りぷれい

桃青

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 数時間作業を続け、私は夕刊の配達のため、途中で抜け出したが、仕事から帰ってくると、父と母が顔を突き合わせて、まだノートを書いていた。少し呆れながら二人の元へ行って、ノートを覗き込み、私は言った。
「まだ、やっているの」
「お母さんはね、いつ死ぬか分からないんですからね。やれるときにやっておかないと」
「もう死んでいるって。お父さんはお母さんの側で何をしているの」
「助言だ」
「助言」
「母さんの思想を、言語化するお手伝いをしている所だ」
「それって、お母さんの言葉じゃなくてさ、お父さんの言葉になってしまわない?」
「道子、二人の共同作業で愛が輝くのよ」
「お母さん、新郎新婦みたいなことを言って……。ま、別にいいけどさ」
「道子のノートは完成したのかしら?」
「数時間で完成するものじゃないでしょ。まだやらないと駄目?」
「お母さんのことを思うなら、最後までやり遂げて頂戴」
「はいはい」
「母さん、ちょっとできた所を朗読してみないか。相田みつをみたいな傑作揃いだぞ」
「ええ、そうね。道子、聞く?」
「うん。何を書いたのだろう」
「じゃあ行くわね。
『朝、昼、晩。ご飯は三食食べましょう』」
「はあ」
「ええとね。それからこれはお気に入りなのよ。
『これからは、地球の時代です』」
「……。それって、どういう意味?」
「地球の環境問題を訴えたのよ。新たな時代では、地球のことを考えて、行動しなさいということ」
「解説を聞かないと、意味が分からないな」
「俺はこれ、割と好きだぞ」
「そうでしょ、お父さん。それからね、
『ピース、ラブリー、アンドハッピー』」
「英語それで正しい? ヒッピーみたくなっているけど」
「平和と愛があれば、幸せになれるわ、って意味よ」
「今言った言葉の方が分かりやすくない?」
「母さんはね、世界に向けて言葉を発信していきたいのよ。となると、英語がいいでしょう? で、お母さん、ノートを書いていて思ったことはね、
 愛があれば、それでいいじゃない。
 ってことなの」
「今言ったのが、一番格言っぽいと思う。相田みつをにも何か似ているし」
「あら、そう? じゃ、これを今から書くわ」
「不思議な格言集が出来上がりそうだ」
 私の呟きをよそに、父と母が話し合いを始めたので、私も自分の書くノートに集中することにした。
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