34 / 48
33.旅の終着点1
しおりを挟む
「道子」
「はい?」
「お母さん、……生き返らなければよかったね」
「……。何でそう言う考えになるの」
「私がいない方がよかったね」
そう言うと母は涙を零し始めた。何だか困ったことになったぞと思いながら、私は言った。
「私はどうしたらいいの」
「……っ、おっ、お母さんだってねえ、どうしたらいいか分からないんだよ。道子とねえ、うまくいけばいいなと思って、楽しく生き返ったのに。なのに、道子には絶望するわよ。
私がっ、私が消えればいいのよね」
「そんなこと一言も言っていないじゃない」
「言わなくたってね、伝わるものはあるんです。……それとも道子が消えればいいのかしら」
「お母さんがそう言わずとも、私は自分がろくでもない人間だってことが、よく分かっているから」
「え。そうなの?」
「そうだよ。確かに、お母さんより私が死んだ方がましかも」
「そ、そんな風に思っているの?」
「うん。今までそう思いながら、この三十年間を生きてきた。だから私って、他人から酷い否定の言葉を言われても、傷つくけれど、怒る気にはならないんだよね。確かにその通りだなって思うから」
「心が広いわね」
「そういう訳じゃなくって……。私は元々敏感な人間だし、傷つきやすい質なの。そんな自分を守るために、最終的に辿り着いた秘策なんだと思う」
「道子は―」
「うん」
「辛かったね」
「……うん?」
「きっと、そう考えられるようになるために、あなたは戦った」
「……」
「必死に戦ったのね」
「戦ったのかな。私的には現実から逃げた気がしていたんだけれど」
「お母さんはね。……人生で一度も戦わなかったの。そういう性格じゃないから。流れて、流されて生きていたわ」
「それはそれでいいんじゃないの。日本人らしくて」
「はい?」
「お母さん、……生き返らなければよかったね」
「……。何でそう言う考えになるの」
「私がいない方がよかったね」
そう言うと母は涙を零し始めた。何だか困ったことになったぞと思いながら、私は言った。
「私はどうしたらいいの」
「……っ、おっ、お母さんだってねえ、どうしたらいいか分からないんだよ。道子とねえ、うまくいけばいいなと思って、楽しく生き返ったのに。なのに、道子には絶望するわよ。
私がっ、私が消えればいいのよね」
「そんなこと一言も言っていないじゃない」
「言わなくたってね、伝わるものはあるんです。……それとも道子が消えればいいのかしら」
「お母さんがそう言わずとも、私は自分がろくでもない人間だってことが、よく分かっているから」
「え。そうなの?」
「そうだよ。確かに、お母さんより私が死んだ方がましかも」
「そ、そんな風に思っているの?」
「うん。今までそう思いながら、この三十年間を生きてきた。だから私って、他人から酷い否定の言葉を言われても、傷つくけれど、怒る気にはならないんだよね。確かにその通りだなって思うから」
「心が広いわね」
「そういう訳じゃなくって……。私は元々敏感な人間だし、傷つきやすい質なの。そんな自分を守るために、最終的に辿り着いた秘策なんだと思う」
「道子は―」
「うん」
「辛かったね」
「……うん?」
「きっと、そう考えられるようになるために、あなたは戦った」
「……」
「必死に戦ったのね」
「戦ったのかな。私的には現実から逃げた気がしていたんだけれど」
「お母さんはね。……人生で一度も戦わなかったの。そういう性格じゃないから。流れて、流されて生きていたわ」
「それはそれでいいんじゃないの。日本人らしくて」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
金サン!
桃青
ライト文芸
占い師サエの仕事の相棒、美猫の金サンが、ある日突然人間の姿になりました。人間の姿の猫である金サンによって引き起こされる、ささやかな騒動と、サエの占いを巡る真理探究の話でもあります。ライトな明るさのある話を目指しました。
私と僕と夏休み、それから。
坂東さしま
ライト文芸
地元の高校に通う高校1年生の中村キコは、同じクラスで同じ委員会になった男子生徒から、突然「大っ嫌い」と言われる。しかし、なぜそう言われたのか、全く見当がつかない。
初夏から始まる青春短編。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルデイズ様にも掲載
※すでに書き終えているので、順次アップします。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
さよならまでの7日間、ただ君を見ていた
東 里胡
ライト文芸
旧題:君といた夏
第6回ほっこり・じんわり大賞 大賞受賞作品です。皆様、本当にありがとうございました!
斉藤結夏、高校三年生は、お寺の子。
真夏の昼下がり、渋谷の路地裏でナナシのイケメン幽霊に憑りつかれた。
記憶を無くしたイケメン幽霊は、結夏を運命の人だと言う。
彼の未練を探し、成仏させるために奔走する七日間。
幽霊とは思えないほど明るい彼の未練とは一体何?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕の月、君の太陽
月ヶ瀬 杏
ライト文芸
ある月のない夜。大学生の陽央の元に、父親が朔という小さな女の子を連れてくる。朔は陽央の腹違いの「妹」で、事情があって行き場がないという。 父親に頼まれて、一人暮らしのマンションで朔を預かることになった陽央だが、警戒心が強い朔は、なかなか陽央に心を開こうとしない。そのうえ、子どものくせに強がりで、どんな状況になっても絶対に泣かない。突然現れた朔との生活は、陽央にとって苛立つことの連続だった。そんなとき、陽央の都合で家から追い出した朔が、一緒に住むマンションから離れた場所で迷子になっていたところを保護される。朔がひとりで遠くまで行った理由を知った陽央に、彼女に寄り添おうとする気持ちが少しずつ芽生え始め、陽央と朔の関係は変化していく。 ひとつの家族の、絆の話。*他サイトにも投稿しています。
有涯おわすれもの市
竹原 穂
ライト文芸
突然未亡人になり、家や仕事を追われた30歳の日置志穂(ひおき・しほ)は、10年ぶりに帰ってきた故郷の商店街で『有涯おわすれもの市』と看板の掲げられた店に引き寄せられる。
そこは、『有涯(うがい)……生まれてから死ぬまで』の中で、人々が忘れてしまったものが詰まる市場だった。
訪れる資格があるのは死人のみ。
生きながらにして市にたどり着いてしまった志穂は、店主代理の高校生、有涯ハツカに気に入られてしばらく『有涯おわすれもの市』の手伝いをすることになる。
「もしかしたら、志穂さん自身が誰かの御忘物なのかもしれないね。ここで待ってたら、誰かが取りに来てくれるかもしれないよ。たとえば、亡くなった旦那さんとかさ」
あなたの人生、なにか、おわすれもの、していませんか?
限りある生涯、果てのある人生、この世の中で忘れてしまったものを、御忘物市まで取りにきてください。
不登校の金髪女子高生と30歳の薄幸未亡人。
二人が見つめる、有涯の御忘物。
登場人物
■日置志穂(ひおき・しほ)
30歳の未亡人。職なし家なし家族なし。
■有涯ハツカ(うがい・はつか)
不登校の女子高生。金髪は生まれつき。
有涯御忘物市店主代理
■有涯ナユタ(うがい・なゆた)
ハツカの祖母。店主代理補佐。
かつての店主だった。現在は現役を退いている。
■日置一志(ひおき・かずし)
故人。志穂の夫だった。
表紙はあままつさん(@ama_mt_)のフリーアイコンをお借りしました。ありがとうございます。
「第4回ほっこり・じんわり大賞」にて奨励賞をいただきました!
ありがとうございます!
すこやか食堂のゆかいな人々
山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。
母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。
心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。
短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。
そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。
一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。
やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。
じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる