りぷれい

桃青

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39.生者への伝言

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 あるお昼時、母が料理を作り、隣で私が洗い物をしていると、母は突然こんなことを言い出した。
「道子、ノートってあるかしら。小さくて、可愛いのがいいわ」
「ノート? もちろんあるよ。可愛いかどうかは分からないけれど」
「二冊、ある?」
「うん」
「これから私、本を書くわ」
「……。ほん?」
「道子も書くのよ」
「私も?」
「あなた、これからしばらく時間があるでしょう」
「そうだね。―そうだけど、お母さんの話が見えないでいる」
「私ね、生き返った痕跡を残そうと思ったの」
「なるほど。それで本」
「一冊しかない、お手製の格言集よ。で、あなたも徒然なるままに、ノートに文章を書いて。それをあの世のおみやげにするわ」
「おみやげっていっても……、どうやって持って帰るわけ?」
「私が消えるときに、しっかり抱きしめる」
「無理な気がする。ノートだけ取り残される様子が、目に見えるようだよ」
「そのときは仕方ないわ。ね、道子もお父さんも、私が書いた格言集、とっても欲しいでしょう」
「まあ、欲しくないとは言わないけどね。思い出になるし」
「よし。お昼ごはんを食べ終えたら、本作りを開始するわよ」
「何だか振り回されている気がするなあ」
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