうわ。ま、あんたはつまり、極悪人には向いておらん。つまり、悪人になる“素質”はナッシングなのじゃ。」
「エッ。そうなんですか?
あちゃあ。・・・それにしても小川さんって、何でもざっくり言うな。あなた、なかなかフランクな方ですね。」
すると彼はコーヒーを一気に飲み干してから、ニヤリと笑って言った。
「うむ、それもわしの売りにしておるのでな。」
「じゃあ、僕、・・・ではない、俺がなりたい自分になるためにはどうしたら・・・。」
「うむ。それは大胆に考え方を変えれば、おのずと答えは明らかになるであろう。
つまりあんたの素質に合わない、
『悪人になる』
という目標を、あんたの素質に合った、
『善人になる』
という目標に、すり替えればよろしいわ。
そうやって生きていくならばこれから先、人生の道が自然に開けてくるはずじゃ。」
「ということは。
それってつまり、・・・悪人になる事自体を諦めろってことですか?」
「まぁ、わしの話を推し進めれば、そういう事になるわな。」
「じゃあ俺の・・・、俺の夢は・・・。」
ショックのあまり言葉に詰まり、呆然としている俺の様子を、小川はぎょろ目に光を湛えてしばし観察していたが、それから俺の心に染み込んでいくように、ゆっくりと語った。
「・・・わしの力を借りなくても、周囲の人達はちゃんと、あんたの本質を見抜いておるわ。
“素直で可愛いケンちゃん”。
それこそありのままの、あんたの姿よ。
だからこれからは自分に素直になって、より『自分らしく』生きる道を選んでいくか・・・。それとも一生叶いもしない目標を掲げて、答えの出ない人生を彷徨い歩くのか・・・。
ここから先は、ケンちゃんが自分で決める事じゃ。だが本当に進むべき、正しい自分の道は・・・。
今のあんたならきっと、その現実が見えているだろうが。違うか?」
「・・・はい。」
俺はむっつりとした様子で、小川にそう返事すると、彼はキラリとした目でしばらく俺を見つめた。それからこう言った。
「・・・というわけで、相談事の件に関しては、一応ここで一旦おしまい、という事にしようと思う。よろしいか?」
「はい。僕はそれで構わないです。」
「また何か・・・。そうじゃな、人生に行き詰るような事があったりしたら、わしにメールするといい。いつでも相談に乗るからな。
では、今回の相談料として、5千円頂こう。」
「・・・5千円ですね。」
俺はそう言って、お財布から5千円札を取り出すと、小川に手渡した。すると彼は丁寧にお辞儀をしてそのお金を受け取り、さっと着物の袖にしまい込むと、
「それでは!」
と声量のある声で一声叫び、(その声のあまりの大きさに、店内にいた数少ない人々が、一斉に彼の事を見たほどだ)椅子から立ち上がり、(小川は自分が注文したスイーツとコーヒーを、いつの間にか全部綺麗に平らげていた)手を差し出して俺に握手を求めてから、俺を後に残したまま、ひらりと喫茶店から出ていった。そしてまるで幻のように、駅の雑踏の中へと姿を消していったのだった・・・。
―そうですか、“素質”。」
「そう。
そしてその素質こそが、人の運命を掌るものであり、決して誰しも変える事ができない。
無論それは、超人的な霊力を持つ山伏、つまりわしの力をもってしても、不可能な事であるわ。」
「素質は・・・、変えられない。」
「そうじゃ。
つまりそれはこういうことになる。
人は最初から生まれ持った魂によって、
『できることはできる。そしてできないものはできない。』
と決まっておるわけだ。この世には決して、万能の人間というものは存在せん。誰もが生きていく過程で、より自分を知り、極めていく・・・。
それが人生において大切な事の1つであり、人が生きる意味でもあるわけよ。
でな。
わしは霊的な眼力によって、人の魂の本質を見抜く力を持っておる。それでさっきからわしは、ケンちゃんの魂をずっと見続けているんじゃが・・・。
結論から言わせてもらうわ。ま、あんたはつまり、極悪人には向いておらん。つまり、悪人になる“素質”はナッシングなのじゃ。」
「エッ。そうなんですか?
あちゃあ。・・・それにしても小川さんって、何でもざっくり言うな。あなた、なかなかフランクな方ですね。」
すると彼はコーヒーを一気に飲み干してから、ニヤリと笑って言った。
「うむ、それもわしの売りにしておるのでな。」
「じゃあ、僕、・・・ではない、俺がなりたい自分になるためにはどうしたら・・・。」
「うむ。それは大胆に考え方を変えれば、おのずと答えは明らかになるであろう。
つまりあんたの素質に合わない、
『悪人になる』
という目標を、あんたの素質に合った、
『善人になる』
という目標に、すり替えればよろしいわ。
そうやって生きていくならばこれから先、人生の道が自然に開けてくるはずじゃ。」
「ということは。
それってつまり、・・・悪人になる事自体を諦めろってことですか?」
「まぁ、わしの話を推し進めれば、そういう事になるわな。」
「じゃあ俺の・・・、俺の夢は・・・。」
ショックのあまり言葉に詰まり、呆然としている俺の様子を、小川はぎょろ目に光を湛えてしばし観察していたが、それから俺の心に染み込んでいくように、ゆっくりと語った。
「・・・わしの力を借りなくても、周囲の人達はちゃんと、あんたの本質を見抜いておるわ。
“素直で可愛いケンちゃん”。
それこそありのままの、あんたの姿よ。
だからこれからは自分に素直になって、より『自分らしく』生きる道を選んでいくか・・・。それとも一生叶いもしない目標を掲げて、答えの出ない人生を彷徨い歩くのか・・・。
ここから先は、ケンちゃんが自分で決める事じゃ。だが本当に進むべき、正しい自分の道は・・・。
今のあんたならきっと、その現実が見えているだろうが。違うか?」
「・・・はい。」
俺はむっつりとした様子で、小川にそう返事すると、彼はキラリとした目でしばらく俺を見つめた。それからこう言った。
「・・・というわけで、相談事の件に関しては、一応ここで一旦おしまい、という事にしようと思う。よろしいか?」
「はい。僕はそれで構わないです。」
「また何か・・・。そうじゃな、人生に行き詰るような事があったりしたら、わしにメールするといい。いつでも相談に乗るからな。
では、今回の相談料として、5千円頂こう。」
「・・・5千円ですね。」
俺はそう言って、お財布から5千円札を取り出すと、小川に手渡した。すると彼は丁寧にお辞儀をしてそのお金を受け取り、さっと着物の袖にしまい込むと、
「それでは!」
と声量のある声で一声叫び、(その声のあまりの大きさに、店内にいた数少ない人々が、一斉に彼の事を見たほどだ)椅子から立ち上がり、(小川は自分が注文したスイーツとコーヒーを、いつの間にか全部綺麗に平らげていた)手を差し出して俺に握手を求めてから、俺を後に残したまま、ひらりと喫茶店から出ていった。そしてまるで幻のように、駅の雑踏の中へと姿を消していったのだった・・・。
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