りぷれい

桃青

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「そうかもね。母に対してどうすべきか、悩んでいることは確か。そこから逃げているというのも、間違いない」
「お母さんって生き返って、普通に生活しているの? 容姿がゾンビになっちゃったとか、日の光を浴びると消えちゃうとか、」
「吸血鬼みたいなこと言わないで。見た目も普通だし、触っても冷たくないし、三食ごはんだって食べているわ」
「そうか、としか言いようがない」
「ほんと、そうよね。ふー」
 野本くんは目を丸くして、しばらくあらぬ方を見ていたが、少しペースダウンをして、再びシリアルを食べることに没頭しだした。綺麗に食べ終えると、台所までお皿を持っていき、再び私に話し掛けた。
「でもさ、奇跡的な出来事なんだしさ、後ろ向きにとらえるよりも、前向きにとらえた方がいいんじゃないの。お母さんとしかできないことを、今の内にしておこう、とかさ」
「例えばどんなことを?」
「生きているときにできなかったことだよ。それが何なのかは、俺には分からない」
「私は、お母さんとは分かり合えなかったと、強く思っていて」
「うん」
「生き返った今、それができたらいいなと、何となく思ってはいるんだけれど」
「それだ。それをテーマにしろ」
「分かり合うこと? お母さんと?」
「道子はさ、そのことに悔いが残っているのだと思う。お母さんの方がどう思っているのか知らないけれど、もしそれができたら、お前の中で素晴らしい出来事、かつ、記憶になるよ」
「でもそれを三十年間やろうとして、一度だってできたことがないんだよ」
「だからこそ、やる価値があるだろ。まさに今。このときにさ」
「ヴ~ン」
「残された時間はそう長くない。いつでも取り組める課題でもない」
「きっと野本くんが正しいんだろうね」
 私はそう言うと、目の前に置かれている水道水の入ったコップに手をつけた。飲み込むと透明な味がした。野本くんは椅子からがたっと立ち上がり、手近に放り投げられている何かの資料を、バラバラと見ていった。どうやら仕事に手をつけ始めたらしいと悟り、私は腹を決めて言った。
「いいアイデアをありがとう。忙しそうだし、私はこれで帰る」
「そうか。隠しているつもりはないが、実をいうと忙しかったんだ」
「見れば分かるよ」
「じゃあ、玄関で見送りをしてやる」
「何も偉そうに言わなくても」
 私は玄関で靴を履き、振り返って、バイバイと手を振ると、野本くんは急に真面目な顔になって言った。
「道子、子供のころのおまえは、本当に幸せそうだったぞ。大嫌いな母親と一緒でも」
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