りぷれい

桃青

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 部屋に戻ると、父が呑気な様子で、外の景色を眺めながらジュースを飲んでいて、私の存在に気付くと、開口一番こう言った。
「母さんは?」
「……後から来るよ」
「道子にもジュース買っておいたぞ。ほら」
「ありがと」
 私の好きなみかんジュースを手渡してくれて、それを受け取り、栓を開けてぼーっとしていると、父がぽつりと言った。
「母さんと、何かあったのか」
「……」
「ケンカでもしたか」
「お父さん、私、お母さんとは合わないよ」
「……うん」
「どうにかしたくても、どうにもならない。努力すればどうにかなるとか、そういう根性論も通じないし」
「そうか」
「お母さんに、生き返ってほしくなかったなあ」
「……」
「お母さんがサラリと死んでくれて、そのまま別れて、それで終わりにしたかったなあ」
「すまん」
「別にお父さんを責めているわけじゃないの。けれど、お父さんが私とお母さんが通じ合うことを求めているなら、うまくいきそうにない」
「母さんは、お前を愛していたよ」
「え?」
「とても、愛していた。それは幸せなことだ。
 ―あ、母さんが帰ってきたな」
 私は父の言葉にくらっとした。愛? 幸せなこと? 私はその愛ゆえに不幸に陥ったのだ。母を通して、愛とはエゴであるという考えを、今でも私は信じている。それともエゴ以上の何かが、愛にはあるのか?
 扉をバタンと開け、部屋に入ってきた母は、顔を上気させ、ニコニコして言った。
「気持ち良かったわ。次はご飯よね。まだかしら」
「もうすぐ来るんじゃないか。なあ、道子?」
「……うん」
「その間にジュースでも飲んでろ。はい、母さん」
「あら、ありがと。お父さんにしては、気が利くわね」
 それから三人で、ポツリ、ポツリ、と会話して、くつろいでいると、部屋に料理が運ばれてきた。手作り感溢れた料理で、ほぼ家庭料理に近いメニューだったが、美味しかったし、不思議と気持ちがすとんと落ち着いた。
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